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16/53

私がもらう

よろしくお願いします。(2/3)

 【ブラケ】までは馬車で3,4日ほどだそうだ。


「あたしの馬達は体力もあるからね。3日ぐらいで着くよ」


 そう言って、手綱を握るシフラ。

 私達はのんびり荷台で寝転がっている。


 魔物も襲ってくることはなく、平和に進んでいく3人。

 夕暮れを迎えたので、周りが見渡せる場所でテントを張る。

 夕食を食べた後、シフラが話題を振ってくる。


「で?あんた達はなんで【毒畑の迷城】に行くんだい?」

「そりゃあ、制覇するためよ」

「はぁ?本気かい?40年も制覇どころか1階も進んでないんだよ?」


 【毒畑の迷城】。

 名前の通り、毒に溢れた迷宮である。

 毒沼、毒花、毒食物に毒を持つ魔獣しかいない。

 城というのは迷宮内の休憩所のようなところが城の形をしている小屋だからだ。

 毒の内容も様々だ。

 麻痺、神経毒、媚薬、幻覚、混乱、溶血など死を招くものばかり。

 そのため、解毒薬や解毒の魔力が足りず、ほとんど進めずに撤退することになり、攻略が進まない。

 40年前に28階まで攻略されたが、そこから全く進んでいない。


「ま、どうとでもなるわよ」

「すごい自信だねぇ」

「で?そっちは?」

「あたしは【アーコラの花】だね。5~10階にあるって言われてる」

「言われてる?」

「はっきりとした情報がないんだよねぇ」

「……大丈夫なの?それ?」

「領主様にあると断言されて、取って来いって言われちゃったしねぇ」

「怪しすぎでしょ」

「だから、1人で行ってるんだよ」


 そう言って苦笑するシフラ。

 やはり巻き込まないためかと思う私。

 シフラは聡明だ。

 この依頼の怪しさに気づかないはずがない。

 それでも他の連中を守るために1人で行くことにしたようだ。


「領主ってシフラに恨みでもあるの?」

「何もしてないよ。何故かターゲットにされたのさ。まぁ、それから5年もやり過ごしたからねぇ。そろそろ恨みは出るかもねぇ」


 私はそれを頷いて聞いている。


 ……奴隷にしたいってとこかしらね。

 負債を負わせ奴隷に落として、合法的に手元に置きたいってとこかしら?


 しかし、それにしては5年は長すぎる気もする。

 後ろにいるのは領主だけではなさそうだ。

 私はそう感じていた。

 

 

 シフラ、ルティエラ、ナオの順で見張りをすることに決める。

 流石にシフラの前で結界を使う気はない。

 ナオ達が寝ようとした時に、近づいてくる気配を感じた。


「……馬鹿なのかしら」

「でしょうね」

「魔獣ではなさそうだね」


 シフラも気づいたらしい。

 足元には武器が置いてある。

 

 聞こえてくるのは複数の馬の足音に馬車の音。


 現れたのは、シフラの仲間達だった。

 先頭にいたのは、出発時にシフラに足蹴にされた男だ。


「……なんで来たんだい?ロフス」

「納得いかなかったからですよ」

「……ふ~ん」


 馬から降りて、シフラに話しかけるロフス。

 他の仲間達も馬や馬車から降りてくる。


 ナオとルティエラは立ったまま、成り行きを見守る。


「それで?」

「それでって。だから急いで追いかけてきただけですよ」

「……ロフス。あんたは……もう少し頭がいいと、思ってたんだけどねぇ」

「……」


 シフラは足元の武器、バルディッシュをつま先で蹴り上げる。

 浮き上がったバルディッシュを掴み、片手で軽々と振り回す。

 そして、バルディッシュをロフスに向ける。


「あんた達が領主とつるんでるのは知ってる」

「っ!?……なら、なんで……」

「別に何もしてこないなら、雑用で役に立つ。仕掛けてきたなら……殺すだけさ」


 シフラから殺気が溢れてくる。

 ナオ達は殺気の圧力の大きさに、少し目を見開く。


「かかってきなよ。この【圧殲(あっせん)のシフラ】に勝てると思うならねぇ!」


 さらに圧が高まる。

 ロフス達はその圧力に固まる。


「こ……ここまで…だと!?」

「何言ってるんだい。あたしは一度でもお前達の前で、全力で戦ったって言ったことはないよ」

「っ!?」


 ロフスは一瞬目を見開き、顔を顰める。

 周りは焦ってロフスを見ている。


「そこまでだ!!」


 そこに現れたのは、豪華な服を着た初老の男だった。


「……やっぱりあんたかい。アカン領主様よ」

「ふん!馬鹿な女だ。さっさと奴隷に落ちていればよかったものを。手間を掛けさせよって!」

「なんだい?あんた、こんな体が好きなのかい?」

「はっ!馬鹿を言え!貴様を所望しているのは私ではないわ!」

「じゃあ、誰なんだい?」

「奴隷になったら嫌でも分かる。おい!」


 レーフェン領主、アカン伯爵は後ろに声を掛ける。

 現れたのは2人の男。

 その腕の中には黒髪の青年と、茶髪の少女がいた。


 それを見て顔を顰めるシフラ。

 にやけるアカン。


「ふはははは!どうだ!驚いたか?知っている顔であろう?大切な顔だろう?」

「屑が……!」

「さて、どうすればいいかは分かるであろう?」

「……………」


 アカンを睨みつけながら武器を捨てるシフラ。

 圧力も弱まる。

 

「そうそう。大人しく従え。こ奴らを死なせたくなかろう?」

「アカン様。そこの女達はどうされます?」

「馬鹿か!共に捕えろ!!いい女共だ。私の奴隷にしてやる」


 ロフスはナオ達の処遇を尋ねる。

 アカンはそれに怒鳴りつけて捕縛を命じる。

 男達が縄を持って近づいてくる。


「運がなかったなぁ」

「そう?」

「おっと、大人しくしろよ?人質が死ぬぜ?」

「殺せば?」

「はぁ?…あ?」


 人質を殺しても構わないというナオの言葉に、一瞬呆けた男達。

 すると、急に視界が下がった。

 なんだ?と思ったが、顏に衝撃を感じた瞬間に意識を失った。


「な!?」

「ちょっとあんた達!?」

「悪いけど、顏も知らない奴の命のために奴隷になんかなりたくないわ」


 ナオは脇差を、ルティエラは小烏を抜いて近づいてきた男達の首を斬り落とす。

 それに絶句する周りだが、ナオは知ったことかと告げる。


「ルティ、領主以外は殺していいわよ」

「は!」


 指示を聞いて、飛び出すルティエラ。

 シフラを捕えようとした男達に近づく。


「この!」

「ちぃ!」


 男達は武器を抜いて構える。

 ロフスも剣を抜く。


 ルティエラは強く踏み抜くと、一気に男達の懐に入り込む。


「なぁ!?」

「はっはや!?」

「燃えろ」

『ぎゃああぁぁあ!?』


 男達はルティエラの速さに慌てながら武器を振りかぶるも、突如体を炎が包み込み悶絶する。

 ルティエラはロフスに目を向ける。

 ロフスはルティエラから離れるように下がろうとする。


「ちぃ!化け物がっ!?」

 

 3mほど離れていたルティエラの刀が高速で伸びて、ロフスに迫る。

 ロフスは虚を突かれて、避けきれずに腹に刀が刺さる。


「ぐぅ!?」


キイィィィィン!


「なん!?ぎゃがお!?」


 刀が刺さったことを確認すると、ルティエラは刀身を弾く。

 刀身が震え、音が響く。

 ロフスはその音と振動が、体内で膨れ上がるのを感じた瞬間、体が弾け飛んで死亡する。


 刀を戻し、次の標的を探す。


「ち、近づくな!」

「こいつらが死ぬぞ!?」


 人質を抱える男達が剣を首に添える。

 人質2人は恐怖で声も出せない。


「ですから、私達はその2人を知りません。人質にはなりません。殺すならどうぞ?」

「ひぃ!?」

「ちくしょう!」


 ルティエラが飛び掛かろうとすると、


「させないよ!!」


 シフラがバルディッシュをルティエラに向けて振るう。

 ルティエラはそれを回避する。


「悪いけどね。あたしはあの子達を殺せないんだよ!」

「だから、私を殺すと。私は別にあれらを放置しても構いませんよ。けど、その前にナオ様を無視してもいいので?」

「え!?」


 シフラはナオに目を向ける。

 ナオの近くにいた男共は全滅していた。

 残っているのはナオ達3人、アカンと人質2人にそれを捕えている男2人だけだ。


 アカンはナオとルティエラを見て、顔を青くする。


「ば、化け物め……!」

「こいつらが弱いのよ」

「くっ!いいのか!?貴様らはこれで犯罪者だ!!国から追われることになるぞ!?」

「あら。でも、誰が私があなたを殺したって伝えに行くの?皆死ぬのに」

「な!?」


 ナオの言葉に固まるアカン。

 ナオは呆れた目でアカンを見る。


「馬鹿なの?人目に付かない様に来たってことは、返り討ちに合ったことも分からないのよ」

「くぅ!?」


 アカンは焦って、視線をあちこちに向ける。

 その様子に少し違和感を持ったナオ。

 向けた視線の中におかしな点があった。


「今、人質を解放するなら殺さない!解放しな!!」

「ぐ……うぅ……!わ、分かった…!解放しろ!!」


 アカンは解放を指示する。

 男達はそれに従う。

 少女はすぐに走り出して、シフラに抱き着く。

 青年も駆け足でシフラに近づく。


「よかった!メイ!」

「シフラお姉ちゃん!!」


 シフラは武器を投げ捨てて、少女を抱きしめ返す。

 そして、青年に目を向ける。


「ジェマも良かった」

「シフラさん……ありがとうございます。……引っかかってくれて」

「え?」


 ジェマの言葉にキョトンとするシフラ。

 すると、腹に衝撃と鈍い痛みが走る。


「がふっ!……え?」


 目を向けると、メイが小さいナイフでシフラの腹を刺していた。

 メイはシフラの顔を見上げる。

 その顔は笑顔だった。


「シフラお姉ちゃんって、やっぱり馬鹿だね♪」


 そう言ってジェマの元に離れるメイ。

 シフラは体から力が抜けて、膝を着く。


「な……なんで?お前達は……誰だ……!?」

「嫌だな。ちゃんと本人達ですよ?」

「そうだよお姉ちゃん。偽物じゃないよ?あ。でもぉ、孤児は嘘だから偽物になっちゃうのかな?」


 唖然とするシフラに、ジェマとメイは無邪気な雰囲気を纏って話しかける。

 そこにナオは口を挟む。


「なるほど。あんた達が黒幕か」


 その言葉にジェマが笑みを浮かべて答える。


「その通りです。僕の本名はジェマーフォンド・ゼラ・クリデア。クリデア公爵家の次男です」

「私はメイラビオ・フェナ・クリデア。クリデア公爵家の次女です。まぁ、ジェマお兄様とは腹違いですが」

「クリデ……ア…?公爵?」


 シフラは遂に膝立ちも出来ずに、倒れ込んでいる。

 

「えぇ。この領は本来クリデア公爵家のものなのですが、領地経営までは手が回せないので、アカン伯爵に任せているのですよ」

「私達はレーフェンで領地経営を学ぶために来ていたのですが、そこでシフラお姉ちゃんの噂を聞きまして、一目見て気に入ってしまいました」

「しかし、そう簡単には奴隷に出来ない。そこで僕達は少しゲームを考えて楽しむことにしました」

「孤児を装って近づき、シフラお姉ちゃんの同情を誘う。そして、お金を貢がせながら、アカン伯爵から無理難題を押し付けて、失敗させようとしました。依頼を受けなければ、私達を犯罪奴隷にすると脅して!うふふふふふ!」


 ジェマーフォンドとメイラビオは楽しそうに話す。

 

「まさか5年も耐えるとは思いませんでしたが、そのおかげで僕達はさらに楽しくなりました。だから、今回少し踏み込んでみましたが、まさか1人でこの依頼に行くとは思いませんでした」

「【ブラケ】はうちの領ではないので、その間に仕掛ける予定だったのです。少し予定が狂いましたが、供をしている者達も綺麗どころと聞いて、仕掛けることにしました」

「ここまで抵抗されるのは驚きでしたが、でも!結果上手く行きましたよ!」


 シフラは涙を流す。

 それを見て、メイラビオは微笑みながら顔を近づける。


「シフラお姉ちゃんも喜んでくれるのですね。これで奴隷になれると。大丈夫ですよシフラお姉ちゃん。お家で大事に飼いますから」

「えぇ。首輪を嵌めて、裸で過ごしてもらって、ペットとしてね」


 2人は微笑みながら語り続ける。


「あぁ。そのナイフには麻痺毒と【落力の雫】を塗っているので。もう、あなたはスキルは使えませんよ?」

「っ!?」


 シフラは目を見開く。

 【落力の雫】は罪人に使う薬で、この薬を服用した者は永遠に魔力を失う。

 魔力がなければスキルは使えない。

 シフラの心は絶望に染まってくる。


「で。私達はいつまで、その喜劇を見ればいいの?」


 ナオが口を挟んでくる。

 ジェマーフォンドは笑みを浮かべたまま話す。


「あぁ。もう終わりですよ。では、お2人も行きましょうか」

「行くわけないでしょ?ここであんた達を殺せば終わるのに」

「それは無理ですよ」

「なんで?」

「僕とメイのスキルは特殊ですから」


 ジェマーフォンドはナオを見据え、メイラビオはルティエラを見る。

 2人は手を繋いでいる。

 すると、ナオとルティエラの体が急に何かに縛り付けられたように動かなくなる。


「僕のスキルは【呪縛】。視界に入るものを縛り付けることが出来ます。スキルも封じるし、効果は24時間続きます。ただ、条件がありましてね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これには苦労しましてね。偽名を名乗ると、もうその相手には使えないのですよ。これはシフラさんに会ってから分かりましてねぇ。本当に苦労しました」

「私のスキルは【コピー】です。触れているものの能力をコピーできます」

「さて、では行きましょうか。アカン伯爵」

「そうですな!おい!奴らを馬車に放り込め!」


 アカンが男達に命令する。

 男達が動き出すと、


「別にいいわよ。触らないで頂戴」


 ナオが何もなかったかのように立ち上がる。


「な!?」

「馬鹿な!!確かに縛ったはず!!」

「残念ね。私には効かないわ」

「そんな!」

「あああああああ!!はああ!!」

「なぁ!?」


 ジェマーフォンド達が驚いていると、今度はルティエラが叫び出し、バキンっ!と拘束を解いた。

 それにも目を見開き、固まるジェマーフォンド。


「ふぅー」

「な……なんで?」

「妹のスキル。どうやら、本物より効力がやや落ちるようですね」

「そんな!?」


 ルティエラが息を吐いて、体を確かめながら、メイラビオのスキルの欠点を告げる。

 

「それもあるけど、魔力量が違い過ぎるのよ。蟻がいくら力を振り絞っても、象は縛れないでしょ?」

「あぁ。それもありますか」


 ナオの言葉にルティエラは納得する。

 ジェマーフォンド達は、未だに驚愕から回復しない。


「さて」


 ナオから闇が溢れる。

 背中から黒い翼を広げ、頭には黒い角が3本生えている。


『ひぃ!?』

「運がなかったわね。この魔王に手を出すなんて」

「ま……まおう…?魔王だって!?」


 ナオが闇を飛ばす。

 闇は下っ端の男2人を飲み込み、男達を消し去る。


「あ……あぁ……ま!待ってくれぇ!?私は公爵家に逆らえなかっただけなんだ!?」

「嫌よ。だって、あんたがむかつくんだもの」

「ひぃ!?ひぃいいい!?」


 アカンは馬に手綱を叩きつけて、翻して逃げ出す。

 ナオはそれを見て、あることを思いつく。


「あぁ。いいこと思いついた。試してみましょうか」


 ナオは左腕を空に向かって、右腕をアカンに向かって伸ばす。


「う~ん。【冥暗黒陽(めいあんこくよう)】ってか」


 小さな闇の玉の1つが、空を飛んでいく。

 もう1つはアカンの背中に当たるが、何も起こらない。

 アカンも当てられたことに気づいていない。

 それを眺めて、うんうんと頷くナオ。


「楽しみね」

「な、何をした!?」


 ジェマーフォンドが冷静さを投げ捨てて問いかけてくる。

 メイラビオは震えて声も出せない。

 ルティエラはシフラを回収して、ナオの元に近づく。


「さて、最後はあんた達ね」

「ひ!?」

「まぁ、あんた達はどうでもいいのよねぇ」

「な、ならば!」

「だから、さっさと殺すわ」

「なぁ!?やめ!」


 ナオの右指から一条の闇が走る。

 ジェマーフォンドは飛び退く。

 無様に地面を転がる。

 すぐに起き上がり、体を確認する。

 特に異常は無く、ホッとする。


「あ……ああ……」

「!!メイラビオ!?」


 妹の存在を思い出し、目を向ける。

 

 メイラビオの胸に拳大の玉模様が現れている。

 それを目を見開いて見つめているメイラビオ。

 

「ふむ。その体はいらない」


 ナオが呟くと、一気にメイラビオの全身に闇が広がり、完全に包まれると消滅する。


「メイラビオォ!!」

「人の心配してる場合?」

「っ!!ごふぇ!?」


 ジェマーフォンドの胸から腕が生えてくる。

 後ろを見ると、ナオがいた。


「あんたもいらない。あぁ。シフラは私がもらってあげるわ。大事に飼うから、安心して消えなさい。魂ごとね」

「やめ!」


 ジェマーフォンドが叫ぼうとすると、貫かれた場所から一気に空中に溶けるように消滅する。

 

 ナオはついでにと、連中が乗ってきた馬や馬車を消す。

 死体の痕跡も消す。


「さ~て」


 片づけを終えたナオは、シフラに近づく。

 シフラは体に力が入らず、ルティエラに抱えられている。

 喋る力もなく、目を開けて視線を向けるのがやっとのようだ。


 そんなシフラにナオは顔を近づける。


「あなたが悪いわけではないけど、あなたに巻き込まれて奴隷にされかけたのも事実」


 ナオはシフラの顎を掴んでクイっと上げる。


「そして、力を失ったあなたでは、これから生きていくのは厳しいわよね」


 その言葉に涙を流し始めるシフラ。

 

 ニコォっと笑いかけるナオ。


「治してあげるわ」

「!!」

「そのかわり……」


 シフラに軽くキスをする。

 言葉と行動に目を見開くシフラ。



 ナオは唇をペロリと舐める。



「あなたの身も心も……この魔王がもらうわよ。私の物になりなさい。シフラ」






 一晩中走り続けたアカンは、夜明けごろにレーフェンに着いた。

 アカンは冷や汗で、馬は走り続けて汗だくだった。


「ア、アカン様!お止まりください!!」


 門番が制止するも、アカンは構わず街の中に駆け込む。

 入ってすぐに馬から飛び降り、来た道を振り返る。


「アカン様!何があったのですか!?クリデア公爵家の御二方は!?」

「魔王が出た!!今すぐ門を閉じ、王都に連絡せよ!!」

「ま!?魔王が!?」

「ジェマーフォンド様達はその御力で魔王の足止めをして頂いている!!この時間を無駄にするな!!急げ!!」

「は、はい!!」


 アカンの言葉に、慌てて走り出す門番達。

 それを見て、屋敷へと向かうアカン。


「冗談ではない!冗談ではない!冗談ではない!!冗談ではない!!!何故私がこんな目に!死んでたまるか!死んでたまるか!!」


 目を血走らせて、道を走るアカン。

 早起きをしていた住民は、それを不気味そうに見送る。


 すると、明るくなるはずの空が暗くなるのに気づく。


 アカンや門番、住民達は空を見上げる。

 

 空に大きな黒い玉が浮かんでいた。


「なんだよあれは!?」

「落ちてきてるの!?」

「逃げろ!!」

「どこにだよ!?」

「ちょっと!!なんで門を閉めてるのよ!?」

「開けろぉ!!」

「いやあぁぁ!!」


 住民はパニックになる。

 その騒動に起きて、さらにパニックになる住民達。


 門番達は急いで、門を開けようとするが、


「動かない!?」

「通信も飛ばないぞ!?」

「なんだよこれはぁ!?」

「スキルが使えねぇぞ!?」


 黒い玉は巨大な魔力の塊だ。


 その魔力の多さに、魔道具は正常に作動できなくなったのだ。

 ちなみにスキルも発動しなかった。


 アカンはそれを見上げながら、膝を着く。

 両目から涙を流し、壊れたように笑い始める。


「ハ…ハハハハ…ハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハ!!終わりだぁ!!魔王が現れたぞぉ!!国の終わりだぁ!!世界の終わりだぁ!!アハハハハハハ!!」


 黒い玉の影は、街をすっぽり覆った。


 その時、


「出た!」


 小さな火の玉が、街のどこかから黒い玉に向かって放たれる。

 

 火の玉が黒い玉に当たった瞬間、闇が弾ける。


 それがレーフェンにいた者達の最後の記憶。

 

 しかし、それを伝えることは誰も出来なかった。


 レーフェンがあった場所には、直径20km、深さ10kmにもなるクレーターが生まれた。


 もちろん生き残りは誰もいない。


 街があった形跡すらない。


 近くの村からは『大きな黒い玉が落ちた』という証言しか得られなかった。


 結果、何もわからず、『魔王のせいだ』と結論を出す。


 実は正解なのだが、適当に言ったので、内密に調査は続いている。


 これにより『ラカランもそうなのでは?』と考えられるようになる。


 しかし、事実が判明したのは30年後、クルダソス王国崩壊の時だった。



ありがとうございました。

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