表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/53

坩堝と変質

よろしくお願いします。



 僕は翌日、神殿に向かう。


 中には多くの神父やシスターがおり、祈りを捧げている町民も多くいた。

 聖神教というのは、世界的に認知されているのか。

 それとも単一宗教なのかもしれない。


 しばらく、座って眺めているとポティファがやってきた。


「お待たせしました。ご案内しましょう」


 笑みを浮かべているポティファは礼をして、奈央を促す。

 僕も特に疑問を持たずに付いて行く。


 2人は地下に降りていく。


「地下には何が?」

「迷い人の資料は機密事項が多いので、侵入者を閉じ込めやすい地下に集められているのですよ。神殿長であろうとも、地下の閲覧室でないと見てはいけないと規律が出来ています」

「厳重ですね」

「……迷い人の多くは、世界を大きく変える力や発想力を持ちます。それの危険性は我々で判断できるものではありません。特に発想に関しては、文書に残しているものは全て封印します」


 かなり厳重だな。

 まぁ、確かに小説とかではその地球の発想で革命を起こしてるけど。

 それを理解できてるってことは、普通に地球と同じだけの知識はあるんじゃないか?

 それとも、これを考えたのも異世界人か?

 その可能性の方が高いか。


「それでも使えるようになったものもあるかもしれない。だから、歴代の神殿長はこれらに目を通し、年に一度、この世界の住民でも可能なもので、かつ戦争などに使いにくそうなものを選び、教会本部に提出します。そして、さらに選別し、大国会議で議題として提出するのです」


 なるほど。

 自分達の世界は自分達で、か。

 結局、異世界人は異質であるということかな。


 案内された部屋は、窓はないがそれでも豪華な部屋だった。

 部屋の椅子に座り、神殿長はお茶の準備をしてくれる。


「基本この部屋は、神殿長と迷い人しか使いません。だから、これからも良ければ使ってくださいね」


 笑顔でお茶を出しながら言ってくれるポティファ。

 それにお礼を言いながら、口にする。


「では、まずはこの世界の事でしょうかね」

「そうですね」

「この世界は【テレノス】と呼ばれています。ゼウスガイアという神王のもと、神族が世界の管理を行っています。故に聖神教はこの世界で唯一の宗教となります」


 なるほど。

 神が明確にいる世界なのか。

 だから、地球みたいに独自の神ではなく、同じ神が崇拝される。

 これなら宗教戦争は少ないのだろうな。


「この世界には魔神または邪神と呼ばれる存在もいます。そして、それらを崇めている者達もいます。その者達は1つの集団となり、暗躍しています」

「魔王とは違うのですか?」

「その邪教集団の頂点が魔王なのです」


 どうやら、魔神の勢力は集まっているようだな。

 

「もう1つ我々が恐れているのが、【異王】です」

「いおう?」

「はい。魔王とは関係ないですが、魔王に匹敵する力と邪悪さを持っている存在達です。魔王とは関係なく動くので、被害が大きく一種の災害として扱われています」

「今は?」

「今、確認されているのは2体です。どちらも魔獣からの発生なので、刺激をしなければ縄張りからは出てきません」


 なるほど。

 異常個体というやつか。

 お茶を飲みながら話しを聞く。


「勇者は異世界から呼ばれるんですか?」

「その時もありますな。基本はこの世界で勇者のスキル持ちを探しますが。現在は神により封印されているので使用できませんが」

「……使えない?つまり勇者は呼ばれていない?」

「ええ。今は魔王も討伐されたばかりで現れていませんし、勇者も現役ですので」


 やっぱり違う世界に来たのか?

 考えていると、突如強烈な眠気が襲ってくる。

 僕は頭を起こしていられず、テーブルに突っ伏してしまう。


「な……んで?」


 僕は眠りにつく。

 それを、ポティファは笑顔で見ていた。


 




 僕は目を開ける。

 寝かされていることに気づき、周りを見る。

 先ほどの部屋ではなく、暗い倉庫のような部屋だった。


 体を起こそうとすると、全く動かないことに気づく。

 体が雁字搦めに縛られている。


「な!?なんだよこれ!?」

 

 スキルを使おうとするも、反応しない。


「なんで?」

「その縄は罪人を捕らえるものでしてね。魔力を封じるのですよ」

「…!?」


 現れたのはポティファだった。


「これはなんだ!?」

「この神殿が出来た話は聞いてますか?」


 僕は顔を顰めるも、ボンドの話を思い出す。

 確か、悪魔を封じた場所の上に建てた、という話だ。


「ここはその封印の場への入り口ですよ。封印した魔王や異王をその下に封じているんです」

「!?」


 僕は固まる。

 ポティファは先ほどと変わらぬ笑みを浮かべている。


「私はね、今の世界を嫌悪しているのですよ。神や教会が変化を封じているのが気持ち悪いのです」


 その言葉に奈央は、神殿長は狂っているのだと悟る。


「知りたいのですよ。神すらも滅することが出来ない者達がどのような者達か!!それが世界に溢れた時!神は!世界は!人は!どのような変化を成すのか!!」


 ポティファは目を血走らせながら叫ぶ。

 

「僕が何の関係がある!?」

「生贄ですよ」

「なんのだ!?」

「彼らの封印を解くためのものに決まってるでしょう。ここはね、迷い人が作ったのですよ」


 だから、異世界人を捧げる?

 そんな不明確なことで生贄にされてたまるか!


「失敗するぞ!」

「それがなにか?だめなら次を探すまで。あぁ、ここの事は神殿長の口伝でしか知らされませんし、入るためには神殿長の証がいるので、誰も来ませんよ」


 チクショウ!!

 どうすればいい!?


「えっと……名前は何でしたかね?まぁ、いいでしょう。では、さようなら」


 僕の真下の地面がバカンッ!と穴が開く。

 底には真っ黒な水のようなものが満ちていた。


「ひぃっ!?」


 僕は落ちていく。


「楽しんでください。【闇淀(やみよど)坩堝(るつぼ)】を」


「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 僕は水の中に落ちる。


ゴボゴボゴボッ!! 


 拘束が溶けたようで手足が自由になったのを感じる。


 奈央は水の中で暴れるも、上下左右は一切分からない。


 真っ黒で周りも分からない。


 奈央はパニックになっている。


 すると、自分の頭に突如、見慣れぬ光景が浮かぶ。



 火の海に包まれた城の光景。


 異形の獣を率いて人間を襲っている光景。


 裸の女達を抱き、犯している光景。


 多くの人間がこっちに向かって跪いている光景。


 死体が高く積まれ、血の風呂に入っている光景。


 多くの書物がある建物の中で本を読んでいる光景。



 こんな記憶は、ぼくにはない!

 

 …ぼく?


 ()()()()()


(なんだこれは!?誰だこれは!?)


 僕は!?

 俺は!?

 私は!?

 儂は!?

 わたくしは!?

 俺様は!?

 余は!?

 妾は!?

 グルゥアァァァァ!?

 おいらは!?

 あたしは!?

 o@#%は誰だ!?



 自分がもう分からない。

 様々な情報が頭に流れてくる。

 

 その者は頭を、喉を、胸を、全身を掻き毟るように悶える。


 しかし、頭の中を走り回っていたものが突如、バヂッ!!と弾けたように固まる。 


 その者を囲んでいた水が、蒸発したように弾け飛んで消える。


「はあぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 その者は頭を押さえながら、荒く息をする。

 空中に浮かんでいるが、そんなことは疑問にも思わない。

 

 ゆっくりと地面へと降り立つ。

 少しふらつくも、すぐに安定する。


 息も落ち着いてきたその者は、周りを見渡して、ここがどこか把握しようとする。


「ここは……どこだ?……いや……知っているぞ?………ここは………闇淀の坩堝?……そうだ。闇淀の坩堝だ……!」


 知らないはずなのに、知っている。

 分からないはずなのに、分かる。


 未だ混乱しているが、その者は少しずつ思考がクリアになっていくのが分かる。


 そして、自分が、自分だった者達の事を理解する。


「僕……いや……私?それも違うな。俺。余。儂。我……そうだな。『我』、だ」


 自己の呼称を定める。


「我はここに落とされ、ここに体を捨てさせられた者達。そこに我の一たる『僕』が落とされ、融合した……か。」 

 『我』は体を見る。


 『僕』であった体は見る影もない。

 背も伸び、筋肉が付いている。

 髪も紫色を帯びた銀色になっている。

 そして、押さえきれないほどの力が自分の中に渦巻いている。


 名を決めよう。

 『我』たる名前を。


「我は……そうだな。バアル。バアルだ。混沌達が集まり、それを操る王たる混沌。それが……我だ」


 その言葉に、完全に力が自分の支配下に置かれたことを理解する。


「レレリティリア。知っている。知っているぞ!!『僕』ではない我がお前を知っている!!」


 バアルはあの自称女神のことを知っている記憶を見つけた。

 見た目は随分と幼いが、しかし名前は間違いなくレレリティリアだ!

 つまり、ここは『僕』が来るはずだった世界だった。


「流石に今がいつかは分からんか。まぁ…かまわん。些細なことだ」


 バアルは自分が素っ裸であることを思い出す。


「とりあえず、我がどこまで出来るか把握しなくてはな」


 バアルは自己の把握を始める。


「どうやら……失ったものも多いようだ。いや……混ざったのか?」

 

 バアルは何百という魔王と異王が混ざった者だ。

 あの黒い水だったのは溶けた体であり、力であり、スキルだ。

 それをバアルは全て取り込んだのだ。

 無くなったとは思えない。


 バアルは感覚を思い出しながら、【鑑定】を発動する。

___________________________________________

Name:BAAL(NAO KAJISHIMA)

Age:???(18)

Species:Unknown(Human)

Skill:【万能】【無限】【転性】(【鋼】【鬼】)

___________________________________________

 

「ふむ。全て使えるのか。種族は不明になっているな。しかも、無限の魔力か」

 

 しかし、一番気になるのは。


「【転性】は使えるのか」


 スキルを発動する。 


 すると、バアルの胸が膨れて大きくなる。

 腰もくびれ、腕や脚も筋肉質ではあるが、女性的な肉質になっている。

 髪も背中の中間程まで伸びている。


「ふむ。まさしく女だな」


 改めて鑑定してみる。

__________________________________________

Name:BAAL(NAO KAJISHIMA)

Age:???(18)

Species:Unknown(Human)

Skill:【無敵】【虚無】【転性】(【闇】【悪魔】)

__________________________________________

 

「ほ~う」 


 バアルは男に戻る。


「【創造】」


 バアルはスキルを使い、服を創り出す。

 黒のコート、赤のシャツに黒のズボン。


「まぁ、とりあえずこんなものだろう。さて」


 バアルは上を見る。


 そして、ニヤァっと笑う。


 災厄が、世界へと旅立つ。



ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 奈央くんちゃんさんたそ!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ