生死を決めれるのは強者のみ
よろしくお願いします。
僕達は馬車に乗って進む。
グバンは暴走する可能性があるので、一度眠ってもらう。
「あの魔王がこんな子供にねぇ」
「魔王というのは不思議でいっぱいですね」
シフラとコーリジェアがグバンを眺めながら話している。
人の事言えないだろうに。お前達だって。
僕はその横でグバンの怒りをコントロールする魔道具を作ることにした。
「スキルを変えた方が早いのでは?」
「そうかもだけど、そうするとずっと僕達が面倒見ることになるじゃないか。めんどくさい」
魔王化のおかげで【不老】になったみたいだし。まぁ、しばらくは成長するだろうけど。
【不老】は最適な状態までは成長するしね。
さて、どんな魔道具がいいだろうか。
ふむ。一定以上の【怒り】を【金剛】に変換するようにするか。
後はどんな形にするかだけど……身に着けるものは壊れる可能性があるから心臓に埋め込むようにするか。
細い鎖のようなものを作る。
グバンに近づき、グバンの心臓に巻き付くような形で埋め込む。
「ふむ。これで良し」
「怖いやり方だねぇ」
「まぁ、仕方ないよ。あんな状態になるんだもん」
「確かにアクセサリーとかでは壊れそうですね」
とりあえず、これで良いの。
「後は、今後どうするか、だね」
「預けられるようなところなんてあるのですか?」
「そうなんだよねぇ」
「ナオ様以上の場所を知らないですね」
「……いや。1人いるな」
「え?」
僕は1人思いついた。
ただし、
「引き受けてくれるかは怪しいな。気分屋だし」
「気分屋?」
「ヤブンハールさ」
「「え!?」」
ヤブンハールならグバンを鍛えることも抑えることもできる。
殺す可能性もあるけど。
「あいつに人を育てることが出来るのですか?」
「無理だと思うねぇ」
ルティエラ達は無理だと思っている。
まぁ、普通ならそうだろうね。
「とりあえず、行ってみるさ」
「場所は分かるのですか?」
「もちろん」
ということで、明日行ってみるとしよう。
翌朝、グバンも起きて食事を摂らせる。
そして、グバンの胸に埋め込んだ魔道具について説明する。
グバンは目を見開いて固まる。
「まぁ、理性が無くなるほど暴走することはないよ」
「だといいですけど」
「で、君のこれからだけど」
「は、はい!」
「まぁ、まだ分からないけど。1人の魔王に会わせる予定」
「え!?」
「じゃあ、行こうか」
「え!?」
「私も行きます!」
混乱中のグバンを無視して、頭に手を乗せて転移しようとすると、コーリジェアも行くと言ってきた。
「どうしたの?」
「私はまだ会ったことがないので」
「ふむ。無理して会う必要もないだろうけどねぇ」
「一度挨拶はしておきたいです!」
「ふむ。まぁ、いいか。じゃあルティ。シフラ。ラクミル。ちょっと待ってて」
「「はい」」
「は~い」
そして転移する。
到着したのは山の上の古城のような建物の前だった。
「ふむ。立派だねぇ」
そうして中に入っていく。
中は意外と綺麗にされている。
「どなた様でしょうか?」
目つきが鋭い金髪のメイドが現れる。
「ここにヤブンハールがいるでしょ?」
「……どのようなお関係で?」
「魔王仲間」
「………」
メイドはさらに目を鋭くして、僕達を見る。
『構わん。連れてこい』
そこにヤブンハールの声が響く。
それにメイドは眉間にわずかに皺を寄せる。
「……ご案内致します」
そうして背中を向けて歩き出した。
ふむ。国の離宮の1つか。罪を犯した王族や後継争いに負けた王族の隔離場所。
首都から大分離れてるし、ここの周囲は村なんてないから逃げようもないということか。
ここで働いているのは同じく問題を起こした者か、負けた王族に仕えていた者達。
まぁ、ヤブンハールが住み込むにはうってつけでもあるな。
「こちらです」
メイドが部屋の前で立ち止まる。
メイドがノックして声を掛ける。
「お連れしました」
「入れ」
メイドが扉を開けて、僕達は中へと入る。
部屋の中には上半身裸のヤブンハールが椅子に座って、ワインを飲んでいた。
案内したメイドは扉を閉めて、扉横に控える。
「久しいな。ナオ」
「そっちもね。氷の調整も上手く出来てるようでなにより」
「はっ。誰に向かって言っている。この程度の調節出来ずして王が名乗れるか」
ヤブンハールは機嫌良さそうに飲みながら話す。
「随分といい所見つけたね」
「ふっ。少しばかり寂れ過ぎているのが難点ではあるがな。それで?何用だ?世間話をするために来たわけではあるまい」
「まぁね。紹介したいのが2人。そしてお願いしたいのが1つ」
「ほう?」
ヤブンハールはずっとワインと外に向けていた目をこっちに向ける。
「あべこべな女と生まれたての魔王…か」
「流石だね。こっちがコーリジェア。【氷の聖女】で【闇の魔女】」
「お初にお目にかかります。ヤブンハール閣下。ナオ様の妾が1人、コーリジェアと申します」
「で、こっちの坊やがグバン。【怒りの魔王】」
「こ、こんにちわ!」
コーリジェアはスカートを掴んで淑女の礼を取る。
グバンは緊張しているようで直角に頭を下げる。
その紹介に後ろのメイドは顔を真っ白にしている。声を出さないだけ優秀だね。
「貴族の娘か。ナオの眼に適いながら、妾と言うか。中々立場と在り方を理解しているようだ」
「で、頼みって言うのはさ。このグバン少年を育て鍛えてくんない?暇っしょ?」
「……ほう?」
「ひぃ!」
コーリジェアはどうやらヤブンハールに認められたようだ。
僕の提案を聞くと、目を細めてグバンを見る。
グバンは顔を引きつらせて、僕の後ろに隠れる。
「臆病者の子犬ではないか。こやつを余が育てろと?」
「そ。僕が育てると、僕の便利さに依存しそうだから」
「だから余に?」
「一番適任でしょ?」
どこがだ?
グバンとメイドは心の中で突っ込む。
「その子犬はそれほどには見えぬな」
「なら、試してみれば?」
「ふむ。それもそうだな」
「え?」
ナオとヤブンハールの言葉にグバンはポカンとしていると、いきなりヤブンハールがワインの入っているコップを振る。
すると、コップに入っていたワインが凍り、グバンの腹に直撃する。
「ぐえ!?」
グバンはくの字になって後ろに吹き飛ぶ。
僕はグバンが壁に当たらない様に止める。
「やるなら外でやりなよ。壊れたらもったいないよ?」
「構わん。その時は新しい城を見つければよい」
ヤブンハールは立ち上がりながら言う。
もったいない。まぁ、僕がいたら直せるんだけどさ。
「う……うぐぅ……」
グバンが唸りながら起き上がる。
おぉ。思ったより早い復活だね。
「ほう」
「痛いぃ……痛かったああああ!!!」
「ひぃ!?」
ヤブンハールも目を細めて、少し愉快そうに笑う。
グバンは叫びながら体を膨張させる。それを見たメイドが悲鳴を上げる。
「いきなりぃ……なにしやがるううう!!」
グバンが怒りに叫びながら2m近くの巨漢になり、ヤブンハールに飛び掛かる。
ヤブンハールは凍らせようとするが、グバンの体が赤く輝いて氷を弾き、口から光線を放つ。
光線は壁を壊して、ヤブンハールは光線に飲まれて外に吹き飛ぶ。
あらま。やっぱり壊れちゃった。
「うおおおおおお!!」
グバンは追撃のために壁の穴から飛び出していく。
僕とコーリジェアは穴に近づき、戦いを眺める。
メイドは後ろで尻餅を着いて震えている。
ヤブンハールは無傷で腕を組んで、空に浮かんでいる。
そしてグバンを見据える。
「どれ。もう少し楽しませよ。狂犬」
氷の槍を生み出してグバンに放つ。
グバンはそれを殴り砕きながら、ヤブンハールに向かう。
「では、これはどうだ?」
腕を組んだままのヤブンハールから吹雪が放たれる。
グバンは避けもせず直撃する。
吹雪が収まると、グバンの氷像が浮いていた。
「ふん。……ん?」
グバンの体から湯気が立ったと思った瞬間、グバンの体がさらに膨れ上がって魔力が吹き荒れる。
「ぬぅおおおおおおお!!」
「ほう。無傷か」
「うおおらあああああああ!!」
グバンは叫びながら右腕に【魔光】を纏わせながら振り抜く。
拳圧に乗って光線が高速で放たれる。
ヤブンハールはそれをヒラリと避ける。
そして、氷の剣を数十本生み出し、一気に放つ。
「だららららららららららららぁ!!!」
それをグバンは拳の連撃で全て砕く。
そしてさらに魔力が体から溢れ出す。
「なるほど。ダメージを怒りと魔力に変えられるのか。確かに逸材ではあるか」
ヤブンハールは楽しそうに笑う。
「しかし、怒りに簡単に飲み込まれるのが難点だな。……なるほど。それ故に余に育てろと言うか」
ヤブンハールはナオが自分を選んだ理由に納得する。
そこにグバンが猛スピードでヤブンハールに迫る。
「ふん」
ヤブンハールはグバンの拳を右に避けて、グバンに触れる。
「がぁ……!」
するとグバンの体が元に戻り、気絶する。
それを僕は転移してキャッチする。
「どうだった?」
「確かに面白い。よかろう。暇つぶしで育ててやる」
「そりゃどうも。お礼の1つとして城は直して、綺麗にしてあげるよ。ついでに自己修復機能も付けようか?」
「ほう。それはいい。貰ってやろう」
ヤブンハールの言葉に僕は苦笑する。
城に戻り、穴を修復し、ヤブンハール好みに作り直す。ついでに魔導具を作って、城の修復装置を作る。
城の一室にグバンを寝かせて、グバンの部屋に必要な物を作っておく。
一応、通信装置も渡しておく。
「ま、なんかあったらグバンから連絡寄越して」
そう言って僕達は城から転移する。
頑張りなよ。グバン。
死なない様にね。
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グバンはナオが去った1時間後に目が覚める。
「うっ。ここは……?」
「目が覚めたか。子犬」
グバンのすぐ横にヤブンハールが椅子に座ってワインを飲んでいた。
「うわ!」
「これよりお前は余が引き受ける。余は愚図が嫌いだ。死にたくなければ必死に耐えることだな」
「そ、そんな!」
「残念ながら弱いお前に決定権は無い。己の力すら制御できぬ子犬ではな」
「う……」
ヤブンハールの言葉にグバンは俯く。
「よいか。子犬」
「……?」
ヤブンハールの言葉にグバンは顔を上げる。
「この世界で生死を決めるのは神でも魔王でもない。強者である」
「……!」
「そしてお前にはその強者側に立てる可能性がある。それを強者の頂に近い余が教授してやると言うのだ。感謝せよ」
ヤブンハールの言葉にグバンは両手を握りしめる。
「今のお前では天使にも勝てぬ。それでいいのか?また奪われるぞ?今度はお前の命だ」
「……嫌です」
「だろう?ならば道は1つ。強者になることだけだ」
「……はい!」
グバンは力強く頷く。
こうしてグバンは魔王として大きく成長していくことになった。
ありがとうございました。




