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閑話 放たれた魔王達

よろしくお願いします。

「はぁ~退屈だわ。天使共現れなくなったし、神も現れない」


 ナオによって生み出されたマルフェルは、風呂に入りながら退屈そうにしていた。

 あれから駆けつけてくる天使達を殺し、見つけた街も1つ滅ぼした。

 確か【ダンデル】という街だった。

 

「これからどうしようかしらねぇ」

「マ……マルフェル…様」

「ん?」


 声を掛けてきたのはエルフの少女。

 首には奴隷紋があり、体を震わせながらマルフェルに声を掛けてくる。

 ちなみにマルフェルの周りではエルフの女性2人がマルフェルの腕や脚をマッサージしている。

 もちろん2人にも奴隷紋がある。


「お、お食事のご用意が整いました」

「あらそう」


 そう言って湯船から上がる。

 残りの2人もそれに追従する。

 風呂場から出ると、さらに数人のエルフがマルフェルの体をタオルで拭く。


 ここは【エルバファの森】という森の中にあるエルフの街だ。

 マルフェルはたまたま見つけたこの街を面白半分で襲い、住民全員を奴隷化したのだ。

 マルフェルはナオより【闇】スキルを与えられていたため、ダンデルを襲った時試しにスキルを吸収して回ったのだ。

 その中に【隷属】スキルがあったのだ。

 他にも【鑑定】【催眠】や【呪い】など面白いものがあった。

 そのおかげか翼も収納することも出来るようになった。


 ちなみに奴隷化した後に、老人、男や好みに合わない女は殺した。

 もはやこの街はマルフェルのものだ。


「あ!?」

「……へぇ~この私を引っ掻くなんていい度胸ねぇ?」

「も、もも、申し訳ありません!!おお、お許しを!お許しを!」


 少女の1人が恐怖で緊張しすぎて上手く体を拭けず、誤って引っ掻いてしまった。

 少女はすぐさま土下座して、謝罪する。

 他の奴隷達も顔を青くし震えながらも体を拭き、服を準備する。

 マルフェルはその少女を冷たく見下ろす。

 

「そうねぇ。許してほしいの?」

「は……はい…」

「じゃあ……『反省として屋上から飛び降りなさい。もちろんスキルも使わずに着地するのよ』」

「え?ひぃ!?そんな!?お許しを!」


 少女は命令に従って立ち上がって歩き出す。

 しかし、その顔は絶望で染まり、涙を流して懇願する。


「何を言ってるの?だから、許すために行かせてるんじゃない。それに……奴隷如きが自分から許しを請うなんて何を考えているのかしらねぇ」

「ひぃ!?いやあぁぁ!?」


 マルフェルがいるこの建物は森の中でもっとも大きな樹の中に作られている。

 屋上は高さ300m近くあり、何もせずに飛び降りれば、まず死ぬ。

 少女は叫びながら屋上を目指していく。

 それを他の奴隷達は、顔を真っ白にして体を震わせながら見送るしかなかった。


「さっさと服を着させなさい」

『は、はい!』


 奴隷達は手際よく服を着させていく。

 それに満足したマルフェルは特に何も言わず歩き出す。


 奴隷の案内で食堂に移動する途中。


「いぃぃぃやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


 窓の外から叫び声が聞こえ、下に消えていく。

 その声に奴隷達は今にも崩れ落ちそうだった。


 食事は動物の肉の炒め物や果物の盛り合わせや酒。

 これにも満足するマルフェル。


 自室に戻り、書庫にあった禁書を読みながら奴隷に足をマッサージさせる。

 すると、そこに巨大な魔力が近づいてくるのを感じた。


「ふむ?天使とかではなさそうねぇ」

「え?」


 マルフェルの呟きに奴隷の1人が反応する。


ドオォォォォン!!


「きゃああ!?」

「ひあああ!?」


 突然、雷が森の中に落ちる。

 マルフェルは立ち上がり、奴隷達に【念話】を送り、命令を出す。


『手を出さずに玉座の間に案内しなさい』  


 マルフェルは玉座の間に移動する。

 正確にはここは【樹長の間】と言って、エルフの長がいた場所だが殺したのでマルフェルの好きなように改装した。

 玉座に脚を組んで座ると、玉座の傍に居た少女の奴隷がマルフェルの足元に跪く。

 そして、マルフェルの足先を丁寧に舐め始める。

 もう1人玉座の傍に居た成人のエルフ女性がグラスをお盆に乗せて、マルフェルが取りやすい様に跪く。

 この2人は他の奴隷と違い、恐怖の感情など一切見せずにマルフェルに従事している。

 他の奴隷は礼をして、玉座の間から出て行く。


 しばらくすると、玉座の間の扉が開き、誰かが入ってくる。

 入ってきたのはスレンダーで全員にギザギザの入れ墨が入っている女性だった。

 服はビキニのように必要最低限しか見に着けていない。

 エルフのように耳が尖っているが、内包する魔力が桁違いだった。


「ふぅ~ん。……魔王が何の用かしら?」

「別にぃ。ただぁあたしに匹敵するぅ魔力を感じたからぁ見に来ただけぇ」

「あっそ。私はマルフェル。あなたは?」

「シヴェス」

「……あなた…()()()の魔力を感じるわねぇ」

「あれぇ。()()()()ぉ?」


 マルフェルとシヴェスはナオの事を思い出していた。

 原因は分からない。

 しかし、ある程度暴れた時に急に頭の中に自分を生み出した存在を思い出したのだ。

 あふれ出た思いは感動と心酔だったが。


「何がきっかけかしらねぇ。まぁ、いいわ。あなたとは姉妹になる。敵対する必要はないわね」

「そうだねぇ」


 2人は敵対しないことに決めた。

 お父様がわざわざ作った者同士で殺し合うなんて馬鹿らしい。


「でもぉ良くぅこんな街ぃ支配してるねぇ」

「あぁ。これはお父様に捧げようと思ってるの。満足したらもう1回選別して連れて行くわ」

「なるほどねぇ」


 シヴェスは頷く。

 我らが父は喜んでくれそうだ。


「本当は天使がいいんだけど来なくてね。エルフで我慢するわ」

「ならぁ……精霊はどうぅ?」

「……へぇ~。それは面白そうねぇ」


 シヴェスの提案にマルフェルはニヤリと笑う。

 

「これからぁ精霊の里をねぇ潰しにぃ行く気なのぉ。精霊王とかぁ父様ぁ喜びそうじゃないぃ?あたしぃマルフェルみたいにぃ奴隷に出来ないからぁ困ってたのぉ」

「それはいいわね!いいわ。手伝ってあげる」

「ありがとぉ。ところでぇその子達はぁだれぇ?」

「あぁ、これ?ちっこいのが【樹の聖女】で、こっちが【森の賢者】よ。【隷属】と【精神】で心を縛ってるの。で、せっかくだから躾けとこうと思って」

「おぉ~!」


 マルフェルの行動にシヴェスは拍手をする。

 2人は長老の娘で重役としてこの里にいた。マルフェルに目を付けられて自害しようとしたが、その前に精神を操られて人形同然にされた。

 しかし、この会話も聞いており、どうにかスキルを破って神々に伝えられないかと考えている。


「そうなると、準備がいるわね。この子達はもう片付けときましょう」


 マルフェルは【時間】【空間】【封印】を使って、2人を結晶に閉じ込める。

 それを虚空庫に放り込む。

 

「なんでもぉ出来るねぇ?」

「お父様の【闇】スキルのおかげよ。いろんなスキルを吸収できるの」

「おぉ~!」


 再び拍手するシヴェス。

 2人は2日ほどゆっくりしながら奴隷を選別し、聖女達同様封印する。

 余った奴隷達はシヴェスが魔力を吸収して餌にした。

 そうして2体の魔王姉妹はエルフの街も滅ぼして、精霊の里を目指し始めた。




 【クルダソス王国】の西南に面している小国【ペッファ王国】。

 クルダソスとは友好的な関係を気づいており、名産である乳製品をクルダソスに卸している。

 そんなペッファに変化が訪れている。


「あぁ。メヂュバ。なんて君は美しいんだ」

「ウフフ。ありがとうメデロ。あなたもいい子よ。私に国をくれるなんて」

「君の美貌を得られるならば国を与えるなんて当然だよ。あぁメヂュバ」


 ペッファにある城の一室で豪華な服を着た男が、椅子に座った女の前に跪いて愛を囁いていた。

 囁かれている女はスタイルは抜群の美女だった。

 しかし、その両目は怪しげに赤く光っている。

 ナオに生み出されたメヂュバは、あの後すぐにこの国に渡り、貴族を魅了して取り込み、今は国王のメデロまで魅了した。

 すでに城の全員を魅了し、もはやメヂュバに逆らう者はいない。

 

「ウフフフ。これでお父様の助けになるかしら」


 メヂュバもナオの記憶を取り戻していた。

 そして、ナオの助けになるようにこの国を操って、天使や神の目をこっちに向けさせる用意を始めている。

 

「さぁメデロ。あなたは私が国を回れるように準備をして?そして、国民全てが私の下僕になるように人を集めるの」

「あぁ!分かった!この国が君の物であることを知らしめよう!」


 そう言ってメデロは意気揚々と部屋を出ていく。

 それを見送って、メヂュバも移動を開始する。

 傍に居る執事の男に声を掛ける。


「巣に行くわよ」

「イエス。マイ・ゴッデス」


 執事はすぐさま準備を整え、案内を始める。

 扉の外にいた兵士達も何の疑問を持たず、メヂュバを護衛する。

 城を歩いていると、メヂュバを見かけた城の男達は頭を下げる。

 城の中には女の姿が見当たらなかった。


 メヂュバは城の中にある後宮を訪れる。

 本来ならば後宮には女性独特の香水や化粧品の匂いが漂っているのだが、今の後宮にはそれとは異なる異臭がする。


 一番奥の部屋に入る。

 中の様子を見てメヂュバは笑みを浮かべて頷く。


「うんうん。皆いい子供を産んでいるわね」

「あ……あぁ……あ!……あぁ…メヂュバさまぁ」

「あん!メヂュバさまん………あぁもっとぉ」

「産みますぅ……もっとぉ…愛してぇ……」


 部屋の中では女達が裸で乱れている。

 汗をかき、涎を垂らしながら、目を虚ろにして快楽に悶えている。

 女達の腹は膨れており、何人かの膣からは卵がコロコロと出てきている。

 周りには小さな蛇が大量に蠢いている。

 

「どう?ビルハ。子供達は」

「はいぃ……元気で過ごされておりますぅ……あぁ…もっとぉ産ませてぇ……」

「でもいいの?私があなたの代わりに王妃になっても」

「あぁ。構いませんわぁ……メヂュバさまがなられるならぁ……それはすばらしぃことですわぁ」

「ウフフフ。ありがとう。これからもたくさん私の子供を孕んで産んで頂戴ね♡可愛いビルハ?」

「ああぁ!もちろんでございますぅ…!」


 ビルハはメデロの妻でこの国の王妃だった。

 しかし、今ではメヂュバに魅了され、その子供を産む奴隷になっている。

 王妃などよりも素晴らしい仕事をしていると、本気で思っている。

 もちろんビルハだけでなく、姫や貴族の夫人に令嬢、メイド達もこの後宮で喜んで子供を産んでいる。

 その範囲は少しずつ広がり、城下町の女達も魅了して子供を産ませている。


 今、スラムや街の一部を焼き払い、急ピッチで女達が卵を産むための建物を建造させている。

 男達は全員兵士となって、訓練をしている。

 老人や動けない病人、戦えない子供は蛇の餌になった。彼らは魅了によって喜んで、笑いながら体を食われていった。

 これをこの国全てで行い、女は子供を産ませ、男は戦争に送り込む。

 男達が死んでも、その頃にはメヂュバの子供達が戦えるはずだ。

 

「ウフフフフ!もう少し。もう少しでお父様のために世界を食い物に出来ますわ!」


 目を輝かせ、チロチロと舌で唇を舐めながら、メヂュバは笑う。

 



 ある森の近くにある村。

 

ボリボリ!グチャグチャ!

ゴリ!クチャクチャ!


 村の中で何かの咀嚼音が響く。

 村の真ん中の広場のようなところに、それはいた。

 

「ふぅ~。美味しかったです」


 ロパザラクネは目的地の途中にあった村で腹ごしらえをしていた。

 もはや彼女には人を食うことに抵抗はない。


「これで【アンガンティ】まで保つでしょうか……。う!?ぐぎぃ!?」


 突如、体に異変を感じるロパザラクネ。

 体を丸めると体を糸が覆っていき、繭になる。


 そうして2時間ほどが経過する。

 眉がヒビ割れて、そこから腕が出てくる。


「う……はぁ!……はぁ!はぁ!はぁ!」


 現れたのは全裸の女性だった。

 

「うん?どうやら人間の姿を得たみたいですね。蜘蛛に戻れるのでしょうか」


 ロパザラクネはアラクネの姿を思い浮かべると、体がボゴボゴと変化して先ほどの姿に戻る。


「ふむ。問題なさそうですね。これはいい!どうやって大神殿に潜り込むか悩んでいましたから」


 ロパザラクネは村の中を漁って服を着る。

 小さな教会もあったので、司祭服も見つけた。

 

「さて、アンガンティまで行きましょう。……我が神から授かった力で神敵を滅せねば」


 アンガンティはクルダソス王国における聖神教の本部がある街だ。

 国都ではないのは政治と深く関わるのを避けるためだ。

 ロパザだった頃にそこで修業し、虐められて左遷され碌に援助もなかった。

 ロパザラクネは今の変態でナオの事を思い出した。

 しかし、魔王ではなく崇めるべき神としてだが。


「さぁ、行きましょうか」


 馬を見つけて、それに乗って街に向かう。

 



 一晩を見つけた村で過ごし、『食事』をする。

 そこは数年前にリローナに派遣されるときに、ここで過ごしたが村人はもちろん忘れていた。

 だから、ロパザラクネも特に気にすることもなかった。

 

 そして、翌日の昼前にロパザラクネはアンガンティに着いた。

 ロパザラクネは門番に村で盗んだ銀貨を払い、中に入る。

 そして、まっすぐに本部である大神殿に向かう。


 大神殿は街の真ん中に立っている。

 この国の名所でもあり、多くの信者が巡業で訪れる。

 

 ロパザラクネは大神殿の中に入り、奥に進む。

 

「あら。巡業の方でしょうか?」


 声を掛けてきたのは大神殿に勤めているシスターだった。

 

「あら?あなたロパザではないの?あなた、まさか巡教司祭にまで落ちぶれたの?」

「……あぁ…メレダでしたっけ?」


 目の前の彼女は確か枢機卿の娘で、よく揶揄って馬鹿にしてきた女だ。

 ちなみに巡教司祭は神殿に勤めている者達の中では、『落ちこぼれが神に認めてもらうための最後の修行』と言われている。もちろん、そんなことはないのだが。


「ビエットよ!誰よメレダって!?……全く落ちこぼれのあなたらしいわね。何しに来たの?まさか今更ここで勤めたいとか言わないわよね?」


 ビエットは鼻で笑いながら話しかけてくる。


「まさか、()()()()()()()()()()()()()

「……なんですって?」

「どうでもいいわよ。こんなところで働くなんて」

「っ!?あなた!何を言っているのか分かってるの!?」

「うるさいですねぇ。餌如きが」

「え?」


 ビエットは顔を真っ赤にして怒鳴るが、ロパザラクネの言葉に固まる。

 すると、ロパザラクネの体が膨れ上がる。

 目がグリンと裏返り複眼が現れ、額からも複眼が現れる。

 服を突き破って腕が生え、脚の後ろからもさらに脚が生えてくる。


 それと同時に、大神殿を真っ赤な鉄格子のような檻が囲い始める。

 大神殿内も景色が赤くなる。


「な!?なに!?なんなの!?」

「出れないぞ!?」

「ひぃ!?なにあれ!?」


 突然の変化に騒然となる。

 そして、ロパザラクネの姿を見て、悲鳴を上げる。

 ビエットは腰が抜けて、声も出なかった。


「あ……あ……ひ…い……」

「私は神敵の屑共を滅ぼすためにきたのです。さようなら。……誰でしたっけ?まぁ、いいですね」


 下半身の蜘蛛がガパァ!と口を開ける。

 それを目の前で見て、ようやく自分の状況を悟る。


「いやあぁぁべぇや!?」


 叫ぶビエットの上半身にかぶりつく蜘蛛。

 グチャグチャと血を流しながら咀嚼する光景にようやく周囲も逃げなければと理解する。


「うわあああ!?」

「化け物だああああ!!」

「悪魔がでたわああ!?」

「うるさいですねぇ。ちょうどお昼ですしご飯でも食べましょうか」


 ロパザラクネは腕や尻から糸を飛ばして、近くの人間を捕まえていく。

 そして、手元に引っ張り、殺したり、そのまま噛みつく。


「待ってぇ!?いやよえ!?」

「うわあああ!?がふ!?」

「神よ!お助けを!神よおお!!ぎゃご!?」

「馬鹿ですね。愚神があなた達を助けるわけないじゃないですか」


 その後も捕食を続けながら、上を目指していく。

 武器やスキルで攻撃をしてくるが、全く傷を負わずに殺していく。

 司祭が結界を張るがパリンと簡単に砕かれて食われ、騎士が盾を構えて他の人を逃がそうとするが脚の剣に盾ごと刺されて死んで食われる。


「あ。見つけましたよ。枢機卿」

「ひぃい!?」


 ロパザラクネは大神殿のトップを見つけた。

 さっき食べた女の父親だ。

 周りには左遷を命じてきた司祭や無能扱いを始めたシスターもいる。


「お前はなんだ!?ここがどこか分かっているのか!?」

「わかってますよ。腐った神を崇める餌の巣窟ですよね。悪は滅せねばなりません」

「……その言い方は……まさか……ロパザ?」

「な!?あの無能!?」

「その通りです。まぁ、今は真なる神に選ばれましたが」

「なんと愚かな」

「そうでしょうか?まったく神が答えてくれなかった【土の聖女】でいるよりもマシだと思います」


 ロパザラクネの言葉に枢機卿が目を見開く。

 

「【土の聖女】だと!?私はそんな報告聞いていないぞ!?」

「そ……それは……!」

「か……彼女は魔力が少なくて力が弱かったので…」

「馬鹿者が!聖女の魔力など民衆に認められれば、十分に増幅されるのだ!」

「「え!?」」


 枢機卿の言葉に固まる司祭とシスター。

 ロパザが中途半端な魔力だったのは、司祭達のような聖女と知りながら無能と蔑む者達が、ロパザを認める者達より多かったことが原因だった。


「もうどうでもいいですよ。今の私は【地の大魔女】ですから」

『!?』

 

 ナオにその存在を認知され、多くの者を喰らい恐れられたロパザラクネのスキルは大きく進化していた。

 【魔女】スキルは信仰ではなく、恐怖が力となる。

 魂になっても信仰や恐怖の記憶は残る。世界に記録される。

 そのため、彼女への恐怖は増え続けるのみ。

 彼女は間違いなく【魔王】へと到達した。


「さて、これで我が神のためにお役に立てます。この国の聖神教は終わりです」

「っ……!?この程度で神が負けたとでも?」

「己が傲慢で世界に降りれなくなった愚神など、すでに負けていますよ」

「っ!……なぜそれを…!?」

「【土の聖女】だったんですよ?この世界の魔力の状況ぐらい分かりますよ」

「………………」


 そんなわけあるか。聞いたこともない。

 そう枢機卿は内心で考える。

 司祭達も流石にその異常性は理解できた。

 目を見開いて固まっている。

 ロパザラクネは6本の腕を広げる。


「愚神達はここにも、他の魔王の所にも現れない。頑張って祈りなさい。無意味な救いを求めて」


 枢機卿達は運命を悟った。


「せめて私達だけにしてくれ。他の者達は…娘だけは……」

「え?もう下の人達は全員ここです。あなたの娘もです」


 ロパザラクネはポンポンと腹を叩く。

 その言葉に枢機卿達は目を見開く。


「ここはもう私の巣。あなた達は最後の餌です」

「なん……という……」

「祈りは終わりましたか?では、さようなら」


 糸を飛ばして枢機卿達を包む。

 暴れるが、すぐに動かなくなる。


「もうすぐ私の子供も生まれます。最初に食べてもらいましょうね」


 慈悲の目で3つの繭を見つめる。

 それを6本の腕で持ち上げて、下に降りる。


 その下の階全てにその数十倍の数の繭があった。

 一階の繭のいくつかにヒビが走る。


「おや。ちょうどよかったようですね」


バキン!バキバキャ!

キシャアア!!

キシシシィィィ!!


 繭から生まれたのは、大きさがライオンほど蜘蛛。

 キリング・スパイダー。

 森で1匹見かけただけでも、その森を焼け野原にしてでも殺せと言われている魔物だ。


「おはよう。我が子達」

 

 蜘蛛達はロパザラクネに近づいてくる。

 その蜘蛛達の前に繭を置く。


「食べなさい」


 その言葉に蜘蛛達は繭に飛び掛かる。

 

「ぃ!?……がぁ!?」


 1つの繭から声がしたが、すぐに食われて消える。

 すると、どんどん繭が孵り、上からもどんどん降りてくる。


「あぁ。やっぱり全然足りないですね」


 ロパザラクネははぁ~っとため息を吐く。

 すると、喧嘩を始める蜘蛛達。


「こら!駄目ですよ!」


 その言葉に不満気に喧嘩を止める蜘蛛達。


「餌は外にいっぱいありますよ」


 母親の顔で告げるロパザラクネ。

 その言葉に動きを止める蜘蛛達。


「外にはい~っぱい餌がいます。大丈夫。逃げられない様に囲いますから。さぁ、いってらっしゃい」





「くそ!なんだこれは!?」

「ビクともしねぇ!」

「くそ!枢機卿達がまだ中にいるのだ!!」


 大神殿の外では冒険者や衛兵に神殿騎士達が『檻』に向かって攻撃していたが、全く効果はなかった。

 その後ろには住民や商人達も様子を窺っていた。

 その選択が悲劇を招いた。


「なんだ!?」

「街を囲い込んだぞ!?」

「やべぇ!出られなくなったんじゃ!?」

「大神殿に入れるぞ!枢機卿達を救出せよ!!」


 大神殿を囲んでいた檻が消え、それが今度は街の周りを囲う。

 冒険者達や住人は慌て出すが、神殿騎士達は幸いと神殿内に入ろうとする。


キシャアアア!!

キシーーー!


 しかし、中から巨大な蜘蛛達が現れる。


「なああぎゃああ!?」

「ぐあああ!?」

「やめでぐげああああ!?」

「いや!?助けて!あが!?」


 蜘蛛達は騎士達に襲い掛かり、鎧ごと食い殺していく。

 

「キ!キリング・スパイダーだぁ!!」

「なんだと!?」

「あんな数無理よ!?」

「逃げろ!」

「どこにだよぉ!?」


 住民達は逃げ惑い、冒険者達も武器を構えるが、キリング・スパイダーの群れには成すすべなく食われていく。

 外に逃げようにも『檻』が邪魔をする。


「出せぇ!?」

「開けてぇ!!」

「死にたくないぃ!!」


 檻を叩くがもちろん砕けない。

 そして、すぐそこに蜘蛛達が襲い掛かる。


「ママァ!パパァ!!どこぉ!?パパァ!?マギャガウ!?ああああ!?」

「ぬぅおお!子供を食べるでないわああ!ぐお!?おのれぇ!おごえぇ!?」

「わ、儂は骨しかないぞ!?やめるんじゃ!?ぎゃああ!?あああ!?」

「こっちだ!ばけものぉ!!こっちに来ぉい!!ぐあ!?こっちからもか!?ちくしょおお!があああ!?」

「あなたあああ!?ひぃ!?子供だけは!?誰か!?誰かああ!?いやあああ!?」


 もはや街の誰もが餌。

 そして、残念ながら物語のような英雄は現れない。

 物語だったとしても、ここは序盤。

 物語の序盤は、救いのない悲劇と決まっているのだから。


「さて、ここを食い尽くしたら、どこに行きましょうか?我が神は北に行くと言ってましたね。ならば東か南ですか」


 大神殿の窓から子供達の食事の様子を見下ろしながら考える。

 

「王都は我が神が消すべきですね。……そういえば…他の魔王の伝承などがありますか。それを見て決めますか」


 大神殿の禁書庫を見て、魔王の封印地を他にも見つけるロパザラクネ。

 そこを抑えてみるのもいいかと考えて、子供達と恐怖の大移動を開始する。



 こうして魔王達はナオの知らぬ間に、ナオの手助けを行っていき、さらに世界を大混乱に陥れていく。



ありがとうございました。


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