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閑話 勇者その7

遅くなり申し訳ありません。

 フェンネナが世界各国に宣言を出す2週間前。


 フェンネナは間藤達【界使】を集めて、聖神教総本山の地位を辞退することや領地を縮小を行うことなどを伝え、今後は王国復興を第一とすることを話した。

 もちろん間藤達は突然のことに驚き、納得など出来なかった。


「そんな……!じゃあ、ナオ・バアルは、涼宮の救出はどうするんだ!?」

「……申し訳ありませんが、もうこの国にはそれを支える力はありません。皆様には新たな国に移って頂き、そこで戦いに備えて頂くことになっています」

「フェンネナは……」

「私はこの国を立て直さねばなりません。もう皆様と同行することは不可能でしょう」


 はっきりと言い切るフェンネナに間藤は眉間に皺を寄せる。

 

「君は悔しくないのか?このまま大魔王の好き勝手にさせていいのか?」

「悔しいですし、いいとも思っておりません。しかし、今のこの国には力がないのです。王都にいた1000人以上いた神殿騎士団は今や100人以下にまで減り、住民とていつまでも借りぐらしさせられるほどこの街に余裕はありません。国庫もないわけですから。今、この国に生きる者達を放っておけるほど、余裕はないのです」

「それは……」

「他の領地とて、王都が機能しない以上自力で耐えてもらわねばなりません。これ以上戦力を出させるわけにもいきません。冒険者のほとんどはこの国から出て行ってしまいましたから魔物から民を守らなければいけないのです。それに大魔王の侵攻と王都壊滅でこの国の経済も限界を迎えています。とてもではないですが、復興以外に目を向ける余裕が私にはもうありません」


 フェンネナの言葉に間藤達は何も言えなかった。

 王都壊滅から間藤達も魔物討伐などに赴いていたが、住民達から良い感情を向けられていないことは感じ取っていた。

 自分達が負けたからだということは理解している。しかし、それに納得出来るかと言われれば出来ていなかった。

 それでも他に行き場はないので、我慢して魔物討伐で特訓をしていた。もちろん必要であれば復興の手助けもしていた。

 しかし、その結果がこの国を出て行って貰いたいという言葉だった。納得は出来ない。


「他国からの援助は……!」

「すでに先日の際に救助をしてもらった恩があります。大魔王の脅威が明らかになった以上、我が国からこれ以上の要請は……あまりにも恩知らずと言われるでしょう。今、この国が求められる援助は復興に関することのみ。大魔王との戦いへの援助は……不可能です。それこそ、他国に行かれた方がまだ可能性はあります」

「くっ……!」

「それに先ほど言いましたように、この国はもう聖神教総本山ではなくなります。皆様は聖神教の所属ですので、どちらにしろこの国に留めることは出来ません」


 聖神教の総本山が動く以上、間藤達の拠点が変わるのは当然の事である。そもそもフェンネナには間藤達の監督責任は既に存在していないのだ。というより、元々存在していない。

 フェンネナが間藤達と関わっていたのは教皇の命だったからであり、教皇に本来は監督責任がある。しかし、その教皇が死んだ以上、その監督責任は枢機卿の誰かにあるはずなのだ。

 といっても、生き残っている枢機卿は間藤達とほとんど顔を合わせたことなどないのだが。


 もっともフェンネナは王族であるので、そこを突かれれば押し付けられる可能性はある。

 しかし、現在枢機卿は聖神教の事をフェンネナに押し付けている負い目があるので、フェンネナには強く出れない状況でもある。

 すでにフェンネナは「自分に聖神教復興のかじ取りをする資格と状況にはない」と各地方の枢機卿に手紙を回し、「界使の処遇及び新総本山、新教皇に関しては枢機卿会議にて判断を下すべし。自分は王族としての責務があり、聖神教に関わることは出来ない」と要請もしている。

 

「スズミヤ様については、他国にいる界使の皆様に一度集まれないかと言う文を出しております。新しい総本山が決まり次第、そちらに引継ぎを行う用意も出来ておりますので、そこで皆様で相談なさってください」

「っ……!」

 

 すでに間藤達がここを出て行くことは決定事項。

 それを突きつけられて、間藤も流石にこれ以上言っても無駄だと理解した。


「……分かった。……今までありがとう。本当に君には助けられた」

「いえ……こちらも力及ばずで申し訳ありませんでした」


 互いに頭を下げるフェンネナと間藤。

 この2日後に総本山が決まり、その翌日には間藤達は新たな国へと旅立っていった。


 そして、他国にいる仲間を集めることに力を注ぐのだった。

 仲間と思われているかどうかは、別として。




 

 【ゼウバドル聖国】が【ゼウバ王国】に変わって、一週間が経過した。

 

 兵馬達は聖神教より届いた文に顔を顰めていた。


「やっぱり俺達に声を掛けてきたか……」

「しょうがないわよ。圭子を助けないといけないのに、頼みの聖神教はその気じゃないんだもの。頼れるのは昔馴染みよね」


 美園が肩を竦めながら言う。

 新しい教皇は当然のことながら大魔王討伐には消極的だった。

 前任者が殺されたばかりなので仕方がないことかもしれない。それに信者達の動揺を鎮めることに力を入れることは間違っているわけでもない。

 しかし、間藤達にとっては不満だったようだ。


「けど、集まったところで足並み揃うの?」

「無理だろうな」

「無理よね」


 悠里の疑問に兵馬と美園は即答する。

 揃うならわざわざ文を出される前に集まっているし、ゼウバドル聖国に向かっている。

 それを誰もしなかった時点で六動も文灘も、手を差し伸べる気はないと言っているようなものだ。

 もちろん兵馬達も同様だ。

 

 別に涼宮を助けたくないわけではないが、あまりにも不確定要素が多く、勝率も成功率も低すぎる。

 地球のように金などで解放して貰えるわけがないので、取引も難しい。

 なので、ぶっちゃけ集まったところで話は進まない可能性しかない。


「……我が国としては許可できません。正直な所、皆さんを送り出して、向こうの国に軟禁でもされるようなことがあれば、大魔王どころではなくなってしまいます」


 カテリーナが顔を顰めて、懸念をはっきりと告げる。

 『軟禁』という言葉に兵馬達も顔を顰める。普通ならばあり得ないが、他国に行く以上その可能性は捨てきれない状況なのだ。

 特に兵馬達は全員が【勇者】【賢者】【聖女】なのだから。喉から手が出るほど欲しい人材のはずだ。

 その危険性がある以上、国としては行かせるわけにはいかない。


「とりあえず、しばらくは様子を見ましょう。他の界使の皆様の動きを見ないと判断できません」

「分かった」


 こうして兵馬達は見送ることにした。




 六動はギルドから手紙を受け取っていた。


「……ふん。今更集まったところで、誰も手を貸すわけないだろうに」


 六動は手紙は破り捨てて、暖炉の火に投げ入れる。

 六動と一緒に動いている界使達も呆れたように頷いている。

 

 六動一派は8人。

 勇者であり、元教師である六動が心強く感じる者はそれなりにいた。それに冒険者と言う存在も若者としては非常に興味深かったのだ。

 六動達はこの数か月、各国を渡り歩き、依頼をこなしていた。勇者と言うトレンドもあり、界使は比較的能力が高い者が多いので、すぐに頭角を現していった。

 今では貴族や王族から指名依頼が来るほどになっており、資金も潤沢になりつつあった。

 

 なので、間藤達と合流する旨味がないのだ。


 涼宮が攫われたのは聞いているが、すでに何度も実戦を経験してきた六動達にとっては「だから何?」と言うのが本音である。


「この世界は地球じゃないんだ。油断すれば命を落とすって分かってるだろうに」

「だよね~」


 六動は元生徒達にタメ口で話すように言っていた。

 正直、この世界では年上だろうが、元教師だろうが関係ないからだ。

 それに簡単に命を奪われる世界で、下手に上から命令するといつ裏切られるか分からないというのもある。だから六動はあくまで対等であるというスタンスを取っている。

 もちろん依頼の交渉などは六動がメインで動いてはいるが。それでも報酬に関してや依頼を受けるかどうかは全員で会議をして決めている。


「勝也。お前の目にはどう映った?」


 六動は隣に座っている目を閉じた茶髪の青年に声を掛ける。


 鳥木田(とりきだ) 勝也(かつや)

 180cmほどの優男で、参謀的立ち位置にいる。

 

 鳥木田は閉じていた目を開けて、


「やめた方がいいね。言い争っている光景がはっきりと見える」


 島木田のスキルは【予見】【水】【魔力増幅】の3つ。 

 【予見】は1日1回『自分がこうするとどうなる?』という問いに対して、起こりうる未来を映し出すことが出来るのだ。

 その力で『もし会議に参加したら?』という未来を視ていたのだ。


「やっぱりな。じゃあ、無視だ」


 後押しもあり、六動達も集合要請を無視することに決めたのだった。




 

 文灘は手紙を読んで顔を顰めていた。


「簡単に言ってくれるぜ……。負けたくせに」


 文灘を含めた8人の界使は【バルツァー王国】にいる。

 隣国である【クラベスヤード王国】の半分ほどの大きさで、これと言った特産物もない。

 それでも魔王の国に近い事もあって、屈強な兵士が多いと言われている。

 

 文灘は伯爵位、それ以外は子爵位を与えられている。

 しかし、兵馬達と違って階級に縛られているので、慣例やパーティーの出席・開催は当然のようにあり、失敗すれば「非常識な若造」と言われている。

 もちろん貴族のルールなど知るわけはない。教えてくれる教育係はいるが、子供の頃から教育されていればまだ受け入れられるかもしれないが、文灘達にとっては「なんでこんなことをするんだ?」と疑問を持つことが多く、中々身に付かなかった。

 更に文灘達は【勇者】や界使としての働きをしていないので、神に召喚された【勇者】や界使という称号が全く通用しない。

 

 そのため、文灘達は非常に肩身が狭い思いをしていた。

 商売をしようにもノウハウがなく、戦いに出ようにもすでにいる兵士達の方が強い。

 特殊なスキルを持っていても、それを活かす場がないのだ。


「……このままでは凡庸以下で終わってしまう。他の連中にも申し訳ない」


 付いてきてくれた友人達にもかなり我慢を強いてしまっている。

 いつまでもそれを強いるのは無理な話だろう。

 

「……賭けに出るしかないか……」


 文灘はある決意をして、立ち上がり部屋を後にする。

 その翌日、バルツァー国王とその側近は、文灘達が間藤の元に向かったと聞いて頭を抱えるのであった。


「伺いも立てずに行くとは……!新たな聖国がどのようなものかまだ掴み切れておらんと言うのに……。成果がなければ、こればっかりは庇えんぞ……!」


 大魔王とは全く関係ないところで追い詰められていた文灘達であった。




 その頃、攫われた涼宮はと言うと。


「おはよ~」

「おはよう!」

「お~っす!」

「おう。……なぁ、今日の数学の課題やったか?」

「あ~……文学の小テストダルイわ~」


「…………本当にここは異世界なのか……?」


 何故か高校にいた。



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