なんでそれを選ぶ
よろしくお願いします。
この街に来て4日目。
何でこれを選んだんだろうね。
「いいか!もう言い逃れは出来ないぞ!」
「はぁ……」
自信満々に言いながら、こちらを指差してくるバジェロド。
それを呆れ目で見ながら答える。
事の発端は昨日の朝。
その日の朝にコーリジェアとクデックが訪れた。
「昨日は申し訳ありませんでした」
いの一番に謝罪してくるコーリジェア。
「あなたが謝ることではないでしょう」
「しかし、彼は私の婚約者ですから」
「尚更でしょう。婚約者ではあるかもしれません。でも、あれはあなたも被害者ですよ」
僕の言葉に弱弱しいが笑みを浮かべるコーリジェア。
クデックも後ろで軽く頭を下げる。
「それで?本日はどのような?」
「今日こそは街を案内します!」
フンス!と両手を胸の前で握って気合を入れながら言うコーリジェア。
それに僕は苦笑する。
「では、お願いしましょうか」
「はい!」
僕達とコーリジェアはまずは目抜き通りの商店街を訪れ、その後は公園などを見て回る。
昼食のためにコーリジェアが予約していた店で食事をしていると、そこにバジェロドが従者と共に現れた。
「何用ですか?」
コーリジェアも流石に不機嫌な雰囲気を隠せなかった。
それでもバジェロドは不敵に笑う。
「彼に用がある」
「ナオさんに?」
コーリジェアが眉を顰めて訝しげにしていると、バジェロドは手袋を外してナオに投げつける。
それを僕は受け取ってしまう。
「決闘だ!僕と決闘してもらう!そして僕が勝てば犯行を全て白状してもらう!」
「「な!?」」
コーリジェアとクデックは驚愕する。
僕はめんどくさそうにジト目でバジェロドを見る。
「残念だが逃げられんぞ!」
「……はぁ。それで?もし僕が勝ったらどうされるのですか?」
「なに?僕が負けるとでもいうのか!?」
「それは公平ではありませんね。僕だけ何かを背負え、と?それが貴族のやり方なのでしょうか?」
「……っ!?」
バジェロドは顔を顰める。
「いいだろう……僕が負けたら謝罪する」
「それでは足りませんよ。ベルルド様」
「コーリジェア?」
「あなたは彼から金貨120枚を不当な言いがかりで奪いました。残念ながら彼の金貨は神殿での寄付申請のため、他の司祭達に聞かれていたので撤回は出来ません。あなたの謝罪では釣り合いません」
「君は僕が負けると言いたいのか!?」
「そうは言ってません。決闘の場に立つための条件が平等でない、と言っているのです。それではお父様も決闘をお認めになりません」
「くっ!?」
貴族による決闘は領主の許可が必要なのだ。そのためには、決闘の平等性を示さねばならない。
「……分かった。ならば金貨120枚保証する」
「……ベルルド様。あなた様個人の資産はそこまであるのでしょうか?ベルルド家から許可を得なければ金銭補助は出来ませんよ?」
「……ぐぅ」
バジェロドは言葉に詰まる。
こいつ本当に貴族嫡子で【賢者】なのか?って、賢者だからって頭良い訳じゃないか。勉強してなかったら意味無いよね。
本当にこいつが婚約者でいいのか?コーリジェアが尻拭いし続ける未来しか見えんぞ?
コーリジェアがため息を吐く。
「……それでは決闘は無効です。お帰りくださいませ」
「ぐっ!……ならば……僕の魔剣を賭けよう!」
「バジェロド様!?」
バジェロドの宣言に従者も慌て、コーリジェアも目を見開く。
「それは家宝ではありませんか!」
「所有権は僕にある!」
「……確かにそれならば……お父様も認めるでしょうが……」
「ならば良かろう!決闘は明日の正午だ!」
そう言って翻して歩き去る。従者が慌てて追いかけて説得するが、聞く耳持たない様だ。
「本当にあれで当主が務まるのかねぇ」
「コーリジェア様の悲惨な未来が見えそうです」
「ダメおとこ?」
「ナオ様に比べたらそうですね」
「どの男も勝てないよ」
ルティエラ達が容赦なく話す。それにコーリジェアは頭を抱える。
まぁ……ドンマイだねぇ。
「今日はお開きにしましょうか」
「……申し訳…ありません」
「だから、あなたが謝ることではないですよ」
僕の言葉にルティエラ達やクデックだけでなく、店員や他の客も頷いている。
と、言うことで決闘するために屋敷の修練場にいる。
僕は脇差を抜いており、バジェロドはバスターソードを地面に刺して柄頭に両手を置いている。
修練場の脇にはフレバロト、コーリジェアを始め、長男のフデリオと長女のフロデアもいた。
ルティエラ達やクデック、そしてバジェロド達の従者、そして侯爵家の私兵達が観戦している。
「あれがコーリジェアを救ったという冒険者か。随分と若くてひ弱そうだな。本当に山賊を倒したのか?」
「怪しいですわね。どうせコーリジェアがあの者を囲いたくてついた嘘なのではないのですか?見た目は可愛らしいですものね」
フデリオとフロデアがナオを馬鹿にする。
それにコーリジェアは顔を顰めるが、下手に言い返すと場が乱れるので我慢する。
「それにしても随分といい女達を侍らしているな。まぁ、あの顔だ。垂らし込めやすいか」
フデリオはルティエラ達を厭らしい目で見る。
ルティエラ達はそれに気づいているが、完全に無視している。
それにフレバロトは小さくため息を吐くが、無視して2人に声を掛ける。その右手には天秤が乗っている。
「それではこれより私が立会人となり、決闘を行う。1つ、殺すことを禁じる。1つ、スキルの使用に制限はない。1つ、決闘開始後の助っ人は禁じる。以上の3つを順守することを誓うか?」
「「誓います」」
「続いて、決闘に捧げる景品について。ナオは『敗北した場合、自身の犯罪について全て自白する』こと。バジェロドは『今回の騒動について謝罪し、魔剣【メタン】を明け渡す』こと。この内容に異論はあるか?」
「「ありません」」
言葉と同時に天秤が輝く。
これは【闘神の審秤】という神器で、これに宣誓することでルールを守らせるものだ。これに誓ったことを破ると、反則者側に天秤が傾く。これの審判は絶対で破った者は例え王であっても受け入れなければならず、受け入れなければ死をもって罰することになる。
「宣誓は認められた。それでは!始めぇ!!」
フレバロトは左手を振り上げて下ろし、決闘開始を告げる。
バジェロドは両手で柄を握って構える。
ナオも片手で構える。
「君は僕には勝てない。【鉄の賢者】の名前は伊達ではないぞ!!」
そう言って、一気にナオ目掛けて走り出す。
「【賢者】だからって鍛えていないとは限らないぞ!!」
ナオはただまっすぐバジェロドを見ている。
コーリジェアは両手を組み合わせて、祈るように決闘を見守る。
「はぁ!!」
バジェロドが剣を振り下ろす。
それをナオは左脚を下げて半身になることで躱す。そして、脇差を突き上げる。
「ふっ!」
バジェロドがそれを飛び下がって躱す。
「そんな細い剣ではこの【メタン】を受け止めることは出来ないぞ!!」
「受け止めなければいいだけですよ」
「それが甘いというんだ!」
バジェロドが叫びながら、右脚をドン!と地面を踏みつける。
すると、ナオの足元から鉄の槍が生えて顔に向かってくる。
ナオは顔を傾かせて躱す。
「まだだ!」
さらに3本の剣が生えて伸びてくる。
ナオは後ろに下がって躱そうとする。
「もらった!」
ナオの背中にも剣が迫ってきていた。ナオの背中に剣が突き刺さりそうになる。
「ナオさん!」
コーリジェアが思わず叫ぶと、ナオはその瞬間高速で体を回転させ、背中の剣を受け流す。
「は!?」
その光景にバジェロドはもちろん、フレバロトやクデック達も目を見開く。
「馬鹿にしているのはそちらでしょう?」
ナオはなんでもないようにバジェロドに声を掛ける。
「なに?」
すると、ナオの脇差からバチン!と電気が迸った。
バジェロドの真横にナオが現れる。
「な!?」
「ふっ」
「ぐうぅ!?」
バジェロドは驚きながらもなんとか魔剣でナオの斬撃を防ぐ。しかし、剣から強力な電撃が流れてきて剣を手放してしまう。
「……まさか!?それも魔剣か!?」
「魔剣を持っていないなんて言いましたかね?」
「くそ!!起きよ【メタン】!!」
バジェロドが吐き捨てながら、魔剣に呼びかけると魔剣が独りでに浮き上がる。
ナオはそれを見て、足を止める。
「【メタン】よ!!生み出せ!!」
バジェロドがさらに呼びかけると、魔剣の周りに20本ほどの剣が現れる。
「【メタン】は剣を生み出す!それだけならば普通の剣が増えるだけだが僕が使うことで真価を発揮する!!」
バジェロドが両腕を振り回すと、それに合わせて魔剣と剣が宙を舞う。
「【鉄の賢者】はその名の通り鉄を知り、鉄を操る!剣を宙に浮かせて操ることも、地面の鉄分を操って剣を造り出すことも出来る!!お前の周りにある全ての大地が僕の武器だ!!」
自信を込めて叫ぶバジェロド。
ナオはそれをただ突っ立って聞いていた。
「降参しろ!!もう君に勝ち目はない!!」
「これは決まりだな」
「そうですわね」
フデリオとフロデアがバジェロドの勝利だと決めつける。
周りも流石にこれまでかという空気が流れる。
「残念だったわね。コーリジェア。お気に入りの子が無様に負けて」
「そこの女共も付いて行く男は考え直した方がいいぞ?」
フデリオとフロデアがコーリジェアとルティエラ達を見下すように話しかける。
コーリジェアを苦々しく顔を顰めるが、ルティエラ達は顔色1つ変えずに無視する。
それにフデリオは苛立つ。
「聞いているのか!」
「うるさいですよ」
「なに!?」
ルティエラがフデリオに視線も向けずに告げる。
フデリオは顔を真っ赤にして叫ぶ。
ルティエラは視線を向けぬまま話を続ける。
「まだナオ様はスキルを何も使っておられません。この程度で勝敗を決めつけるなど愚の骨頂ですね」
「……なんだと?」
「すぐに分かるよ。大人しく見てなよ。坊や」
「貴様!」
「やめよフデリオ。見苦しい」
「っ!?……父上……」
「2人の言う通り、まだ決着はついていない。黙って見ていろ」
「……はい」
フレバロトの言葉にフデリオは盛大に顔を顰めて黙る。
しかし、それはすぐに驚愕に変わる。
「その程度で終わりですか?」
「……何だと?」
「その程度で【賢者】面かと聞いているんですよ」
「き、貴様ぁ……!!後悔するなよぉ!!!」
僕の言葉にバジェロドは顔を真っ赤にし、目を血走らせて叫びながら腕を振るう。
魔剣達が宙を舞い、高速で迫る。さらに地面からも剣を生やして刺しに来る。
パチン!
僕が指を鳴らした瞬間、魔剣を除く剣が全てパン!と粉々に砕ける。地面からの剣も消える。魔剣も勢いを無くして地面に突き刺さる。
「……はぁ?」
バジェロドは目を大きく見開き固まる。口も開けて馬鹿面を晒している。
ふむ。哀れだねぇ。『梶島奈央』にすら……及ばないじゃないか。
「な……何をした!!?」
「何って操っただけですよ。鉄を」
「っ!?……何だと?」
僕は脇差を鞘に納める。
もう武器は邪魔だな。手加減しても殺しちゃいそうだ。
「何を言ってるんだ!!お前はぁ!!」
「僕は【鋼】スキルを持っています」
「は……鋼…?」
「えぇ。あなたの上位スキルです」
まぁ、賢者だから大差ない……どころかこっちが分が悪いんだけどね。
本当に賢者として活躍できていれば、だけどね。
「本来ならあなたの【賢者】スキルには敵わないはずなんですがね。貴族嫡子故か……賢者としての認知が低いようだ」
「っ!?……」
「あなたの自慢は僕には通じない。さぁ、どうしますか?」
「……くっ!」
バジェロドは両手を力強く握り絞めて悔しがる。
「早くしないと……終わりますよ?」
「な!?ぶげ!?」
僕はその隙を突いて、高速でバジェロドの懐に入って右フックを顔に叩き込む。
バジェロドは反応出来ずにまともに食らう。
後ろに仰け反るも、さらに左フックを放ち、ワンツーパンチを放つ。
「ぶっ!?ご!げ!?ぎゃっ!?」
「バジェロド様!?」
最後に左脇腹に蹴りを入れられて、観客席前まで転がる。
従者が叫ぶがバジェロドは答える余裕は無い。
鼻から血を流しながら、スキルを使うが反応しなかった。
「なぁ……なんで…?」
「だから言ってるでしょ。僕のスキルの方が上なんですよ」
「ひぃ!?」
僕が話すと、バジェロドの周りに剣が生え、空中にも剣が出現する。
バジェロドは驚き、スキルを使うも操ることは出来なかった。
「今、この場の全ての鉄…いや、鋼は僕の物だ。あなたはもう何も出来ない」
「……そん……な…!?僕は…【賢者】なんだぞ……!?」
「そうですね。でも、誰が【賢者】は一番強いと言ったのですか?」
「え?」
「【勇者】であろうと、【聖女】であろうと、【賢者】であろうと、【王】であろうと、【魔王】であろうと、強者であっても最強ではないのは自明の理。己を超える者がいるのは当然。だって、自分如きが努力したくらいで辿り着けたのだから」
僕の言葉に全員が耳を傾ける。特にコーリジェアは目を見開いて全神経を使って頭に刻み込もうとする。
「だからこそ、人は足掻き続ける。ひたすらに歩み続ける。その姿に周りは目を惹かれ、心を惹かれる。その筆頭が【勇者】や【聖女】達だ。伝説となっている人達は【賢者】を持っているから、そう名乗るようになったんじゃない。生き様の果てにそう呼ばれたんだ。【賢者】の方が……持ち主に歩み寄った」
バジェロドの周囲の剣が消える。
「あなたは【賢者】に縋り過ぎた。ただの力としか見ていなかった。そのような者に【賢者】が歩み寄ることはない。あなたは……もっと婚約者に目を向けるべきだった」
「っ!?」
その言葉に意味を飲み固まるバジェロド。そして、両手を強く握る。
「黙れ……黙れぇ!!!」
バジェロドが叫び、腕を振るう。風が舞い、僕を襲う。
僕は後ろに飛び下がって避ける。
その間に起き上がり、血走った目で僕を睨みつける。
「何が分かる……貴様に何が分かるぅ!!」
風を体に纏いながら、僕に飛び掛かる。
しかし、それは容易く避けられて、後頭部に蹴りが放たれる。
「ごぉ!?」
バジェロドは一瞬意識が吹き飛び、地面を転がる。その衝撃で意識を取り戻し、なんとか立ち上がろうとする。だが腕に力が入らない。
僕はゆっくりとバジェロドに近づく。
その時、
僕の背中に大きな火の玉が放たれた。
「ナオさん!?」
コーリジェアが叫ぶ。
僕は振り向いて、対応しようとする。
炎と僕の間に人影が入り込む。
「うぐあああああああ!?」
その人物は炎に包まれていく。
その人物は、
「ヨハナ!?」
「なんでだい!?」
ルティエラとシフラが叫ぶ。
燃えているのはヨハナだった。
ヨハナは頭を抱えるように悶えていたが、すぐに力尽きたのか倒れる。
そして、炎が消えた時、ヨハナは真っ黒に焦げて死に絶えていた。
「そんな!?」
「その者を捕えよ!!」
コーリジェアが叫ぶと、フレバロトが男を指差して捕縛の指示を出す。
捕えらえたのはバジェロドの従者だった。
「……愚かな。例え反則負けになろうとも、勝者が死ねば賭けが消えるとでも思ったか」
フレバロトは従者を蔑みの目で見て、吐き捨てる。
その言葉に従者の男は項垂れる。
「そこまでだ!!バジェロド陣の加勢、そして死亡者を出したことによる反則でナオの勝ちとする!!」
フレバロトは決闘の終わりを宣言する。しかし、1人を除いて勝利を喜ぶ者はいなかった。
ふむ。まさかこんなに上手くいくとは。
僕は2日目の朝にヨハナにある細工をした。それは【金剛】を消すことだった。それに加えて、ある命令を出していた。
『僕が不意打ちされたら、全力で僕を庇って身代わりになれ』というもの。
ヨハナを改造して話すようにすることも出来たが、元々ヨハナは敵だ。別にルティエラ達のように傍に置いておきたかったわけじゃない。
だから、この街でコーリジェアに取り入れやすくなるように生贄としたのだ。
ふむ。これは良い感じに悲壮感を誘えるだろうね。
ルティエラ達がどう反応するかは分からないが。
「はぁ~。これでは……謝罪どころではないな。ナオ殿。すまないが少し時間を頂きたい」
「分かっています。僕らも…時間が欲しいので」
「……そうだな。神殿への供養は手配する。しばし、客室にて待たれよ」
「感謝します」
「バジェロド殿も治療後離れの部屋へと幽閉せよ。魔剣は……クデック、一度そなたが神殿にて保存してくれ」
「は」
「従者の男は牢へと繋げ。法に則り処罰する」
「「「はっ!」」」
フレバロトの指示に全員が動き出す。
僕達も侍従の案内に従い、客室へと移動する。
「で?説明してくれるんだろうね?」
「もちろん」
僕はヨハナへ行った処置と考えを説明する。
それにルティエラとシフラは納得するも複雑な表情をする。
「まぁ、理屈は理解できるけどねぇ」
「う~ん。やはりちょっと情が移っているようです」
「まぁ、仕方ないんじゃない?僕が割り切り過ぎただけさ」
「ラクミルは大丈夫なのかい?」
「ん?おにんぎょうさんがしんだだけだよ?」
「……そうだけどねぇ」
「ミルクラはどうなっているのですか?」
「なんかギャーギャーさわいでる。うるさい」
ラクミルは顔を顰めながら話す。ヨハナについては特に何とも思っていないようだった。
まぁ、ヨハナはラクミルには反応しなかったしね。ミルクラは流石に騒いでるか。
「ナオさま。このこえじゃま」
「あ~。うん。考えとくよ」
「は~い」
ラクミルにとってはもう邪魔者扱いか。ミルクラはもう少しラクミルを手懐けると思っていたが。
「まぁ…もう割り切るしかないですね」
「そうだねぇ。魂はどうしたんだい?」
「あぁ、魂は回収したよ」
「「え?」」
「だから、今の状況では邪魔なだけだったからね。体はまた作ってあげればいいさ」
「だったら悲しむ必要ないじゃないか」
ルティエラとシフラは呆れたように僕を見る。
やだなぁ。体が死んだくらいで慌て過ぎだよ。
「しかし、これであの賢者は終わりですね」
「そうだねぇ」
「これでコーリジェアの環境はどう変わるかねぇ」
「あの偏屈な兄貴次第だろうね」
「「あぁ~。あいつ殺しても?」」
「その時になったらね」
やっぱり気持ち悪かったよね。あの視線。
この国ってクルダソス王国と違って、奴隷にするの結構簡単なんだよねぇ。
そこに侍従が訪れ、神殿への移動準備が整ったと告げられる。
僕達は神殿へと赴き、ヨハナの体を供養する。
クデックは顔を出したが、他は誰も来なかった。
「コーリジェア様は今は自室にいらっしゃる。流石にヨハナ殿が死んだことに責任を重く感じている」
まぁ、きっかけが自分が襲われたことだからねぇ。恩人の1人が自分の婚約者に殺されたに等しいもんね。普通だったら責任感じるよねぇ。
「流石にこれは大事だ。時間が掛かるだろう」
「そうだね。まぁ、コーリジェア様に会うなら伝えてくれる?『ヨハナのために祈ってくれるなら、僕らは君を恨むことはない』って。また会おうって」
「……感謝する。それとフレバロト様から魔剣を渡してくれとのことだ。だから、ここで渡しておく」
「いいの?」
「これはすでにお前の物だ。賭けの結果だからな。死者が出てもそれは覆らん」
「分かったよ」
魔剣を受け取る。本日はこれで宿に戻ることにした。
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バジェロドは治療され、侯爵家の一室で幽閉されていた。
流石に事が事のため、仕方がないとは理解している。
そこにノックが響き、フレバロトが入室する。
バジェロドは椅子から立ち上がる。
「君の侍従については、法に則り犯罪奴隷として無期懲役だ。今後二度と表に出ることはない」
「……はい」
「……魔剣についてもナオ殿に渡した。しかし、謝罪に関しては君がすればいいわけではなくなった」
「……」
バジェロドは項垂れる。
それを冷めた目で見るフレバロト。
「ベルルド家には連絡は入れた。此度の経緯と顛末、そしてコーリジェアとの婚約破棄を」
「っ!?」
バジェロドは顔を跳ね上げた。しかし、フレバロトの冷たい視線に固まる。
「まさか、まだコーリジェアの婚約者で入れると思っていたのか?娘の恩人に数々の無礼をし、さらには卑劣な手段で殺したというのに。私達を馬鹿にしているのかね?」
「……っ!」
「従者がしたこととは言え、元はと言えば君が決闘を仕掛け、家宝の魔剣を賭けるなどしたからだ。だから、君にも当然責任はある。……それに婚約破棄については娘からの要望でもある。分かるかね?君のせいで娘は社交界で笑い物になったのだよ。例え娘は被害者側だと知られていてもね」
その言葉にバジェロドは膝を着く。
「君は……この領地を継ぐと言ったことがあるそうだね」
フレバロトは止めの言葉を告げる。
「それだけは……絶対に……ありえない。君のような未熟者が領主など務まるものか。だから、ベルルド侯爵と話し合って王都勤めにする予定だった。それすらも叶わなくなったがね。ベルルド侯爵もお怒りだろうね。間違いなく、もう出世は出来なくなった。嫡子が犯罪者になったのだから」
フレバロトは背を向けて部屋を出て行く。
もうバジェロドに目を向けることすら嫌だった。
フレバロトは廊下を歩いていると、フデリオが現れた。
「何のようだ?フデリオ」
「いえ。これからのことを相談しようかと思いまして」
「相談?」
「えぇ。コーリジェアの嫁ぎ先です」
「何故お前に相談せねばならん」
「次期当主の僕に迷惑掛からない様にしないといけないでしょう?ただでさえ今回は醜聞なのだから」
フデリオは笑いを抑えきれずニヤニヤしながら話す。
それを見て、フレバロトはため息を吐いてフデリオに告げる。
「お前が次期当主?誰がそんなことを決めた?」
「え?だって長男の僕が継ぐのは当たり前じゃないですか」
「冗談も休み休み言え。それが信じられずに領主の仕事を手伝わずに妹の暗殺ばかりに目を向けていたお前に領主が出来るものか」
「っ!?」
「このフレシュコハラ家ももはや終わりだ。私の代で貴族の名は返上となるだろう」
「何を言っているのですか!?」
「お前とフロデアのお遊びなど王はとっくにご存じだ。私もな」
「な!?」
「コーリジェアを貶めたときのためだったのだろうがな。誘拐と奴隷販売などしよって。バレぬとでも思ったか」
パチンと指を鳴らすと、私兵が現れフデリオを拘束する。
「父上!?」
「3日後には王都より騎士団が来る。お前達は王都で裁かれる。そしてその責任を私も背負わねばならん。出世などできるものか。連れて行け」
フデリオは喚きながら連行されていく。それを見送ってフレバロトは疲れたように眉間を抑える。
「はぁ~。コーリジェアにはどう償えばよいのか。頭が痛いことばかりだな。本当に人の欲は醜い」
フレバロトは一気に老けたように感じながら、執務室に向かう。
こうして悪役達は一気に自滅したのだった。
ありがとうございました。
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