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閑話 勇者その6

よろしくお願いします。

 聖国王都壊滅から1週間が経過した。


 王都は未だに復興の兆しがなく、それどころか被害状況の確認と負傷者の救助がようやく一段落したところだった。

 理由はもちろん人手が足りないから。

 他国の救援部隊も手伝ってくれたが、それでも王都全域を動き回るのは厳しかった。しかも、大魔王出現の情報を聞き、ほとんどの国が救援部隊の半分を自国防衛のために引き上げさせたのだ。

 

 フェンネナ姫も流石にその判断に文句は言えず、半分も残してくれたことにむしろ感謝していた。

 王族はやはりフェンネナしか生き残っておらず、更には政務を行っていた大臣なども死亡したため、現在全ての権限と政務がフェンネナに集中している状況だった。

 更に最悪なのが騎士団長のガリオと副団長のスタルカも死亡してしまったことである。神殿騎士団もほぼ壊滅状態でまともに戦える状態ではなかった。

 

 現在、フェンネナや間藤達は王都に一番近い街【ファーラン】にいた。

 ファーランは流通の中継地点なので、そこそこ栄えてはいる。

 しかし、今はその賑わいも一切なく、街にはどんよりした空気が漂っている。

 

 フェンネナは王族が立ち寄った際に使う迎賓館にて、書類に囲まれていた。

 目には隈が出来ており、眉間にはずっと皺が寄っている。

 もちろん仕事が増える事はあっても減ることはない。人手を集めたくても、集める場所もない。この街には王都の生き残りや他国の救援部隊を受け入れてもらっているのだから。すでに宿など人が寝泊まりできる場所は全て埋め尽くされており、物資も限界に近い。


「……やはり国庫も壊滅ですか。物資や資金を集めようにも、この状況で徴税など出来るわけもない。それに他国の方々を受け入れ続けるのも、もう限界……。そうなれば人の受け入れ場所は出来るけど、他の街がどれだけ人材を派遣してくれるか……」


 他の街とて防衛しなければならない。

 王都が壊滅したからこそ、備えなければならない。相手が大魔王なのだから。

 冒険者もどんどんこの国から離れていっているとの情報も入っている。それを止める術はない。何故なら金がないからだ。依頼料を払える余裕がない。そうなると、他の街の防衛戦力は騎士団や領主の私兵のみ。

 王族としては、それでもここへ戦力の派遣を命じなければならない。しかし、王族だからこそ、他の街の戦力を奪うわけにはいかない。

 

「ユウシ様達も限界が近い。……一度他国へ行かせるべきなのでしょうが……」


 間藤達も【勇者】として、魔物との戦いや復興に救援などを手伝ってくれていた。

 しかし、やはり勇者なのに敗北したという事実は住民達や騎士団の生き残り、そして他国の救援部隊から侮蔑と怒りの目を向ける事態を招いていた。


 聖剣も持ち帰れず、魔王軍に手も足も出ず敗北した。


 その事実は特に生き残った者達の八つ当たりの対象となりやすかった。

 フェンネナはこれを止める術を思いつかない。何故なら、それは当然の感情だからだ。

 魔王達に勝つために呼ばれた者達なのだから。

 その役目を全く果たせなかったのは、誰も否定しようもない事実なのだ。

 例え、それが名目上のものだとしても。

 

 神から魔王と戦う必要はないと言われていたとしても、間藤達は「魔王を倒す」と言ってしまった。そして、そのためにこの国に来た。

 それを聖国の住民が、大陸中の国の者達が知っている。

 それによって間藤達の評価は地に落ちたと言っても過言ではない。


 そのため間藤達を受け入れてくれる国がいるのかという問題が浮上したのである。


 間藤達はもちろんナオとの戦いを諦めてはいない。

 涼宮を攫われているのだから当然とも言えるが、周囲はやはり「まだ戦う気なのか?」と正気を疑っている。

 もちろん大魔王と間藤達の関係は絶対の機密事項である。知っているのはフェンネナと間藤達だけなので、漏れる可能性は低いが用心はしなければならない。

 ただし、界使の者達が戦うことに嫌気がさして情報を売らないかとか、他の国にいる界使へどう伝えたものかという問題もある。

 ちなみに間藤はやはり「他の国にいる皆にもナオ・バアルのことを伝えてほしい!」とフェンネナに頼んできた。しかし、フェンネナはまだ伝えていなかった。

 理由は『全員が魔王討伐に乗り気ではなかったから』である。

 

 今、フェンネナが一番信用できると()()()()()()()、それは兵馬達である。

 しかし、その兵馬を敵視していたのが間藤だ。しかも兵馬やその周囲の者はナオ・バアルの親友と言える者達だったそうで、今回の召喚に一番怒りを覚えていた者達だ。

 つまり『情報を漏らす可能性はないが、協力は得られない可能性が高い』のだ。

 それならば教えない方がマシである。


 そして文灘と六動はそもそも信用できない。

 文灘は完全に国の臣下となっている。つまり自国の利益を優先する可能性が高い。

 六動は冒険者。つまりは自身の利益のみを追求して、国を自由に行き来する者。どこの国と繋がっているか分からない。

 どう考えても、ナオとの戦いへと参加する可能性はないし、涼宮救出さえも断りそうだった。

 更に文灘を動かすなら、国と交渉しなければならない。しかし、聖国にはその取引をするだけの力がない。

 六動も同様である。冒険者である以上、報酬を払わなければならない。しかし、魔王討伐への報酬など払う余裕は一切ない。

 両方とも交渉のテーブルに立つことすら出来ないのだ。


 フェンネナは八方塞がりでため息を吐くことしか出来ない。

 

「しかも、大魔王は『陰から支援している国もある』と言っていた。あの状況から嘘とは思えない……。他国ももう信頼できない。そしてこの国の者でさえも……」


 ナオの言葉とナクツィンの裏切りで、フェンネナは誰を信頼すればいいか分からなくなっていた。

 

 死んだと思っていた最も信頼していた姉は敵将になっており、同じく子供のころから信頼していた枢機卿も敵将だった。さらには過去の教皇も大魔王に屈していた。

 聖神教という存在がもう大魔王に汚染されている可能性があるのだ。


 こうなると他国の界使達だって信頼できない。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……どうすればいい?どうすれば、この国は立て直せるの?」


 フェンネナは答えが出ない問いを独り呟く。

 そこにノックが響く。


「っ!……はい」

「フェンネナ様。軽食をお持ちしました」

「……入ってください」


 フェンネナはホッとして、入室の許可を出す。

 入ってきたのはメイド服を着た黄緑色の髪を持つスタイルのいい美女。

 見惚れてしまうほど綺麗な礼をして、サンドイッチが乗ったカートを押してきた。

 この街の領主に仕えるメイドで、優秀とのことでフェンネナの専属になってもらった。


「ありがとう。助かるわ」

「……私と致しましては、事態が事態とはいえ、そろそろ一度しっかりとお休みになって頂きたいのですが」

「気持ちは嬉しいけれど……ね」

「貴女様が倒れてしまえば、それこそこの国の終わり。だからこそ、しっかりと休み、食べるべきだと愚考致します」


 メイドは美しい顔を僅かに歪ませて苦情を言いながら、応接用のテーブルにサンドイッチとカップを並べていく。

 自分を思って忠言してくれるメイドに苦笑しながら、テーブルに近づいて椅子に座る。


「ユウシ様達はどうしているの?」

「今も近隣の魔物退治へと赴いております。……住民達からの不満はやはり日に日に増えているようです」

「そう……。と言っても、どうするべきか。ユウシ様達を遠征に出す物資も資金もなく、出せたとしても受け入れてくれる街や国がどれだけあるか……」

「……どちらも厳しい、と言わざるを得ませんね。どちらにしても誰かから不満が出るでしょう」

「そうなのよ……」


 メイドはかなり頭が良く、フェンネナと対等の会話が出来る。

 そのためフェンネナもこのメイドを重宝しており、信頼し始めていた。

 間藤達よりも。

 そして、人を簡単には信頼できず、国を立て直すには苦難な状況しかなく追い込まれているフェンネナにとっては、本人も気づかないうちにこのメイドが心の拠り所になっていた。



 だからこそ、付け入る隙が出来てしまった。

 


 メイドは空になったカップに優雅な所作で新しいお茶を注ぐ。

 そして、ボソリと呟く。


「……フェンネナ様」

「なに?」

「……大魔王とはまだ戦わなければいけないのですか?」

「……え?」


 カップに手を伸ばそうとしていたフェンネナは、一瞬何を言われたのか理解できずに唖然とメイドに目を向ける。

 メイドはどこか苦しそう顔をしながら、


「神が遣わした界使の皆様は全く歯が立たず、他の国の界使の方々は共に戦ってくれるかどうかも怪しい。そして、聖神教も本神殿が崩壊。そんな状況でもまだ、この国は大魔王と敵対しなければいけないのですか?」

「それは……」


 メイドの言葉にフェンネナは顔を顰めて俯く。

 

「国だけでも、こんなに貴女様は苦しんでいるのに。聖神教や界使の方々のことまで貴女様1人で抱えるなんて、無謀にもほどがあります。そもそも、貴女がそこまで抱えねばならないことなのでしょうか。聖神教の信徒ではあっても教皇でも枢機卿でもありません。それに界使の方々も神がお呼びになったとは言え、本来は我が国は援助のみだったはずです。……界使のお1人がおっしゃっているのを聞いてしまいました。神は必ずしも魔王討伐を果たせとは言わなかったと」

「っ!?」


 メイドの言葉にフェンネナの心は大きく揺さぶられた。

 フェンネナは事実、聖神教に関しては信徒でしかない。【聖女】ではあるが、他の聖神教所属となっている【聖女】と扱いに差はない。

 教皇は王族から選ばれるのが伝統ではあるが、本来それを話し合うのは枢機卿だ。フェンネナではない。むしろフェンネナが口を出すのは問題である。しかし、他の街や国にいる枢機卿達は大魔王を恐れて出てこない。

 そのため、フェンネナに全て振りかかっているのだ。

 

 フェンネナは内心、そのことに不満を抱いていた。怒りを抱いていた。

 そして、間藤達の事も限界があった。

 元々フェンネナは魔王討伐に懐疑的だった。戦力差を理解していたから。

 間藤の言動も理想を追い求めすぎていると辟易していたから。

 そして、今はもう厄介者でしかない。

 

 彼らがいる限り、フェンネナに安息は訪れない。

 フェンネナだけではなく、フェンネナの周りの者も安息は訪れない。

 今、フェンネナの身を案じてくれている優しくも強いメイドも。


 メイドの手が僅かに震えていた。

 自分が何を言っているのかを、理解しているのだ。

 本来ならば、間違いなくこのメイドは叱責では済まないレベルのことを言った。

 しかし、それでも自分のために言ってくれたのだ。

 それがフェンネナにはどうしようもなく嬉しかった。


「……聞いてしまったのね……。お願い。絶対に他の者には口外しないで」

「もちろん、地獄へ抱えていく覚悟は出来ております」

「……本当に、ありがとう……」

「だからこそ、申し上げさせて頂きます。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……聖神教を生贄にし、そしてユウシ様達も陥れることを条件に……かしら?」


 メイドははっきりと力強く頷く。

 

 フェンネナは怒号を上げなければならない。

 このメイドを罵り、捕らえ、打ち首にしなければならない。

 そうすることで、住民や他国に大魔王に屈しない覚悟を示し、再び一丸となって間藤達を支えていかなければならない。

 

 しかし、フェンネナは怒るどころか、笑みを浮かべてしまった。

 

「……駄目ね、もう……」

「……フェンネナ様」

「貴女がそこまでの覚悟を示してくれたのに……。もう、私にはそれに応える力はなかった……」


 フェンネナはもう、心が折れていたのだ。

 

 ナオと戦うことに、王族としていることに、聖神教の信徒としていることに。

  

 それでも動かなければ、更に民達を苦しめてしまう。

 ただ、王族や聖神教に振り回されていただけの弱き者達を。

 フェンネナはそれだけは、見捨てることが出来なかった。

 だから、今も必死に鞭を打って働いてきた。

 

 心が折れていることを気づかないように。

 

 でも、気づいてしまった。そして、受け入れてしまった。


 フェンネナはもう、立ち上がる気力が枯れていた。


 フェンネナの目から、一筋の涙が流れる。


「……ごめんなさい」


 フェンネナは小さく謝罪の言葉を呟いた。

 メイドはフェンネナに歩み寄り、優しくフェンネナの頭を抱きかかえる。


「謝る必要はありません。貴女様はもう十分すぎる程頑張りました。頑張り過ぎました。貴女様の努力を、信念を否定することは、神であろうと、大魔王であろうと、私は許しません。貴女様はもう、諦めていいのです。選んでいいのです。捨てていいのですよ。それだけのことをしてきたのですから」


 メイドは頭を撫でながら、優しく囁く。

 フェンネナはもう涙を耐えられなかった。

 メイドに抱き着いて、思いっきり泣き始める。

 

 メイドも抱きしめ返して、子供を慰めるように頭を撫でる。


「大丈夫です。貴女様がどのような決断をしても、私は貴女様の傍にいます」


 安心させるように声を掛ける。

 まさに母親のように。

 

 しかし、フェンネナの頭を見下ろす顔に浮かんでいる表情は、


 愉悦に浸る、悪魔のような禍々しい笑みだった。


「大丈夫ですよ。私が、ロパザがずぅっとお支え致しますから……♪」


 



 【クラベスヤード王国】。


 王城の1室で、兵馬達は顔を顰めていた。


「……どうする?勇志達に会うべきとは思うが……」

「でも、絶対魔王討伐に巻き込まれるわよ?」

「けど、圭子を見捨てるわけにも……」

「そうだよね。でも私達が参加したところで……」

「どこにいるかも分からないのに魔王、いや大魔王の国に入って、聖国と勇者達を圧倒した連中を相手にしながら、救い出すのは神を殺せと言われているのと変わらんと思うぞ」


 ベストラの言葉に兵馬達は頷くしか出来なかった。

 数日前に届いた聖国王都陥落の一報。

 しかも、相手は大魔王の軍勢を名乗り、大量の魔物と100にも満たぬ兵力で神殿騎士団を壊滅させ、教皇や重鎮を殺し、聖剣を無力化し、間藤達を一蹴し、涼宮を誘拐した。

 しかも兵士と思われたのは、ゴーレムのような人形だったそうで、指揮官と思われる4人だけが生身の人間だったらしい。

 人形兵士も1対1では騎士でも勝てず、最後に現れた人形兵士に関しては全く歯が立たなかったらしい。

 

「……つまり魔物も操れて、超高性能のゴーレム兵士がわんさかいて、更にそれを操る指揮官もいて、魔王に異王達もいる大魔王の国ってこと?そこに攻め込むの?忍び込む気にすらならないわよ?」

「忍び込むのも今までプロがやって全滅だがな」


 美園が頬を引きつらせながら纏める。

 ベストラもソファの背もたれに完全にもたれかかり、天井を仰ぐ。

 同席していたカテリーナとトゥオニも眉間に皺を寄せている。


「それにまず聖国も国を立て直すのに精一杯でしょう。とてもではありませんが他国に目を向ける余裕なんてないはずです」

「そうですな。下手したら聖国自体消える可能性もありますな」

「……そこまでですか?」

「王族もフェンネナ姫しか生き残っていないそうです。しかし、王都が瓦礫と化している中では、援助を求めようにも、フェンネナ姫には援助の見返りが提示できません。国庫も崩れていれば資金が無く、物資を出そうにも、その物資は復興や防衛に使わなければなりません。何よりその物資は王都ではない街の物。しかし、その街も王都と神殿騎士団が壊滅した以上、自分達で防衛をしていかなければなりません。国からの援助もありませんからね。冒険者も国を離れるでしょう。そうなると、ますます戦力の分散は避けたくなります。なのでフェンネナ姫の元には戦力すらない可能性があります。……界使の皆様を除いて」


 カテリーナの推測に兵馬達は顔を真っ青にする。

 そして、それは事実だった。今の兵馬達はまだ知らないが。


「はっきり申し上げれば……お父様……王はあなた方を聖国に行かせる気はないでしょう。それどころか、マトウ様達と会うことすら難色を示すと思います」

「……でしょうねぇ」

「美園ちゃん?」

「聖国のやられ方を考えれば、大魔王を下手に刺激なんてしたくないわよ。それに間藤君達が負けて、圭子まで誘拐されてるんだから、他の界使の実力も疑わしいと思うわよね。そして私達は界使の中では一番小さい勢力だもの。1人も失いたくないでしょうね」

「ただでさえ、お前達は全員【勇者】【聖女】【賢者】だからな」


 美園とトゥオニの言葉に兵馬はため息を吐くしかなかった。

 八方塞がりなのは兵馬達も同じだった。


「動くに動けないか……」

「4つの派閥の立場や方針が見事にバラバラだもの。そこにお国も関われば無理よね」

「問題はフェンネナ姫の今後の方針でしょう」


 美園が肩を竦めると、カテリーナが顔を顰めたまま口を開く。

 それに悠里が首を傾げる。


「どういうこと?」

「フェンネナ姫にとって最優先事項が何になるのか、ということですね」

「最優先事項……?」

 

 兵馬も眉を顰める。

 今度は麗未が首を傾げる。


「国を立て直すことじゃないんですか?」

「恐らくはそうでしょう。ただ、そうなるとマトウ様達の掲げる魔王討伐は足枷でしかありません。戦力も物資も資金もないのですから」

「あ……」


 兵馬達はカテリーナの言いたいことが分かってしまった。

 

「しかし、問題となるのは『マトウ様達を受け入れてくれる国はあるのか?』ということです。今回、救援部隊を出してくれた国は、元々魔王討伐に協力的な国でした。しかし、今回の聖国陥落で怖気づいたでしょうね。間違いなくマトウ様達は厄介者と思われているでしょう」

「それは元々協力的でない国も同じ……ですか」

「その通りです。では、国よりも魔王討伐を優先した場合。それは聖国復興を諦めることを意味します。つまり聖国は他国の領地へとなる。しかし、そうなるとマトウ様達の援助や立場が安定しません。なので、フェンネナ姫としては選ばないでしょう。そして国と魔王討伐を両方選ぶ場合。これは先ほど挙げたデメリットの全てが襲い掛かります。なので、これも難しいと思います」

「聖神教はどうなのだ?各国に神殿があるだろう」


 ベストラの質問にカテリーナはため息を吐く。

 その反応で兵馬達はもう良くない状況であることは理解した。


「各国の神殿は……ほぼ沈黙状態です。総本山と言える聖国王都が崩壊し、教皇やその側近の枢機卿の多くが亡くなったというのに、フェンネナ姫に押し付けて引きこもっています」

「でも、教皇って王族でもあるんですよね?じゃあ、フェンネナ姫に押し付けても問題はないのでは……」

「確かに教皇は王族から選ばれますが、それを選ぶのは枢機卿達です。例え教皇の血縁であろうと、その選定に口出しは許されていません。そしてフェンネナ姫は【聖女】ではありますが、未だ一信徒でしかありません。聖神教に関してフェンネナ姫が出来ることは、大神殿の再建と枢機卿の招集くらいのはずなのです」


 カテリーナはフェンネナ姫に圧し掛かる重圧を想像して同情する。

 しかし、カテリーナも王族である以上、同情で動くわけにはいかない。


「……問題はフェンネナ姫や他国がマトウ様達をこの国に押し付ける可能性があることです。我が国は『神に選ばれた界使を召喚した国』という事実があります。例えマトウ様達が自ら我が国の援助を断ったとしても、その時点で我が国には彼らを助ける義務はないと各国との会議で決まっていたとしても、『人道的に考えて助けるべき』と言われれば、断り切れない可能性があります」


 カテリーナの推測に兵馬達はお手上げとばかりに天井を見上げるしかなかった。

 

「完全に全員が雁字搦めだな……」

「はい……。もはや誰かしら被害を被ることは避けられません。もっとも全ての国が魔王討伐に否定的であることが前提ですが……」

「でも、今の所前向きな国はないんでしょう?」

「そうだな。あったとしても小国で、他国の援助をもらわねばならない国ばかりだな。今までのように強気には出れないだろう」

「……絶対荒れるぞ」

「そうね」

「本当に、大魔王どころではないな」

「下手したら、大魔王よりマトウ殿達を先にどうにかしろという声が出る可能性がある」

 

 ベストラとトゥオニの言葉に兵馬達はもう呆れることにも疲れ始めていた。

 

「決定的な一撃を打ち込んだな。大魔王は……」

「数百年生きて、暗躍し続けてるのよ?そう簡単にいくわけないじゃない」

「だよな……」


 結局、まともな対抗策も解決策も思い浮かばず、兵馬達はとりあえず情報収集と実績作りに集中することにした。

 

 そして、間藤達が聖剣を手に入れるために迷宮に入った時から1か月。

 聖国王都が崩壊してから約2週間。


 再び事態は動き出す。


「フェンネナ・フルエ・ゼウバドルの名に於いて宣言する。【ゼウバドル聖国】は本日をもって、聖神教総本山の地位を辞退。さらに領地縮小を行い、今後【ゼウバ王国】と名を変え、王都復興と安寧を第一とする」

 

 フェンネナが世界各国に宣言した。

 

 ゼウバドル聖国改め、ゼウバ王国は聖神教総本山および教皇選出の地位と権利を手放して、ただの信徒がいる国に成り下がった。

 さらに領地も半分以上手放し、【クラベスヤード王国】と同程度までの大きさとなった。切り離された領地は救援を出してくれた国々の領地となり、聖神教総本山の地位はその中で最も優れた大神殿を抱える国が名乗ることになった。

 

 そして間藤達も拠点を総本山がある国へと移すことになった。


 もちろん、その中にフェンネナの姿はなかった。


ありがとうございました。

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