もう違うんだよ
よろしくお願いします。
ナオ達は【コーロット】に着いた。
ここは最北の街に行くための唯一の中継地点だ。
ここの迷宮はこの街から1日行ったところにある。
今回も宿は問題なく部屋を取れた。
「さて、今回は迷宮を真面目に攻略してみるか。まぁ、メインで動くのはルティエラ達だけど」
「私達ですか?」
「うん。ラクミルの経験を積ませたいしね」
「あぁ。なるほどね」
僕が出るとあっという間だしね。
最近、僕ばっかり戦ってるよね。まぁ、仕方ないけど。
ラクミルには圏を2つ作ってあげた。
【必中】【金剛】【再生】【帰還】【斬撃】【サイズ変換】の6個を付けている。
投げても手元にすぐに戻るようになっている。
猫のように動き回るラクミルには良い武器だろう。
渡したときはずっと目をキラキラさせて眺め続けていた。
「じゃ、頑張ろうね」
「はい!」
「うん!」
翌朝、迷宮に向かう前にギルドに顔を出す僕達。
正直、また絡まれそうなんだよねぇ。
「もう諦めてふっ飛ばせばいいんじゃないかい?」
「そうだね」
そうするか。
ルティエラが迷宮の情報を集めていると、ふと視線を感じたのでその方向を見る。
そこには布で顔を隠している冒険者がいた。
多分身体つきからすると、女っぽいんだけどなぁ。
でも、なんであんなに睨んでくる?
周りにも癖がありそうな冒険者がいる。
鑑定して、その名前を見て少し目を見開く。
そうか……生きてたのか。ペッツェ。
スキルの中に【直感】がある。
そうか。気づいたのか。僕がラカランを滅ぼした奴だってことに。
ふむ。僕が奈央だったことには気づいてないか。
あの日からずっと復讐のために生きてきたのかい?
それは……応えないといけないかな。
「どうしたんだい?」
「どうやら……また厄介ごとだ。何処で仕掛けてくるかな?」
「それはそれは」
シフラは呆れた顔をする。
ルティエラが戻ってきて、僕達は迷宮に向かって移動を始める。
ペッツェ達も付いてきている。
夜通し走って、迷宮まで一気に行く。
ペッツェ達も付いてきた。
ふむ。迷宮で仕掛けてくるか。
僕達は迷宮内に入っていく。
しばらく進むと、一気にペッツェ達が迫って来る。
足を止めて、顔をその方向に向ける。
「ちっ!気づいてやがったか」
「……悪魔なんだ。当然だ」
「女子供を従えていますか」
現れたのはペッツェと4人の冒険者。
槍を持つスキンヘッドの大男、弓を携える緑髪エルフの男、短剣を2本持っている青髪エルフの女、そして大剣2本を背負う茶髪の少年。
ペッツェはボウガンに剣を携えている。
「何の用だい?」
「【ラカラン】を覚えているか?」
随分と口調が変わったね。ペッツェ。
「もちろん」
「そうか。少しは救いがあるようだ。だが、後悔しろ」
ペッツェは指を鳴らす。
すると、グニャリと空間が歪む。
ふむ。分けられるか。
「このまま分かれるよ。頑張ってね。ヨハナ。敵がいたら倒せ。そして、僕、ルティエラ、シフラの誰かを探して指示に従え」
それだけを伝えると、返事を聞く前にバラバラにされる。
さて、どこに行くのかな?
飛ばされたのは、巨大な闘技場のような場所だった。
ふむ。迷宮内ではある。
というか、最下層だと?
「よく来たなぁ。悪魔さんよぉ」
現れたのは7mほどの巨人だった。大きな腰布を巻いて、上半身は裸だ。ハンマーを肩に担いでいる。
「ふむ。迷宮の主か。……半神か?」
「へぇ。気づきやがったか。流石だなぁ悪魔さん」
「罰か何かか?」
舌打ちする巨人。
「ちっ!そうだよ。ひでぇよな。言われた通り魔王を倒したらよ、街を1個守り切れなかったからってここに飛ばされたんだよ。まぁ、そこに神王の巫女がいたらしいからしょうがねぇけどよ」
哀れだな。
その後ろにペッツェが現れる。
「ふむ。神共の手引きか?」
「そうならよかったんだけどよ」
「天使様ですよ」
それに首を傾げる。
天使だったら神も知っているだろうに。
すると、2人の後ろに天使が現れた。
ふむ。4枚羽か。
「点数稼ぎか?知らせた方が良かったと思うがな」
「神は他の魔王に集中されている。貴様が解放した坩堝の魔王達にな。魔王達を解放しか出来なかった小物になど構うものか」
なるほど。そういう風に考えていたのか。
「自己紹介しておこう。我が名は天使長が1、リュガハミエル」
「俺はゴルガダアだ」
「復讐者ペッツェ」
天使も巨人も知らん名前だな。
「ここで終わりだ姑息な悪魔。世界を乱した罪を償うがいい!!」
「それだけか?」
「……なに?」
僕の言葉にリュガハミエルは顔を顰める。
「だから、お前達だけなのかって聞いてるんだよ。わざわざ分断したのに他の仲間はいないのか?」
「貴様など我らで十分だ!」
呆れてしまうな。なんで僕ほどの力もないのにそんなに傲慢になれるんだ?
神に従ってるからか?
「そういうわけだからよ。死ねやぁ!!」
ゴルガダアはハンマーを振りかぶって叩きつけてくる。
僕は抵抗せずに叩きつけられる。
「まだだぜぇ!俺は油断しねぇ!【震砕】!」
ハンマーが振動して、地面を砕く。
「まだまだぁ!【爆砕】!」
ドン!っと爆発する。
ハンマーを持ち上げると、今度はペッツェ達が追撃する。
「恨みを思い知れ。【リベンジ・バイト】」
「天の意思を知れ!」
ペッツェは黒いオーラを纏う矢を放ち、リュガハミエルは光の矢を大量に放つ。
それらが全てナオがいた場所に叩きつけられる。
「ははははは!!愚か者めが!」
「どうだかねぇ」
「…………」
煙が晴れていくと、そこには無傷のナオが立っていた。
「は!?」
「……無傷かよ」
「……【リベンジ・バイト】」
リュガハミエルとゴルガダアはナオを見て固まるが、ペッツェはそれがどうしたとばかりに追撃する。
「くどいね」
しかし、ナオに届く前にその攻撃が消える。
流石にそれを見て、目を見開くペッツェ。
「【復讐】スキルか。無駄なことを」
「……なんだと……!?」
「そのスキルはね、殺された者から死に際に復讐を頼まれるか、自身が直接被害に遭わなければ効果はない」
「……え?」
ペッツェは目を見開く。リュガハミエルも目を見開いて固まる。
「その天使から与えられたか。お前は僕から直接被害に遭っていないし、被害者にも会ってないだろう?だったらそれは何にもダメージはないよ」
「そんな……!?」
「多分、そのスキルに賭けたんだろうけどね。【直感】は『捜索』か?」
ペッツェとリュガハミエルは顔を青くする。
本当に哀れだな。終わらせよう。絶望と共に。
僕は女に変わる。
それを見て3人は目を見開く。しかし、ペッツェだけは違う意味でだが。
「ナオ……ちゃん…?」
「そうよ。ペッツェ」
「うそ……嘘嘘嘘嘘!?なんで!?なんでナオちゃんが!?」
「教えてあげるわ。真実をね」
私はあの日に何が起こったのかを話す。
ペッツェはもちろんリュガハミエル達も目を見開いて固まる。
「坩堝の全ての魔王と……融合……?待て…。だったら今外にいる魔王達はなんだ!?」
「私が作った。いい出来でしょ?」
「ふざけるな!!」
「失礼ね。真面目に作ったわ」
「化け物め!」
「魔王よ」
すると、ゴルガダアが改めて攻撃してきた。
「融合した魔王だろうが何だろうが、ここで殺せばいいだろうが!!」
横振りでナオにハンマーを叩きつける。
しかし、それを片腕で受け止めるナオ。
「なぁ!?ぐぅ!!!ば……馬鹿な!?」
「あんたが弱いだけよ」
「ちぃ!!」
「悪いけど、あんたは後」
続けて振るおうとするゴルガダアを無視して、リュガハミエルの前に一瞬で移動するナオ。
「何逃げようとしてるのよ」
「決まっている!神にこのことを伝えなければ!」
「無駄だよ」
「な!?」
男に戻って、リュガハミエルを封印するナオ。
それを見て、慌てるゴルガダアとペッツェ。
「てめぇ!何してやがる!」
「何ってこいつで新しく魔王を作るのよ」
「!?ふざけんなよ!!」
「もうやめて!ナオちゃん!」
女に戻って、2人を見下ろすナオ。
ペッツェは昔の話し方に戻っている。
「もう違うのよ」
「え?」
「私はあんたが呼んでる『奈央』じゃないわ。私はマリラとボンドを殺して、ラカランを消した魔王よ」
「っ!?……でも!……でも……!」
「だったら、どきやがれ!」
「!?」
ペッツェは事実を受け入れられない。
そこにゴルガダアが迫る。
「しつこいわねぇ」
「てめぇみてぇな奴を野放しに出来るかよ!!」
「出来ないことは吠えない方がいいわよ?」
「どうだかなぁ!」
「うっさい」
ナオは蠅を払う様に腕を振るう。
一瞬でゴルガダアは跡形もなく消滅した。
それを見て、ペッツェは顔を白くして硬直する。
「分かった?もういないのよ。あんたの友人だった奴は」
「そんな…!?」
「で?どうすんの?復讐の続きは」
その言葉にペッツェは涙を流し始める。
それを見て、眉を顰めるナオ。
「……【死鎌】」
「あ」
ナオは黒い鎌を生み出す。
ペッツェはそれを見て、会った時の事を思い出す。
「やっぱり……ナオちゃん……」
「だから違うって。それに言っとくけどね?あの時の『奈央』も偽物よ」
「……え?」
「あの時の奈央は本当は『男』だったのよ。スキルで女になってただけ。あんたに付き合ってただけよ」
「う……そ……」
ペッツェは崩れ落ちて両膝を着く。
自分が知っている奈央すら偽物だった。
もうどうすればいいのか分からなくなってしまったペッツェ。
それに歩いて近づくナオ。
もはや視線は虚空を見ている。瞳も虚ろだ。
ペッツェの目の前に立ち、鎌を振り上げる。
「もう……分かんないよ……ナオちゃん……」
「そう。なら、終わらせてあげるわ。あんたを助けた鎌で。あんたの無意味な復讐と人生を」
鎌を振り下ろして、ペッツェの体を薙ぐ。
ペッツェは涙を流しながら、ゆっくりと体を2つに分けていく。
「さよなら。ペッツェ。来世はないけどね」
ペッツェの体を消滅させる。
さて、迷宮核を探しながら、あの子達を待ちましょうか。
結局、ここもまともに攻略できなかったわねぇ。
つまんないわ。
このストレスは天使長の改造にぶつけさせてもらうわ!
ありがとうございました。
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