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作ってみよう

よろしくお願いします。

 さて!工作の時間です!

 工作は僕の方が便利なので男になります。


 【鑑定】で【オートマタ】の構造を知れたのはいいんだけどさ。やっちまったのは女で戦ってたから誰があいつらを作ったのか調べるの忘れてたんだよね。

 もし、あの街に制作者いたのだったら本当に『やっちまった』だよね。


 まぁ、とりあえず始めようか。

 まずは骨格。これはミスリルで【創造】する。筋肉は……ヒヒイロカネを太さ1mmほどの糸状にして、それを束ねる。さらにその束を大量に作り、5束ずつ螺旋状に纏める。そしてそれもさらに数本ずつ束ねて骨格に取り付けていく。

 その際に神経と血管代わりの管も埋め込む。これには魔力を流す役割がいるからね。本当なら適度に交換が必要になるのだけど【再生】スキルを付与しておけば解決。

 後は細々と関節を動かしやすい様に部品を固定。

 

 次は内臓部。胸と腹にジェネレーターと魔力タンクを取り付けていく。そこに神経血管チューブを取り付けていく。ジェネレーターには魔力結晶を使うのだが【創造】で超純度結晶を作って、それを取り付ける。迷宮核にも匹敵する物だ。これ以上の物もあるが、流石にミスリル達が耐えられない。


 脳部分にも同じく結晶を作って設置。これらにも神経血管チューブを接続し、これに合わせて目や耳を作り上げていく。口は見た目だけだからなぁ。最初だし今回はなし。

 後は甲殻やら皮膚やらでボディを形成していく。


 ふむ……見た目は女っぽくしとくか。胸なんてないけどね。


 あのメイド達みたいに人間そっくりではないけどね。まぁ、最初だしいっか。


「完成かな」

「おぉ~!」

「それっぽい見た目にしたんだねぇ」

「まぁ、試作品だしね。後から改造できるし」

「なるほど。スキルは使えるのですか?」

「うん。こいつに魂を入れてやればね」

「騎士と言っても通じそうですね。ナオさん流石です!」


 鉄紺色のマッシュウルフカットに紫の瞳。鼻から顎までは黒いカバーが付いている。

 体は肌色の皮膚で覆っているが、陰部はもちろんなし。胸は膨らみは少しあるが乳首はない。まさしく人形である。皮膚の下には薄くも硬い鉄板を仕込んでいるので中の機構が守られる。

 

 これに装備を付ける。


 服装はスチームパンクをイメージさせるものにした。歯車を思わせる装飾がる茶色のベスト付きコルセットに、腕には肩から指先まで覆う紫の手甲。足には同じく紫の太ももから足先までのハイーヒールのグリーブ。そして黒の腰鎧と赤色の腰マント。


 スチームパンクを意識したので武器もリボルバー銃を2丁。と言っても自動装填されるんだけどね。さらにはシールド・ピストルを渡してみる。こちらも自動装填リボルバーを仕込んだ大型のカイトシールドだ。他にもギミックをいくつか加える。


「うわ~。こっちの銃もいいなぁ~」


 コーリジェアが指を咥えて眺めている。

 それを見て苦笑する。


「はい。コリィ」

「え!?いいんですか!!」

「これはゴム弾専用だからね。悪漢退治はこっちでね」

「はい!ありがとうございます!」


 コーリジェアにもリボルバー銃をプレゼント。ゴム弾しか撃てないけどね。

 シールド・ピストルには興味ないらしい。そっちにはシフラが興味を示した。

 

「お前達はスキルの方が強いよ」

「だよねぇ」

「まぁ、興味深いのは分かるけどね」

「もう動くのですか?これは」

「魂がまだ出来てないからね。夜にでも作ろうかな。エルフ達余ってるし」

「あぁ、まだ余ってるのですか?」

「うん」

 

 ということで、とりあえず体を仕舞う。


 街の跡を遠見で見るも天使は現れていない。

 ふむ。完全に引っ込んでるな。天使長が1人倒れたからか?それにしても来なさ過ぎだろう。


「どうにかして神達の状況を知りたいなぁ」

「天使も来ないのですか?」

「うん」

「けどねぇ……神殿に行っても意味無いんだろ?」

「ないね」

「聖地に行ってみては?」

「あぁ!その手があるか!」

「せいちってなに?」


 聖地というのは神がかつて降臨した土地のことだ。昔はかなりホイホイ降りてきてたからね。その中でそれぞれの神が気に入った土地を【聖地】と定め、神像を作らせて繋がりを作った。

 

「そうだな。近くの聖地に行ってみるか」

「下級神とか聖地を持っているのですか?」

「いや。多分中級神くらいからだろう」


 とりあえず次の街で調べてみよう。

 

 夜になった。馬車はスピードを緩めて夜通し走らせる。

 止めない理由は至極簡単。


「じゃあ、お休み僕」

「見張りを頼むよ僕。そっちの僕も製作お願いね」

「任せといてよ僕」

「頼むから分裂しないでくれないかねぇ!?」

「せめて昼にしてください!」

「もしくは1人ずつ私達に付けてください!!」

「ナオさまちょーだい!」


 ふむ。不満噴出だな。なんか2人ほど方向性が違っていたけど。

 いいじゃないか。別に僕に負担はないんだから。


「分身か本体か分からないのに主人が起きてて落ち着けると思うかねぇ!?」

「だから昼にしてください!!」

「もしくは1人ずつ私達に付けてください!!」

「ナオさまちょーだい!」


 ふむ。増えるくらいもう慣れて欲しいね。とりあえず子供2人は黙ってようか。

 頼むぜ僕達!


「「任せてよ」」

「「きゃ~♪」」

「なんで逆に増やすんだい!?」

「だって要望されたし」

「せめて本体と区別付けれませんか?」

「「「いや。全員本体だし」」」

「なお悪いよ!?」


 良いことじゃないか。誰が死んでも生き残るんだよ?

 仕方ないなぁ!

 

「「じゃあ、その素晴らしさを痛感してもらおう」」

「え!?ちょっ!?まっ!?」

「そんな!?ナオ様!?お許しくださるんですか♡!?」


 今日だけだよ。

 僕達はシフラとルティエラもお姫様抱っこして寝室に連れ去る。


「じゃあ、僕はソファで寝るよ」

「分かった。お休み」

「お休みー」


 見張りの僕と【オートマタ】製作の僕を横目に、お休みの僕はソファで眠る。


 さて、では魂を作るとしよう。

 僕はマルフェルからもらったエルフ達の封印を取り出す。

 5人ほどのエルフが簀巻きにされた状態で転がる。全員眠っている。


 う~ん。スキル付与すること考えると……2人位かな。

 僕は少女のエルフと熟女のエルフを選ぶ。親子ではないようだ。

 残りのエルフは再度封印して、虚空庫に入れる。


 体はどうしようか……ホムンクルス作る時のために置いとくか。

 魂を抜き出す。2つの魂をコネコネして形を整えて変質させていく。そしてスキルも付け加えてと。

 出来た魂をボディに入れる。


 ピクっと体が震え、ゆっくりと顔を動かしてこっちを見る。

 ふむ。成功かな。そう言えば魂を入れたのって【オートマタ】って言えんのかな?まぁいいか。人工なのは確かだし。


「調子はどうだい?デビュ」

「デビュ……個体名と認識」


 デビュは名前を呟き、立ち上がって体を動かす。身長は170cmくらいで……僕よりもちょっと高い。

 ふむ。今の所、不具合はなさそうだな。ちなみにデビュはフランス語で【始まり】って意味ね。


「通常動作に異常はありません。マスター」

「そのようだね。僕達の事も分かるかい?」

「イエス。マスター達の情報は登録されています」


 問題はなさそうだね。

______________________________________________

Name:Debut

Age:0

Species:Automata?

Skill:【雷】【金剛】【再生】【魔蔵】【充填】【飛翔】【鑑定】【念話】【必中】

______________________________________________

 種族に?が付いてるな。まぁいいか。

 ふむ。鑑定が付いたか。これはありがたいな。

 そうだな。【飛翔】【念話】【鑑定】は他の子達にも付けるか。絶賛楽しみ中の僕達が4人にスキル付与を行い始める。

 女の方にも付けとくか。

 エルフ……は壊れそうだなぁ。

 あ!サーフィリアがいるじゃん!忘れてた!あの体なら2つ位付与して吸収する位できるっしょ!


「デビュ。あそこの僕と見張り変わって」

「イエス、マスター」


 デビュに見張りを任せる。これで御者役も出来たかな。

 サーフィリアを取り出して、見張りにいた僕と合体する。

 スキルを付与すると特に問題なくいけた。


 女に変わって、スキルを吸収して【飛翔】【念話】ついでに【空間】を取得する。

 これで大抵の事は出来るわね。


 男に戻って、デビュの状態をしばらく観測することにした。

 問題点は早めに直したいからね。




 少し時間を遡る。

 ナオ達から離れた山中のある村。


「やーい!ウスノロ!お前なんか村にいらないんだよ!」

「そうだそうだ!出てけ出てけ!」

「うぅ……!いたい!いたいよぉ!」


 村の一角で数人の少年達が少年に石をぶつけたり、棒で叩いたりしていた。

 他の者達はそれを止めずに、むしろやられている少年を見て嘲笑して離れていく。


「ねぇ~もう行こうよぉ。そんな奴イジメても面白くないわ」

「そうよそうよ。森の中にでも木の実でも探しに行きましょ~」


 攻撃している少年達の仲間であろう少女達はくだらないと飽きた様子で声を掛ける。

 それに少年達も少し考えて同意した。


「そうだな。いこーいこー」

「じゃあ最後に!てぇい!!」

「あう!?」


 1人の少年が投げた石が少年の額に強く当たり、血が流れだす。


「ははははは!!だっせぇ!それくらい避けろよな!」

「ほら!行くよ!」

「おう!」


 石を投げた少年はゲラゲラ笑って馬鹿にする。そしてもう興味を無くしたとばかりに仲間と共に走り出す。


「うぅ……うぅ……」


 ボロボロになった少年はフラフラと立ち上がり、足を引きずり泣きながら家に帰る。


「……ただいまぁ」


 少年は家に帰り声をかけるも答える者は誰もいない。

 

 少年の父親と母親は死別。母方の叔母に引き取られたが、叔母は他の男のところにほぼ住み込みで暮らしており、時々顔を出すくらいだった。

 食料はある程度くれるが足りず、少年はくすんだ茶髪に体はガリガリで同年代の少年よりも背が低い。


 少年が虐められているのは魔力が原因だった。

 少年のスキルは【砂】。しかし、それを使うだけの魔力が無かった。砂を盛り上げることすら出来ない。故に『無能』として、無駄飯食らいとして村中から虐められているのだ。

 本来は叔母が守るべきなのだが、叔母は少年に無関心だった。それどころか少年は無能だと最初に言った人物だった。

 そのためか少年を庇う大人は現れなかった。


 少年は水窯に溜めた水で体を拭き、桶に水を溜めて服を洗う。

 

「はぁ。ご飯はあと芋が4つと干し肉が1つかぁ。狩りが出来ればいいんだけどなぁ」


 満足に食べられないため、体が育っていない少年は森の中を歩くだけでも難しい。

 狩りなんて夢のまた夢だ。


「グバン!!出ておいで!!」

「!?」


 少年、グバンは怒鳴り声に跳ね上がるように立ち上がり走り出す。

 入り口には叔母が立っていた。しかしその顔は明らかに怒りに染まっており、嫌な予感しかしなかった。

 

「このクソガキぃ!!」

「ぐぉ!?」


 近づいた途端、腹に思いっきり蹴りを入れられた。グバンは体重が軽いため女性の蹴りとはいえ十分な衝撃が入り、床を転がる。

 

「お前みたいなクズのせいで!!あいつに捨てられたじゃない!!まったく!!なんでお前みたいなやつを!!」

「ごぇ!?ぐぶ!?げぇ!?あが!?」


 叔母は倒れ込んでいるグバンを何度も踏みつける。

 ちなみに叔母は30歳になったばかり。完全に行き遅れ扱いされている。これはグバンも理由ではあるが、最大の原因は叔母の性格が問題だからである。


「はぁ!はぁ!はぁ!まったく!!これもそれも元はと言えば、あんたの父親が死ぬからよ!!せっかく村の皆に頼んでラッツァを()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

「っ!?」


 痛みで声が出せなかったが、叔母の言葉に衝撃を受けたグバン。


(いま……なんて言った?)

 

 叔母はグバンの様子など気にもかけずに興奮したまま話し続ける。


「せっかく事故に見せかけて殺したのよ!?そうすればそこに付け込んで私の物に出来ると思ったのに!!それがあっさりと病気になってコロッと死んで!!こんなクソガキ押し付けられるなんてふざけんじゃないわよ!!」

「ころした?……かあさんをころした?」


 ようやく叔母は自分が口を滑らせたことに気づいた。しかし、だからなんだと開き直る。


「ふん!!だからなによ!!もうお前なんか邪魔でしかないわ!!お前も死ね!!」


 グバンの頭に向かって思いっきり足を振りかぶる。


 グバンは頭のどこかでプッツンと言う音が聞こえた気がした。

 その瞬間、体の痛みなんて意識から消え去った。


 叔母はグバンの頭に足を振り下ろす。

 しかし、足首を掴まれて止められる。

 

「はぁ?」


 叔母は足を掴んでいる手が誰のか一瞬分からなかった。しかし、状況的に1人しかしない。

 

 グバンが足を掴んでいた。


「何してんのよ!!離しなさいよ!!汚い手で触るな!!」


 叔母は振りほどこうとしたが、動かす事すら出来なかった。

 流石に異常であることに気づき、慌て始める。

 しかし次の瞬間、叔母は凄い力で体を振られて壁に投げつけられる。


「ぎゃあ!?」


 背中から叩きつけられて、床に崩れ落ちる。何が起こったのか分からず、上半身だけ起こす。


「つぅ……!?一体なにが……ひぃ!?」


 グバンに目を向け、目に入った光景に悲鳴を上げる。


「おおおぉぉぉぉ………!!」


 立ち上がっていたグバンの体が急速に膨れ上がり、大きくなっていく。

 ガリガリだった体は筋骨隆々になり、身長も2m近くにまで伸びている。服もビリビリと破れていき、父親のお下がりのズボンを履いていたおかげか股間部分だけはかろうじて破れなかった。

 くすんだ茶髪は逆立ち、髪は赤黒く変色していた。

 さらに膨大な魔力がグバンの体から噴き出していた。

 

「ひぃいいい!?何よ!?何なのよお前はぁ!?」


「ふはは……!フハハハハハハハハハハハハ!!!」


 グバンは叔母を無視して高笑いをあげる。それに合わせてさらに魔力が噴き出す。

 

「ハァ~~」


 グバンはニタァっとした笑みを浮かべながら、叔母を見る。

 その瞳は豆粒のように小さくなり、遠目からは白目のようにしか見えなかった。


「ひぃ!?来るな!?来るなあああぁぁ!?」


 ドス!ドス!と音を立てながら、叔母に近づいていく。

 そして目の前に立つ。叔母は完全に腰を抜かしていた。


「どうした?オレを殺すんじゃなかったのかぁ?」

「ひぃいいい!?」


 叔母は涙や鼻水を垂れ流し、股間も濡らしてただ恐れる。

 それを見て、さらに笑みを深めるグバン。

 そして叔母に向かって腕を伸ばした。



 村は夕暮れで夕食の準備を始め、畑や狩りに出ていた者達も戻ってきていた。


「ちぇ!あんまり木の実や果物は集められなかったな」

「あんた達があのクズで遊んでるからでしょ」

「ちっ……あいつ、覚えとけよぉ」


 グバンをイジメていた少年達は森での採集の成果が芳しくなく愚痴りながら帰路についていた。


ドゴオォン!!

バキャア!

ガァン!!


 すると目の前の家の壁が爆発し、何かが飛び出して向かいの家に突き刺さった。


「きゃああああ!?」

「なんだ!?」

「あそこって……!っ!?クズの家だ!」

「はぁ!?」


 少年達や近くの住人達が足を止めたり、何事かと家から飛び出してくる。


「あの無能!!何しやがった!?」

「いや……あの無能に何が出来るんだよ」

「じゃあ誰がやったんだよ!?」

「知るか!」


 周りは騒いで混乱している。


 その時、グバンの家の穴をさらに拡大しながら巨体でほぼ裸の男が現れた。 


「なんだ!?あいつは!?」

「誰だ!?」


 もちろん周りはそれがグバンだと思うわけがない。

 グバンはそれを見渡してニヤァっと笑いながら、向かいの家の穴に近づく。

 そして、穴に腕を突っ込んで、何かを引っ張り出す。


「おい!?あれは!?」

「カッシャ!?」


 村人達は先ほど飛び出て来たのは叔母であることに気づく。


「あ……ごぉ……」

「おいおいぃ。簡単に壊れるなよ。オレはまだ満足してないぞ?」

「ひぃい……ゆ、許し……グ、グバン」


 叔母は鼻血を流し、左手は変な方向に曲がっている。

 それでも必死にグバンに許しを請う。


「グバン……?グバンってあいつ!?」

「はぁ!?無能のあいつが!?」

「嘘だろ!?」


 村人達は叔母の告げた名前に混乱する。自分達が知っているグバンとは真逆の姿に信じられるわけはない。

 グバンは叔母の首を掴み直して、高く持ち上げる。


「ぐえぇ……!」

「どうした?抗え。お前はオレより優れているんだろう?無能のオレより強いんだろう?」

「ぐ……る゛じ……いぃ……!」

「なら抗えぇ」

「ご……ぇ……」


 ギリギリと首を掴む手に力を込めていくグバン。

 

「おい!!やめろ!!てめぇ何考えてやがる!」


 そこに1人の青年がグバンに向かって怒鳴る。

 それを見てグバンは笑みを深める。


「だったら止めてみろよぉ。無能相手に怖気づいてるのか?」

「な!!て、てめぇ!!!」


 青年は顔を真っ赤にして怒鳴りながら、腕から火の玉を生み出してグバンに向かって飛ばす。


「ば、馬鹿!カッシャがいるんだぞ!?」

「あ!?」


 仲間と思われる男の言葉に青年は目を見開き声を上げる。

 

「フン」


 しかし、グバンはそれをつまらなさそうに空いている腕を振るって火の玉をかき消した。


「はぁ!?」

「なんだと!?」

「今更この程度で勝てると思っていたのか?グズが」

「……な……なんだとぉ……!……てめぇええ!!ぶっ殺してやらぁ!!」


 目を見開いて固まっていた青年はグバンの言葉に完全にキレ、目を血走らせて叫ぶ。


「死ねやぁ!!無能オオ!!」


 青年は両手を上に掲げて、その上に先ほどより3倍は大きな火の玉を生み出して投げつける。


「やはりグズはグズか」


 グバンは赤い閃光を掌から放つ。

 閃光は火の玉を容易く吹き飛ばし、青年に迫る。

 

「は?」


 呆けた青年はそのまま閃光に飲まれた。その後ろにいた村人達や家も巻き込んで飛んでいく。

 閃光を避けた村人達が見た光景は抉り取られた家屋と腕や脚など体の一部が散乱している地面だった。


「ひぃ!?」

「いやあああああ!?」

「うわああ!?」


 村人達は悲鳴を上げて逃げ出し始める。

 

「フハハハハハ!!ハアアアアアアアァァァ!!!!」


 グバンは笑いながら、大きく腕を振るう。

 赤い光の波が村に広がり、家屋を壊していき村人達をバラバラに吹き飛ばしていく。


「ハアアアアァァァ……フン、つまらん。虫けら共が。ん?」


 グバンは叔母が静かになったことに気づく。目を向けると完全に首を握り潰しており、舌を垂らして白目を剥いて死んでいた。


「なんだ。もう死んだのか。脆い奴め」


 グバンはポイっと死体を投げ捨てる。そして今度は自分をイジメていた少年達が視界に入る。

 少年達は腰を抜かしてしまい、逃げたくても逃げれなくなったのだ。

 グバンは新しいおもちゃを見つけたとばかりにニィ~っと笑って少年達に近づいていく。


「ひ……いぃ……!」

「どうしたぁ。何故座り込んでいる?」

「な……なんで……クズのおま……えが……」

「フハハハハハハ!!残念だったなぁ!お前達グズのおかげでオレは化け物になった!」


 スキルは肉体、魂(精神)の2つで発現するものが決まり、魔力量で発現する数が変わる。

 そのためスキルは発現していなくても潜在的に発動しているものもある。


 グバンは怒りによって精神が崩壊し、【憤怒の魔王】が発現した。

 魔王化により肉体も変化し、魔力量が爆発的に増加したためスキルが増えた。

 しかもそのスキルがさらに凶悪だった。

 【重積】【魔光】【転換】の3つだ。


 【憤怒の魔王】は名前の通り、怒りを力に変える。怒れば怒るほどその力は大きくなる。本来なら怒りの原因を排除すると大人しくなるのだが【重積】により怒りを溜めた状態を維持出来るようになってしまった。

 さらに【転換】により【痛み】や喜びや悲しみなどの【感情】を【怒り】に変えることも可能となったのだ。

 グバンは今までイジメられた痛みや悔しさ、悲しみ、憎しみなど潜在的に発動していた【重積】で溜めていた。それを【怒り】と【魔力】に変換した。


「助けてよぉ!私は何もしてないじゃない!」

「そんな!?」

「ずるいぞ!?」


 1人の少女が命乞いを始める。


「ならば周りに助けを求めるんだなぁ。もっとも奴らはお前達を見捨てたようだがなぁ」

「え?」


 グバンの言葉に少年達は後ろを見る。


「今のうちに逃げろ!」

「でも!」

「あいつらはいつもグバンをイジメてたんだ!自業自得だ!」


 村人達は少年達に背中を向けて走り出す。

 誰も助けに来る者はいなかった。


「そんな!?」

「待ってよぉ!!」

「フハハハハハハ!!やはりグズはグズなのだなぁ」


 グバンは笑いながら主犯格の少年の首を掴んで持ち上げる。


「ぐぅ……!?」


 そしてグバンは右脚を持ち上げて、地面に叩きつける。ブワっと何かが広がったように感じた。

 少年達は身を寄せ合って震えているが、何も起こらない。

 そのことに首を傾げていると、急に地面が砂のように変わり体が沈んでいく。


「ひぃ!?なに!?」

「沈んでいく!?」

「逃げろ!」


 慌てて建物や高い所に逃げようとするが、建物も砂に沈んでいくのを目撃する。しかも体を動かせば動かすほど体が沈んでいく。


「そんな!?」

「やだ!?やだぁ!!」

「どうしたぁ。逃げないと沈んでいくぞぉ?」


 グバンは主犯格の少年を掴んだまま宙に浮いていた。

 そして村人達にも目を向ける。村人達も砂に沈んでいく。


「なんだぁ!?」

「助けてくれぇ!?」

「家も沈んでる!?」

「きゃああ!?砂が家の中に!?」

「どうしたんじゃ!?扉が開かんぞ!?……!?砂で塞がれてしまっておる!」

「うひゃあああ!?窓から砂が入ってきましたよ爺さん!」

「あなた!子供だけでも!もう私は出られないわ!」

「くそぉ!進まねぇ!」

「ぎゃあ!?」

「婆さん!?うぉ!?家が傾いて!?ぐべぇ!?」

 

 家に逃げ込んでも家が沈むので砂で扉塞がれ、窓から砂が入り込んで来て埋もれていく。さらに家が傾いて家具が住民達を襲う。

 外にいる者達も足掻くが、逆に沈んでいくだけだった。


「おい!お前【土】使いだろ!早く使えよ!」

「使ってもダメだったから慌ててるんだろ!?」

「助けてぇ!?謝るから!もうしないから!」


 そして少年達も砂に沈んでいく。遂に全て砂に埋もれて砂の更地が生まれる。


「あぁ……そん……なぁ……」

「フハハハハハハ!!あっけない奴らだ」


 グバンは主犯格の少年をポイっと地面に捨てる。


「ぐぅ……!げほ!げほ!くそ!」

「早く助けてやらないと死ぬぞぉ?」

「っ!?」


 主犯格の少年はグバンの言葉を聞いて、砂を掻き出し始める。早く助けないと窒息してしまうと考えて。


 グバンはそれを見ながらゆっくりと空へと上がっていく。ある程度上がると右手を上にあげて、そこに【魔光】を溜めていく。少しずつ圧縮して手のひら大の玉にする。

 それを地面に向けて放つ。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!どこだ!?皆!くそぉ!……え?」


 主犯格の少年は諦めずに砂を掘り続けたが誰1人見つけられず悔しがる。

 ふと上を向くと赤く光る玉が落ちてくるのが目に入った。


「ああ……あああ……うあああああああああああああ!」


 主犯格の少年は目を見開いて涙を流しながら叫ぶ。

 

 赤い玉が地面に触れた瞬間に炸裂し、地面を吹き飛ばす。

 少年も一瞬で蒸発し、砂の中にいた村人達も吹き飛んでバラバラになって死んでいく。


「フハハハハハハ!!フハハハハハハハハハ!!アーハハハハハハハハハ!!!」


 グバンはそれを眺めて大笑いする。

 自分を苦しめていた者達が無様に死んでいったことはやはり痛快である。


「ハアアアアァァァ……まだ足りないぃ。もっと殺すぅ。壊してやるぅ!ウオオオオオオオ!!」


 しかし【重積】のせいで怒りは解消されず満足できない。破壊衝動や殺戮衝動が収まらない。

 グバンはさらに魔力を溢れさせながら吠える。


 

 この魔王の誕生がナオにどう関わるのか。

 分かる者は誰もいない。



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