てんせいが出来るみたい
よろしくお願いします。
僕はどんよりした顔で骸骨の後ろをついて歩く。
ちなみに骸骨の名前はボンドというそうだ。
似合ってると思う。
「俺がこんな姿なのは【スキル】のせいだな。【アンデッド】っていうんだ」
この世界の力は魔法ではなく、【スキル】と呼ばれるものだ。
基本1人に1つ。
火、水、土、風、光、影、剣、調薬、鑑定、牢獄、獣化など自然現象や特殊能力を操ることが出来る。
同じ能力でも扱える程度は、魔力量によって変わるそうだ。
中には2つ以上持つ者もいる。
称号のようなスキルもある。
勇者、賢者、聖女、魔王、聖母、処刑人などだ。
そして、ボンドのスキルは称号系に属するそうだ。
【アンデッド】は名前の通り、自分をアンデッドにするもの。
生前はまったく使えなかったそうだ。
冒険中に死んで、墓に埋めようとされていたら、急に目覚めたそうだ。
周りは慌てるも、殺しても殺しても蘇るので、スキルの力だと判明したそうだ。
骨は砕けても他の骨を当てると再構成されるし、ほっといても生えてくるそうだ。
ただし、逆にいつ死ぬか分からないそうだ。
聞いたら、骨になってもう50年だそうだ。
「まぁ。おかげでもう町の連中からは怖がられなくなったからいいんだけどな」
歩いて2時間ほどで町についた。
町は小さな外壁に囲まれており、町の中心に大きな神殿がある。
昔、ここは悪魔を封じた場所があるそうで、監視のためにその上に神殿を立てたと伝説があるらしい。
町の名前は【ラカラン】。
最初に神殿長となった者の名前らしい。
ボンドは門番に僕のことを説明し、冒険者ギルドに案内されることになった。
黒髪は珍しいのか。
それとも、妙に湿っている女だからなのか、妙に視線を感じる。
どっちもか。
胸に視線を感じる!
ちなみに僕の胸(言ってて悲しくなる!)は釣り鐘型の巨乳だ。
たぶん、D……はある。
シャツ2枚来てたから透けてないのが幸いだ。
自分が見るならいいけど、見られるって嫌だな!
今まであった巨乳美女の皆さん!ごめん!
今なら土下座も厭わない!!
神殿近くに冒険者ギルドはあった。
中は酒場と併設されており、人で賑わっていた。
おぉう。目線がこえぇ!
やめろ!女を見る目で見るな!
「おぅい。マリラ」
「はい。ボンドさん。おかえりなさい」
ボンドは受付の中にいた茶髪の女性に声をかけた。
綺麗な人だな。
「あら?その方は?」
「迷い人だ」
「………初めて見ました」
「俺もだよ。でも、落ちてくるところ見たからな。間違いねぇよ。とりあえず、登録と鑑定してやってくれや」
マリラはボンドの言葉に頷く。
「なるほど。では、個室のほうがよさそうですね。ボンドさんもお願いします」
「あいよ」
僕は個室に案内された。
「では、先に登録を済ませてしまいましょう。迷い人の方は無料ですので」
そう言って、カードのようなものを渡してくる。
これが定番のギルドカードか!
「この針で少し血を出して、カードに垂らしてください。それで完了です」
「簡単ですね」
「これはあくまで身分証ですからね」
針で人差し指から血を出して、カードに垂らす。
すると、血がカードに吸い込まれ、表面に文字が浮かび上がる。
僕はカードを確認する。
________________________________________________
Name:NAO KAJISHIMA
Age:18
Species:Human
Skill:【闇】【悪魔】【転性】
________________________________________________
スキルが3つもある!?
しかも、なんか禍禍しいな!?
スキル名を把握すると、使い方が頭に浮かんできた。
「スキルは確認出来ましたか?」
「はい」
「スキルは基本秘匿してくださいね。バラすなら何があっても自己責任となりますので、ご注意してください」
「は、はい」
「ところで、女になった原因も分かったのか?」
「へ?」
マリラはポカンとする。
それを無視して、僕はもう一度確認する。
【転性】が怪しいですね!というか、そのままですもんね!
スキルを発動する。
すると、胸が引っ込み、髪も戻る。
象徴もある!おかえり!
「うえぇぇ!?」
「おー……おぉ?顔とか腰つきがあんまり変わらねぇぞ?」
「うるさいです」
ボンドは首を傾げるも、切り捨てる。
僕だって困ってるんだい。
改めてステータスを見る。
【闇】が【鋼】に、【悪魔】が【鬼】に変わっていた。
「男と女でスキルが変わりました」
「言うんじゃねぇよ」
ボンドに怒られた。
しまった。
注意しないと。
マリラにも黙ってもらうようにお願いして、できる限りここを利用する際はマリラに対応してもらうようにした。
「可愛い子は歓迎です♪弟が出来たみたいですね」
嬉しくないんだ!
よく言われます!!
続いて、マリラが出してきたのは水晶の玉だ。
「これで魔力量を図ります。触ってみてください」
言われたままに触る。
すると、玉が銀色に光る。
「銀級ですか。上から4番目ですが、この町には他に1人しかしないほどの魔力量ですよ!」
ちなみに虹>黒>金>銀>青>緑>紫>オレンジ>赤>茶色>無色だそうだ。
赤くらいが普通らしい。
マリラは興奮する。
この町では2人目か。
これも黙っておくべきか。
その後は簡単にギルドの説明を受けて、迷い人には支度金として銀貨10枚渡される。
銀貨4枚で一般家庭1か月分の生活費なので、かなりもらっている。
「宿とか利用すると、そんなに持ちませんよ。服とか装備も買わないといけないのに」
「あぁ。そうですよね」
武器も一応買っとくべきか。
スキルでいけそうだけど、護身用には持っとくべきだな。
「男の子でも女の子でも可愛いんですから、特に注意してください。悔しいですが、たまに人攫いもあるんです」
奴隷にされるって訳か。
あれ?僕って結構上玉?
「お前なら王族でも買うんじゃねぇか?それだったらいい暮らしが出来るかもな」
全く嬉しくない!!
……綺麗な王女様なら、行くかもしれんが。
とりあえず今日は宿を紹介してもらった。
【骨の寝床】というちょっとホラーチックな名前の宿だ。
一週間で銀貨2枚。
確かに直ぐに尽きてしまうな。
飯は上手かった。
部屋に案内されて横になる。
とりあえず、明日は服屋と武具屋だな。
その後に戦いの練習もしないと。
僕は右腕を挙げて【鋼】スキルを発動する。
右手から砂鉄の様なものが生まれる。
刀をイメージすると、イメージ通りの形に固まる。
おぉ!!
刃紋もないし、柄も何もかも鉄で出来ているから切れ味や頑丈性も本物とは違うだろうけど。
それは練習次第だろう。
けど、武器には困らなさそうだ。
【鋼】スキルは魔力から鉄を生み出せるし、僕の魔力に触れた鉄を操ることが出来る。
外でどれくらい使えるかだな。
正直パニックになると上手く使える気はしない。
結局、ここはどこで、どんな世界なのか。
分からないままだ。
どうやって生きていくべきか。
僕は不安を抱えたまま、眠りについた。
起きて翌日。
ちなみにボンドは『ここからは自分で生きろや。』と言って、帰った。
服屋に行って、少し胸元に余裕がある服を数着買う。
もし女になって破れたら嫌だからね。
次は武具屋に行って、武器を見る。
ふと気になったので、剣に魔力を通す。
なんと、剣を構成している鉄の構成が分かってしまった。
(これを真似すれば武器できるんじゃ?)
そう思って、片っ端から武器に魔力を通し、解析していく。
中にはなんと刀があった。
店主に聞くと、
「昔の迷い人が使ってたらしいぜ。ただ死んだ後に誰もうまく使えなくて売られちまったけどな」
とのことだ。
流石に剣は安くても銀貨3枚だったので、ナイフを購入した。
ギルドに顔を出すと、マリラが声を掛けてくる。
「この依頼を受けてみませんか?」
依頼はこれまた定番の薬草集め。
見本が描いてある資料をもらい、指定された森へと向かう。
「そこなら危険な魔獣もいませんし、今はほとんど冒険者もいませんから」
と言われた。
どうやら練習は外でやれということらしい。
薬草は簡単に集まった。
少し多めに採集しておく。
スキルの練習で地面に魔力を通すと、土の中の鉄を操ることが出来た。
意外と応用力高いな。
【鬼】は筋力タイプと魔術タイプになれるみたいだ。
筋力タイプは体が大きくなり、皮膚が鋼のようになる。
不思議と服が破れないな。
魔力タイプは体は変わらないけど、魔力と火を操ることが出来た。
次は女になってみる。
【闇】は色んなものを吸い込み、吐き出したり、自分の力にすることもできるようだ。
【悪魔】は闇の力を強化出来、体は常時、闇を纏っている状態になる。
こっちは切り札だな。
女の方が強力なんてなぁ。
複雑だな。
街に戻り、歩いていると、
「あなたが迷い人の方ですか?」
声を掛けてきたのは、神父のような服装をして温和な笑みを浮かべている初老の男。
「あなたは?」
「私は神殿長をしております、ポティファと申します」
ポティファは丁寧に頭を下げる。
「はぁ。神殿長様がなぜ?」
「我が神殿を始めとする聖神教では迷い人の皆様の保護やサポートをさせて頂いております」
なるほど。
まぁ、良くある話だ。
けどそうなると、だ。
ボンドはなんでギルドに案内したかってことだ。
それを感じたのだろう。
ポティファは苦笑する。
「怪しいのは分かります。正直我々の保護より、ギルドで冒険者になる方が迷い人の皆様には性に合っているようでしてな」
「あぁ~」
それに納得してしまう。
確かに憧れてしまうだろうなぁ。
日本からならあまり宗教なんて縋らないだろうしなぁ。
「無理にとは言いません。ただ、知識などお困りのことがあったらお越しください」
「そうですね。近いうちにでも声を掛けさせていただきます」
知識か。
色々知りたいし、行ってみるかな。
レレリティリアについて分かるかも知れない。
「おぉ!そうですか!では、お待ちしてますぞ!」
嬉しそうに言って、去っていくポティファ。
僕もギルドに寄り、初依頼を終わらせて宿に戻る。
「これぞ……神の思し召しだ…!まさか生きている間に、ここに迷い人が来るとは!いよいよだ……。我らが悲願が叶う!」
ありがとうございました。