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氷の化け物

よろしくお願いします。

 【リローナ】を旅立ち、1週間経過した。

 トンネルを抜けた街では余計なことをせずにさっさと出た。

 街を抜けた所で馬車を創造して、乗り込んで旅を続ける。


 今いる街は【フェアニフ】。

 迷宮がある【コーロット】まで1週間ほどの距離の場所である。

 山脈を越えてから空気が少しヒンヤリとするが、厚着するほどではない。


「は?なんですって?」

「だからね、黒翼の魔王は【ダンデル】と【エルバファの森】を滅ぼして行方知れず。そして、2日前に【アンガンティ】の街がキリング・スパイダーの群れに滅ぼされて、聖神教本部は壊滅。さらに群れは南下して村やら町やらを強襲中。それに加えて、昨日にね、友好的だった【ペッファ王国】が突然宣戦布告して大侵攻してきたのさ」


 私達はギルドで話を聞いて、ポカンとしている。

 女将肌の受付嬢―約50歳―はため息を吐きながら話す。


「【ラカラン】【ダンデル】【レーフェン】【ブラケ】【タマン】【リローナ】【アンガンティ】が滅んで、国の南側はもう壊滅状態。西は戦争中。そのため、上位の冒険者はギルドと国の依頼で王都に行ってもらうことになってるんだよ」

「……上位の冒険者って何?」


 私はその言葉に首を傾げる。

 ラカランでも聞いてないわよ?……多分。

 

「はぁ?あぁ~…最近は説明を端折る子達がいるって聞いたねぇ。いいかい?冒険者にも等級があるんだよ。白<青<赤<翠<銅<銀<金<白金<黒だよ。赤までが下位、銀までが中位、白金が上位、黒が天位と言われてるね。黒は今はいないから白金が最上だよ」

「ふ~ん」

「軽いねぇ。で、そこのドワーフさん以外は白。ドワーフさんは銀だね。あんた達には関係なさそうだね」

「あっそ。ありがとう」


 へぇ~。等級あったのね。今まで誰も口にしなかったから知らなかったわ~。

 ていうか、ラカランで結構頑張ったと思うんだけど。

 オーガも倒したし。

 それでも白なのね。厳しくない?

 

「ナオ様にはどうでもいいと思ってたしねぇ」

「同じくです。申し訳ありませんでした」

「いいわよ別に。確かにどうでもいいし」


 身分が証明してくれるなら、それでいいわ。


「それにしても魔王達は随分と活動してますね。ペッファも魔王なんですよね?」

「そうね。しかし、全員見事に北を避けるわねぇ。誰か1人くらい、こっちに来ると思ったけど。しかも、マルフェルとシヴェスは一緒にいるみたいなのよね」

「ホントに不思議だねぇ」


 なんでかしらね。

 まぁ、ありがたいと言えばありがたいけど。

 天使共も来なくなった、というか遠くから見るだけになったわね。

 つまんないわ。


「とっととコーロット目指しましょうか」

「そうだねぇ」

「おや?コーロットに行くのかい?」


 通りがかった受付女将が声を掛けてくる。

 

「そうだけど?」

「だったら、その前に1つ依頼を受けてくれないかい?」

「内容は?」

「コーロットに行く途中の山脈にある廃都の遺跡にね、何かが住み着いたらしいんだよ。それが何か調べて欲しいんだ。その遺跡はコーロットに続く街道に近くてね」

「調べるだけでいい?」

「あぁ。ただ、討伐してくれたら追加は出るよ」

「分かったわ」


 暇つぶしに依頼を受けてみる。少しは冒険者をしとかないとね。

 その廃都の名前は【コルデパン】というみたい。

 数百年前に滅びた国の一都市らしい。

 何故かこの廃都周辺だけ雪深く、廃都は氷漬けになっているそうよ。

 観光名所になってるみたい。今は住み着いた何かのせいで閉鎖中。

 冒険者が何人か行ったらしいが、帰ってこなかったらしい。

 私達が受ける依頼?


「あたしがいたからだろうね。それがリーダーじゃなくて白等級に従ってるんだから、等級で判断できないと考えたんだろうねぇ」


 あぁ。銀等級とそれを従える私に期待したと。

 流石ギルドの女将抜け目ないわねぇ。


 ということで、廃都を目指す。

 ラクミルはなんか最近ずっと私に抱き着いてくる。

 まぁ、いいんだけどね。でも、あなたの体は18歳だからそんなに小さくないからね?

 結構歩きにくいのよね。

 

「♪~」


 尻尾をふりふりと機嫌良さげに振っている。

 不思議ねぇ。言うことを聞かせるようにはしたけど、それ以外は何もしてないんだけど。

 世話も……どっちかっていうとシフラ達の方がしているはずよね?


「まぁ…親だと思ってるんじゃないかい?世話する人と親は違うさね」

「親ねぇ。……今頃、中のミルクラは泣き叫んでそうねぇ」

「でしょうね」

「そういえばこの子らの国ってどこなんだい?」

「南の小国【マミラ王国】よ」

「あぁ~。あそこかい」

「知ってるんですか?」

「チョコチョコこの国にちょっかい出してたからね」


 マミラは昔からクルダソス王国を敵視している小国だ。

 最低限の交易しかないため、小国であっても侵攻することが出来るのだ。

 しかし、一度も勝てたこともなく、クルダソス王国は『わざわざ滅ぼしに攻め入っても得られるものはない』として最低限の防衛で済ませている。

 しかし、侵略してきた兵は全員殺しているため、十分な損害は与えてはいるのだが。


 2日ほど進むと、山の上に雪が見えてきた。

 流石に少し肌寒いわね。

 ということで、全員の服に【適応】スキルを加える。

 ふむ。寒くない。

 ラクミルも嬉しそうに雪を眺めている。

 まぁ、こたつの中にいるような快適さだもんね。


 馬車を収納して、雪山の中を歩く。

 ふむ。外壁は随分と大きいわね。

 なんで滅んだのかしら。


 外壁に近づく。外壁は真っ白に凍っている。

 門は開いている。周りには誰もいない。

 まぁ、立ち入り禁止よね。

 街の中も真っ白だった。

 ラクミルは興味津々で壁なんかを触っている。

 

「ふむ。人の気配は無し」

「でも、何かいそうな雰囲気ですね」

「いるわよ?人じゃないだけよ」

「と言いますと?」

「竜っぽいわね」

「「は?」」

「それと面白いのも見つけたわねぇ」

「なに?」

「実際に行ってみましょうか」

「うん♪」


 楽しそうに笑顔で頷くラクミル。

 子供ねぇ。

 ルティエラ達はまだ固まっている。


「早く来なさい」

「し、しかし!りゅ、竜ですか!?」

「流石にきつくないかねぇ!?」」


 竜は亜神と類されるほどの存在と言われている。

 天使なんかよりもちろん格上。

 まぁ、ビビるわよね。

 これが異王や魔王が溢れてない理由の1つ。

 大抵がポっと出ていって、グルァ!と竜に殺されているのだ。

 けどねぇ。


「私が負けるとでも?」

「そ、それは思いませんけど!」

「不用意に戦う必要もないんじゃないかねぇ!?」

「私がいる時点で不用意もくそもないでしょ。ほら、さっさと行くわよ」


 ルティエラ達は不安そうに付いてくる。

 情けないわねぇ。

 

 2時間ほど歩いて、神殿のような建物の地下に降りる。

 ここには竜は来れないわよね。多分。

 その地下にあったのは、魔法陣だった。


「これは?」

「召喚陣ね」

「まさか異世界人の!?」

「そうよ」


 ふむ。微妙に機能してるわね。

 

「壊しときましょうか」


 バン!と召喚陣が描かれた床を消し飛ばす。

 これでここに誰かが来ることはないわね。

 まぁ、こんな氷の都市に呼ばれても死ぬだけでしょうけど。

 

「ちっ。やってくれたのぅ」

「「「!?」」」

 

 ルティエラ達は慌てて、声の方向を見て武器に手を掛ける。

 

「慌てるんじゃないわよ。声を掛けてきた程度で」

「ほう?随分と気骨のある女よ」


 降りてきたのは薄い水色の髪をした30代ほどの男性。

 同じく水色のズボンに上半身は裸。その上から豪華そうな水色のコートを羽織っている。

 

「で?竜がわざわざ人型になってまで、ここに何の用?」

「……儂を竜と知ってなおその態度か。阿呆なのか、大物なのか……」

「大物よ」

「……フン」


 人竜は私の言葉を鼻で笑う。


「しかし、ここを見つけ出すとはの。少し油断しておったわ」

「……ふむ。あんたがここに来たのは神の指令ってことかしらね?」

「……ほう?確かのただの阿呆ではないらしいの」


 人竜の目が鋭くなった。

 警戒を強めるに値すると思われたらしい。

 まぁ、遅いけどね。


「ならば、早々に立ち去れ。死にたくはなかろう」

「あら?随分と良心的ね?まるで()()()()()()()()()()()()みたい」

「……竜の逆鱗に触れたいのかの?小娘」

「はっ。たかが蜥蜴の逆鱗なんて怖くないわよ」

「言いおったな?ならば……後悔するがいい!!」


 人竜から冷気と魔力が噴き出す。

 ルティエラ達は顔を顰めて構えるが、ナオはすでに拳を構えて人竜の目の前にいた。


「な!?」

「ふ!!」


ドゴオォォォン!!!


 ナオの拳が人竜の腹に突き刺さり、天井をぶち抜いて吹き飛ばす。

 それを追いかけて、ナオ達も外に出る。

 民家と思われる建物の屋根の上に降り立つ。


「離れてなさい」

「「はい」」


 ラクミルを抱えてルティエラ達は離れる。

 ナオはそれを見届けて、前を向く。

 少し離れた民家の屋根の上に人竜は立って、こっちを睨んでいた。

 大してダメージは受けていない様だ。


「貴様……!何者だ……?」

「さぁ~?頑張って考えるのね~」

「……………無礼者が…!」

「蜥蜴に礼儀なんて必要ないでしょ?」


 ナオの言葉に忌々しそうに睨む人竜。

 そして、再び冷気を噴き出し、吹雪を生み出す。

 

「外に出たのは失敗であったな!!儂の力は【氷】じゃ!この街の全てが儂の味方じゃぞ!!」


 腕を振るい、吹雪をナオに叩きつけて、さらに周囲から氷の刃を生み出して飛ばしてくる。

 ナオに直撃する。

 ルティエラ達は目を見開き、走り出そうとする。


「この程度で威張れるのね?」


 ボッと球体に冷気が消えて、無傷のナオが現れる。

 ナオはコートのポケットに両手を突っ込んで立っている。

 傷どころか凍ってすらいない。

 それに一瞬目を見開いて、再び睨みつける人竜。


「……無傷なのはともかく、欠片も凍らんじゃと…?どうやら、化け物の類のようじゃの」


 ナオはその言葉を鼻で笑う。

 それを見て、人竜は全力で戦うことを決める。


「下手に小出しすると逆に食われかねん!行かせてもらうぞ!!」


 人竜から吹雪が吹き荒れ、姿が見えなくなる。

 どんどん吹雪が大きくなり、その中から青白い竜が現れる。


《もう手加減は出来ぬぞ!小娘!!後悔しながら死ぬがよい!!》

「うっさい」

「ゴアアアアアア!?」


 竜が本気で氷を放とうとした途端、腹に高速で飛び蹴りが突き刺さる。

 全く見えなかったため、まともに食らう。

 叫びながら、吹っ飛んで街を砕きながら墜落する。


(な!?なんじゃ!?この力は!?竜の儂の腹を突き破らんばかりか、吹き飛ばすじゃと!?)


 竜は混乱しながらも飛び上がる。

 ナオは相変わらず余裕綽々とポケットに両手を入れて立っている。


(これは……まずい!?街を滅ぼしてでも力を使わねばならんか?しかし……!)


「もしかして……()()()()を気にしてるの?」

《っ!?》


 ナオの言葉に目を見開き硬直する竜。


「街の下に魔王が封印されてるわね。この街が滅びて氷漬けなのって、実は魔王の力が漏れ出してるからでしょ?」

《……っ…!》

「この街も実は封印強化のために作られてるのよね?多分、街のいくつかの建物が要になってる。本気で戦うと、それを壊しちゃいそうよねぇ?」


 ナオはニヤニヤしながら話す。

 

(こやつ…!どこまで知っておるのじゃ!?)


「気にするだけ無駄よ」

《……なんじゃと?》

「私が壊せば……意味ないでしょ!!」

《な!?》


 ナオは街の中心にある石碑に闇を飛ばして、根元から折る。

 闇はさらに中心から伸びる6本の大通りを消し飛ばしなら進み、大通りを突き当たった所でその周囲をさらに消し飛ばす。


《き!貴様ぁ!!何をしたか分かっておるのか!?》

「魔王が1体増えるくらいがどうしたのよ」

《正気か!?》

「さぁ?何を持って正気というのかしらねぇ」

《おのれ!……っ!?しまった!?》

「お出ましね」


 ナオを咎めようと怒鳴る竜だが、封印が解除されて魔力が溢れ出したことに気づき慌てる。

 しかし、もはやどうしようもなかった。


 街の中心の石碑の下が砕けて、地面から氷で出来た祭壇のような物がせり出てくる。

 祭壇の中心には玉座があり、その玉座には人影が見える。

 青い髪に白い肌、そして青を基調に金の装飾が入った甲冑を纏った男性だった。

 目を閉じているが、肘掛けに頬杖をついてもたれ掛かっている姿からは傲慢な雰囲気が漂う。


「あら……。あいつは…」

《目覚めてしまったか……。ヤブンハール……!》


 ヤブンハールはゆっくりと目を開ける。

 その両目は銀色で、瞳は縦に鋭かった。

 その視線は竜を捕える。


「ほう、これはこれは。久方ぶり……と言えるのであろうな?トレボニルア」

《くっ!》


 不敵に笑いながら竜、トレボニルアに語り掛けるヤブンハール。

 それに歯を食いしばり、顔を顰めるトレボニルア。

 

 ついでヤブンハールはナオに目を向けて、目を細める。


「ほう?随分と悍ましい輩がいるではないか」

「相変わらずの王様ねぇ。ヤブンハール」

「偉大なる余の名を知るか。名乗りを許そう」

「ナオ・バアル。【オエバル】と混ざった者、と言えば通じるかしら?」

「ほーう?」

《オエバルだと!?》


 ヤブンハールの言い方に苦笑しながら名乗る。そして、自身と混ざった魔王の1人の名前を告げる。

 それにヤブンハールとトレボニルアが反応する。


 オエバルとはヤブンハールと同時期にいた魔王だ。

 

「オエバルとはな。あの愚か者は確か勇者などという雑魚に負けて【闇淀の坩堝】に入れられたはずだが……」

「ええ。私はその坩堝に封じられた全ての魔王と異王が異世界人と融合した存在よ。だから、オエバルの力と記憶を持ってるのよ」

《全てだと!?》

「なるほど。それ故のその悍ましさか。余ですら手を出す気にもならん」

「お褒めに預かり恐悦至極」

「やめよ。気色悪い」


 トレボニルアはその事実に驚愕し、ヤブンハールは愉快そうに笑う。

 それにナオお道化て返すが、それは気に入らなかったようだ。

 ナオは肩を竦める。


「で?その蜥蜴はどうするの?」

「うむ。逃走を許すぞ。トレボニルア。また神でもなんでも率いてくるがいい」

《き……貴様ら!!》


 傲慢不遜に話す魔王2人。

 それを憎々しげに睨むトレボニルア。

 しかし、事実としてトレボニルアでは勝てない。

 ヤブンハールは神々と同族合わせて100体以上で攻めて、半分以上を犠牲にしてようやく封印できた。

 そして【闇淀の坩堝】は1体1体がヤブンハール同様に殺しきれずに封印せざる終えなかった者達だ。それの融合体など、その実力は計り知れない。


《魔王如きに背を向けられるわけなかろうが!!嘗めるでないわ!!》


 しかし、トレボニルアは竜の誇りに殉じた。

 力強く叫び、魔力を解き放つ。

 それを見て、ヤブンハールは残念そうにため息を吐く。


「愚かだな……。誇り如きのために死を選ぶか」

「まぁ、そういう連中だから数を減らしてるのよね」


 いつの間にかナオがヤブンハールの隣に立っていた。

 ヤブンハールはそれを特に驚きも怒りもしなかった。

 

「ふん。哀れな神の下僕よな」


 ガシャリと甲冑を響かせて、玉座から立ち上がる。

 

「昔馴染みの捨て身だ。余が介錯してやろう。光栄に震えよ竜族」


 その言葉にトレボニルアはまさに捨て身で力を振るう。


《おのれぇ!!後悔するがいい!!【凍獄葬祭】!!!》


 膨大な冷気を放出して、空気すらも凍らせていく。

 その冷気に触れれば、体内の臓器、細胞までも凍らせて死に至る。

 放出している己自身も徐々に凍っていく自滅覚悟の大技である。


 しかし、魔王2人は瞳に呆れを浮かばせて見据える。


「余を愚弄しているのか下郎めが」


 蠅を追い払うかのような仕草で右腕を振る。

 すると、2人に迫る冷気よりさらに強力な冷気が容易くトレボニルアへと押し返す。


《な!?ば、馬鹿な!?》

「当たり前だ。戯け。余が何故魔王と呼ばれたか忘れたか」

《っ!?》


 トレボニルアは目を見開く。

 

「余の名はヤブンハール。【氷の神子】にして【氷の皇帝】であり、【氷の魔王】となった男。全ての氷は余の前に平伏すのが道理である」


 母を凍らせ、その腹を蹴り砕いて生れ落ち、その瞬間周囲の全てを凍結させて、その命を吸収して成長した異常児。

 息をするたびに、凍結の範囲は拡大し、そこで凍らせた命を全て吸収していった。

 誰一人彼に近づけず、姿を見ることすら敵わず、逆らうことも出来なかった。

 天使や神すらも凍らせたために、魔王と呼ばれるようになった。


 封印された理由は『飽きたから』

 

『余が寝ている間に少しでも強い奴を鍛えておくがいい』


 そう言って自ら眠りについたのだ。


 スキルは先ほど言った通り、【氷の神子】【氷の皇帝】【氷の魔王】そして【氷の勇者】【氷の聖人】の5つ。

 氷に特化し過ぎた故に人神聖魔全てを網羅した異質過ぎる存在。


「己が愚かさを呪いながら死ぬがいい。魂すらも凍らせてな」


 トレボニルアは絶望に叫ぼうとしたが、息を吸った瞬間一気に体の中まで凍り付いた。

 さらにその冷気は精神までも凍らせていき、最後は魂も凍らせた。

 

  


 ヤブンハールは氷像と化したトレボニルアを見て、ため息を吐く。


「時が過ぎれば神とて呆けるか。哀れよな」


 パチンと指を鳴らす。

 すると、竜の氷像がカキ氷のように細かく砕けていく。

 ヤブンハールはそれを見届けて、玉座に座る。


「それで?貴様はどうするのだ?」

「どうもしないわ。あなたを殺す理由はないしね」


 ヤブンハールはナオの格上発言にも気を悪くすることはなかった。

 

「そうか。では、余はしばらくどこかで戯れるとしよう」

「あぁ。ちょっと待って」

「む?ほう、貴様は愉快な体をしているな」


 ナオは男に戻って、声を掛ける。

 ヤブンハールはそれを目を見開いて、興味深そうに観察する。


「まぁ、面倒もあるけどね」


 苦笑しながらヤブンハールの肩に触れる。

 ヤブンハールは何かが流れ込むのを感じる。


「何をした?」

「その止まらない冷気を扱えるようにしてあげたよ。【調節】と【精密】の2つ」

「ほう」


 ナオの言葉にヤブンハールは力を調節する。

 すると、どう抑えても周囲5m以下に抑えられなかった冷気が完全に抑え込むことが出来た。


「これでもう少しやれることが増えたでしょ。食べ物も食えるし、女も抱けるよ」

「ほう。それはいい」

「じゃ、頑張ってね」


 そう言って、ナオは去っていく。

 ヤブンハールはそれを見送る。


「愉快な奴よ。そうだな。奴と敵対するのも面白そうだが、それは最後の楽しみとしよう」


 ヤブンハールは腕を組んで空へと舞い上がり、飛んでいく。

 とりあえずは気の向くままに。



 トレボニルアの魂がハデスメイアの元に行かなかったために、ヤブンハールの復活が神々に知れ渡るまでに時間が掛かった。

 

 この時間差がさらに世界を混乱と恐怖へと誘っていく。



ありがとうございました。


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