閑話 動き始める者達
よろしくお願いします。
ロパザラクネはナオの命令通り、魔王の封印には特に触らなかった。
しかし、封印をほっとくわけにもいかないと思ったので、ここにしばらく留まることに決めた。
「しばらくはゆったりと子育てしましょうか」
封印がある遺跡の外にある森の中で、倒れた木に腰かけていた。
その周りではキリング・スパイダー達が思い思いに過ごしていた。
ボオォン!!!
「!?」
突如、森の一角に火の柱が立ち上がる。
キリング・スパイダー達が慌てて逃げてきているのが見える。
「何者ですか!?」
ロパザラクネは蜘蛛の姿に戻って構える。
森から現れたのは2人の男女。
男は槍を肩に担いで、金髪を無造作に短くしており軽鎧を見に着けている。不敵そうに笑いながらロパザラクネを見ている。
もう1人は赤いローブを羽織った水色ショートボブの女性。目が細く眠そうに見える。
「お前さんが大神殿やった異王だな?お~お~、キリング・スパイダーがわんさか居やがる」
「まさしく化け物」
「……聖神教の者…ではなさそうですね」
「言葉も分かんのか。まぁ、依頼主は聖神教だぜ」
男は肩を竦めながら答える。
「愚神の手先であることは変わりませんね」
「愚神……。やはり異王や魔王は神を憎んでいる?」
「はっ。己が傲慢で世界に神界から出られなくなった愚か者など、どこに崇める必要があるのですか?」
「……知ってやがるのか」
「これでも元【土の聖女】でしたので」
「「っ!?」」
2人はロパザラクネの答えに目を見開く。
「聖女だぁ?本気で言ってんのか?」
「えぇ。【リローナ】で勤めておりました。そこで真なる神に出会い、救って頂きました」
「真なる神?」
「愚神の手先が知る必要はありません。死になさい!」
地面を隆起させて槍の様に尖らせて、2人に襲い掛かる。
「はっ!!」
男は鼻で笑いながら無造作に槍を振るう。
すると、何本にも分かれた土の槍が削り取られたように消える。
「っ!?」
ロパザラクネはそれに一瞬目を見開くが、すぐさま岩の弾丸を生み出して放つ。
今度はそれは炎に包まれて砕ける。
「……【地の大魔女】である私の力を防ぐ?まさか……!?勇者ですか!?」
「正解!!【瞬動の大勇者】!ワリード!!」
「【炎の大勇者】ヴァギ」
「っ!?【大勇者】!?国お抱えの者を!?」
「大神殿をやったのが運の尽きだったなぁ!!」
聖神教は大神殿を滅ぼした異王を危険と判断し、どれだけ批判を受けようとも構わないと金を投入して各国に依頼したのだ。
流石に形勢不利と判断したロパザラクネ。すぐに覚悟を決めて、行動に移す。
2人に糸を飛ばし、周囲の地面を隆起させて2人に襲い掛からせる。
それと同時にキリング・スパイダー達が反転して逃げ始めた。
「逃がさねぇぞ!」
「こっちのセリフです!」
ロパザラクネは『檻』を生み出して、2人を閉じ込める。
その隙に子供達を逃がす。
「ちぃ!?」
「邪魔」
ワリードは舌打ちすると、ヴァギが檻に向かってナイフを投げる。
刃先が檻に触れた瞬間、ナイフと檻が砕ける。
「な!?」
「【相殺】。私のもう1つの切り札」
「やるねぇ!」
「くっ!?」
ロパザラクネは身を翻して、森の中へ逃げ込む。
しかし、突如右腕3本と右脚2本が吹き飛ぶ。
「っ!?」
「俺から逃げれると思ってんのか?俺に速さで勝てる奴はいねぇよ」
いつの間にかワリードが槍を構えて横にいた。
(【瞬動】…!?障害物も無駄ですか…!しかし!!)
ロパザラクネはすぐさま再生し、再び森の中を走り出す。
「再生持ちかよ…!でも逃げれねぇって……!っ!ちぃ!糸かよ!」
木々の間に糸を張り巡らせており、行動を制限された。
「邪魔」
そこにヴァギが追い付いてきて、腕を振るう。
ボォアアア!!
目の前の森を一気に燃やし尽くす。糸も燃え散る。
ロパザラクネは全力で走り、炎に追いつかれる前に遺跡に飛び込んだ。
「……遺跡か?」
「多分。ちょっと面倒」
「でも、行かねぇとなぁ。あそこが巣だろ」
2人は慎重にされど大胆に遺跡に入り、突き進む。
ヴァギが炎を遺跡中に放ち、卵や巣を燃やしていく。
2人は地下へと進む道を見つけて進む。
その奥にロパザラクネは煤だらけで立っていた。
「諦めな。もう逃げ場はねぇ。上に行こうが此奴の炎で燃やされるだけだ」
「終わり」
「……まだですよ!」
飛び掛かるロパザラクネ。
それを2人は呆れた目でそれを眺め、ヴァギが炎を放つ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
ロパザラクネは全身が火に包まれながら後ろに吹き飛び、壁に叩きつけられる。そのまま地面に崩れる。
炎が消えるも、もはや全身黒焦げで腕も右1本しか残っておらず、脚もボロボロだった。
「ぐぅ……!お……のれ…!?」
再生しようとするが、上手く力が出ない。
「無駄。私の炎は魔力も焼く」
「っ!?……ぐぅ。我が……神よ……申し訳…ありませ…ん」
2人は諦めたのかと警戒を弱める。
それが油断を呼ぶ。
「我が命と……引き換えに……魔王を……復活させます!!」
「「っ!?」」
残った魔力を放出し、地面に魔力を流す。
すると、地下室の地面一杯に魔法陣のような紋様が現れる。
「っ!?マジかよ!?」
「ダメ!燃やしても封印ごと燃える!」
「ざまぁ……」
慌てる2人を見て、ロパザラクネは笑いながら息絶える。そして、砂のように崩れる。
部屋の中心にヒビが入る。
2人は入り口まで下がる。
「おいおい!?割に合わねぇぞ!」
「追加をもらう」
ブオオォ
「「っ!?」」
愚痴っている2人の耳に声が響く。それに構える2人。
すると、ヒビが走っている部分から腕が生えてくる。続けてさらにもう1本。
そして、体が現れる。
「っ!?うえぇ!?」
「……醜悪」
現れたのは、肉の塊だった。縦にも横にも4mほどの巨体の男。スキンヘッドの頭だが、首は肉に埋もれている。服はブーメランパンツ1枚だが、肉が厚過ぎて履いているのかどうかも分からない。
汗をかき始めて、全身がネチョネチョし始める。
「ぶふふぅ。ん~~?ここぉどこだあぁ?」
男は頭からダラダラと汗を流して、周りを見る。
そして、2人に目を向ける。
「誰だぁ?お前らぁ?」
「……これが魔王だってか?」
「分からない。……先手必勝!」
「ぶあああ!?」
ヴァギが炎を生み出し、魔王を燃やす。
しかし、
「あつぅいぞぉ?なにするんだぁ~」
「な!?」
「嘘……」
魔王は火傷1つ負うことなく、腕を振って炎を消す。それと一緒に汗がばら撒かれ、周囲に悪臭が漂う。
「ぐぅ!?ダメだ!密閉で戦うのは不味い!一度出るぞ!」
「……ダメ。こいつを外に出せない。私がここで燃やし続ける。あなたは脱出して外に知らせて」
「本気か!?」
「少しでも魔力を燃やす。早く行って」
ヴァギはワリードをまっすぐ見て、告げる。
ワリードは顔を顰めてガシガシと頭を掻く。
「クソ!直ぐに戻ってくっからな!!」
そう言って高速で走っていくワリード。
それを見送ってヴァギは魔王を見る。
「お前ぇ~。おでにぃなんで攻撃したぁ?」
「魔王だから」
そう言ってさらに炎で燃やす。しかし、また消されてしまう。
「なんで……!?」
「効くかぁ」
「くぅ!」
ドチャ!ドチャ!と近づいてくる魔王。炎を飛ばしながら、部屋を走り回るヴァギ。
魔王を汗を飛ばしながら、ゆっくりとヴァギを追う。
しばらくすると、ヴァギは炎が弱まってくるのを感じた。
「はぁ。はぁ。なんで……?まだ魔力は保つはず……」
魔力は半分も使っていないはず。なのに、力が出せなくなっている。
疑問に思うが魔王が迫ってくることで、思考を切り替えざるをえなくなる。
そこからまた10分ほどすると、
「!?」
急に足から力が抜けて、片膝を着いてしまう。炎もついにチョロ火程度になった。頭もボォ~っとして考えがまとまらない。
「……な?」
「ぶふふぅ♪おでのぉ汗の臭いぃを吸っただろぉ。おでの汗はぁ相手を麻痺らせるぅ。体もぉ思考もぉスキルもぉ」
「っ!?」
目を見開くヴァギ。炎で汗が気化してそれを吸ってしまったのだ。
「ぶふふぅ。お前ぇ美味そうだなぁ」
「ひぃ……!?」
ドチャ!ドチャ!と近づいてくる。
ヴァギは後ろにずり下がろうとするが、力が入らない。
ついに目の前まで魔王が来た。すると、魔王から強烈な異臭がしてヴァギは意識が飛びかけてしまう。
「うぅ……」
「ぶふふぅ。いただきますぅ」
魔王はヴァギを掴み上げる。ヴァギは意識を飛ばさないようにするだけで精一杯で抵抗は出来ない。
すると、魔王はヴァギを掴んだまま、ヴァギの頭を腹の脂肪に頭から突っ込む。
「!?!?!?!?」
「ぶふふぅ」
ヴァギは声も出せず、力の限り両足をバタつかせる。
しかし、体はゆっくりと中にめり込んでいき、1分程でヴァギの足はダランと垂れ下がり、股間から黄色い水が脚を伝わり、地面に水たまりを作る。
それを気にすることなく、どんどんヴァギを飲み込んでいく腹。
そして遂に全身が飲み込まれた。
「ぶふふぅ。そう言えばぁお昼寝中にぃ封印されたんだっけぇ。ここは嫌だなぁ。外行こぉ」
魔王は壁に向かい、歩いていく。
壁にぶつかるかと思われたが、壁が水面の様に波打ち、魔王はそこに潜って消えていった。
ワリードは近くに陣を張っていた聖神教に報告し、急いで戻る。
しかし、そこにはもう魔王もヴァギの姿もなかった。
【ペッファ王国】。
メヂュバに取り込まれて、言われるがままに【クルダソス王国】に戦争を仕掛けた。
「やれやれだわ。まさか簡単に死んでいくなんて、やっぱり人間なんて使い捨てよね」
魅了した男達は全員兵士として送り込んだが、まさか1つの街も落とせずに全滅していった。
母体にした女達も20体ほど子供を産んだら死んだ。
ほとんどの人間がこの国から消えていた。
「困ったわねぇ。流石にまだ子供達を戦いに出すのは早いわ」
まだ子供達は成長しきっていない。
まだ大蛇レベルだ。冒険者には敵わない。
「っ!?これは!?子供達よ!!この国を捨てて自分達で生きなさい!!」
メヂュバは突如、城の近くに現れた巨大な魔力に最悪を想定して指示を出す。
そして、魔力の元へと向かう。
おそらく逃げても意味はない。
バルコニーから城門を覗くと、城門の上に黒いローブを着て、頭にフードを被った者が立っていた。
「手加減はしないわ」
メヂュバは魔力を解放する。髪の毛が騒めき、本物の蛇になる。体も大きくなり、下半身は大蛇になる。
「くひひひっ。これはこれは。大仕事だねぇ」
「何者か?」
「くひひひっ。【影の大賢者】コペテパ」
「大賢者……!?」
コペテパはフードを脱ぐ。現れたのは茶髪のダークエルフの男。丸眼鏡をかけており、顔も痩せている。
「全く、大掛かりなことをしてくれましたなぁ。おかげで駆り出されました。くひひひっ」
「気づいていたと?」
「いえいえ。ただあまりにも兵士達が異様で、諜報員達もそれに取り込まれていたということでただ事ではないかも、と怪しみましてねぇ。そこで私が送り込まれたんですよぉ。くひひひっ」
その可能性は考えていたが、まさか大賢者が送り込まれるとは思っていなかった。
ただの賢者や勇者であれば、まだ勝てる可能性があった。
「あなたは戦闘タイプではないと考えますねぇ。投降していただけませんか?」
「断るに決まっている!!」
髪の蛇達を伸ばし、襲わせる。
しかし、
「【影口】」
コペテパは空中に指で円を描くと、そこに黒い円が生まれ、大きくなっていく。
そこに蛇達が飲み込まれていく。
「!?」
メヂュバはすぐに髪を引き戻すも、円に飲み込まれた部分は消滅していた。
「くぅ!!」
しかし、すぐさま再生する。
それを見て、コペテパは顎をさする。
「うーん。これでは時間が掛かりそうですねぇ」
「噴きまくれ!!」
「おっとぉ!?」
蛇達から炎や氷、風など様々な属性攻撃がコペテパに襲い掛かる。
コペテパは影に潜って躱す。
「くそ!?」
(なんで魅了されないの!?)
メヂュバは先ほどから【魅了】を放っていたが、効いている様子はない。
「私には【魅力】や【暗示】は効かないのですよ。【影】のおかげでね」
「っ!?」
直ぐ近くから声がする。
目を向けるが、
「【影槍】」
「ぐふっ!?……ごぼぉ…!」
胸に黒くて太い槍が突き刺さる。
口から血を吐くメヂュバ。抜こうと槍を掴むが、その手も槍に飲み込まれて消滅する。
「っ!?」
「もう終わりですよ。影に入ったものは、ただ飲み込まれるだけです」
コペテパが近づいてくる。
それを血を垂らしながら睨むメヂュバ。
「刺さったままなら再生も出来ないでしょう。あとは死ぬだけです」
「……おのれ…ぎゃああああああ!?」
全身に黒い槍が刺さり、絶叫するメヂュバ。
そして、そのまま倒れ伏す。
コペテパはそれを見てため息を吐く。
「やれやれ。疲れますねぇ。っ!?」
ため息を吐くと、メヂュバの体が突如膨れ上がる。
「く!?」
コペテパは影へと飛び込もうとする。
その瞬間、メヂュバの体が爆発し、城を吹き飛ばす。
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!危なかった……右手を持っていかれましたか」
コペテパは城から大分離れた森の中に逃れていた。
しかし、コペテパの右腕は肘から先が失われていた。それに眼鏡も割れて、服も体もボロボロだった。影に逃げ込んだものの、まだ体が入り切っていなかったため爆発も影に入り込んできたのだ。
「これは……治療を手配させないといけませんねぇ。本当に……厄介ですねぇ。しばらくは研究は止まったままですかね」
また影に沈んでいくコペテパ。
こうして【大勇者】【大賢者】はナオに喧嘩を売ったのだった。
ありがとうございました。
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