新しい目的
よろしくお願いします。
ふむ。全員問題なく勝てたね。
全員を転移させると、ラクミルが飛び付いてきて、顔をスリスリとしてきた。
まぁ、頑張ったのは事実だからね。頭を撫でてあげよう。
「皆、お疲れ様。よくやったね」
「ナオ様の奴隷として当然です!」
「だねぇ」
「うん♪!」
ルティエラとシフラは当然という表情をしているが、少し顔を赤らめて足をモジモジとしている。
可愛い奴らだな。
「ところで天使はどうしたのですか?」
「ん?もちろん捕まえたよ。お前達が戦っている間に色々面白いことが分かってね」
「面白いこと?」
僕は魔王達との繋がりについて話す。
魔王達が全員記憶を思い出していることに驚いたが、父と慕っていることに安堵するシフラ達。
「なるほど。あの森を落としたのですか。だからエルフがこの戦いに参加してきたと」
「だろうね。魔王には勝てそうにないから、それを世に放った悪魔を殺そうってことだったんだろうね」
「馬鹿だねぇ」
「そうだね」
無駄死だよね。どうでもいいけど。
「さって、これからどうしようかなぁ」
「これでこの国の迷宮は全部ですね」
「他の国の迷宮を目指す…にしてもつまらなそうだねぇ」
「そうなんだよね。力も大分ついたから焦る必要もないし」
核を4つ取り込んだけど、もうあまり力の上昇は感じない。
まぁ、当然だろうけど。
そうだなぁ。……手駒造りでも練習しようかな。
「いつも天使が手に入るわけでもないしな。オートマタやホムンクルスの作り方でも覚えようか」
「魔王達の記憶にはないのですか?」
「ゴーレムはあるんだけどね。他のは無い。知識系スキルが弱いからなぁ。やっぱり調べたりしないとダメだね」
「まぁ、知らないことが分かるって【全知】位だよねぇ」
「そういうこと」
「ということは……賢者大国の【グラフィレオラ】でしょうか」
「だねぇ」
大国が1つ。【グラフィレオラ賢国】。
【クルダソス王国】から北東に4つほど小国を挟んだ位置にある国で、スキルの検証や魔道具の開発・改良、そして命に関わる禁忌の情報を管理している国だ。
この国は【賢者】達によって治められており、貴族や王族がいない。そのため、議会制で政治が行われている。有名な学院や研究所などもあり、中立的立場であるため、各国の禁忌や機密をまとめて封印することで各国の侵略を防いでいる。
封印から取り出すためには、議員を務めている賢者全員がいなければ解くことが出来ないため賄賂などもあまり役に立たないのだ。
賢者の多くは研究一筋で変人が多くて、1人1人交渉すると何十年かかるか分からない。
ホムンクルスや不老不死を人工的に作るのは禁忌とされているため、おそらく情報はそこにあると考えられる。
「面白そうだね。そこに行こうか」
「はい」
「はいよ」
「わ~い♪」
「分かってんのかねぇ?」
「さあ?」
「ところでナオ様」
「ん?」
「そろそろその者を紹介して頂きたいのですが」
ルティエラが僕の後ろに立っている者に指差す。
おそらく作ったのだろうが、どういう存在なのかは聞きたい。
「あぁ、ごめん。こいつはヒミルトル。捕まえた天使長とマルフェルからもらったエルフの半分、11体を混ぜ合わせて作った吸血鬼の異王だよ。力はマルフェル達よりも上かもね」
「……吸血鬼?」
「うん」
「吸血鬼の女ってこんなに筋肉質なのかい?」
「さぁ?」
僕が作ったのは吸血鬼の女だった。
ただし、イメージにあるような白い肌に儚げな女性ではない。
身長は190cmほどの長身で、褐色の肌に鍛えられた筋肉と女性の豊かな曲線を描く身体つきをしている美女だった。白銀の髪を一つ結びの三つ編みで纏めており、両目は黄色に輝く。胸もEカップほどもある。
服装も赤いビキニに濃紺のガーターレギンス、そしてその上から黒のロングコートを着ている。
女マフィアというイメージがピッタリだ。
ヒミルトルは腕を組んで、目を瞑って静かに立っている。
「まぁ、ある程度知識は与えたから、好きに動いてもらおうと思ってるよ」
「記憶はどうするんだい?」
「諦めた。どうしようもないしね」
そう言って一同は迷宮の外に転移する。
そして僕はヒミルトルに声を掛ける。
「じゃ、そう言うことで好きに動いていいよ。まぁ、他の魔王達に喧嘩は売らないようにね」
「……承知した。失礼する。父上」
静かに頷くと、背中に4枚の赤い翼が生まれて飛び上がる。
そして、空へと飛び立っていく。
「じゃあ、僕達も行こうか」
「「はい」」
僕達は馬車に乗り込んで、国境を目指す。
その日の夕暮れ。
ヒミルトルは【コーロット】にいた。
「あー♡あー♡きもちぃ♡吸ってくださいませぇ♡もっとぉ♡ぜんぶぅ♡あぁ♡」
「ふん。やはり虫けらの血は飲む気にもならん」
「ふあ♡!うあ!?あぁ♡あ♡もっとぉ♡」
「ちっ。欲情だけは無駄に多い」
ヒミルトルはある一軒家で女の首筋に噛みついて、血を吸っていた。
吸われた女は瞳を淀ませてトロンと蕩けた顔でそれを喜び、さらに飲めと促す。
しかし、ヒミルトルはその血の味に満足出来ず、ポイっと床に投げ捨てる。
女は床に倒れ込むも、まだ蕩けていた。
顔に苛立ちを浮かべて、それを見下すヒミルトル。
リビングにあった椅子に腰かけ、脚を組み、頬杖をつく。
「やはり父上の血を超えることなど虫けらには夢のまた夢…か」
ヒミルトルは生まれた直後にナオの血を吸った。その味は余りにも極上過ぎて絶頂し続けた。
最初に知った味がそれだったのは酷過ぎると、内心ヒミルトルはナオを恨んだ。正直、あんな弱い女子供を侍らせるなら自分も加えて欲しかった。
ナオの血が飲めないのは苦痛だ。
「この八つ当たりはさせてもらうぞ。虫けら共」
ヒミルトルは床に這っている8人ほどのヒューマンや獣人を見て、吐き捨てる。
男女入り乱れており、中には5歳くらいの少女もいる。その全員が首筋に噛み傷があり、蕩けた表情をして悶えていた。
街に入り込んですぐに近くにいたヒューマンを【魅了】し、家に案内させた。その途中に出会った全員に【魅了】を掛け、家に連れ込んで血を吸ってみた。
しかし、やはりどれも気に入らなかった。
「血じゃなくても普通の食事で賄えるのは朗報か。……メヂュバのように国を構えるのが常套か?それは面倒だな。何処かの貴族程度で十分か。屋敷を作らせればいいしな」
方針を決めたヒミルトル。
その時、倒れていた8人がビクン!と跳ねてゆっくりと起き上がる。
「ウアアアァァ……」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「おおごあお」
「ギャ。ギャ。ギャ」
全員が目を赤く血走らせて、口から涎を垂らしている。犬歯も長くなり、爪も伸びている。
「……やはり最下級の屍鬼しか出来んか。魔力量が高くなければ駄目だな」
天使長の体とナオの力で作られたヒミルトルは神祖級の吸血鬼だ。
噛みつかれたものを眷属にすることが出来る。最下級が屍鬼、下級がワーウルフ、中級がグール、上級が吸血鬼、最上級が真祖の吸血鬼とダンピールだ。
上級になればなるほど作る際には素体の魔力が必要になる。
ドンドンドンドンドン!!!
『おい!!ベッサ!!ここに俺の子供が来てるって聞いたぞ!!何してるんだ!!出てこい!!』
「ふん。……いや、選別にはちょうどいいか。行け。食い荒らしてこい」
男は遊びに出かけて帰ってこない子供を探していた。すると、近所の人間が『この家に入っていくのを見た』と言ったのだ。
「おい!!いないふりすんな!!明かりが付いてるのはバレてるぞ!!」
男はどんどん怒りが沸き上がってきながら扉を叩く。
周囲の人間も様子を窺っていく。
ガチャ
鍵が開いた。
男は扉を開けて乗り込もうとする。
「ベッサ!!てめぇ!!な!?なにをギャアアアアアアアアアア!?」
『っ!?』
扉を開けた瞬間、中から誰かが飛び出てきて男に噛みつく。ブチブチ!!と肉を千切り喰らう姿に様子を見ていた全員が固まる。
しかし、家からさらに異常な様子の者達が飛び出してきて人々を襲い始める。
「うわああ!?来るな!ぐぅ!?ひぃ!?やめア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
「お!?お前は!?どうしたんだよ!!俺だ!わかんねぇのか!?やめろやめろ!ぐええ!?ごあ!?ぶぶ!!」
「やめてぇ!!いやあああ!?ぎゃう!?あ!……あおが!?」
「うわあああああ!?僕だよマジちゃん!!どうしたの!?やめて!!こないで!?ままぁ!ぱぱぁ!!まま゛ぎゅえ!?あ…え…?いぎぎゃああああ!?」
一瞬で恐怖に包まれる街。しかし、絶望はさらに増える。
食われた者達がビクビクと震えて起き上がり始めたのだ。同じように目を血走らせて。腕を食われたはずなのに、なんと傷口がボオボゴ!と膨れ上がったと思ったら腕が生えてきたのだ。
他の者達も食われた箇所が再生し、人間を襲い始める。
首が胴体と離れた者も再生され、前後逆になったりして起き上がる。
「逃げろぉ!!」
「冒険者!!衛兵!!何してんだぁ!!さっさと殺せよぉ!!」
「くそぉ!!なんだよこの数は!?斬っても死なねぇ!!」
「燃やしても再生しながら歩いてる!?だめ!再生を止めないと燃やしきれないわ!!」
スキルを使える者達が応戦するも、数が多く再生能力の高さに殺しきれずにいた。
そこに突如竜巻が発生する。竜巻は屍鬼達を細かく斬り裂いていった。
「今よ!小さい肉片なら燃やせるわ!!」
「っ!?はい!!」
「埋めちまえ!!」
響いた声にすぐさま冒険者達がスキルで肉片を燃やしたり、土で埋めていった。
しかし、屍鬼の数はまだまだいる。
竜巻を生み出したのは赤髪ツインテールの女性だった。
「繁殖が早すぎるわ……!」
「ここ以外でも出現しているぞ!!」
「まだまだいくわよ!!」
さらに竜巻を生み出して屍鬼を斬り裂いていく。
2本3本と生み出して見える範囲で倒すのを確認する女性。
「他の場所に向かうわ!避難はお願い!」
「分かったわ!」
女性は他の場所に向かうために走り出した。
後ろには仲間も続く。
「なんでこんなことに!?」
「分かったら苦労しないわよ!とりあえず倒さないと!」
女性達は小路を通り過ぎようとした瞬間、周りの景色が歪んだ。
「っ!?」
女性は足を止めて構えると、周りの景色が建物の屋上に変わっていた。
「これは……?」
「お前はいい素体になりそうだな」
「!?」
後ろから声が聞こえた。
振り向きながらスキルを発動しようとするが、それは敵わなかった。
体が固まって動かなくなり、スキルが発動出来なかった。
「なん……で…?」
「ここは私の領域だ。お前程度では動けん」
女性の横から現れたのはヒミルトルだ。
「お……まえ…が…?」
「そうだ」
ゆっくりと近づいてくるヒミルトル。
女性は何とか動こうとするが全く動くことが出来ず、冷や汗が流れる。
「諦めろ。もうお前は私の虫籠の中だ」
ヒミルトルは女性の前に立った。
そして、女性はヒミルトルと目を合わせた瞬間、意識を失った。
「どこ行ったんだ!?」
「急に消えたわよ!?」
「っ!?やばい!来たぜ!」
女性の仲間達は、突然消えたことに慌てるが屍鬼が近づいてきたため、その場を離れた。
その後も探したがどこにも姿はなく、さらに他にも姿が突然消えた冒険者が数名いたことを知った。その全員が屍鬼討伐に貢献していた実力者だった。
「ちきしょう!このままじゃやべぇぞ!!」
「どこに行ったんだ!?」
「知るわけないでしょ!!」
屍鬼はどんどん増えていく。冒険者や衛兵達もたくさん屍鬼になって手に負えなくなってきた。
「くそぉ!!街を出るぞ!!もう限界だ!!」
「そんな!?」
「全滅する方がまずいだろうが!!」
「走れ!!いいか!!誰が食われていても走り続けろ!!他の街に辿り着いて知らせないともっと被害が出る!!」
冒険者達は周りの助けを求める声を無視して、一気に街の外へと走り抜ける。
何人かやられていくが、なんとか門を抜ける。それでも走り続けて屍鬼達に襲われない様にする。
ヒミルトルはそれを腕を組みながら、外壁の高台から見送っていた。
「どうだ?自分達の仲間だった連中が無様に逃げていく姿は」
彼女の後ろには4人の男女が片膝を着いて跪いていた。
その中には竜巻を生み出していた女性もいた。しかし、その姿は変わっていた。
赤かった髪は白くなり、肌も褐色になっていた。瞳も黄色に変わっていた。
「は。情けなくて堪りません。……あのようなクズ共を仲間だと思っていたなど」
ヒミルトルは女性の方に振り返り、視線を送る。
「そうだろう。しかし、それが虫だ。弱いくせに無駄に群れる。なのに自分達が強いと思い込んでいる。何匹死んだところで世界も神も特に嘆かない。だが、お前達は変わった。私の手によって『人』になったのだ。どうだ?アッジィ。今の気分は」
「最高で御座います。ヒミルトル様に『人』にさせて頂いた事、幸せでしかありません」
女性、アッジィはヒミルトルの顔を見て、光悦の表情で語る。
「まさか2人も吸血鬼になるとはな。お前達なら真祖になることも可能だろう」
「「は!ありがとうございます!」」
アッジィと隣にいた男が礼を述べる。
男はフラサールといい、アッジィと同じく白髪に褐色肌に赤い瞳をしている。男は【炎】を操って屍鬼を燃やしていたところにヒミルトルに捕まり、眷属となった。
「アッジィ、フラサール、ロトリア、行くぞ。アエバ、お前はこの街に留まり、攻めてきた虫共に暴れてこい」
「「「は!」」」
「がぁ!」
ロトリアは黒髪に灰色の肌をし、耳が長い女だ。彼女はグールとなった。
アエバは虎のような頭に筋肉が膨れ上がったような体をしていた。本来はやせ細った猫獣人だったが、グールになったことで真逆の体になった。ただし、性格も変化したようで言葉がまともに話せなくなった。
ヒミルトルは翼を広げて空へと浮かぶ。アッジィ、フラサール、ロトリアも空に浮かび上がる。ロトリアに関してはヒミルトルが浮かばせている。
そして、飛び上がり街を離れていく。
アエバはそれを見送り、街へと降りていく。
後日、討伐体が街へと送り込まれ、大きな犠牲を払って屍鬼を全滅させる。その中にグールがいたことでグールが犯人であると思われ、それ以上の捜索は行われなかった。
こうしてまた【クルダソス王国】は大打撃を受けた。
【グラフィレオラ】に向けて出発して3日。
ナオ達はゆったりと馬車で進んでいた。
「っ!!」
「どうされました?」
横になっていたナオが急に起き上がる。
膝枕をしていたルティエラが首を傾げる。
「……メヂュバとロパザラクネが……死んだ」
ありがとうございました。
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