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閑話 勇者その1

よろしくお願いします。

 異世界に呼ばれた兵馬達は、気づくと真っ白の広い部屋にいた。

 下には魔法陣と思われるものが光っていた。


「ここが……異世界。……っ!奈央!奈央!!」


 兵馬は落とされた親友を探し始める。

 しかし、やはりその姿はない。


「奈央……っ!ちきしょう……ちきしょおおお!!!」

「兵馬……」


 兵馬の彼女である悠里は、それを心配そうに見る。

 自分も悲しいが、それ以上に目の前で恋人の苦しむ姿が心苦しい。


ドサッ

 

 そして、もう1人。

 奈央がいない事実に耐えられなかった人物がいた。

 周りはその音に気づき、顔を向ける。


「麗未!!」

「守在さん!!」


 守在麗未。

 クラス一の美女で、奈央に好意を寄せていた人物。

 ただでさえ、異世界に飛ばされて不安だったのに、それが好きな人の死によって成されたのだから無理もない。

 麗未の幼馴染で、親友の羽島 美園(はじま みその)がすぐに声を掛ける。

 周りも慌てて声を掛ける。


 そこに豪華な服を着た女性と、司祭を思わせる初老の男性を先頭に人が大勢入ってくる。

 周りは構える。 

 女性は兵馬達に近づきすぎない距離で止まり、一礼する。


「私はカテリーナ・レイン・クラベスヤードと申します。ここ、クラベスヤード王国の第2王女です。……

此度は我々の世界のために、皆様の人生を奪ったこと、真に申し訳ありませんでした」 


 再び深く一礼するカテリーナ。

 続いて、後ろに控える者達も頭を下げる。

 

 カテリーナは輝く金髪を靡かせる美女だ。

 巨乳ではないが、スタイルの良さが分かる。

 

「先程、神より神託が下り、皆様の状況はお聞きしております。……説明を聞きたいとは思いますが、本日は用意させていただいた部屋にて、お休みください。皆様には王城、神殿、2の公爵家に分かれて頂きます。説明は明日、王城にて改めて今後について説明させていただきます」


 その言葉に少しホッとする兵馬達。

 顔色が悪いものが多く、倒れている者もいる。

 ありがたい申し出だった。


「それと、皆様にはしばらくの間、こちらを身に着けていただきます」


 カテリーナは金の腕輪を取り出した。


「皆様は神より、力を授かったと思われます。その力は慣れぬ内は、感情の高まりで暴発することも御座います。これは魔力を抑え、力の発現を封じるものです。しばらくはこちらを身に着けて、過ごして頂きたいと思います。ただし……これはご自身では外すことは出来ません。それはご了承くださいませ」


 その言葉に騒めく一同。


「ふざけるなよ!それじゃあ、そっちが暗殺とかしてきたら終わりじゃねぇか!」

「それに薬や力で洗脳とかも考えられるじゃない!」

「それは奴隷の証とかじゃないよな!?」


 紛糾するクラスメイト達。

 その気持ちも分かるため、兵馬も誰も止めなかった。

 それは相手も同じ。


「お気持ちは分かります。ですので、皆様に関わる者全員がこれを着用します。()()()()()()、全員です」


 そう話して、自身の腕の見せる。

 その腕にも金色の腕輪が付いていた。


「この世界にも奴隷はいます。その者達は首に茨の紋様が必ずあります。それを隠すことは主従含めて許されません。……これ以上は、情けないことではありますが、信じて頂くしかありません」


 再び頭を下げるカテリーナ。

 その行動に、もう誰も言い返さなかった。

 

 その後は、全員が腕輪を付けて、移動を開始する。

 

 ありがたいことに、兵馬達と佐竹は分けられた。


「……神より、彼には注意するようにと、言われています。決して、彼には好きにはさせません」


 兵馬に声を掛けるカテリーナ。

 それを聞いて兵馬は目を見開く。

 

「あなた方の友人が犠牲になったことに、心から冥福を申し上げます。私が言うことではないかもしれませんが」


 そう言って去っていくカテリーナ。

 兵馬はそれを見送って、やはり奈央がいないことに両手を強く握る。


 

 兵馬達は王城で過ごす。

 悠里や麗未も王城に呼ばれている。

 佐竹は公爵家、間藤は神殿にいる。


 麗未は王城に着いて、すぐに目が覚めて、今は部屋で美園と休んでいる。

 少しは笑顔を見せているようだ。


 悠里も今は兵馬の部屋にいる。


「ねぇ、兵馬。これからどうするの?戦うの?」

「……分かんねぇ。自分の力も、周りの状況も分かんねぇんだ。情報が足りねぇ」

「間藤君は引き受ける気みたいよ?別れる前に決意表明してたし」

「あいつはそうだろうな。……そうだな。佐竹がいねぇことは絶対だ。あいつとだけは一緒に出来ねぇ」

「それはそうね。麗未もそう言ってたわ」


 佐竹はすでに周りから疎まれていた。

 しかし、本人はへらへらと笑っていた。

 全く反省はしていないようだった。


「とりあえず、明日の話を聞こうぜ。それからだ」

「そうだね」


 


 公爵家の一部屋。


「くははは。さぁ、俺の勇者伝説の始まりだぜぇ」


 佐竹は部屋で1人ニヤニヤしていた。

 すでに彼の精神は、箍が外れて壊れ始めていた。


「あの王女も良い体してたなぁ。守在と一緒に俺のもんになると思うと楽しみだぜぇ」


 何故か彼は自分が活躍する、女にモテる、好きに出来ると考えていた。

 まだ自分の力も知らないのに。

 彼はそれを全く疑っていない。


「とりあえずは嬉田と間藤を、どう消すかだなぁ。あれは邪魔だぜ」


 兵馬には殺す宣言されているから、早めに殺したい。

 カリスマがある間藤は、自分が上に立つのに邪魔だと考えている。

 壊れているのに、いや、壊れているからこそ、意外と思考は過激でも冷静だった。


「日本と違って、邪魔者は殺していいんだ。梶島を殺したんだから、他を殺してもいいよなぁ。魔王を倒して……俺がこの世界を支配してやるぜぇ。クヒヒヒヒ!!だって、神様は自由にしていいって言ったんだものなぁ!!」


 佐竹は壊れたように笑う。

 それを扉の外で聞いていた護衛の男達は、不快に顔を顰める。

 ちなみに、佐竹は他の者達とはかなり離された部屋に入れられていた。


「あれが世界を救うために呼ばれた者なのか?」

「他にもいらっしゃるのだ。『あれ』は、それに混ざった異物だろう」

「そう願いたいですな」

「そうですね」

「「っ!?」」


 男達は剣の柄を握り、声の主を探る。

 男達は今、スキルが使えない。

 襲撃されたら、厳しいというものではない。


「誰だ!!」


 現れたのは、カートを押すメイドだった。

 紫色の髪をした幼女だった。

 

「何用だ」

「公爵様より、勇者様にお食事をと」

「あぁ。もうそのような時間か」


 メイドに答えに緊張を解き、柄から手を放す。

 公爵から食事は各自部屋で摂らせることと、メイドが運び世話をすることは聞いている。


「ご苦労である。……ここの勇者殿は少々危険な思想をしている。気を付けよ」

「はい」


 護衛の言葉に、頭を下げる幼女メイド。

 そして、ノックをして、部屋に入る。


 佐竹は用意された豪勢な食事に舌鼓を打つ。

 流石に酒を飲むほど油断もしていない。

 しかし、自分の世話をしてくれる幼女メイドを見て、ニヤニヤしている。


(まぁ、体つきは子供だがかなりの美少女じゃねぇか。これは……そういうことだよなぁ?)


「お前、名前は?」

「ワタクシですか?サーフィリア・ムネカと申します」

「ほーう。良い名前じゃねぇか」

「ありがとうございます」


 佐竹の言葉に、ニコッと微笑み礼を言うサーフィリア。

 それに一瞬見惚れてしまう。


 食事を終え、片づけしているサーフィリア。

 佐竹はその後ろから近づき、肩を掴む。


「っ!」

「何を驚いてるんだ?こういう接待がお前の仕事だろう?」

「……そのような命は受けておりません……!」

「へぇ~。世界を救う勇者に対して、そういう態度を取るのかぁ。滅びちゃうよ?この国」

「っ!」


 その言葉に震え始めるサーフィリア。

 それを見て、ニヤァっと笑う佐竹。


「分かったら、さっさとしてもらおうか。()()()()()でなぁ」

「……分かり……ました」


 佐竹はベッドに寝転がる。

 サーフィリアはそれを顔を顰めながら見て、ベッドに近づく。


 サーフィリアはベッドに上がり、佐竹に近づく。

 その様子を見て、さらに笑みを深める佐竹。

 サーフィリアが佐竹の体に手を触れる。


「なにしてんだよ。服を脱いで奉仕しろよ」

「……お断りします」

「……あぁ?」

「もう遊びは終わりですわ。愚図が」


 突如、サーフィリアの雰囲気が変わる。

 佐竹は怒り、殴ろうとするが体が全く動かないことに気づく。


「あぁ!?なんだよこれはぁ!?」

「お母様がおっしゃっていた以上に愚図ですわね。あぁ、汚らわしい」

「てめぇ!!何しやがった!!さっさと解けぇ!!!」

「そして馬鹿ですわね。解くなら縛るわけありませんわ」

「こんなことしてただで済むと思ってんのかぁ!!外には護衛もいるんだぞ!!」

「大丈夫ですわ。すでに結界を張ってますので」


 その言葉に固まる佐竹。

 しかし、サーフィリアの手には金の腕輪が嵌っている。


「その腕輪は力を封じるはずだろ!?」

「はぁ?こんなもの。お母様に作られたワタクシに効くわけありませんわ」


 そう言うと、パキンと腕輪が独りでに外れる。

 それを唖然と見る佐竹。


「お粗末ですわねぇ。まさか魔王があなた達に気づいていないとでも思っているのかしら?」

「!?まさか……お前が!?」

「はぁ?ワタクシ如き人形(ムネカ)が魔王なわけないでしょう」

「じゃ、じゃあ……その手下……だと?」

「それ以下ですわ。言ってるではありませんか。『人形』だと。ムネカとはあなた方の世界の言葉だと、お母様から聞いていますわよ?」

「外国語なんて知らねっ!?おい待て!!ってことは、魔王ってのは異世界人なのか!?」


 佐竹はサーフィリアの言葉に、目を見開き問いかける。

 それに首を傾げるサーフィリア。


「あら?まだ正体を聞いていませんの?」

「……なんだと?」

「そういえば、ここに来てから誰からもそんな言葉を聞いてませんわねぇ。……まさか神すらもお母様の正体に気づいていない?」

「誰なんだよ!?魔王ってのは!お母様ってのは!?」

「うるさいですわよ」

「が!?ぐぅえ!?」


 サーフィリアは佐竹の声に不快感を示し、手を振る。

 すると、佐竹の体はベッドから飛び出し、床に叩きつけられる。


「ぐぅ……誰か……た、たすけ…」

「あら。あれだけ嘯いておきながら、情けない勇者様だこと」


 サーフィリアはクスクス笑いながら、佐竹に近づく。


「でも、仕方ありませんわね。あなたは、()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから。勇者の中で最弱、と言えますもの」

「は?」


 サーフィリアの言葉に固まる佐竹。

 俺が最弱?

 この俺が?

 言葉を受け入れられない佐竹。


「だから、お母様はここであなたを殺すことに決めましたの。生きるだけ無駄なあなたに、同情し、『苦しむ前に終わらせてあげて欲しい。』と言っていましたわ。あぁ、優しいお母様。()()()()()()()()()()()()慈悲を与えるなんて!」


 サーフィリアの言葉に、ついに言葉も出せずに固まる佐竹。

 今、何て言った?

 『自分を殺そうとした』?

 異世界人の魔王?

 まさか?まさかまさかまさか!?


「か……かじし…ま?ぐえ!?」


 呟いた途端、壁に叩きつけられる。

 咳き込み、目を向けた先では、怒りに顔を染めるサーフィリアがいた。


「ひぃ!?」

「愚図如きが!お母様の真名の1つを口にするとは!!」


 魔力を体中から溢れ出して怒鳴るサーフィリア。

 その圧力に震える佐竹。


「もう、終わらせましょう」

「やめてくれ!?謝る!あいつの奴隷にでも何にでもなる!!スパイでも暗殺でもする!!だから殺さないで!?」

「……人形であるワタクシにも劣る愚図がお母様の奴隷になれるわけないでしょう。スパイもすでにワタクシ達がいる。暗殺もご覧の通り。愚図に居場所はありませんわ。それに……」


 サーフィリアは佐竹の言葉を一蹴する。

 そして、止めの言葉を放つ。


「【記録】のスキルしか持たない愚図が、役に立つとでも?」

「……へ?」

「ただ物事を記録するだけの勇者が、何の役に立つのかと、聞いているのですわ」

「記録?それだけ?」

「えぇ。他の者は少なくとも2つ以上持っていて、こちら側ではほぼ唯一無二の能力と言えますわ。あなただけですわよ?()()()()()()()()()()()()愚図は」


 サーフィリアやナオは、まさかこんなに弱い勇者がいるとは思わなかった。

 ちなみに、その後にナオは『いや。もしかして、他が凄過ぎるだけか?佐竹って……不良以外に取柄あったっけ?』と首を傾げていた。

  

 レレリティリア達も神界で勇者達の力を確認して、佐竹の力の無さに固まっていた。

『こんな奴のせいで、魔王が生まれたなんて……。』と自分達の事を棚に上げて、頭を抱えていた。


「まぁ、【勇者】のスキルを持たない者を勇者とは呼びませんが。そうですわねぇ。確か……『界使(かいし)』と呼んでましたわね」


 世界を渡ってきた御使い。

 故に『界使』。

 天使や神使、使徒は存在しているからだ。


「俺が……さいじゃくぅ?この世界の雑魚にも勝てない?」

「だから言っているのですわ。『愚図』と」

「嘘だ………嘘だああああああ!!!」


 発狂する佐竹。

 涙に鼻水、涎を振り飛ばして叫んでいる。

 

「なるほど。だから、お母様も自ら手を掛ける気にもならなかったと。確かに、こういう汚物処理はワタクシ如き人形の仕事ですわね。【圧縮】」

「ああああああ!!ぐぎぃ!?いだいぃ!?ああああだいぃ!?」


 叫んでいた佐竹の腕や足が、突如胴体に向かって折り曲がる。

 佐竹は全身が心臓近くに向けて押し込まれているように感じた。

 本来、曲がるはずのない方向に向けて、腕や足が曲がり、激痛に叫ぶ。

 血が噴き出しながらも、潰されていく。

 しかし、まだまだ体に力が掛かってくる。


「ああああ!!やめべぇ!?や゛べで!!あ゛べげぇ!?お゛ぎょ『ボギヴォグギチャ!』……」


 なにか叫んでいたが、最後は一気に惨い音を響かせて潰れる。  

 そこには、血の池を作り、その中心には未だに血を噴き出しているサッカーボール大の肉団子があった。

 肉団子の表面には、顏のようなものが見える。


「これでワタクシの仕事は終わり!やっとお母様にお会い出来ますわ~。あぁ、お母様ぁん♡早く帰って可愛がってもらいましょ!!お母様ぁ!肉人形が今、戻りますわぁ~!!」


 サーフィリアは体をクネクネしながら叫んで、部屋から消える。

 

 その数分後、結界は解かれ、外にいた護衛達に異臭が届く。

 すぐさま扉を突き破って部屋に入り、その光景に固まる。


 部屋の中にはメイドの姿も界使の姿はなく、大量の血の池と見た顔をしている肉団子。

 その光景と臭いに、吐き気を催し、外に出て扉を閉める。


「うっ!うぉえ……!ちっくしょう!!お前はここにいろ!!誰も近づけるな!!」


 護衛の1人は吐き気に耐えながら立ち上がり、もう1人に指示を出して報告に走り出す。


 まさか召喚された当日に殺されてしまったことに、全員が慌てふためく。

 そのせいで、魔王の手の物か、自国や他国の手の物か判断できず、カテリーナや神殿の者達は頭を悩ませる。

 他の界使にどう知らせたものか。

 カテリーナ達は徹夜で会議する。

 幸い?同じ公爵家にいた界使達は無事で、佐竹より部屋が離れていたので誰も気づいていない。

 しかし、朝にはどうやっても気づかれる。

 

「……幸い、と言っていいものではありませんが……殺されたのは神にも言われた問題児です。……正直に事情を話し、明日中にスキルの使い方を一通り教えましょう。自衛手段を増やさないことには、彼らも安心できないでしょう。我々も封印を解き、護衛しなければなりません」


 カテリーナの言葉に頷く一同。


「問題はすでに入り込んでいる者達です。メイド、護衛をもう一度調べ直し、全員を顔合わせさせなさい。そして、暗号でも、目印でもいいので本人達にだけ統一出来るものを。いえ、暗号と目印、両方作りなさい。思いつく限りの対策を。手間でもそれで間者を惑わせればいい」

『はっ!!』


 カテリーナの指示に頷き、動き出す一同。

 それをカテリーナは見送り、ため息を吐く。


「まさか……初日に事態が動くとは。神よ……私達は勝てるのでしょうか」


 そう思わずには言われなかったカテリーナ。


 最悪の幕開けを告げられた兵馬達であった。



ありがとうございました。


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