お前はただの人間だ
よろしくお願いします。
忠保を倒した僕達は屋敷の中を探索する。
「ふむ。核は分かりやすいところにあったな」
「負けたら潔く渡す気だったみたいですね」
「だとしても、あれはどうなんだい?」
核は正面玄関を入って、正面の部屋にあった。
御神体を奉納するように鎮座されていた。
とりあえず、いつも通りにパクリと核を食べる。
「大丈夫なのかい?」
「全く問題ないね」
シフラは心配そうだが、僕はあっけらかんとする。
ルティエラも初めて見るので、少し心配そうだ。
「問題ないよ。欠片程度でどうにかなるわけほど軟じゃない」
「そうですね!」
「信じるとしようかね」
「さ、他に何があるか見てみようか」
再び探索を再開する。
しかし、ぶっちゃけ何にもなかった。
醤油とか味噌もあったけど、もう作れるからいらない。
武器もなかった。
前の2つもそうだけど、ラスボスなんだから宝ぐらい用意しとけ!
つまらん!
「でも、魔剣とかはナオ様作れるじゃないですか」
「そうだよ。あたし達の武器も服も魔道具じゃないか」
呆れたように言う2人。
シフラの武器は見た目は変えてないが、【粉砕】【再生】【サイズ変化】【金剛】を付与している。
服には【再生】【金剛】【清潔】が付与されている。
その言葉に苦笑する。
そうなんだけどね。
ロマンなんだよ!
僕達は転移で迷宮の外の森の中に出る。
僕は天使を捜す。
ふむ。……いた。こっちには気づいてないな。
「いましたか?」
「うん。こっちには気づいてないね」
「どうするんだい?」
「無視してもいいんだよねぇ」
見つかってないしね。
いちいち洗脳するのもめんどい。
「街に転移するよ」
「はい」
「はいよ」
僕達は街に転移する。
僕達は街を歩く。
ギルドに寄って、この国最後の迷宮の情報を集めるためだ。
知ってるのは、ここから国の反対側にあることだけだ。
流石にシフラも知らなかった。
僕達はギルドに入る。
シフラが再び受付に声を掛ける。
「あら。おかえりなさい。早かったですね。やはり駄目でしたか?」
「ん?あぁ。もう用事は終わったよ」
「え?」
「それでね。ここから反対にある【コーロット】の迷宮について聞きたいんだ」
「え?」
「そこに行くまで何か気を付けることはあるかい?」
「え?」
受付嬢は完璧に固まっている。
シフラは困惑に顔を染める。
そこに僕が近づいてくる。
「もういいよ。シフラ。情報はもらった」
「……あたしが声かけた意味あったのかい?」
「彼女や他の連中の頭を読む時間が短くなった」
「なるほどねぇ」
シフラは苦笑いして歩き出す。
そこでようやく受付嬢は復活する。
「ちょ、ちょっと待ってください!?じょ、情報を!?迷宮の情報をください!!」
「嫌です」
「え!?何でですか!?」
「なんで自分達の情報を出さないといけないんですか?」
「そ、それは……」
「知りたいなら、あなたが行くべきだね」
そう言ってまた歩き始める僕達。
そこにマック達が立ち塞がる。
「なんだい?」
「情報を話すんだ。それは君達の義務でもある」
「おかしなこと言うな?僕達は『用事が終わった』としか言ってない。そして、僕達は『攻略する』なんて言ってないよ」
「だ……だとしても!」
「それに君がそれを言えるのか?【風の勇者】様」
「なっ!?」
僕の言葉にマック達は目を見開いて固まる。
その様子に周りの冒険者達はそれが真実だと気づいてしまった。
「なっ!何を言い出すんだ!」
「別に?自分の情報を隠してる奴に、情報を話す義務について言われたくないって話さ」
「っ……!」
顔を顰めるマック。
そして、肩を竦めて歩き出す僕達。
しかし、マックは今度はシフラに声を掛ける。
「待ってくれシフラ!君はそんな奴と一緒でいいのか!?」
それに顔を顰めるも無視することにしたシフラ。
マックは顔を怒りに歪めて、シフラの肩を掴もうとする。
「触るんじゃないよ」
「え?」
急な浮遊感を感じて呆けるマック。
シフラや仲間が遠のいていく。
そして背中に衝撃を感じる。
「がっ!」
そのまま崩れ落ちるマック。
仲間達が慌てて駆け寄ってくる。
マックは何が起こったか分からないまま意識を失った。
僕達は宿に戻る。
マックの事はもう頭から消えている。
「明日は早めに出ようか」
「そうですね」
「のんびりする理由はないね」
そう言って今日はさっさと寝ることにした僕達。
僕達は早朝に宿を出て、馬車でブラケを出発した。
馬車を走らせて1時間ほどすると、後ろから馬が駆けてくる音がする。
「止まれ!!」
いきなりスキルで攻撃を仕掛けてくる。
ふむ。乱暴だな。
結界を張って防ぐ。
馬車を止めて、顔を出す。
いたのはマック達だった。
勇者が問答無用で奇襲とは。
やはり、その程度の存在なのだな。
「いきなりだね。勇者殿」
「うるさい!昨日はよくも!」
「……なんだ。ただの仕返しか。つまらないな。ルティ、シフラ。任せるよ」
「はい!」
「あいよ」
僕は馬車の中で座り込む。
一応、外の様子は見ている。
ルティエラとシフラは、それを当然と受け止めて武器を取り出す。
馬を降りていたマック達はそれを見て、怒りで顔を赤らめる。
「ふざけているのか!!」
「ナオ様がお前如きの相手をするわけないでしょう!」
「アホみたいな奇襲しといて、今更傷つくプライドもないだろうに」
「なんだと!!」
マック達も構える。
もうルティエラとシフラは目の前にいた。
目を見開き、固まるマック達。
「は!」
「ふ!」
「ふ!【風輪結界】!」
武器を振り下ろす2人。
マックがスキルを使い、風の壁を生み出す。
2人の武器は結界を削りながら突き進んでくる。
マックは慌てる。
そこに仲間の男が盾を掲げて突っ込み、シフラを弾こうとする。
「【圧砕】」
「はああげぇ!?」
「バッダ!!」
盾で突っ込んだバッダは防ごうと声を挙げたが、シフラのバルディッシュによって全く抵抗感無く盾と体ごと叩き潰される。
「かえ!?」
「レイト!?」
ルティエラは刀を伸ばし、マックの後ろにいた僧侶の格好をした女性の額に突き刺す。
レイトと呼ばれた女性は変な声を挙げて息絶える。
ルティエラとシフラは一度下がる。
マックは死んだ仲間を唖然と見て、そして顔を憎悪に歪ませ2人を睨む。
「お前達ぃ!!」
「馬鹿だねぇ。あたしの2つ名忘れたのかい?」
「そんな薄い壁で防げるわけないでしょうに」
それの冷めた様子で告げる2人。
マックの体から風が吹き荒れ始める。
ふむ。あれが【風の勇者】のスキルか。
……弱すぎやしないか?
いや、隠すように使っていたから熟練度が低いのか。
馬鹿だなぁ。
勇者って奴は勘違いする奴が多くてダメだ。
「くらえぇ!!」
「無駄です」
「なぁ!?」
マックが風を剣に纏わせて振り下ろすも、ルティエラのスキルで簡単にかき消される。
驚くマックだが、体を纏うはずの風も消えていることに気づく。
「やはり、私の【嵐】の方が上ですね。何を考えて隠していたのですか?」
「全くだね。使っていかないとスキルは強くならないのにねぇ」
「っ!?」
マックはもちろん後ろにいた斥候の男と魔術師の女も固まっている。
「ナオ様の言う通りだねぇ。勇者って奴はうぬぼれている奴が多いっていうのは」
「な……に……?」
「簡単な話さ」
マックはシフラの言葉を唖然と聞き返す。
そこに僕が横入りする。
「確かに【勇者】スキルを持ってる奴は様々な伝説を作ってきた。だけど、君は違うだろ?」
「何が言いたい……!」
「分からないかい?【勇者】が凄いということと、君が凄いということは、同じではないんだよ」
「なにぃ?」
「……まだ分からないのかい?【勇者】っていう奴は、『何かを成し遂げたから』、凄いんだ。何も成し遂げてない君は凄くもないし、特別に強いわけじゃないんだ」
「っ!?!?」
「【勇者】はあくまで『未来において英雄になりえる者』に与えられる称号だ。【勇者】スキルは、多くの者に勇者であると認められるだけの功績を作って初めて、その真価を発揮するんだ。ずっと勇者を隠し続けた君には、その力はただの【風】スキルと変わらない」
僕の言葉に、限界まで目を見開いて固まるマック。
本当に愚かだ。
【勇者】という伝説に踊らされ続けている。
あくまで勇者は『勇気を持って困難に挑む者』、または『勇気を持って困難に立ち向かう可能性がある者』だ。
もちろん功績は様々だろう。
魔王や異王を倒したわけではないが、国を守り続けるために戦い続けた者でも、認められれば勇者となりえる。
でも、マックはなにもしていない。
普通の冒険者だ。
ちょっとスキルが強い冒険者に過ぎない。
事実、シフラの方が有名だったのだから。
「マック…だったっけ?君はただの人間だよ。勇者になれる可能性を、調子乗って捨てた愚か者さ」
「あああ……ああああああああ!!!」
マックが壊れたように頭を抱えて叫び出す。
そして、剣を振り上げて、剣身に竜巻を生み出す。
「だから、無駄だよ」
シフラがバルディッシュを構えて、マックの目の前にいた。
バルディッシュの刃から炎が噴き出す。
「【豪火の圧鎚】」
【炎】と【圧力】を合わせた技。
炎の壁を作りながら、マックに叩きつける。
マックの竜巻はあっさりと霧散する。
「べぇ!?」
マックもあっさりと潰れて、体が灰になって死に絶える。
その間にルティエラが、残りの2人を殺す。
「ホントに弱かったねぇ」
「全くですね」
死体を燃やして後処理をしながら話す2人。
僕はそんな2人に苦笑する。
2人が強すぎるのもあると思うけどね。
しかし、なんであんな奴に【勇者】スキルが発現したのやら。
まぁ、魔力量が多かっただけかな。
神も勇者は選べないからなぁ。
自分が司る力を持つ勇者と強制的に結びつかされるだけだ。
哀れだよな。
僕はそう結論付けて、2人に声を掛けて馬車を走らせる。
昼飯の時には、もうマックの存在は3人の記憶から抜けていた。
神界。
未だに魔王の情報を全く掴めていなかった。
「まだ見つからんのか?」
「申し訳ありません……!」
「はぁ~。こればっかりは周りを愚かとは言えんな」
ゼウスガイアやサダルマキアは下級神の報告にため息を吐く。
本来なら叱咤すべきだが、状況だけに責めるのは酷である。
上級神ですら全く掴めていないのだから。
「マジェネリアは?」
「残念ながら……魔王の力が強すぎたのでしょう。未来を見ようとした途端に倒れました」
「なんということだ……!」
上級神ですら一瞬で気絶するほどの力の差がある。
戦闘力は無いが、それでも上級神に連ねるだけの力はある。
すると、ゼウスガイアの右手甲から血が噴き出す。
「っ!?また核が奪われたか!」
「なんですって!?」
サダルマキアは慌てて、下級神に連絡を取る。
天使達に怪しいものが迷宮に入っていないか確認させる。
しかし、怪しい者を見かけた天使はいなかった。
「どういうことだ?」
「迷宮内に転移できると?」
「それはありえん。この神王ですら出来んというのに」
結局それからも情報はなかった。
上級神が集まる会議でも特に進展はない。
そこに下級神が駆けこんでくる。
「大変です!!また街が吹き飛びました!!」
「なんだと!?魔王か!?」
「それが……分かりません」
「どういうことだ!魂達から情報は得られないのか!?」
「その魂がいないのです!」
「なにぃ!?」
驚愕と喧騒に包まれる会議場。
「魂さえも消滅させたというのか!?」
「ありえん!そんなことが出来る者など【闇淀の坩堝】に閉じ込めた者の中にはいないはずだ!」
異常事態に混乱する上級神達。
こればかりはゼウスガイアも落ち着くまで時間を要した。
「今すぐ手が空いている天使達をその街の周辺に飛ばして調べさせよ!それだけの力だ!残滓から得られるものがあるはずだ!」
「はっ!」
サダルマキアが指示を出す。
下級神はすぐに動き出す。
しかし、結局得られるものはなかった。
魔力が大きすぎて、調べようにも調べられなかったのだ。
下手に刺激すると、魔力が暴走して天使ごと消滅したため、誰も手を出せなくなった。
そして、さらに事態は悪化する。
再び上級神達が集まっている時に、上級神の1人とゼウスガイアの右頬から血が噴き出したのだ。
「がぁ!?」
「ぐ!?」
「キルルザリア!」
「ゼウスガイア様!」
「大丈夫だ。……核が食われたな。キルルザリアはなんだ?」
ゼウスガイアは直ぐに傷を癒す。
そして、剣の上級女神 キルルザリアも傷を癒しながら、赤と銀がメッシュになった髪を掻き揚げる。
「馬鹿な……!?勇者が……死んだ!?」
「なんだと!?」
「お前の力を持つ勇者は何人いる?」
「……3人です。その内の1人が迷宮の主になっていたはずです!」
「そこはどこだ!」
「確か……ここだ!」
キルルザリアは忠保のことを思い出し、場所を投影して示す。
「そこは消滅した街の近くだぞ!」
「その国に天使を集中させよ!迷宮が無い街にも派遣するのだ!」
ゼウスガイアはすぐに指示を出す。
その翌日に今度は風の上級神からも血が噴き出す。
場所は分からないが、今度は魂が確保出来、遂にナオ達の姿を確認する。
「見たことがないぞ?」
「変身しているのかもしれん」
「とりあえずこいつらのことを天使共に報せよ!」
遂に神の手がナオ達に届こうとしていた。
ありがとうございました。
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