何がしたいの?
よろしくお願いします。
私は太刀を肩に担ぎながらのんびりと森の中を歩く。
ふむ。ルティエラ達も魔物は倒したようだ。
デビュも森を進むが、特に行動は無し。
もちろんこっちも敵の姿も気配もない。
ふむ。あんな魔物を使っているのに、見張りもいない。まぁ、あの背中にいた人形がそうなんだろうけど。それにしてもいなさすぎるわねぇ。
日中に戦場にあれだけいたのに、見張りもいないのはおかしいわよねぇ。
【鑑定】でも反応はなし。死体すらも見つからない。
ふむ。死体を操っているわけではないということかしらね?
やっぱり特殊なスキル持ちがエルフに現れたということかしら。
……ちょっとからかってみましょうか。
太刀を右手で上段に構えて、一気に振り下ろす。
斬撃を飛ばして、ズバン!と地面と森を斬り裂いていく。
まだまだ斬撃は飛んでいく。
……あら?止まらない?
斬撃は数十キロと飛んでいき、ようやく消えた。
ふむ。そんなに強くしたつもりはなかったのだけど……。
でもこれでリアクションはあるでしょ。
「ナオ様!?」
そこにルティエラ達が合流した。
「あ~あ。これはまたやったねぇ」
「いいじゃない。別に大事な森じゃないし」
「そうです。敵の拠点を壊すことに問題なんてありませんよ」
コーリジェアも私に同意してくる。
そうよね。敵だもの。
とは言っても……。
「これでも出てこないわねぇ」
「こんなもの見たら逃げるんじゃないかい?」
あぁ。その可能性もあったか。
ふむ。
一度男に戻って【探査】を全開にする。
ふむ……まっすぐだな。
「うん。見事に敵陣営をぶった切ったね」
「急ぐかい?」
「そうだね。デビュも急がせようか」
太刀を仕舞って、駆け足で移動を始める。
20分ほどで堀に囲まれた村のような所に出た。
そこには……
「うぅ……あ……」
「いでぇ……もう殺してくれぇ……!」
「お許しを……お許しを……」
エルフやらヒューマンがボロボロで倒れ込んでいた。
「ヴォッパンよりもひどい状況ですね」
「でも、こいつらを翌朝には元気なってたんだろ?」
「どうなっているんでしょうか?」
ふむ。……なるほどねぇ。
「ハイエルフか。ハイエルフってそんなに偉かったっけ?」
「まぁ……珍しくはありますが」
「いないわけじゃないねぇ」
だよね。
「なんかハイエルフが神の真似事してるんだけど」
「「「はい?」」」
ルティエラ達が首を傾げる。
うん。僕も分からん。
「貴様達か!やはりここまで来たか!」
「おのれ!下等種如きが!」
現れたのは5人ほどのエルフ。
こっちを睨み、倒れている者達を蹴飛ばしながら近づいてくる。
「おいおい。お前達の戦力だろう?いいのか?足蹴にして」
「ふん!この程度の下等種が何匹死のうが知ったことか!」
先頭にいる金髪の男エルフが吐き捨てるように話す。
ふむ。馬鹿なんだな。
「で?なんでいきなり戦争なんか始めたんだ?」
「はっ!決まっているだろう!この世界は我々エルフこそが治めるべきなのだ!下等種共など我々の支配下で生きればいい!」
ふむ。やはり馬鹿のようだ。
「世界を治めているのは神だよ?これは魔王すらも否定できないぞ?」
「ふん!もはや数百年、神は降りてこない。そんな者共に頼れるか!」
そこは同意するがね。
「だからハイエルフを神として崇めていくと?」
「っ!?そうだ!ハイエルフ様こそが神にふさわしい!」
「いやいやハイエルフってそこら中にいるじゃん」
「他の連中はハイエルフ様などではない!雑種である!アオバ様こそ真のハイエルフ様である!」
「あおば?」
異世界人?でもハイエルフって言ってるしな。転生者か?
転移者はともかく転生者までいるのか?この世界。
「そのアオバ様がこれを?」
「そうだ!アオバ様は一定時間『時間を引き戻す』ことが出来る!その力で疲労や怪我を一時的に無くすのだ!」
一定時間だけかい。そうか。そのせいでスキルが解けたと同時にこれまで戻してた分が一気にぶり返してるのか。
そりゃあ、倒れるだろう。よく生きてるね、こいつら。
しかも【暗示】で時間が巻き戻ると、そのことを忘れるようにしてる徹底ぶり。
「時間を操るそのお力はまさしく神!!アオバ様に選ばれた我々こそ!この世界を支配するにふさわしいのだ!」
「馬鹿だねぇ」
「なんだと!?」
「時間を操るくらいで神に成れるわけないじゃん」
「なら貴様は出来るのか!?」
「出来るよ?っていうか、まだ周りのこと気づいてないの?」
「は?……なぁ!?」
エルフの男は周りを見て絶句する。
倒れていたはずの兵士達が1人もおらず、後ろにいたはずの仲間は首だけ転がっていた。
「な……なにが……?」
「何って時間を止めて皆殺ししただけだけど?」
「……え?」
エルフの男はポカンとする。
大したことはしてないよ?
ただ時間を止めて、その間に兵士は全身を、あいつの仲間は首から下を消しただけさ。
このくらいで神様気取りされてもねぇ。しかも時間制限付きでしょ?意味ある?ずっと掛け続けられるならいいけどさ。
「馬鹿な……!?お前のような下等種が神の力を……!?」
「悪いけどさぁ……アオバ様とやらが下等種って言うなら分かるけど。……お前毎き虫けらに下に見られる筋合いはないよ……?」
「……!?」
僕は魔力を浴びせる。
いつも思うんだけど……なんで雑魚どもってトップが凄いからそれに従ってる自分達も凄いんだ!とか考えるのかねぇ。
「知っときなよ。虫。お前らみたいなやつ、上にいる奴らからしたら……下に居ようが敵になろうがどうでもいいんだよ」
「ひぃ!?」
慄いたエルフは次の瞬間に炎に包まれて消える。
「馬鹿だねぇ。分相応を知らないってのは」
「そうだねぇ」
「ナオ様の前で分相応にいれる人っているんでしょうか?」
「少ないでしょうね」
とりあえず先に進む。少し進むと大木の中に家がある都市が現れた。
綺麗ではあるけどねぇ。
「なんかつまらなく感じるなぁ」
「まぁ、実態は馬鹿でしたしね」
人の気配は少ない。
「この国って人口が元々少ないんだねぇ」
「はい」
「それでよく戦争仕掛ける気になったねぇ」
「時間を巻き戻せるからじゃないかい?」
「あぁ~」
進んでいくと祭壇がある大木が目に入った。城のように見える。
「あそこがアオバ様とやらの居場所だねぇ」
「祭壇もありますし、そのようですね」
祭壇に近寄っていくと、
「ここに何用だ?」
祭壇の手前に茶髪を後ろで一本結びにしている長身の女エルフが現れた。背中には2本の剣を携えている。緑のジャケットに茶色のシャツ、黒のズボンにブーツ。そして両手には黒の革手袋を見に着けている。
周りにも統一された銀の鎧を着たエルフの集団が現れた。
「ふむ。ここの守備隊かな?」
「そうだ」
「守る意味ある?もうこの国に残ってるの君達だけじゃん」
「……何?」
「聞こえなかった?この国はもうここにいる者達しか残ってないって言ったの。さっき時間を止めてる間に、皆殺しにしたんだよ。ピエベラ親衛隊長殿」
「……っ!?」
ピエベラは耳元に手を当てる。少しずつ顔が焦りに染まっていく。
その様子を見て部下達も顔を見合わせる。
「……馬鹿な……!?」
「急いだほうがいいよ?今、少しずつこの国の森は壊れていってるからさ」
「何……だと……?」
「国境からここに向かってゆっくりと木を分解してるのさ。早く僕を殺さないと、この国は砂漠だよ?」
「……!?」
時間を止めてたからねぇ。仕掛け放題だったよ。
「さぁ……この国の神様とやらは壊れた森まで戻せるのかな?」
「……っ!」
ピエベラは歯を食いしばりながら僕を睨む。
「なぜこのようなことを?」
「っ!?アオバ様!?」
祭壇の上から声がした。見上げると、そこには長いストレートの黒髪に黒い瞳を持つ普通のエルフより耳が長い女性がいた。
「いけません!!アオバ様!!ここは危険です!!」
ピエベラが叫ぶ。しかし、アオバはピエベラに安心させるように微笑む。そして、僕の方を向いて顔を真剣なものに変える。
「なぜ我が国にこのようなことを?」
「はぁ?お前達が戦争を仕掛けてきたんじゃないか」
「だから無関係な民まで見殺しにしたと?」
「はぁ?国の名前で戦争を仕掛けておいて、無関係な民なんていないだろ?この国に住んでる以上」
「心が痛まないのですか?」
「はぁ?無関係な奴が死んだところでそれが何?お前だってそう思ったから他国に戦争仕掛けたんだろ?それで心が痛むならお前が戦争仕掛けたことが間違いだったってこと。だから悪いのはぜ~んぶお前」
本当に何を言い出してるんだろうね?
なのに何故かピエベラ達やルティエラ達もなんかアオバを労しげに見ている。
「私はただ……」
「ところでその【暗示】やめてくんない?うっとおしい」
「っ!?」
何が神だよ。ペテン師なだけじゃん。自分が正しいかのように見せてるだけかよ。
「ルティ達もあの程度の暗示に引っかからないでよ」
「申し訳ありません!」
「なんで可哀想だなんて思ったんだろうねぇ」
「ごめんなさい」
「へんなかんじだった~」
ラクミルは周りに合わせてただけかい。
「あなたは……?」
「ナオ・バアル。君と同じく元日本人だよ。工藤青羽さん」
「な!?」
アオバは目を見開く。
「まさか私以外にも転生者が!?嘘よ!この世界は私が改革するために!」
「んなわけないでしょ」
なんだ。碌に情報もない。神に何かされたわけでもない。
単純に記憶があるだけの元オタク女か。
「はぁ~……こんなオチとかつまらないな」
「そうか!!お前は私に立ちはだかる魔王なのね!」
……多分、魔王の意味が違う気がするけど。
「そう。僕は魔王だよ」
「やっぱり!なら、ここで負けるわけないわ!」
……とことん自分の物語だと思ってるのか。【暗示】と【時間逆行】のせいかね?
「ピエベラ!みんな!倒せるわ!」
「は!」
「うざい」
『ぎゃああああああ!?』
「……え?」
「なぁ!?」
なんか希望を持って武器を構えたアオバとピエベラ以外のエルフ達を一瞬で焼き殺す。
それにアオバはポカンとし、ピエベラは驚愕する。
「これでポップラ森王国も後2人だけだね」
「っ!?魔王なんかに負けないわ!!皆!『戻ってきて』!!」
アオバは僕の言葉を聞いて、また強気の言葉を発し、右手を掲げる。
しかし、何も起こらない。
「な……なんで!?」
「戻るわけないだろう?魂が無いんだから」
「え?」
「僕の炎は魂も焼き尽す。だから体を戻そうにも戻すための情報がないんだから戻るわけがない」
まぁ、肉体が五体満足であったら体は戻るだろうけどね。
灰にまでされたら、魂が無いと肉体の設計図がないからね。復元の使用が無い。時間は消滅したものまでは戻せない。
「そ……んな……」
「それに戻してどうするの?また数時間後には死ぬのに」
「それは!?」
「それも【暗示】で誤魔化す?」
「っ!?」
「よくそれで他の種族を見下せたもんだ」
全然ハイエルフ関係ないじゃん。
「貴様!!アオバ様にはこれ以上近づけさせん!!」
ピエベラが剣を抜いて飛び掛かってくる。
「デビュ」
「イエス、マスター」
「ぐぅああああああ!?」
「ピエベラ!?」
デビュがシールド・ピストルでタックルしてピエベラを吹き飛ばす。
ピエベラは大きく吹き飛んで隣の大木の家に突っ込んでいく。
弱!
「さて、これで残ったのは君だけだねぇ」
「ひぃ!?」
「ところで国はいいの?もうすぐ……ここ以外砂漠になるけど」
「え?……なぁ!?」
アオバは周りに目を向けると、もう視界に砂の大地が見えてきていた。
「お前の力は国全てまで届くのか?」
「なんでよ……転生までしたのに……あと1歩で私の大国が」
「出来るわけないだろ?他にも魔王もいるし、勇者だってお前の敵になるぞ?」
「嘘よ!?私は勇者の妻になるのよ!!」
「ただのハイエルフなんていらないだろ。せめて【聖女】くらい持ってればいいけど何も持ってないだろ?」
転生者誇るなら【聖女】とか持っとけよな。多分、ハイエルフになるだけで運使い切ったんだろ。
僕はゆっくりと階段を上がっていく。
アオバは逃げようとするが、すぐ後ろの大木が消えた。
「ひぃ!?」
「あぁ。もうここまで来たのか。これでお前の城も消えたねぇ。裸の王様って奴?」
「助けて!?命だけは!奴隷にでもなるから!!」
「いやぁ~。エルフならお前より美人がいるからいらない」
「でも同じ日本人でしょ!?」
「別に日本が恋しいわけじゃないし。もう一度日本人殺してるんだよね。爺だけど」
「え?」
なんでかポカンとされた。まさか本当に日本人だからって助けてもらえると思ってたのか?こんな状況にしてるのに。
「アオバ様から離れろ!!」
ピエベラが再び飛び上がってきた。
ふむ。流石は【再生】持ち。
「【瞬斬】!!」
ピエベラが高速で2本の剣を連続で振るう。
ふむ。【瞬撃】スキルも珍しい。そのせいなのかね?弓や属性スキルが無いのは。
僕は【金剛】【瞬撃】で全て腕で防ぐ。
「なぁ!?」
「君は欲しいな。もらおう」
「ぐぅ!?あ……あぁ……」
ピエベラの暗示を解除。そして、封印して回収する。
「ピエベラ!?」
「これでお前1人」
「あぁ……あぁ……」
「砂漠の中に祭壇1つ。神様みたいで良かったじゃないか」
「やだぁ……死にたくないぃ……」
「やられても死ぬ前に時間を巻き戻せばいい……とでも考えてるな」
「!?」
アオバは座り込んで四つん這いで離れようとする。
ウソ泣きなんて通じるわけないだろうに。
僕はアオバの横っ腹に蹴りを入れる。吹き飛ばさない程度に。
「ごぉ!?あが!?ゲホゲホ!」
倒れ込んで腹を抑え込みながら咳き込むアオバ。
白々しいから【風】の刃で体中を切り刻む。
「いぎゃああああ!?」
「だから演技だって分かるって言ってるだろうに」
「ひぃいいい!?も、も、『戻れ』!!」
アオバは今度こそ本気で慌ててスキルを使う。
「ぎぃあああああ!?」
すると、怪我が治るどころか逆に血が大量に噴き出した。
「あぁ~忘れてたよ~。さっき蹴った時にさ~お前のスキルを【反転】させたんだった~」
「ぐぅ!?ああ……じ……ぬぅ……」
「お前の【時間逆行】は【時間加速】になってたんだよ~」
だからお前の怪我は悪化するだけ。お前を神と言わせてたものは何もない。
「これで本当にお前は裸の王様だ。力も、臣下も、民も、城も、国もない。助ける者は誰もいない」
もうアオバは動かなくなった。意識が朦朧としているようだ。血を流しすぎたか。
まぁ、10時間近く時間を戻していたのが逆になったんだ。
10時間血を流し続けたら普通は死ぬだろうね。
足蹴にして仰向けにする。そして髪の毛を掴んで引きづり、祭壇の真ん中に投げ捨てる。
もはや反応は何もない。
パチンと指を鳴らす。
アオバの傷が綺麗に消える。
「え?」
アオバはポカンとしている。
さらにパチンと指を鳴らす。
アオバの体がフワッと浮かんでいく。
「なに!?なにするの!?」
アオバは仰向けになって足を閉じて、両手を横に広げる。十字架に張りつけられるような格好だ。
そして地面に十字架を作る。
ただし、十字架から槍を生やして。
頭の部分は生やしていない。
「これからゆっくりとそのまま下りていく。誰かが助けてくれれば……生き残れるかもね」
「ひぃ!?やめて!?助けて!」
「だからチャンスをあげてるじゃないか。これからお前は勝手に落ちていくだけだ」
じゃあ、頑張りなよ。
僕は振り返って十字架から離れる。
「やめてぇ!!助けてぇ!!」
なんか叫んでるね。裸の王様はよく声が響く。
「さて、帰ろうか」
「戻りますか?」
「あぁ。進んだらいいのか」
「はい。あの王子がいる所に戻りたくもないですし。別に報告することもないでしょう」
「それもそうだね。じゃあ進もうか」
「「はい」」
「はいよ」
「は~い」
馬車を出して乗り込む。そしてゆっくりと走り出す。
「いやあああああ!?誰か!誰かああ!私を助けなさい!!私は女王なのよ!!世界を作り変える者なのよ!?なんで!?なんで!?いやああ!?時間よ!『戻れぇ』!『戻れぇ』!!ごぇ!?ぎゃあああ!?いだいぃ!!いだいぃ!!ああ……!あぁ……ぁ……」
数時間後ドッカン達が調査で駆けつけて見つけたのは……
祭壇のような物の天辺で体中を突き刺されて十字架に磔にされて、目を見開き血を大量に流している死体だった。
結局発見できたのはその死体と、【グラフィレオラ】に向かっている馬車の跡だけだった。
ありがとうございました。
面白い、頑張って書けと思ってくださる方は、下の評価をクリックして頂けると励みになります。