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33/53

ほら、やっぱり

よろしくお願いします。

 夜、コーリジェアも眠くなってきたので解散となった。

 しかし、僕は見張りに戻ったクデックに近づき、情報を得ることにした。


「ん?どうした?」

「もうちょっと情報を仕入れておくべきだと思ってね。正直、僕は彼女の希望通りに観光が出来るなんて思ってないよ」


 その言葉にクデックは顔を顰める。しかし、それはナオの言葉にイラついたからではなく、その考えに同感だからである。


「爵位は聞かなかったけど、領主の娘で聖女だ。婚約者がいるんでしょ?それにどうやら敵も多いみたいだしね。それが領主なのか、彼女なのか、それとも両方なのかは知らないけど」

「……すまないが、両方だ。しかも敵は内外にいる」

「た、隊長…!?」

「仕方ないだろう。もはや巻き込まれるのは確実だ。無関係の命の恩人に死なれるくらいなら、恥をさらす方がマシだ」


 ふむ。本当に良い奴だな。コーリジェアが信頼している理由もわかる。

 いや~あの神殿にいたのがこの人達だったらねぇ~。佐竹達の事も忘れてそこそこ幸せに死ねただろうなぁ。

 

「でだ、外の者達は領主であるフレバロト侯爵様を狙っている。侯爵はかなりのやり手でな。それを逆恨みしている者が多い」

 

 まぁ、これはよくある話だよね。


「そして……内の者達はコーリジェア様を狙っている。そして、その首謀者も分かっている。だが、明確な証拠もなく未だ野放しだ」


 ふむ。なるほどな。これもよくある話だ。

 

「首謀者と言われているのは、コーリジェア様の兄君と姉君の2人だ。兄君はコーリジェア様とその婚約者に次期領主の座を取られると思い込んでいる。まぁ、確かに民衆はそれを望む声は多いがな。だが、婚約者は他家の長男だ。しかも【賢者】でもある。手放しはしないだろう」


 婚約者も侯爵家か…。まぁ、普通なら男の方に嫁ぐことになるよね。


「そして、姉君はコーリジェア様に嫉妬している。姉君も美女で優秀ではあるのだが、聖女の名の前には霞んでしまっている。しかも、コーリジェア様にすり寄ろうとしている馬鹿者どもに直接嫌味を言われたりしてな。その恨みがコーリジェア様に向かっている」


 ふむ。あれだなぁ。2人とも馬鹿ではあるが、その境遇を考えれば酌量の余地はあるのか。

 これは2人の従者達が暴走している感じか。


「それさえなければ間違いなくお2人も素晴らしい方だ。だから慕っている者も多い。それが最悪の状況を作っている。侯爵もかなり悩ませているが、それを解決する手段は早くコーリジェア様を結婚させて、領外へと嫁がせることだ。しかし……婚約者であるバジェロド殿はまだ実績がなく、聖女の威光に縋りついているという噂を気にされていて、まだ先になりそうなんだ」

「なんかもう……コーリジェア様が憐れ過ぎるよね。自分じゃなんとも出来ないじゃん」

「はぁ~、そうなんだ。婚約者殿もその噂を気にしているだけで、別に結婚を嫌がっているわけじゃないから婚約破棄も出来ん」


 それをしたら間違いなくコーリジェア側が非常識扱いだし、長男がキレるよね。

 あぁ、だからコーリジェアには下手に誰も近づかないのか。


「そのせいで部下は増えても友人と言える存在は出来なかった。しかし、婚約者も家族にも甘えられず雁字搦め。それであの喜びよう…か」

「その通りだ。だから……感謝している。そして…本当にすまない」


 クデックは2つの意味を込めて頭を下げる。部下もそれに続く。

 これは……退屈しのぎになりそうだな。


「まぁ、少なくとも僕の方から無礼をしないように気を付けよう」

「頼む」


 そう言って、クデックの下を去る。

 テントの前に戻って、焚火の前で座る。護衛中だからね。見張りした振りはしないと。

 普段ならヨハナでもいいんだけど、話しかけられると対応できないからなぁ。

 

「大丈夫なのかい?」

「ううん。思いっきり巻き込まれるね。暇つぶしにはなるよ」

「あたしとしては貴族関係はもういいよ」

「シフラは随分とやられましたからね」


 シフラは呆れてめんどくさそうにする。それを見てルティエラが苦笑する。

 一度貴族に陥れられそうになったしね。

 

「お遊戯に付き合うだけさ。気軽に行こうよ。どうせ僕らを殺す事なんて出来やしない」

「そう……なのかねぇ」

「私達は油断してはダメですよ」

「だよねぇ」


 流石に痛い目に遭った2人は油断しないか。


「少しは慢心してもいいと思うけどね。十分2人は強い。そして可愛い」

「そ、それは嬉しいですが……」

「置いてかれない様にしないと不安なんだよ。ナオ様は私達が居なくなっても変わらないだろうからねぇ」


 ふむ。そう考えていたか。

 ……まぁ、ミルクラの時に信用しないって言ってるしねぇ。


「……言っとくけど、2人はもう裏切らないとは思ってるよ?」

「「ふぇ?」」


 正直話すと2人はポカンと間抜けな声を出す。

 僕は苦笑する。


「2人の事なんてもう知らないところなんてないほど可愛がったんだよ?身も心もね。今更心変わりするなんて思ってないさ」

「ナ…ナオ様……!」

「やっと……だねぇ」


 2人は感動して涙を流す。あれま。

 ふむ。仕方ない。

 僕は3人の分身を生み出して、テントに連れ込み可愛がることにした。


 その日の2人は感動のせいか一段と乱れていた。

 ただ、途中でラクミルが飛び込んできたときはちょっとあせったけどね。




 翌朝、僕達は街の入り口に着いた。

 

「むー」


 ラクミルが馬車の中で頬を膨らませて『不機嫌です!』と主張している。


「ラクミル。そろそろ機嫌を直したらどうだい?」

「ずるいもん!いつもふたりばっかり!きもちよさそうにズ『ピー』コンされて!」

「ラクミル!そんなこと大きい声で言うんじゃありません!」

「いやー!ラクミルもナオさまのオチ『バン!』で『ドドン!』ッコンされたい!」


 なにやら今日は爆発してるな。ルティエラ達は顔を真っ赤にして慌てるが、逆効果だった。

 まぁ、結界は張ってあるけどね。というか、まさかそこに興味を持つとは。今頃ミルクラ絶叫してるんじゃないか?

 ラクミルは体は一応大人だからなぁ。出来ないわけじゃないが……精神面がまだなぁ。

 どうしたもんか。

 

「そ……それは……仕方ありませんね……」

「そうだねぇ」


 あれ!?OKなの!?

 思わず3人を振り返ってしまう。


「いや~あれを知っている身としてはねぇ。気持ち良くなるのを止める権利はないよ」

「それにラクミルは体は大人ですから。子供だからと止めても聞かないでしょう。だったら、一度満足させるのも手です」


 正論ではある。正論ではあるんだけど!

 何故だ!理不尽を押し通してきたツケか?

 

「まぁ、ラクミルを作ったのはナオ様なんだ。責任は取るべきだと思うよ?」

「そうですね。ナオ様も気持ちよくなれるのでよろしいかと」


 シフラ。なんという止めの暴論を。

 ルティエラ。なるほど。そういうことなのかい。

 

「はぁ。分かったよ」

「やったーー♪!」


 嬉しそうだねぇ。まぁ、仕方ないか。

 ふむ。絶対忠誠だけど忠言できるようにしたからこその判断か。



 そんな会話がされているとも知らずに門番と話しているクデック達はやや緊迫感があった。


「クデック様!?ご無事でしたか!コーリジェア様は!?」

「冒険者が助太刀してくれたおかげで無事だ」

「それは良かった……!もう生きてはないだろうと言われたので」

「その報告した者達は?」

「今は侯爵様の屋敷にいるはずです」

「分かった」


 そう言って、クデック達は門を通る。ナオ達も特に問題なく通らせてもらう。

 そのまま領主の館に向かうようだ。


 街の中心にある領主の館は豪華だった。

 屋敷の敷地に入った所で馬車を降りる。

 そして、豪華な館の中に入る。


「見事な屋敷ですね」

「ありがとうございます。流石に領主の館ですから。見栄ですよ」


 コーリジェアは苦笑いして言う。

 そうして、これまた豪華な応接間で待機する。

 ラクミルが興味津々であちこち見ているが、子供っぽいからだろうか微笑ましく見られている。

 まぁ、18歳とはいえ体は小さいからね。


 10分ほどすると、白髪交じりの金髪をオールバックにした威厳ある50代ほどの男性が現れる。

 僕達は立ち上がる。


「すまない。恩人の方々を待たせてしまったようだな。私がコーリジェアの父のフレバロト・ドア・フレシュコハラだ。地位は侯爵で、ここの領地を任せて頂いている。この度は私の娘と領民を守って頂いたこと、感謝するよ。冒険者方」

「ナオと申します。当然のことをしたまでです。それがたまたまコーリジェア様だったというだけです」


 フレバロトは頭を下げてくるが、僕はそれを遮る。

 フレバロトはすぐさま頭を上げる。


「そう言って頂けるとありがたい。しかし、それでも礼はさせてもらわねばな。貴族の見栄に付き合わせて申し訳ないが。何かのものはあるだろうか?」

「私達は【グラフィレオラ】に向かう途中でしたので……卑しいですが、現金で頂けると」

「グラフィレオラにか。確かにそれならば士官や宝石などは邪魔だな。承知した。金貨100枚を支払おう」


 その言葉に周囲の者は目を見張る。


「何を驚いているのだ。領主の娘でもある聖女を無傷で守ったのだ。これぐらい支払わなければならんだろう。勇者が如き功績だぞ?」

 

 それに周りの者も理解を示した。

 ふむ。なるほど。この娘にしてこの親ありと言える傑物だね。しかも、後ろめたいこともしていない。

 こうなると逆になんで兄姉がああなのか分からんな。

 まぁ、母親の違いか。

 兄姉とコーリジェアは腹違いの兄妹だった。そして、母親は両方とも死んでいる。


 すると、クデックが先に逃げ出した者達の事を告げる。


「侯爵様。我らの事はケッテ達にお聞きしたのでしょうか」

「そうだ。あの者達は馬車が襲われた時に、我らに知らせろと命を受けてここまで来たと言っていたが?」

「そのような命など出しておりません。彼女らは山賊が現れた途端、馬を奪って逃げだしました。特にケッテが御者を投げだしたので、その場に留まらざるを得なかったのが真相です」

「……ふむ。なるほどな。はぁ、愚か者共が」


 クデックの言葉に顔を顰めて、ため息を吐いて吐き捨てる。

 そして、後ろに控える家令長と思われる執事に声を掛ける。


「3人を捕えろ。そして、牢に入れておけ。いいか。私以外の命でその者達を出すな。いいな?私以外の誰であってもだ」

「承知しました」


 礼をして出て行く家令長。


「すまないな。コーリジェア。お前には辛く怖い思いばかりさせてしまう」

「いいのですよ。お父様」

「全く……生まれもスキルも選べるものではないのは常識だろうに。それを妬んだところで転がり込んでくるわけでもない。人の欲とはなんと醜いことか。っと客人の前でいうことではないな」


 僕は苦笑のみで返答する。


「お父様。私はナオ様達にこの町を案内すると約束しましたの。よろしいでしょうか」

「ふむ。……まぁ、護衛を付けて行けば構わんだろう。街中ならそうそう襲撃もないだろうし」

「ナオ殿達はかなり強いですから、安心だと進言します」

「ほう。それはありがたい。あぁ、ギルドにも護衛に関しては伝えておこう。後でギルドにも顔を出しなさい」

「感謝いたします」

「すまないが、今日はここまでにしよう。愚か者がいる屋敷に客人を留めるのも申し訳ない。コーリジェア。お前もしばらくは神殿で過ごしなさい。一筆したためておく」

「はい」


 こうして僕達は金を受け取り、屋敷を後にする。そして、ギルドに向かって報酬を受け取る。

 護衛の報酬は金貨20枚。太っ腹だな。

 そして口添えがあったのか、この依頼で僕、ルティエラ、シフラは金等級まで上がった。ラクミルとヨハナは銀等級まで上がった。

 いいのかね?これ?白から一気に上がったよ。


「聖女様の護衛ですから。それくらいないと困ります。それにクデックさんよりも強いとのことですから」


 クデックは銀等級ってことか。まぁ、もらえるならもらっとこう。

 

 宿も手配してもらっていた。しかも、タダで。

 豪華な部屋だねぇ。


「ふかふか~♪」


 ラクミルは楽しそうだ。

 シャワーと浴槽もある。ソファやテーブルまであって本当に豪華だな。

 夕食は部屋で摂った。ルームサービスまであるってありがたいね。

 

 そして、風呂に入って寝ようかと思ったところに、


「ナオさま!ズッコ『バキュン!』ン!」

「えぇ~」

「してあげてください」

「じゃないと、明日どこで叫ぶか分かんないよ」


 ラクミルが素っ裸でベッドの上で叫ぶ。

 ムードもクソもないじゃないか。


 はぁ、仕方ない。3人とも頂こうか!!

  


 翌朝。


「にゃ~♡きもちよかった♡」


 ラクミルは僕の腰に捕まってスリスリしてくる。

 凄いな。ルティエラとシフラはダウンしてるのに元気だよ、この子。

 中のミルクラはどう思ってるんだろうか。まぁ、どうでもいいけど。


 体を綺麗にして、服を着る。

 ラクミルはまだ余韻でゴロゴロしている。

 その間にヨハナにある細工をしておく。まぁ、大したことじゃないけどね。


 


 宿を出て、神殿に向かう。

 

「♪~」

 

 ラクミルは機嫌良さそうに僕の服を摘まみながらスキップしている。

 

「……すごいですね」

「よくあれに耐えられたねぇ」


 ルティエラ達は呆れてラクミルを見ている。

 まぁ、僕もちょっとびっくりしたからねぇ。


 神殿に入ると、中から声が聞こえてくる。


「君は僕の婚約者なんだぞ!?いくら恩人とはいえ男と街を歩くなんて!」

「ですから、クデックもいますし、女性の方々もいらっしゃいます。2人っきりになるわけではありません」

「だとしてもだ!何故わざわざ君が案内する必要がある!?」

「恩人の方に街をよく知ってもらいたいと思ってはいけないのですか?それにお礼もしなければいけません」

「礼はフレバロト様がしてくれたのだろう!?もう十分じゃないか!」

「それはお父様のお礼です。私は何も出来ておりません」


 婚約者の賢者君か。

 ふむ。僕もナイスタイミングで来たものだ。

 普通はここで待つものだろう?

 

「失礼しま~す。コーリジェア様と約束したナオと申しますが~」


 僕は行くよ!面白い方に行きたいからね!


「あ!ナオさん!」


 コーリジェアが婚約者を無視して飛び出してきた。

 おぉ~。天然の煽る行動入りました~。


「申し訳ありません。わざわざ来てくださいまして」

「いえいえ。構いませんよ。護衛でもありますからね」

「君が冒険者のナオというものか」


 声を掛けてきたのは、緑髪のロングパーマで長身の男。眼鏡をかけて文系っぽいが、体つきは良く鍛えているようだった。青いブリティッシュスタイルの貴族服の上に、豪華な刺繡された赤いローブを羽織っている。

 彼が婚約者で【鉄の賢者】のバジェロド・ブルア・ベルルドである。


「はい。失礼ですが、あなたは?」

「……知らないのか?僕はバジェロド・ブルア・ベルルドだ。【鉄の賢者】で彼女の婚約者だ」

「それは失礼しました」

「……ふん。やっぱり世間知らずの冒険者か」

「ベルルド様!彼らは【クルダソス王国】から来られたのです!私達の事など知るわけないでしょう!」

「ふん。どうだかな。そんな都合よく聖女が襲われている所に助けに入れるものか疑わしい。山賊も君達の手の者ではないか?」

「ベルルド様!!それはお父様や私達の目が狂っているということですか!?」

「そうは言っていない。しかし、そういう考え方も出来るということだ。フレバロト様は証拠がない以上謝礼するのは当然だ」


 嫉妬のせいか随分と挑発的だな。証拠がない以上その言い方は侮辱にしかならんだろうに。

 やっぱり。こうなるのか。


「ふむ。なるほど。では、これで我々は失礼しましょう」

「ナ、ナオさん!?」

「ふん。ようやく分不相応を理解したか」

「いえ。あなた様がいるからです」

「……なに?」

「あなたは今言いましたね。『証拠がない以上謝礼するのは当然だ。』と。なのに、あなたは証拠もないのに私達を主犯扱いされました。そのような方と関わりたくはありません」

「な!?貴様!?卑しい冒険者の分際で!」

「ならば」


 僕は鞄から昨日侯爵から受け取った謝礼金を取り出す。

 それをバジェロドは訝しげに見てくるが、それを無視してコーリジェアに近づく。


「これを全額神殿に寄付させて頂きます」

「え!?ナオさん!それは!?」


 その言葉と行動にコーリジェアが慌て出し、バジェロドとクデックも目を見開いて固まる。


「あぁ。ご安心を。これには昨日ギルドからもらった護衛の報酬も入っています。どうかお収めください。では、これで」


 言うだけ言って、神殿を出て行く僕達。

 それにコーリジェアは慌てて止めるが、僕達は無視して出て行く。


「良かったのですか?」

「別にいいよ。あれで彼の株は下がって、しかもフレバロトに喧嘩売ったよねぇ。どうなるんだろうか」

「楽しんでるねぇ」

「もちろん!」


 とりあえず僕達は屋台通りを見つけて、そこで買い物をして食い歩きする。

 そして、ルティエラ達が気になる物を買ってやりながら街を観光していくのだった。


_____________________________________________

「はぁ~、バジェロド殿。君がどう考えようと構わない。事実、その可能性は私とて考えて調査しているのだ」

「……はい」

「それを私ですら結果を聞いていないのに、あたかも確信を得ているかのように本人を弾劾するのは愚行極まりないぞ。それに、いくら婚約者であるとはいえ何の権限を持ってナオ殿達に言ったのかね?」

「……………」

「おかげで私の…私とコーリジェアの面目は丸つぶれだ。人目についていないならまだしも、教会のど真ん中でやるとは…。呆れて何も言えん」

「……申し訳ありません」

「私に謝罪しても何も変わらんぞ。コーリジェアやナオ殿達に言うべき言葉だ」


 夕時、フレバロトの屋敷にてバジェロドは神殿での出来事についてフレバロトに苦言を受けていた。

 

 フレバロトとて、ナオ達のことを怪しんでいないわけがない。しかし、そうだとしても助けられたのは事実だ。だから、謝礼をすることに対しては抵抗がなかった。

 その上でクデックや密偵を付けて、監視していたのだ。しかし、それを今日見事に無駄にされたのだ。

 

「元々、君が娘の護衛を断ったことも原因の一つだろうに」

「っ!?」


 バジェロドはコーリジェアと共に視察に回る予定だったのだが、それを断ってこの街で修練や実績作りに励んでいたのだ。その判断がコーリジェア襲撃を後押ししたのだから、バジェロドは誰も責める権利はない。

 そうフレバロトは考えていた。


「君はコーリジェアの視察の理由を聞いていたのか?」

「……聖女としての公務かと」

「それはコーリジェアが言ったのかい?」

「……いえ」

「……はぁ~。いいかね?聖女としての公務など存在しない。神殿にいるのは神殿からの要請だからだ」

「え?」

「……クルダソス王国で魔王が現れ、ペッファ王国から戦争を仕掛けられたのは知っているな?」

「……はい」

「……まぁいい。それに加え、クルダソス王国の北側の都市でグールと屍鬼が溢れて街が滅亡同然になった。それでコーリジェアには視察としてクルダソス王国との国境近辺に異常が無いか確認させていたのだ」

「な!」


 バジェロドは目を見開き固まる。フレバロトはそれを見て、魔王出現すらも知らないと見抜いた。

 事実、バジェロドは隣国の情報など調べてすらいなかった。実家からも何も言われなかった。ちなみに実家はもちろん自分で調べていると思ったから特に忠告しなかったのだ。


「私はそれに君も付いて行くと思っていたのだ。なのに、君は断った」

「……っ」


 その様子にフレバロトは婚約解消を視野に入れるべきかと思った。


「今日は下がりたまえ。もう一度、しっかりと何をすべきか考えるように」

「……失礼します」


 バジェロドは頭を下げて部屋を後にする。

 それを見て、フレバロトはまた大きくため息を吐く。




「くそ!くそくそくそ!!!なんで!なんでこうなるんだよ!!」


 バジェロドは自身が手配した屋敷の1室で叫んでいた。


「僕はここの次期領主だぞ!?ここでの地盤固めは当然じゃないか!なんでそれを失態扱いされなければいけないんだ!!」


 バジェロドは自分がフレバロトの後継者になると思っていた。

 もちろん、フレバロトはそんなことは一言も言っていない。しかしバジェロドはそう思っている。


 ちなみにフレバロトの長男がコーリジェアを目の仇にしている理由はバジェロドが原因だった。彼が兄の前で堂々と『自分がこの領地を継ぐ』と言ったのだ。

 【賢者】の肩書のせいで兄はそれを信じてしまい、狙いやすいコーリジェアを暗殺しようと画策を始めたのだ。

 つまりコーリジェアが雁字搦めになった原因はバジェロドだったのだ。


「どうにかして挽回しなければ……!……あの冒険者…。あいつが犯人だと証明できればいいんだ……!しかし、僕に諜報員はいない……。そうだ!あれなら!」


 バジェロドは何かを思いついた。

 

「覚えていろよ……!賢者の僕の恐ろしさを教えてやる…!」


 バジェロドはナオを思い出して、虚空を睨みつける。


 やはりナオは巻き込まれる運命からは逃れられないようだった。



ありがとうございました。


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