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もう隠さなくてもいいんじゃない?

よろしくお願いします。

 森の中にテントを張り、一晩過ごした。

 ベッドの上には4人の女性が幸せそうに寝ていた。

 それを見て、僕は苦笑する。


「随分と幸せそうで」


 さて、これからどうするか。魔王薬とやらの製薬場は見とくべきか。魔王の死体も確認しておきたいな。

 それにヨハナの体とかをどうするか。ヴァギはまだ死んでるわけじゃないしなぁ。まぁ、急ぎじゃなくてもいいんだけど。馬車の御者とかは欲しいよねぇ。

 ……いや、もうゴーレム馬車作っちゃうか?別に我慢する必要もないよねぇ。

 武器も銃とか色々やってみるかね。

 

 銃はライフリングなんて知らないから、形だけの魔道具だけどね。

 とりあえず、15発装填の自動拳銃を3丁とマガジンも数本を創造する。これはコーリジェアに持たせとこうかね。【雷】【風】【衝撃吸収】【必中】【貫通】を付けておく。【貫通】に関してはオンオフ式にしておこうかね。

 ライフルとかはねぇ。自分の分だけでいいかな。

 

 外に出て、木に向かって試し打ちしてみる。


ドパン!


 ふむ。【貫通】オフでも幹の半分以上は貫通するか。衝撃も流石に全て吸収は無理と。

 まぁ、これだけでも十分かな。

 では、連射。


ドパン!ドパン!ドパン!ドパン!


 4発目が木の幹を貫通した。ふむ。【必中】は問題なし。連射もいける。後はマガジンの交換がスムーズに出来るかどうかだね。まぁ、その辺は練習か。


 さて、このままゴーレム馬車でも作るか。車は目立ちすぎるから、馬型のゴーレムを2体作って、幌馬車だけど中はテント内のような部屋にする。ゴーレム達は部屋の中から操作出来るようなパネルを設置する。ゴーレム達や馬車に色々兵器を付けて完成。

 さらに馬車に触れて念じると、ポン!とカプセルに収納される。

 これで持ち運びが楽になったな!

 

 満足してテントに戻ると、ラクミルとコーリジェアが復活していた。

 ふむ。若い2人だからか?


「私もまだ若いです!」

「あたしもだよ!」


 おぉう!?飛び起きてきた!口にすら出してないよ!?まぁ、2人とも長命種だし、もう不老だけどさ。

 

「別にそんなこと思ってないよ。ほら、朝ごはん食べな」

「騙されませんよ!」

「騙されないよ!」


 そう言いながら、下着を身に着けてご飯を食べ始める2人。お前達ってそんなキャラクターだった?

 

 ご飯を食べながら、この後の予定について話す。特に不満は出なかった。

 そしてコーリジェアに銃を渡す。

 

「ありがとうございます!」

 

 笑顔で受け取り、うっとりと銃を見つめながら撫でている。ハッピートリガーになりそうだな。

 ふむ。ガトリング砲も考えるか。高笑いしながら撃ってるのも似合いそう。

 

 準備をしたら、テントを仕舞う。

 まずは簡単にコーリジェアに銃の使い方を教える。コーリジェアは両手で構えてドパン!ドパン!と撃つ。もちろんスキルのおかげで全弾命中。

 

「あぁ……素晴らしいですぅ」


 うっとりしてますねぇ。本当に色々とぶっ飛んだみたいだねぇ。……マガジンは多めに渡しておこうか。


「手は痛くない?」

「はい!大丈夫です!」

「中々に凶悪な武器だねぇ」

「何故今まで迷い人は作らなかったのでしょうか?」

「構造を詳しく知ってる人がいなかったんじゃない?僕もスキルで誤魔化してるし、本来は火薬で撃つんだけど、この世界の火薬は奈央の世界の火薬とは違うみたいだし、物理法則も違うから思い通りのものが出来なかったんだろうね。」


 よく小説では銃を作っているけど(まぁ僕も作ったけどさ)、こんなスキルやら魔物が生まれている世界が、地球と一緒の物理法則だなんてあり得るわけがない。明確に神も精霊もいるしね。

 まぁ、だから魔道具なんだけど、僕の場合はスキルを好き勝手に付けれるから出来た。多分、そこらへんの奴がやったってただの鉛球を発射する道具だよね。

 スキルとか魔物によっては全く無意味だしねぇ。僕になんか核も効かないしなぁ。



 ということで、魔王薬の製薬場近くまで転移する。

 

 さて!もう隠す必要はないので、女になって活動する。


「あぁ……そっちのナオさんもやっぱり素敵ですぅ♪」

「ありがと。コリィ」


 私の腕に抱き着きながら一緒に歩くコーリジェア。笑顔で私の顔を見ながら、うっとりとしている。……なんか……ヤンデレ化してない?いや、依存かしら?

 まぁ、いいけど。魔王の隣にいるんだから、それくらい壊れててもいいわよね。


 製薬場となっている廃墟は石造りで結構大きかった。廃墟部分には人の気配はなし。それに特に警戒もしてないわね。


「バレてない自信があるのかしら?」

「いえ……おそらくお兄様が関わっていたからでしょう。この周囲は魔物の危険地帯で立ち入り禁止と言われていましたから」

「なるほど。まぁ、魔王の死骸があるって話だから嘘とも言い切れないわけね」

「魔王の死骸なんて話なんてしたら、国王が出てくるはずですから。言うわけないですよ。おそらく聖神教が出てくるはずです」

「あぁ~」


 枢機卿が関わってるしねぇ。

 

「てい」


 腕を振って、廃墟を消し去る。これで入り口も見つかるでしょ。


「流石ですねぇ」

「隠れ家なんてナオ様には関係ないだろうねぇ」

「らくちん」


 ということで、入り口を探す。まぁ、簡単に見つかるわよね。大きな穴なんて1つしかないし。

 地下に続く階段があったので、そこを降りる。


「くさい」

「薬作ってるところなんて、そんなもんよ」

「でも、きついですねぇ」


 【消臭】を使いながら進んでいく。調べた限り入り口は入ってきたところだけね。

 そして、工場と思われる部屋に入る。


「だ、誰だ!?おま『パァン!』えがぁ!?」

「臭い人は死んでください」

「おぉ~」

「「「………………」」」


 研究員と思われる男が私達を見つけた瞬間、コーリジェアが銃をぶっ放して殺す。ラクミルはそれを拍手で感心している。


「本当に大丈夫なのかい?」

「下手したら問答無用で会う人会う人殺しそうですよ?」

「そうねぇ……先に言っとけば大丈夫かしら…」


 ルティエラ達は不安を口にする。それには私も同意するので、とりあえず指示を出しておく。


「コリィ。私もすぐに記憶読めるわけじゃないから、いきなり殺すのは考えなさいね」

「あ!……はいぃ。申し訳ありませんでした」


 私の言葉にシュンとして反省するコーリジェア。

 ポンポンと頭を撫でて、男の近くの机を見る。資料があったので流し読みする。

 ふむ。


「どうやら量産方法を考えてるみたいね。今では1錠作るのに20日掛かるみたい」

「結構掛かりますね」

「まぁ、でも時間が掛かっているから、今もそんなに数は出来てないでしょ」

「はやくいこ~」


 さっさと次を探す。

 というか、あの銃声で誰も気づかないの?

 見て回ると、全員机の下にしゃがんで隠れていた。まぁ、間違ってないけど……全員耳を塞いで目を瞑ってたらダメじゃない?

 ふむ。


「コリィ。撃って良し!」

「はい!」


バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!バァン!


『ぎゃああああ!?』

 

「終わりました!」

「よしよし」

「えへへ」


 うん。この子はこれでいいわ。

 さっさと資料を回収。機材も消去。え~っと、あと3人か。

 

「なんだ。この薬出来たのは偶然なのね」

「そうなのかい?」

「それでとりあえず出来た方法繰り返してるだけで、出来た理由は分かってないらしいわ」

「意味あるのですか?それは」

「知らないわよ」


 移動しながら資料を読む。あんまり期待出来ないわねぇ。この薬。

 出来た原因が分からないから、色々試して全部失敗。だから強化も改良も出来ないと。


「よくそれを完成品みたいにお兄様に渡しましたね」

「まぁ、私のせいで実験前に自分達で試すことになったからね」

「あぁ、なるほど」


 本当に色んな意味で哀れだったわね。あいつら。

 最後の部屋に入ると、何やらブツブツと呟きながら話し合っている研究者3人。

 部屋は7m四方の大部屋だ。奥には大きな扉があり、周りには様々な機材があった。

 

「む?なんじゃ?貴様らは」

「フデリオ様の使いか?悪いがまだ薬は出来てねぇぞ」

「それにしても随分と若い子が多いわね」


 白髪ボサボサで歯が欠けている爺と無精ひげボーボーのおっさんに目の下に凄い隈を作ってる女。

 ふむ。こいつらがここの責任者みたいね。

 男に戻る。


「「「な!?」」」

「悪いけどフデリオやクデッカウス達は死んだよ。ここも残ってるのはお前達だけ」

「なんじゃと!?」

「というか、どうやって性別変えたんだ!?」

「調べさせて!」

「コリィ。あの女撃っていいよ」

「はい!」


バァン!


「ぴゅげ!?」

「「なぁ!?」」


 女は額に穴を開けて仰け反り、頭から倒れる。それに慌てる爺とおっさん。

 ふむ。死体の場所も分かった。


「そこか。ほい」


 部屋の奥にある大きな扉を消す。

 そこには異形な人型の死体があった。緑色の甲殻を纏った体に、鋭い爪を生やす4本の腕。大きさは10mくらいだと思われる。今は座り込んでいる形で木の根に絡まるように地面に埋まっている。


「あれが魔王の死体ですか?」

「魔王かどうかは知らないけどね。というか……死んでないじゃん」

『は!?』


 僕の言葉にルティエラ達はもちろん爺達も驚く。

 ふむ。反応が弱いけど鼓動が感じられる。仮死状態で寝ているだけじゃないか?

 近づきながら【鑑定】する。


「あれ?こいつって……う~ん。魔力が足りないのか?それと……あぁ~致命傷を負ったのか。これを治してやれば……」

「ちょっ!?ちょっと待つのじゃ!」

「そいつ生きてんのか!?」


 爺とおっさんが声を掛けてくる。


「生きてるって言ってんじゃん。あ、そうだ。シフラ!ルティ!殺した研究員の死体持ってきてぇ。5体もあればいいかな。そこにも1体あるし」

「はい!」

「はいよ」

「話を聞けぇい!!」


 爺が唾を飛ばしながら怒鳴ってくる。


「だからぁ生きてるって言ってんでしょ?そんなことも分からずにこいつの体削ってたの?」

「分かるか!!」


 今度はおっさんが怒鳴ってくる。研究員だろうに。


「分かんないなら黙っててよ」

「何をする気だ!」

「起こす」

「魔王じゃぞ!?」

「ざんね~ん。こいつは異王だね」

「なんで分かるんだ!?」

「記憶にあるから」


 僕と混ざった魔王に知ってる奴がいた。


「そんなはずはない!!こやつは魔王ネボルジアのはずじゃ!」

「ネボルジアは僕。こいつはサグネディド」

「「は?」」


 正確にはネボルジアが混ざった魔王だけどね。記憶も持ってるから間違いではない。

 爺とおっさんは固まっている。よし、静かになった。


「持ってきたよ」

「お待たせしました」

「お。ありがと。あいつの前に置いて」


 ドサドサっと死体をサグネディドの前に重ねる。ついでに女の死体も運ぶ。

 

「さて、とっとと起こすか」

「は!?待て待て!!本気でやる気か!?」


 おっさんが止めようとしてくる。

 まぁ、もう遅いけどね。

 魔力を流しながら~♪死体をグニャグニャさせて~♪混ぜ混ぜすると~♪


ビキビキッ!!

バゴン!ガァン!


「グゥオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」

「「うぎゃああああああああ!?」」


 サグネディドが吼えながら目覚める。それに爺とおっさんが悲鳴を上げる。

 サグネディドは壁から飛び出て、膝立ちになる。流石にこの部屋では狭い。


「グゥオオオォォ……オレハイキテイルノカ?ナゼダ?」

「おっは~。サグネディド」

「ン?ダレダ?」

「えっとね~ネボルジアと混ざった魔王と言えばいいかな?名前はナオ・バアル」

「アニジャ?マザッタダト?」

「そ。ネボルジアは【闇淀の坩堝】に封印されたのは?」

「オボエテイル」

「僕は坩堝の魔王と異王が全て混ざった存在なんだよ。だからお前のことも記憶として覚えてる」


 僕の言葉にサグネディドは黄色い目を細める。真偽を見極めているようだ。


「……タシカニ、ワズカニダガアニジャノマリョクヲカンジル」

「おぉ~、分かるの?流石だねぇ。魔力の扱いや技術に関しては見た目に寄らずピカイチだったもんねぇ」

「キサマニイワレタクハナイ。バケモノノヨウナマリョクトタマシイヲモツクセニ」

「……本当に凄いな」


 サグネディドは体の大きさや見た目に寄らず、頭も回り戦いも技量を主体としていた。

 それは数百年も仮死状態を保っていたことからもよく分かる。


「ウシロニヒカエテイルメスドモモカナリノチカラヲモッテイルナ」

「僕達ほどじゃないよ」

「ソレハトウゼンダロウ。オレタチノヨウナモノガナンビキモイテタマルカ」

「今は僕がポコポコ作ってるからそこそこいるよ?」

「……ヤハリ、バケモノダナ。キサマトハアラソウキハナイ」

「僕もだよ。まぁ、他の魔王と無意味に殺し合わなければ好きに生きていいよ。あ。そこにいる男共は寝ている君の体を好きにしてた奴らだよ。お好きにどうぞ~」


 その言葉に爺とおっさんが顔を真っ白にして絶句する。

 ギロリと顔を向けるサグネディド。


「ズットネテイタカラ、ハラガヘッテイル」

「「ひぃぃぃ!?」」


 サグネディドは2人に腕を伸ばす。爺とおっさんは必死に逃げようとしたが、体がふわりと浮かび始めた。

 手足をバタバタするが、サグネディドに引っ張られていく。


 本当に器用だねぇ。あれ、スキルじゃなくて魔力でやってるんだよ?

 僕も出来るだろうけどねぇ。あそこまで精密だと疲れるな。


「ああああああ!?」

「やめてくれぇ!?」

「ウルサイ。エサ」


 2人は涙や鼻水を流しながら未だバタバタしている。そんなことお構いなしに口を大きく開けて、2人の飲み込むサグネディド。ボリボリグチャア!と音を立てて咀嚼する。

 

「外にも近くに街があるから。足りなかったらそこを目指したら?ただ、そうすると目立つけどね」

「ゴグリ……ハアアァァ。ベツニダレニバレヨウガカマワン」


 餌を飲み込んで、僕の言葉に自信たっぷりに答える。

 流石だねぇ。まぁ、天使では間違いなくどうしようもないしね。


「じゃあ、またどこかで会おう。達者でね」

「アア。カンシャスル。ダイマオウ」

 

 大魔王ってか。おぉ。しっくり来たね。

 サグネディドは魔力を放出して、天井に大穴を開け、そこから飛び出していく。


「すごい奴だったね」

「そうですね。それにしてもナオ様の大魔王と呼ぶとは」

「ぴったり」

「今まで大魔王は聞いたことがないですね。ナオさんが初めてでは?」

「だろうねぇ」


 確かに今までは大魔王と呼べるほど魔王が乱立していたことはないしね。

 

「でも確かに、ヤブンハール、ワクチャク、サグネディド、僕の4人が同時に現れたとバレたら神も慌てるだろうねぇ。まぁ、ワクチャクは眠ったけど」

「ヤブンハールとナオ様でも十分ヤバいですからね」

「次はどんな魔王が甦る事やら」

「そろそろ落ち着いてほしいねぇ。ナオ様の傍に居ても、それは気が気でないよ」

「ともだちがいい」

「それもそれで怖いです」


 まぁ、そこは旅をしてればね。もう巻き込まれることには諦めたよ。むしろ突っ込んでいこうかな。

 とりあえず、ここを出て次の街に向かうことにした。






 フレシュコハラの領都では国王から派遣されてきた騎士団達が大混乱の中、走り回っていた。


「どうなっているんだ……!フレバロト殿の要請に従い来てみれば、反乱が起きているとは…!?しかもフレバロト殿とコーリジェア嬢は聖神教の者に殺されて、フロデアも死体で発見され、フデリオは行方不明。屋敷には化け物の死体……!どうすればいいのだ……」


 騎士団の隊長は屋敷の中で調査をしながら頭を抱えていた。その様子を部下達が憐みの目を向けていた。着いた時点でもう終わっていたのでどうしようもなかったことだが、だからと言って帰るわけにもいかない。応援は呼んだが、早くここの統治を出来る者だけでも来て欲しい。


 しかもフレバロトに関しては殺されたと目撃されているが、死体はまだ見つかっていない。犯人も逃げたままだ。フデリオとコーリジェアの従者が怪しいのだが、足取りが全く分からない。


「しかもベルルド家の賢者殿も行方不明だと…?証言からフデリオに従っていたようだが。くそ!!どこに逃げたんだ……!?」


 ガシガシと頭を掻き毟りながら考え込む隊長。しかし、答えなど出るわけがなかった。


「隊長!ベルルド家の私兵団の方々が来られました」

「分かった」


 部下の報告に頭を切り替えて、とりあえず情報交換を優先する隊長。

 その時、


カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!


「なんだ!?」

「襲撃!?」

「フデリオ達か!?」

「外に出ろ!!戦闘準備だ!!」


 街中に警告音が鳴り響く。騎士団や私兵団は屋敷を飛び出し、状況確認に動く。


ドオォォン!!!


 突如、外壁が吹き飛んだ。


「なんだと!?」


「グゥオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!」


 破かれた外壁の穴から、10m程の4本腕の異形の巨人サグネディドが現れる。

 鼓膜が破れそうなほどの叫び声が街中に響き渡る。


「な……なんだよ……!?あいつはぁ!?」

「知るか!!とにかく出撃準備しろ!」

「何言ってんだよ!?あれと戦えるわけねぇだろ!?」


 騎士団と私兵団は混乱に陥る。

 両隊長も固まってしまい、判断に迷っていた。


「このような時に……なんというものが現れるんだ!?くそ!?」

「……フレシュコハラ家の私兵団はほぼ壊滅……!指揮官はおらん……!」


 2人が迷っている間にサグネディドは次の行動へと移る。

 口を大きく開けると、サグネディドの近くにいた住民達が浮かび上がり、口の中に吸い込まれていく。


「いかん!!くそぉ!!騎士団!出撃する!住民を逃がさねばならん!」


 隊長は馬に飛び乗り、部下へと指示を飛ばす。

 それに従う者もいれば、明らかに嫌そうな顔をしている者もいる。

 しかし、そんなことを気にしている場合ではない。


「奴に攻撃を仕掛けろなどとは言わん!住民を街の外へと誘導しろ!」


 そう言って駆け出す隊長。

 それに続く騎士団達。


「我らも行くぞ!ベルルド領に向かわせない様に誘導せねばならん!」


 私兵団もそれに続く。



 騎士団隊長はサグネディドに近づくにつれてその異常さを理解してしまった。


「………応援は間に合わん。それどころか………果たして誘導したところでどれだけ助かる命が変わるのか……」


 駆けながら部下達を見る。全員顔色が悪い。それを見て、隊長は最低の命令を出すことを決めた。


「命令変更だ!!全員!!街を脱出せよ!!住民は余裕があればでかまわん!!」

「隊長!?」

「そして、隣の領地の街や応援に向かっている騎士団達にこのことを伝えよ!!最悪の被害はこの街だけにするんだ!!」

『……!?』


 その命令の意味を理解する部下達。


「私は奴の注意を引く!!いいか!!全力で街を駆け抜けろ!!」

「そんな!?隊長!?」

「行け!!どうせ私はこの指示を出した時点で処罰確定だ!!ならば!!お前達は次のために1人でも多く駆け抜け、この事実を伝えるのだ!!」


 そう言って、隊長は1人でサグネディドに向かっていく。

 その姿に部下達は逡巡する。命令の意味は分かる。しかし、だからと言って……!


「俺達副隊長も隊長に続く!それ以外の者達は行け!!止まるなよ!!」


 副隊長3人も後を追って行った。


「行くぞ!!隊長達の行動を無駄にするなぁ!!」


 それを見送った部下達は涙を流しながら、住民の悲鳴を聞きながらも止まることなく走り抜け、街の脱出を目指す。しかし、中には過呼吸になり落馬する者や住民の暴動によって馬から引きずり降ろされる者が現れた。

 それでも他の者達は走り続ける。中には剣を抜いて威嚇する者もいる。

 そうして隊長を含めて25人いた騎士団は、街を抜けた時には12人まで減り、隣の領都に着いた時には7人まで減っていた。

 街を抜けても、魔獣や同じく街を逃げ出した住人に襲われたり、心が耐えきれず発狂してどこかに去っていく者が現れたのだ。

  

 

 サグネディドに向かっている隊長は剣を抜き放つ。

 その後ろからは副隊長達も続く。

 

 サグネディドも自分に近づいてくる存在に気づいた。


「ホウ?オレニタタカイヲイドムカ」


「!?言葉が!?異王か魔王ってことかよ……!!」

「自分が最初に仕掛けます!!」

「ミャオズ!?」


 サグネディドが話せたことに驚いた隊長。しかし同時に絶望的な状況であることにも気づいてしまった。

 それを共に聞いていたエルフの副隊長の1人ミャオズが声を上げる。


 ミャオズは弓矢を構える。


「くらえぇ!!【豪射】!」

 

パァン!パァン!


 空気が弾ける音がして、2本の矢が高速で飛んでいく。

 しかし、サグネディドの皮膚に弾かれる。


「くそぉ!」

「ウルサイ」

「ごぁ!?」

「ミャオズ!!?」


 ミャオズは悔しがる。しかし次の瞬間、頭上からもの凄い重圧を感じて押しつぶされたと思った時には、馬ごと潰されて血を撒き散らせて死ぬ。


「ムシケラガナニヲシヨウガムダダ」

「なんだと!?」


 隊長はサグネディドの言葉に怒鳴り返すがサグネディドはそれを無視して、さらに住人達を浮かばせて食べていく。

 副隊長や冒険者達も抵抗するが気にも留めない。


「止めろぉ!!【豪雷剣】!」


 隊長は剣を振るって、雷を飛ばす。

 サグネディドに直撃するも、全く怯まない。


「ゴグリ……ハアアァァ……モウジュウブンダナ。キエサレ」


 十分に腹を膨らませたサグネディドは4本の腕から【嵐】を生み出して、街に放つ。

 ただでさえ膨大な力を持つサグネディド。それが4本の腕からそれぞれ放たれる嵐は街を簡単に飲み込む。

 4重に渦巻く竜巻が街の中を吹き荒れ、建物や人を削り殺していく。


 サグネディドは結果も見ずに背を向けて歩き出す。


「ちくしょおお!!ちくしょおおおおお!!!」


 隊長は風の壁に消えていく化け物の背中に吠えるも、自身も嵐に飲み込めれ吹き飛び、体を引き裂かれて死に絶える。

 

 この嵐は1週間吹き続け、止まった時には街は更地になっており、もちろん生き残りは誰もいなかった。


 その後イルマリネン王国のあちこちに巨人が現れて、街を襲っては人を喰らっていった。


 そして、その手は王都にも近づいており、滅亡は免れなかった。



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