消滅の光
よろしくお願いします。
一部始終を見ていたポティファは興奮していた。
「はは、ははははは!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!!!素晴らしい!!素晴らしいぞぉ!!」
穴から後ろに下がり、興奮のままに叫ぶ。
「これで世界は変わる!!混沌に悶える!!世界よ!!神よ!!さぁ、どうするのですかぁ?ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!」
思う存分叫んで、少し落ち着く。
「さて、名残惜しいですが……。死んでは意味がない」
そう言って、隠し扉から逃げようとするポティファ。
「どこへ行く?我への挨拶はどうした?」
「っ!?」
ポティファはバッ!と後ろを振り返り、固まる。
そこには魔王が立っていた。
魔王は両腕を広げ、自分の存在を誇示する。
「我の誕生を待ち望んでいたのだろう?何故、逃げようとしている?」
「………いえ。周りに自慢しに行こうかと……思いまして」
ポティファは冷や汗を流し、顔を引きつらせながら話す。
それを魔王は鼻で笑う。
「はっ。思ってもいないことをしゃべるな。底が知れるぞ?まぁ、もう知っているがな」
魔王はポティファを見据える。
心臓を掴まれたように感じ、完全に固まるポティファ。
「名前くらいは聞いていけ。バアル。それが我の名だ。お前が望んだ世界を壊す魔王だぞ」
「バ……バアル。……そんなものが居た記憶は……」
「あるわけなかろう。我は、眠っていた全ての魔王と異王によって、生まれたのだからな」
「…………!?」
ポティファはバアルの言葉に目を見開き、体を震わせる。
「す……べて……?封印されていた……魔王達?」
「そうだ。おかげでもはや神すらも、我を止められぬであろうな」
「……」
ポティファは自分がやってしまったことをようやく理解した。
なんとか逃げ延びようと、隙を探ろうとする。
「いいぞ?逃げても」
「……へ?」
「逃げていいと言ったのだ。何処へでも行け」
ポカンとしたが内容を理解すると、猛然と駆け出すポティファ。
それを冷めた目で見送るバアル。
「お前には確かに感謝している」
バアルは右手に魔力を集める。
「しかしな」
掌の上に、異常な量の魔力が集まり、小さな炎の玉が生まれる。
「それ以上に、お前には怒りが沸き上がる」
炎の玉は徐々に大きくなる。
「だから、滅びるがいい。【陽爆】」
玉が弾け、光と熱が解き放たれる。
ポティファはもはや体裁など気にせず走り続ける。
隠し通路は町の外の山中へと通じている。
「はぁ!はぁ!早く!逃げなくては!はぁ!はぁ!遠くへ!奴が来ないところへ!!」
走りながら胸から通信用の魔道具を取り出す。
それを起動させる。
「早くしろ!早く!!」
『ザザッ!……ど…ザッ!……どうしたんだ?ポティファ。なんかあったか?』
「逃げろ!!」
『はぁ?急に何を』
「やってしまった!!闇淀の坩堝から!!最悪の魔王が生まれた!!もう終わりだ!」
『はぁ!?お前!本当に決行したのか!?』
「当然だ!それが私の!私達の願いなのだからな!!」
『何が生まれた!?どいつが出て来た!?』
「全てだ!」
『……何?』
「全てのまお!」
ポティファが伝えようとした瞬間、後ろが光ったと思った。
しかし、それが何かも確認出来ずに、光に飲まれ、ポティファは消えた。
ラカランの町はいつも通りの日常だった。
親子が手を繋いで歩き、知り合いで笑いながら話し、上手そうに料理を食べ、好きな人と楽しそうにしている。
マリラもギルドで冒険者を相手に笑顔で仕事をしていた。
(今日はまだ来ませんねぇ)
迷い人の可愛い少年の事を考える。
手には彼に受けさせる予定の依頼票を持っている。
(あんな可愛い子が冒険者って、やっぱり似合いませんねぇ。そうだ!職員になってもらおうかな?彼なら人気が出そう)
そう考えて、クスっと笑う。
その瞬間、急に周りが明るくなったと思ったところでマリラの記憶は途絶える。
光は一瞬で町を飲みこむ。
この日、ラカランという町は、人が生きていた形跡すらも残さずに、消滅した。
「なんだよ……!ありゃあ!?」
ボンドはたまたま依頼で町から遠く離れた山奥にいた。
依頼を終えて帰る途中、町の方角から大きな光が輝くのが見えた。
「町で何があった……!?あんな光を出す奴なんて知らねぇぞ!?」
ボンドは走る。
骨になったせいで体力なんて概念は無くなっているため、全力で走り続ける。
町が見えるとこに出て、目に入った光景に固まる。
「なんだよ……こりゃあ……!………町が…………無くなった…!」
町があるはずの場所には何もなく、大きなクレーターしかなかった。
人影どころか瓦礫すら見えず、土の地面しか見えなかった。
「何もねぇ……。ギルドも………家も………俺の墓も……」
ボンドは膝を着き、呆然とする。
生まれてからずっと生きてきた町が。
死んでさえ生き続けた町が。
欠片も残っていない。
ボンドが生きてきたことを否定している様に。
「お前は生き延びたのか」
ボンドが唖然と町を眺めていると、横から声を掛けられる。
目を向けると、そこには銀髪の黒服の男がいた。
「なんだ……てめぇは……。なにが起こったか……知ってんのか?」
男はバアルの問いかけに答えず、どこか憐れんだ目でボンドを見ていた。
「無くなっちまった。……俺が生きてきた町が……死んでも受け入れてくれた町が」
ボンドは再び町を見ながら呟く。
「てめぇは……どこから来たんだ?……な!?」
ボンドは男に尋ねながら目を向ける。
しかし、そこにいたはずの男は、女になっていた。
ボンドは驚くが、どこかその光景に既視感があった。
「てめぇは男だったはず……待て……それと同じ力を持ってる奴がいたぞ……あの町に!」
「……そうだ。我はあの町から来た。あの町で生まれた。貴殿が知っている少年を元にな」
「……じゃあ、あれは!」
「あぁ。我が、このバアルがやった」
その事実と言葉にボンドは固まるも、すぐにそれを飲みこみ、理解する。
「……そうか。てぇめえぇかあぁぁぁ!!ナァオォーー!!!」
ボンドは背中の剣を抜き、振り上げながらバアルに飛び掛かる。
バアルは右手をボンドに向ける。
「仲間と共に、逝くといい。【消滅する希望】」
闇の玉が放たれ、ボンドの胸に当たり、一瞬全身に闇が走る。
ボンドは全身から力が抜け、剣を手放し、バアルの前に膝を着く。
ボンドは力を振り絞って手を伸ばす。
すると、指先から体が崩れていく。
「……………!?」
もはや声を出す力もない。
「すまない。我は、貴殿に仇を返すことしか……出来ぬ」
ボンドはバアルを見る。
バアルの目は、どこか寂しそうだった。
「もう置いていかれることはない。安らかに眠られよ。魔王に挑みし勇傑よ」
その言葉に、ボンドは何故か報われたように感じた。
(俺は……もういいのか)
そう感じてしまった。
もはやボンドの体は、顏しか残っていない。
ボンドは、バアルが、奈央が泣いているように見えた。
(……ナオ…。てめぇ……泣くなら………やめとけよ。1人で……バケモンすんのは……つらいぜぇ?)
ボンドは最後まで、バアルを恨むことなく、その命を終えた。
町や町の仲間と同じように、欠片も残すことなく、そこにボンドがいた形跡も残さず、消滅した。
ある街の何処か。
『ザァーーーーーーーーー』
「おい!ポティファ!おい!!くそっ!!」
ポティファと通信していた男は、完全に通信が途切れたことに苛立ち、魔道具を叩きつける。
「なにしてるんだい?外にもかなり響いていたよ」
「ポティファから連絡が途絶えた!魔王が復活したらしい!」
「なっ!?」
入ってきた仲間と思われる男に事情を伝える男。
仲間の男はそれに驚き、息を飲む。
「ボスの所に行く!」
「そんなにヤバいのか!?」
2人は駆け足で移動する。
「ポティファの最後の言葉が正しければ、ヤバイなんて言葉じゃすまねぇ」
「坩堝から何が出たんだ!?どいつだ!?」
「……全部だ」
「……………は?」
仲間の男はその言葉に固まり、意味を完全に理解して、顏から血の気が引いていく。
「全部の魔王と異王が出たんだろうよ!ポティファが正しければな!冗談じゃねぇぞ!クソが!」
男は吐き捨てて、ボスの元へ急ぐ。
伝えた所で何も出来ないと分かってはいるが。
ありがとうございました。
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