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閑話 勇者その2

よろしくお願いします。

キン!カィン!ガン!キン!


「どうした!剣筋がブレブレだぞ!」

「ち!く!しょう!!」


 鎧を着た男と似た鎧を着た少年が剣を合わせている。

 しかし、少年は肩で息をしており、剣も持ち上げることもキツそうだ。


「剣は下げない!」

「ぐぅ!?」

「そこまで!」

「兵馬!!」


 少年、兵馬は弾かれて後ろに倒れる。

 そこで終了が告げられて、そこに悠里が駆けていく。

 その後ろには麗未も付いて行く。


「大丈夫?」

「あぁ。……はぁ、情けねぇなぁ」

「いやいや、それは仕方ないぞ?ヒョウマ殿」

「トゥオニ団長」


 ため息を吐いて落ち込む兵馬に声を掛けてきたのは、騎士団長のトゥオニだ。

 茶髪の短髪に、左頬に傷跡がある30代後半の男性。


「お前さんは剣に関するスキルはねぇんだ。いくら神の力で体を強化されていても、それで完璧に使えるわけがない。お前さん達は剣や武器を振る身体つきをしてねぇんだ」

「そこまでは高望みっすか。勇者だからって努力は必要、か」

「そういうことだな」


 顔を顰めて悔しそうにする兵馬に、苦笑しながら話すトゥオニ。

 兵馬達が召喚されて1週間経つ。

 兵馬達『界使』はまだこの城にて全員滞在していた。




 兵馬達は召喚された翌日に、城に集められた。

 しかし、妙に昨日より物々しい雰囲気に首を傾げる。


「なんだ?」

「なんか……怖いよ。兵馬」


 悠里は不安そうに兵馬の腕に抱き着く。

 兵馬も不安だったので、その温もりに少し安心する。

 そこに麗未や美園が近づいてくる。


「なんか……嫌な感じだね」

「そうね。麗未、無理しちゃだめよ」

「うん。ありがとう」


 麗未は昨日のうちに目覚めてはいるが、顔色はまだ悪いように見える。

 それを見て、少し眉を顰める兵馬。

 麗未は兵馬の表情に気づく。


「どうしたの?嬉田君」

「いや……なんでもねぇよ」

「本当に?」

「あぁ」


 心配そうに聞いてくる麗未。

 それを問題ないと返し、視線を逸らす兵馬。

 気を付けないと『奈央を助けられなくて悪かった。』と言ってしまいそうだった。


 兵馬は周りを見ているとあることに気づく。

 

「佐竹の野郎がいない?」

「え?」

「……やっぱりだ。佐竹だけがいねぇ。同じ家に行った奴らはいるのに」

「佐竹君に何かあったってこと?」

「……その可能性が高いかもな」


 この警戒態勢はあの問題児が何か起こしたからだと考える兵馬。

 そこにカテリーナが入ってくる。


「お待たせ致しました。どうぞお座りください」


 カテリーナの促しに思い思いに座る一同。

 全員が座ったことを見届けると、カテリーナは唐突に頭を下げる。


「皆様にはただでさえ窮屈で不安な一夜を過ごさせてしまったことを最初にお詫び致します。……そして、もう1つ」


 カテリーナの雰囲気に全員が嫌な予感を覚える。


「サタケ様についてです」

『!?』


 全員が顔を顰める。

 やっぱりあの問題児が何かしたのかと。

 間藤が声を挙げる。


「彼が何かしましたか?」

「いいえ。逆で御座います」

「え?」

「彼は……何者かによって殺害されました。恐らくは魔王の手の者と考えられます」

『な!?』


 全員が目を見開き、顔を青くする。

 中には吐き気を耐えようと口に手を当てる者もいる。

 カテリーナはそれを見て、申し訳なさそうに目を伏せる。


「お辛いとは思いますが、状況が許してくれません。分かっていることを全てお話しし、今後についてお話させていただきたいと思います」


 再び頭を下げるカテリーナ。


「殺されたのは昨晩の食事時の直後。扉の前には護衛が2名配置されておりました。メイドが給仕に入ってしばらくして部屋から異臭がしたため、護衛が突入したところ……殺害されているサタケ様を発見しました。入室していたはずのメイドの姿がなく、さらにそのメイドが偽物であることが判明したため、その者による犯行と見ています」


 そこに教師の六動が突っ込む。


「なんで偽物のメイドがあっさりと入り込めたんだい?」


「1つは本来公爵家に勤めるべき者を殺害して入れ替わっていたためです。面接時の話も齟齬がなかったため、誰も気づけませんでした。もう1つはこの国のメイドの所作を完璧に習得していたためです。この国ではメイドの教育は国の教育機関ででしか行っていません。そのため、この国ではメイドを名乗る者は素性を保証されていると同義なんです」


「写真とかないのかい?」


「残念ながら……」


 次は兵馬が話しかける。


「でも、働いていた以上腕輪をしていたはずだろ?それに、なんで魔王の手の者だって考えてるんだ?」


「確かにその者も腕輪は身に着けていました。しかし……現場に外された腕輪が発見されました。サタケ様のものではない腕輪です。現状、人間の国ではこれを1人で解除する術はありません。よって可能性があるのは魔王、ということになります」


「なんで外せないって言い切れるんだ?」


「これを作られたのは神だからです」


「……なるほど」


 兵馬は一応その言葉に納得する。釈然としない部分はあるが。


「まさか…魔王がこんなにも早く皆様のことを見つけており行動するとは、情けないことに思っておりませんでした。言い訳にもなりませんが…。しかし、これによって皆様の安全面の確保が最優先となり、この後皆様の腕輪の解除をさせて頂きます。そしてすぐさま簡単にではありますが、スキルの説明を行います。

本日より皆様は全員この城にて過ごして頂きます。護衛の数を増やし、結界を強化することで防衛も強化していく所存です。しかし、それ以上に皆様には自衛手段を持って頂きたいのです。情けない限りでございますし、信頼してくれとはもはや言えません。それでもどうか、皆様にはもう少しここで過ごして頂きたいと思います」


 そう言って頭を下げるカテリーナ。

 そこに六動も口を挟む。


「今は王女様の言う通りにしとけ。私達はこの世界の事を知らん。ここを飛び出しても野垂れ死にするだけだ。日本とは違う。まずは自衛手段を確保することだ。それを手伝ってくれるだけ、まだ良心的だ」


 その言葉に怒鳴ろうとしていた連中が口をパクパクして、顔を真っ赤にして黙り込む。

 六動は言葉を続ける。


「もう2人死んだ。元の世界には帰れない。捨てれる限り捨てろ。日本の事は。悪いが私も生きるために教師という立場を捨てる。だから、これが私の最後の授業だな」

「な!」

「当然だろう?ここでは教員免許なんて役に立たん。私が教えれることなんてないよ」


 その言葉に顔を顰める生徒達。

 兵馬は内心そりゃそうだと思っている。

 

「それでは、これより腕輪を外します。それと同時に皆様にはこちらのカードを配ります。このカードに皆様の血を垂らしてください。それで自分の力を確認出来ます。内容は周りには話さない様に。話す場合は他に聞いている者がいないのを確認してからでお願い致します」


 その言葉で後ろから人が近づいてきて、全員の腕輪を外す。そして目の前にカードと針が置かれる。

 兵馬達は針で指を刺して、血をカードにつける。

___________________________________________

Name:HYOMA URESHIDA

Age:17

Species:Human

Skill:【炎の勇者】【剛力】【飛翔】

______________________

 

(マジかよ……!?)

 

 兵馬はこの城を出ることをメインで考えている。

 【勇者】の文字は物凄く面倒だった。


 その後、修練場に移動して、スキルの使い方や魔力の使い方を学んだ。

 全員が問題なくスキルを発動出来た。

 

 今日はそれで終了となり、部屋へと戻った。

 すると、すぐ部屋に悠里や麗未達が現れる。


「兵馬はどうだったの?」

「……面倒になったかも」

「え?」

「【炎の勇者】ってのがあった」

「「え!?」」


 目を見開く悠里達。


「確か…間藤君が【光の勇者】で、文灘君が【氷の勇者】持ってたよ」

「あいつらもか……」


 兵馬は別に驚かない。

 文灘 仁(ふみなだ じん)は前生徒会長で、学力も学年で5指に入る。運動もそこそこできる。

 目つきが恐ろしく鋭くて口数が少ないため、怖がる人は多い。

 実はただ人見知りなだけで、物凄く面倒見が良くて優しいのだ。

 寡黙なためクラスでは間藤が目立つだけで、文灘も十分クラスの中心人物となりえる存在だ。

 だから驚くことではなかった。


「言っとくけど、多分周りは兵馬も勇者だと思ってるよ?」

「は?」

「いやいや結構君も有名だからね?」


 他のクラスメイトからすれば、間藤、文灘、嬉田の3人は勇者筆頭として盛り上がっていた。

 兵馬は2人ほどではないが、十分その爽やかな性格で人気を得ているのだ。

 

「まぁ、いいや。俺は黙っておくか。……鑑定系スキル持ちは?」

「黙っとくの?分かんない。皆やっぱりちょっと疑心暗鬼になってる」

「だろうな」

「私が持ってるわ」


 声を挙げたのは美園だ。

 ちなみに美園は眼鏡をかけている。


「マジかよ!?」

「でも、分かんなかったわよ?【炎】は持ってたのは見えたけど。言われたら勇者が付いたわ。他の2人もね。多分、勇者は鑑定をある程度防ぐみたい」

「なるほど。じゃあ、悪いが黙っててくれ。まだ勇者の事が分からねぇからな」


 それに頷く悠里達。


「ちなみに……私達以外は、間藤君、文灘君、六動先生の3グループに分かれた感じになったわ」

「もうか?」

「勇者のブランドと先生のさっきの態度に引っ張られたって感じね」

「……なるほどな。……いい流れじゃねぇな」

「やっぱりそう思う?」


 兵馬と美園は互いに顔を顰めている。

 悠里が少し頬を膨らませて、兵馬の腕を引っ張る。


「何がダメなの?」

「悪い悪い。この段階でグループで固まるのは仕方がねぇが……下手したら仲違いして分裂するぞ。特に六動は行動が読めねぇ。間違いなく、間藤や文灘とは足並みなんて揃えねぇ」

「もしくは、どちらかに取引を持ちかけて、間藤君と文灘君を仲違いさせるかね」

「そんな……!?」


 麗未は顔を顰める。


「すでに2人死んだ。今の所ゲーム気分で盛り上がる奴は出ねぇだろ。……自分の命が最優先になっているはずだ」

「残念ながら、誰にもその行動を止める権利はない。殺されたら別だけどね」

「……捨てれる物は捨てろってこと?」

「悔しいがな」


 兵馬も顔を顰める。

 

「こうなると逆に俺らも下手にどことも仲良く出来ねぇ」

「そうね。多分、ここにいる全員のスキルがバレればヤバいわ」

「……マジで?」

「えぇ。私は【鑑定】と【真贋】【幻の賢者】の3つ」

「私は【水の聖女】【光】【魔蔵】の3つ」

「で、私は【嵐の聖女】【必中】【発気】の3つ」

「…………」


 頭を抱える兵馬。

 チートの集まり過ぎるのだから仕方がないが。


「安心して。賢者も聖女も言わないとバレないと思うわ」

「それだけでも朗報か」

「まぁスキル3つ持ってる時点で凄い方だけど」

「………」


 覚悟を決める兵馬。


「分かった。とりあえず、スキルは出来る限り秘密。しばらくは基礎的な使い方と武器の使い方や体力作りを頑張ろうぜ。その中で勇者、聖女、賢者の事も調べて方針を決める」

「「「はい」」」


 この4人で行動することには疑問を持たなかった兵馬。

 忘れているが麗未、悠里、美園はクラストップ3の美女だ。

 妬みによって色々巻き込まれていくことになる兵馬だった。




 その後、兵馬達はカテリーナに相談し、騎士団長のトゥオニの下で訓練を始めた。

 走り込みをしたり、模擬戦をしたり、人との戦い方や魔物との戦い方を教えてもらう。

 その中でさらっと勇者のことなどを質問し、情報を集めるのだった。


 分かったのは【勇者】【聖女】【賢者】は珍しくはあるが、他の国々にもいるということ。

 そして、別に勇者であっても必ずしも国に仕えてはいないということだ。

 

 注意がいるのは称号系のスキルは周囲の認知が重要とされていることだ。

 その言葉に兵馬達は頭を悩ませる。

 バラした方が効果は上がるが確実に面倒になる。


 すでにグループ同士でいざこざが起こっているのだ。

 兵馬達も勧誘が増えてきている。

 ここでバラすのは悪手だ。


 間藤は神殿と手を組んで、魔王討伐を掲げた。


 そして、文灘は国と組んだ。ただし、魔王討伐は『必要になれば』というスタンス。まずは生活の基盤を作ることを目標にしている。


 六動は冒険者ギルドや商業ギルドに売り込んだ。ちなみに無動は【雷の勇者】だった。六動は自由度が高いギルドで他国に目を向けている。魔王討伐は『基本無視』。『この世界の奴が全員魔王討伐に行くなら参加してやる。でも、そうじゃないなら断る』と言い切った。

 

 神も世界を渡るだけで十分と言っていたため、無動の言葉を誰も否定出来なかったのだ。


 というわけで、宙ぶらりんなのが兵馬達なのだ。

 面子も面子なので3グループとも勧誘を強めてきているのだ。


「めんどくせぇな」

「本当にね」

「あ!ここにいたのか兵馬!」

「……来たよ」


 現れたのは間藤だ。後ろには間藤の親友の太田黒 明(おおたぐろ あきら)と、彼女気取りの城戸 綾香(きど あやか)がいる。

 太田黒は黒髪の丸刈りで190cmの巨体。柔道部で主将もしていた。

 城戸は茶髪をサイドテールにしており、スタイルも悪くはない。しかし、麗未達と並ぶとやや見劣りする。


「そろそろ決めてくれたか?」

「まだあれから3日じゃねぇか。なんの決定材料もねぇよ」

「でも、魔王討伐のためには!世界を救うためには君の力がいる!」

「待ってくれって。確かにこの城の人達を見捨てることは嫌になるくらいには信用しているが、世界を救うって言えるのは無理だ。俺はそこまで夢を持てねぇ」

「そのための仲間じゃないか!」

「だったら、答えを決めるまで待ってくれよ。時間が無いわけじゃねぇだろ?」


 兵馬の言葉に間藤は唇を噛む。

 その様子にやはり文灘達と上手くいってないことを悟る。


「せめて、仁達と和解してくれ。俺は仲間といがみ合うのは御免だ」

「彼らは世界を救う気なんか!」

「なぁ、勇志。お前は……殺し合いに…戦争に誘ってるって自覚あるのか?」

「!?」


 兵馬の言葉に一瞬目を見開く間藤。

 それを見逃さなかった兵馬達。

 トゥオニも後ろで顔を顰めていた。


「立派だとは思うがな……ちゃんと自分がやろうとしていることで何が起こりうるのかは理解しとけ。……少なくとも今のお前と一緒に行く気はない」


 そう言って移動しようとする兵馬。

 その後ろに付いて行こうとする悠里達に今度は声を掛ける間藤。


「君達はどうだい!?俺達と来ないか?」

「私は兵馬と一緒がいい」

「今の嬉田君の言葉が正しいと思うので、ごめんなさい」

「なら、私もパスね」


 そう言って去っていく3人。

 それを悔しそうに見送るしかない間藤だった。




「どうすっかなぁ」

「そろそろ厳しいわね」


 兵馬達は部屋で相談していた。

 間藤の雰囲気的に近いうちになんらかのアクションがあると考えたのだ。


コンコン。


 そこにノックが響く。


「誰だ?」

「カテリーナです」

「王女様?……入ってくれて構いません」


 やってきたのはカテリーナだ。

 兵馬達はソファから立ち上がり、許可を出す。

 礼をしてカテリーナが入ってくる。

 その後ろにはトゥオニがいた。


「突然申し訳ありません」

「いえ。大丈夫ですよ。……あ~。どうぞ。お座りください?」


 兵馬の言葉にクスクスと笑って、礼をしてソファに座るカテリーナ。

 トゥオニは護衛のためか後ろで立っている。

 兵馬達も座る。


「それで何用ですか?」

「……皆様が身の置き方に苦労してらっしゃるとお聞きしたもので」


 その言葉にトゥオニを見る。

 トゥオニはウィンクしてくる。

 苦笑する兵馬達。


「まぁ、ぶっちゃけそうですね。まさかこんなに早く派閥が出来るとは思ってませんでしたよ」

「それは私達も同じです」


 お互いに苦笑する。


「でも、いいのですか?王女様が私達に近づくと、文灘君や間藤君達も慌てると思うのですが」

「そうですね。しかし、マドウ様はすでに神殿所属となっています。そしてフミナダ様は…先ほど正式に隣国に行くことを決めたそうです」

『は?』


 カテリーナの言葉に兵馬達は唖然とする。


「仁が隣国に?」

「はい。フミナダ様達は隣国の大使に勧誘され、それに乗ったそうです。『この国では先はない。』だそうですよ?」

「はぁ?でも、あいつらはこの国の所属になるなんて交渉してないですよね?」

「はい。私は聞いておりません」


 界使の担当はカテリーナだ。王であっても勝手に界使と交渉しても認められないのだ。

 文灘達は『国と組む』と言いながら交渉している様子が無かったから不思議に思っていたが。


「まさかずっと他国の連中と交渉を?」

「はい。この国とは最初から考えてなかったそうです」

「……何を考えているんだ?」

「私が知るわけないでしょ」


 兵馬の疑問を美園が斬り捨て、悠里達も首を振る。

 

「この国がなんで召喚に選ばれたか気づいてないんじゃない?」

「その可能性はあるが……」


 兵馬は何か釈然としない。

 そんなに馬鹿ではないと思うのだがなぁ。

 それをカテリーナが補完する。


「どうやら神に選ばれて、仲間を殺してしまった事が決定打のようですね」

「………」


 それで理解する兵馬。

 文灘達は『奈央を殺した神』が選んだ『佐竹が殺された国』を信用しなかったのだ。

 その気持ちは理解できる。出来てしまった。


「マドウ様達も近々聖国に拠点を移すようです」

「だから…焦ってたのか」

「ムドウ様達も依頼で国を離れるようです」

「全員、国から離れる?……あれ?」

「はい。これでこの国はフリーになりました」

『あ!』


 カテリーナはニコニコと語る。


「国を出る以上、もう他の方々には援助は出来ません。これは協定で決まっています」

「……カテリーナ様。1つ相談があるんですが」

「はい。なんでしょう?」

「俺達をこの国で雇ってくれませんかね?」

「えぇ。喜んで」


 出来レースだがとりあえず形式には乗っ取る兵馬とカテリーナ。

 ちゃんと相談した事実は作っておくことは大事だ。


「よかったです。出来ればウレシダ様達には残って欲しかったですから」

「なんでですか?」

「トゥオニを筆頭に一番評判がいいからですよ。もちろん私も同感です」


 兵馬達の行動は城の者達にとって、十分信頼を勝ち取るものだったのだ。

 威張ることもなく、被害者面もせず、大げさなことも言わず、誰にでも丁寧に接し、努力する姿を見れば大抵の人間は好意を抱く。


 その言葉に兵馬達は照れて、顏を見合わせて頷く。


「じゃあ、伝えておくことがあります」

「はい?」

「俺達のスキルについてです」

「っ!まさか!?」

「はい。俺は【炎の勇者】です。悠里が【嵐の聖女】、麗未が【水の聖女】そして美園が【幻の賢者】です」

「「なぁ!?」」


 カテリーナとトゥオニは目を見開く。

 兵馬が勇者である可能性は考えていた。しかし、他の3人も称号系とは思わなかった。

 カテリーナはすぐに兵馬達が何故隠していたのかを理解した。

 ますますこの4人が気に入った。

 王達も文句は言うまい。


「この事実は公表しても?」

「大丈夫です。ただし」

「もちろん、その前に皆様の地位は確定させておきます」

「お願いします」


 カテリーナが立ち上がり、兵馬に腕を差し出す。

 兵馬も立ち上がり、カテリーナと握手をする。

 契約は完了した。


 翌日の昼。

 各グループや他国に衝撃が走る。


 兵馬達がクラベスヤード所属の勇者になったことが公表されたのだ。

 地位は名誉侯爵特位で、騎士団特務所属。

 貴族位は兵馬達には界使として元々与えられるものだった。特位のため、必ずしも貴族の責務に従う必要はない。

 騎士団特務は、国のために戦うが必ずしも国の命令に従う必要はないという特権を持たせるものだ。

 貴族内にも反発があったが、兵馬達の称号を聞いた瞬間に反発は無くなった。


 1つの国に同時に【勇者】【聖女】【賢者】が所属となって揃った事は全ての国の歴史上でも片手指分しかない。

 もちろん国民は大歓迎で、祭りを開催しそうな勢いだった。

 もはや他国に行く勇者のことはどうでも良かった。


 間藤や文灘はこれに怒りを感じた。


 特に文灘は侯爵位を与えられたことに怒った。

 彼が他国との交渉で得た地位は伯爵位だったからだ。それも貴族義務は順守しなければならない。


 六動も『やっぱり隠してやがったか!』と苦い顔をしていた。


 他国は不満はあったが口には出来ない。元々認めていたことだからだ。

 

 これにより勇者の派閥は確定し、それぞれで名を馳せていくことになる。


 それが【名誉】なのか、【汚名】なのか。  

 

 直ぐに人々は知ることになる。


ありがとうございました。


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