私の実力?知らな~い
よろしくお願いします。
ヤブンハールが飛んでいくのを見送る私達。
「無事だった?」
「死ぬかと思ったよ!!」
「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」
「ルティエラだいじょうぶ?」
どうやらルティエラがスキルで冷気を押し返していたようだ。
頑張ったわねぇ。
まぁ、私が冷気を調節してたから、本当にただ寒いだけだったんだけどね。
「それで?あいつはなんだったんだい?」
「ヤブンハールっていう魔王よ。私が作った魔王でも簡単に負けるわね。今の所あいつに勝てるのは私か神王くらいじゃない?」
「そんな奴だったのですか!?」
「だから封印されてたのよ」
「なるほどねぇ」
さて、どう報告しようかしらね。
魔王が出たなんて言えないしねぇ。
「とりあえず、竜がいたって報告だけしましょうか」
「そうだねぇ」
「しかし……あれが魔王と神の戦いですか」
「参加できそうにないねぇ」
「出来たら褒めてあげるわ」
体を作り変えたくらいで神に勝てたら苦労しないわよ。
さて、とっとと戻りましょ。
その後は街に戻って、ギルドに報告する。
「なんか竜が見えたわ。しばらく行かないほうがいいわよ」
「……本当かい?やれやれ。なんで廃都なんて縄張りにするんだろうねぇ」
「氷竜なんじゃない?」
「あぁ~なるほどねぇ」
「とりあえず、廃都に行かなければいいんじゃない?」
「そうだね。注意促しとくよ」
依頼完了。……つまんないわ。
さっさと迷宮に行きましょ。
街を出ようとすると、後ろから声を掛けられた。
「あいや待たれよ!」
「ん?」
声を掛けてきたのは赤い鱗を持つ蜥蜴の顔をした男。
服装は下はズボンだが、上は和服だった。
背中には2本の槍を背負っている。
「拙者、竜人のアラダザと申す。先ほどのギルドでの会話、遠耳ながらに聞かせて頂いた」
「それが?」
「廃都におられた竜様の話を聞かせて頂きたい。拙者、里の長より旅立たれた竜様を探しておるのだ」
「だったら、廃都に行ったらいいじゃない。話を聞くまでもないわよ」
「いや、拙者の探している方かどうか見極めたいだけだ。そのお方は氷を扱っておられたのだな?」
「氷漬けの街にいたからそうじゃない?危なくて近づいてないわよ」
「そうか……そうであるな。かたじけない!」
そう言って走り出したアラダザ。
それを見送る私達。
「なんか、この後も会いそうね」
「そうですね」
「少し飛ばしましょうか」
「わーい♪」
「楽しそうだねぇ」
「ヨハナ。飛ばしなさい」
「はい」
馬車は半日も経たずに廃都の横を通り過ぎる。
おぉ~。めっちゃ速い。
「うっぷ。ちょ。止めて」
「ゆ、揺れすぎ……」
「あははは♪」
シフラとルティエラはダウン。ラクミルはキャッキャッと笑っている。
情けないわねぇ。スキルを使えばいいのに。
まぁ、気づくまでほっといてみましょうか。
これも訓練よ。
ここからはゆっくりと。
あの竜人もここまでは来ないでしょう。
そう思ってたんだけどねぇ。
「見つけたぞ!!」
「えぇ~」
馬車と並走するほどの速さで走ってくるアラダザ。
気持ち悪ぅ。
蜥蜴顔が猛スピードで迫ってきたら、そう思うわよ?
「貴様!!何が近づいていないだ!!竜と戦っておるではないか!!」
「あら。なんで分かったの?」
「貴様の魔力がプンプン匂ったわ!!」
「やだ変態」
「うるさい!!知っていることを洗い浚い吐いてもらうぞ!!」
そうして、2本の槍を振り回して構えるアラダザ。
ふむ。投げ槍かしら。
しかし、あいつ……『竜』って呼び捨てにしたわね。
まぁ、あいつもそう考えるべきよね。
アラダザは1本を投げてくる。
それを消滅させる。
アラダザは目を見開くも、すぐに残りの1本も構える。
「ふん!猪口才な!拙者の槍からは逃れられんぞ!!」
「じゃあ、先に潰すわ」
「なぁ!?」
投げようとした槍も消す。
それに驚くアラダザ。
「いつまで竜人のふりをしてるのよ。トレボニルアと戦ったって知ってるなら、さっさと本気で来なさい」
「っ!?ふん!!後悔するなよ!!」
アラダザは走りながら全身から火を噴き出して、巨大化する。
そして、赤い鱗をした竜に変化した。腕は太く、爪も鋭い。
「また竜かい!?」
「今度は火竜ですか!?」
「ヨハナ。このまま走りなさい。シフラ、ルティエラ。しばらく離れたら休んでなさい。ラクミルも大人しくしとくのよ」
そう言って馬車から飛び降りる私。
そして、脚に力を込めてジャンプし、廃都まで一気に飛ぶ。
ダン!!とヤブンハールが座っていた玉座の前に飛び降りて、私は玉座に座り脚を組む。
5分もせずにアラダザが飛んできて、建物を砕きながら降り立つ。
《覚悟せよ!ここで貴様は終わりぞ!!》
「あんたってトレボニルアとどんな関係なの?」
《叔父上を呼び捨てにするな!あの方は我ら竜の偉大なる長の一角であるぞ!》
「その長の体をあんたは踏みつぶして、溶かしたわよ?」
《っ!?…なんだと!?》
私の言葉にアラダザは目を見開き、下に目をやる。
そこには氷が溶けて水になっていたが、そこから確かに尊敬した叔父の魔力を感じてしまった。
「残念ねぇ。トレボニルアも。自分の甥に気づかれずに死体を辱められるなんて」
《……………》
私は嫌味で挑発するも、アラダザは下を見たまま反応しない。
ふむ?そんなにショックだったかしら。
そう考えながら首を捻る私。
《……刮目せよ。竜の絆を!!》
アラダザから魔力が噴き出す。
さらに、地面からも魔力が噴き出し、アラダザに巻き付き始める。
ふむ。あれはトレボニルアの魔力かしら?
《竜族には死んだ同胞の魔力を取り込み、己が階位を上げる秘術がある。叔父上もまた同胞へと魔力を残してくれていた!叔父上の無念!!拙者が背負わせてもらう!!》
アラダザの魔力と存在が爆発的に上昇する。
そして、アラダザから発せられている熱量も上がり、街の氷も玉座も溶け始めた。
私は玉座から離れて、近くの建物の屋根に降り立つ。
アラダザの周囲の建物は氷だけでなく、建物も溶け始めていた。
ふむ。トレボニルアの魔力であいつの秘めてた分も解き放たれたかしら。
《もはや拙者を止めれる者はおらん。後悔せよ女。拙者をここに連れてきたことをな》
「いやいや。一度来たのに気づかずにいた奴が何言ってんのよ。偉大な叔父の魔力は気づかないで私の魔力には気づいたって変態じゃない」
《黙れ!!》
アラダザは何やら格好つけていたが、私はそれをぶった切る。
それに怒鳴り返すが、私は全く意に介していない。
《確かに未熟だったことは認めよう!!しかし、もはや過去だ!!今の拙者は叔父上をも超えた!!このアラダザクアが叔父上の後を継ごうぞ!!》
なんか……余韻に浸ってるわねぇ。気持ち悪いわぁ。
聖剣を手に入れた子供勇者みたい。
私は呆れた目で見ている。
それに気づいたアラダザクアは馬鹿にされていると気づき、口を大きく開く。
それを見て、ナオは大きく飛ぶ。
アラダザクアの口からマグマのような炎が放たれる。炎が通った箇所はドロドロに溶けて地面も形を変えていく。
《ふん!どうだ!!拙者の炎は【溶炎】!あらゆるものを溶かし燃やす!!貴様如き矮小な存在が敵うと思うか!!》
「うっさい」
「ギャブオ!!?」
気分良く話している所に顔を思いっきり蹴り飛ばされて、顏から地面に倒れ込むアラダザクア。
何本か歯が宙を舞っている。
ナオは空中で身を翻しながら、建物の上に降りる。
《おのれぇ!!ヒューマン如きがぁ!!》
「蜥蜴如きが吠えるな」
「バボッ!?」
首を跳ね上げてナオを睨みつけるが、今度は顎にアッパーを叩き込まれる。
アラダザクアはひっくり返り、腹を露わにする。
「あら。私に服従してくれるの?」
《ふざけるな!!》
腕を振り抜いて空中で冗談を言うナオに向かって、起き上がりながら炎を吐き出す。
ナオはそれに飲み込まれたように見えた。
《ふははははは!!馬鹿めが!》
「だから、うっさい」
「ゴギャアア!?」
高笑いしたが、今度は横っ腹に衝撃が走り街を破壊しながら吹き飛ぶ。
すぐさま飛び上がり、目を向けるとナオが右足を振り抜いて立っていた。
《馬鹿な!?何故我が炎を受けて生きている!?》
「受けてないからね」
《貴様は……貴様は……なんだ!?何故そんな力を持っている!?》
「今更ねぇ。私は魔王よ。たかが蜥蜴に負けるわけないでしょ?」
《ま……魔王だと!?魔王でもこんな力を持っているわけが……!?》
「トレボニルアが死んだのよ?死んだ奴の力を吸収したところで、たかが知れてるわよ」
《っ!?》
アラダザクアは目を見開き固まる。
そうだ。こいつはトレボニルアの死体があったところにいた。戦った形跡があった。ということは、こいつがトレボニルアを殺した。
そんな当たり前の事実に今更ながらに気づく。
正確には殺したのはヤブンハールだが、ヤブンハールより格上のナオの魔力の方が濃く残っていたので、アラダザクアはもう1人の魔王の存在に気づかなかった。
アラダザクアも何回か魔王を殺したことがある。どいつもこいつも自分の炎には勝てなかった。だから、魔王なんて自分には、竜には及ばない存在だと思っていた。
《化け物め……!?拙者はもう叔父上も超えたのだぞ!?その拙者を……軽く捻るだと……?貴様はどれだけの力を秘めているのだ……?》
アラダザクアは恐怖を感じ始めていた。
しかし、そんなことも気づかずにナオは笑いながら告げる。
「知らないわ」
《何?》
「だから、私がどれくらいの力があるかなんて知らないわよ。【無敵】を図ろうなんて不可能でしょ?」
《む……【無敵】……だと……?》
「そうよ」
ナオの言葉にアラダザクアは完全に硬直する。
そして、体を震わし始め、
《うわあああああああああ!?》
叫びながら飛び上がり、逃げ出そうとする。
「逃げないでよ。あんなに格好つけてたんだから」
《ひぃ!?》
「がぁ!?」
ナオに背を向けて飛ぼうとした瞬間、目の前にナオがいた。
それに悲鳴を上げるも、すぐさま殴られて地面に叩きつけられる。
《うおおおおおお!!》
アラダザクアは形振り構わず、全力で炎のブレスを放つ。
「うっさい。それに暑苦しい。【消えなさい】」
《っ!?》
ナオが手を翳すと、ブレスが消えた。
アラダザクアは再び放とうとするが魔力が口に溜まる事すらなかった。
「無駄よ。もうあなたの魔力もスキルも消したから」
《ば……馬鹿な……!?そんな……ことが……【無敵】であっても…出来るわけが》
「誰がそれだけって言ったのよ。【虚無】の力よ。これは」
《【虚無】だと……?【無敵】が…?【虚無】を併せ持つだと……?ありえん……!?あってたまるものかあああああ!!》
【無】系スキルは神ですら持つ者は少ないスキルだ。
1つ持つだけでも異常過ぎると言われる。
それを2つ持っているなんて……異常なんて生温い!
アラダザクアは目が零れ落ちそうなほど目を見開き、血管が切れそうなほど叫ぶ。
受け入れられない!こんな奴など受け入れられない!
アラダザクアは現実を否定するように叫ぶ。
「希望は【無敵】や【虚無】の前では無意味よ。さよなら。蜥蜴君」
ナオは冷たくアラダザクアを見下して、右腕を向ける。
その瞬間、アラダザクアはまるで始めからいなかったかのように、幻であったかのように体も魂も、音もなく消滅する。
「ふむ。【無敵】と【虚無】の前ではやっぱり戦った気がしないわねぇ。はぁ~、なんか興醒めだわ。さっさと戻ろ」
つまらなさそうに呟いて、廃都から姿を消すナオ。
戦った熱すらも消滅し、再び人が廃都に足を踏み入れた時は今までの面影は全く残っていなかった。
人々は結局原因は解明することは出来ず、ついには観光名所でもなくなり、まさしく廃都となって人の記憶からも消えていったのだった。
ありがとうございました。
面白い、頑張って書けと思ってくださる方は、下の評価をクリックして頂けると励みになります。