慌てる神と変える力
よろしくお願いします。
神界。
世界の管理を創造神に任された神々が住む世界。
その神々の王にして父。
ゼウスガイアは本日も世界の管理に従事していた。
「うむ。魔王の影響も大分消えて来たな。これで世界の魔力の偏りも落ち着いていくだろう」
「そうですな」
ゼウスガイアの傍に居るのは、弟で筆頭補佐官であるサダルマキアだ。
魔王が現れるのは、世界の管理による副作用のようなものだ。
だから、神々が迂闊に手を出せば、逆に世界は荒れてしまう。
故に勇者が存在するのだ。
「これで数十年は安泰か。とはいえ、次の勇者の選別も始めねばならん」
「こればっかりは仕方ないですね。我々では勇者を決められませんから」
スキルに縛られてるのは神々も同じだ。
故に神々も勇者、魔王、聖女などが誰が得るかを決められない。
それが出来るのは創造神のみ。
しかし、この世界の創造神はすでに他の世界の創造に旅立った。
この世界の管理はゼウスガイアに託されている。
そこに駆け込んでくる神が1柱。
「大変で御座います!神王!!」
「どうしたのだ?」
「次元の穴が開きました!迷い人のようです!」
「このタイミングでか!?」
迷い人が通ってくる穴は、膨大なエネルギーを運んでくる。
そのため、世界の魔力のバランスが崩れやすく、異変が起こりやすい。
ゼウスガイアはすぐに魔力の調整に入る。
「ユグドラシルアにも伝えよ!」
「はっ!」
ユグドラシルアはゼウスガイアの妹で、その本体は大地に根付いている大樹である。
魔力管理にゼウスガイアと同等の貢献をしており、彼女がいなければ世界崩壊は早まるとすら言われている。
ゼウスガイアも魔力調整に勤める。
どうやら、今回は1人だけのようだ。
あまり魔力に変動がないことに安堵し、後はユグドラシルアに任せる。
「魔王の影響でしょうか?」
「その可能性はあるな」
ゼウスガイアは弟の言葉に同意し、深く迷い人に詮索しなかった。
それが最初の致命傷であることは、言うまでもない。
後日、再びゼウスガイアの元に神が走り込んでくる。
「た!大変でございます!!」
「なんだ?また迷い人か?」
「違います!!【闇淀の坩堝】の封印が解かれました!!」
「っ!なんだと!?」
ゼウスガイアは椅子から立ち上がる。
サダルマキアも目を見開き固まっている。
「直ぐに天使を調査に送れ!!」
「はっ!」
指示に従い、直ぐに駆け出す下級神。
「まさか封印を解く者がいるとは……。愚か者が……!」
「復活するのは直近の者と考えると、【憤怒の魔女】ですか」
「あの女か……」
【憤怒の魔女】は元エルフの女性で、戦争により滅ぼされた国の王女だった。
捕らえられ、自分の親や国民の血を集められて出来た水槽に入れられて、溺死寸前まで追いつめられるという拷問を受けた悲劇の女性だ。
しかし、その血に溶けていた怒りや恨みを浴び続けたことで異王となり、敵国を滅ぼし、自分達を見捨てた周囲の国にも牙をむいた。
【憤怒】と呼ばれていることから、怒りと憎しみが増せば増すほど力も増した。
つまり、抵抗すればするほど、強くなったのだ。
ついには世界をも憎み、その歩みを止めなかったため、神より封印術を授けられた勇者が、命と引き換えに封印し、闇淀の坩堝へと再度封印されたのだ。
報告を待っていたゼウスガイア達だが、届いた報告は最悪を越えていた。
「す……全てだと……?」
「……はっ。闇淀の坩堝は空で、封印を管理していた神殿は町ごと消滅しておりました。現在、ハデスメイア様にご依頼し、その町に住んでいた者達の魂を探し、封印を管理していた神殿長を捜索中です」
「…………なんという」
「今すぐ、ハデスメイアを除く上級神を集めよ!!至急である!!」
「は、はっ!!」
ゼウスガイアは報告に来た下級神に命令を出し、本人達も移動を開始する。
サダルマキアも供をし、その顔は険しいものだった。
その後連日、上級神が集まり、会議を行っていた。
しかし、未だ魔王達も魂も発見出来ず、上級神達もイラついていた。
さらに事態は悪化する。
突如、ゼウスガイアの額から血が噴き出たのだ。
「っ!」
「な!?兄上!」
「ゼウスガイア様!?」
「馬鹿な!一体誰がどうやって!?」
慌てる神々。
ゼウスガイアは状況を把握に努める。
そしてある事実に辿り着く。
「これは……我が力が食われた?」
「馬鹿な!どうやって!?」
「……そうか!迷宮です!迷宮の核です!神王!!」
「っ!」
1柱の言葉に目を見開くゼウスガイア。
「どういうことだ!メイズノキア!」
「……迷宮の核は神王の力で生み出され、天使や魔王、異王を縛り付けたもの。人間界で唯一神王の力が触れられる物質です」
「それを魔王が!?」
「……取り込んだのでしょうね」
『!?』
迷宮構築に携わった上級神、メイズノキア。
彼はそれに携わったが故に答えに辿り着いた。
「どの核かは分からんのか!?」
「……私には……。この数百年で攻略され、持ち出された核もあります。それに核は神王のもの。私はあくまで器を作っただけですので」
「……残念ながら、私にももはや核の選別は出来ん。数は分かるが……」
その言葉に顔を顰める一同。
「迷宮全てに天使を派遣しましょう。そうすれば捕らえられるやも」
「しかし、迷宮に縛られた連中に伝えた所で協力などせんだろう」
「入り口からでも見張るだけでもマシでしょう」
「そうだな。それと、世界に魔王降臨を報せよ。備えさせねばならん!」
『はっ!!』
こうして、世界中の鐘が鳴る。
しかし、まともな対策は何一つ出来ていなかった。
私は新しい街に着いた。
街の名前は【コリン】。
迷宮と近くの大森林が有名な街で、服飾や木材系の製品が特産品でもある。
私は女のまま、宿を取り、迷宮の場所を聞く。
女将から場所を聞いた私は、すぐさま迷宮へ行く。
ギルドはめんどいから行かない。
迷宮の名前は【見違え迷路】。
なんでも人が入るごとに道が変わるらしい。
つまり、マッピングが全く役に立たないし、下手したら仲間と分断される可能性がある。
そのため、全員が緊張感を持って、常に離れない様に動いている。
まぁ、私には関係ないものね。
私は警戒もせず、迷宮に入り、ある程度進むと、真下に向かって【虚無】で穴を開ける。
面倒だ、壊して進め、迷宮を。ってね。
私は穴に飛び込み、穴を開け続けて下に降りる。
60回くらい降りると、今までと雰囲気が異なる場所に出た。
お。ここが最深部ね。
さっさと入る。
そこは人形展のように様々な服を着た人形が並んでいた。
ケースに入っていたり、ヒモに釣られたりと様々な展示方法で飾られている。
ふむ。別に人形は普通ね。
こういうのだから冒険者が人形になっているのかと思ったけど。
「誰かの?まさか、ここに来れる人間がおるとは思わんかったわ」
現れたのは、紫髪の幼女だ。
フリルがふんだんに飾られた赤いドレスを着ている。
「あら。かわいい子ね。貴女のような子が、ここの主?一体何したのかしら」
「1人じゃと?随分余裕じゃの。まぁ、ここまでじゃが」
幼女が指を鳴らす。
すると、周りの人形が急に動き出し、見る見るうちに体や顔が人間と変わらなくなる。
先ほどまで同じ顔だった人形達は、バラバラな見た目をしている。
「ふむ。これはどっちかしら?」
「ほう。慌てんのか。普通なら血の気が引くものと思うがのぅ」
「これくらいで?」
今度は私が指を鳴らす。
人形達は一瞬で闇に飲まれ、消滅する。
「は?」
「残念だけど、この程度何体あっても意味ないのよね」
「っ!?」
幼女は人形達が消え去ったことにポカンとして固まる。
そして、気づけば真後ろから声がする。
驚いて、後ろを振り返ろうとすると、
「悪いけど。もらうわよ。あなたの心」
頭に手を置かれたと思った瞬間、幼女の意識は闇へと沈んだ。
「ふむ。国に騙されて、神にここに閉じ込められたと」
「……はい。……お父様に……外遊を……勧められて……馬車で……眠ったら……ここに……いました」
私は今、椅子に座っている。
その膝の上には先ほどの幼女が、私に向いて座っていた。
幼女の目に光はなく、顏には感情もない。
ボケっと虚空を見て、ただ聞かれたことに抑揚もなく、途切れ途切れに答えている。
ふむ。一度【心蝕】を使っておいてよかった。
あの時はわざわざ辱めたり、快感を与えて心を緩くしてから使ったけど。
その手応えから、そんなことしなくても簡単に心を食えることは可能だと判断していた。
それは迷宮の主であっても変わらない。
すでに幼女は私の人形となっていた。
ちなみに彼女の名前はサーフィリア。
ある国の王女だったが、スキルのせいで周囲から恐れられ、教会と神に売られてここに閉じ込められたそうだ。
ふむ。ちょっとかわいそうだったな。
もう食べちゃったからどうしようもないけど。
「で?サーフィリアは、どんなの力を持っているの?」
「……はい。……私の……力は……【変質】……と……【操命】……です」
「……ふむ。内容は?」
「……はい。……【変質】は……物を……別の物に……変化……させます。……ただ……命が……あるものは……変化……させると……死にます。……【操命】は……魂を……操り……作り変え……ます。……これで……魂を……取り出して……魂を……作り変えて……私の……言うことを……何でも……聞くように……してました」
「そして、それを人形にした死体に入れ直したと」
「……はい」
……すごくない?
そりゃあ、怖いわよねぇ。
ここに来た冒険者達はこの見た目に騙されて、油断するでしょうしねぇ。
うん。立派な魔王ね。
まぁ、ここに閉じ込められたのが原因なんだろうけど。
じゃあ、それももらうわね。
【闇】スキルを発動し、そのスキルを吸収する。
「……あっ……あっ……あっ」
サーフィリアがピクッピクッと震えながら声を挙げる。
ふぅん。やっぱり強力なスキルは魂にも深く結びついてるか。
全て吸い尽くすと、サーフィリアはガクッと頭を後ろに倒し、一切命令にも反応しなくなった。
私はスキルを確認する。
______________________________________
Name:NAO BAAL(NAO KAJISHIMA)
Age:???(18)
Species:Unknown(Human)
Skill:【無敵】【虚無】【転性】【変質】【操命】(【闇】【悪魔】)
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よし!ゲットだぜ!
これでこの姿でも色々と出来るわね。
ごめんね。サーフィリア。
うーん。この体も一応持っていくか。
男に戻って、サーフィリアの体を封印して、虚空庫に入れる。
すぐに女に戻って、部屋の奥に移動する。
部屋の奥には隠し扉があり、その中に入る。
サーフィリアには聞いておいたからね。
中にはベッドなどがあり、ここで過ごしていたのが分かる。
人形も3体ほどあり、その横には転移陣もあった。
ここから人形を操って、買い出しに行かせてたか。
部屋の奥にある大きな棚。
そこを開けると、青い迷宮核が鎮座していた。
では、頂きます。
迷宮核をゴクンと飲み込むナオ。
力が一瞬溢れ出すが、すぐに落ち着く。
力がまた上がったのを感じる。
ふむ。流石にもう体は変わらないわよね。
じゃあ、次に行きましょうか。
転移陣で外に出る。
すると、視線を感じた。
視線の方向を見ると、そこには背中に羽が生えた男がいた。
天使か。
天使は身を翻し、飛び去ろうとする。
「どこに行くの?」
「な!?」
しかし、目の前にナオがいた。
「いつの間に!?」
「今の間に、よ!」
「ご!?」
蹴られて地面に叩きつけられる天使。
うつ伏せに倒れた天使の背中に、足を乗せる私。
「ぐぅ!?……き、貴様っ……!」
「なるほど。迷宮核を奪われたから、迷宮に見張りを置いたのね」
「!?」
図星か。
さっそくモルモットが来たわねぇ。
ニヤァっと笑う私。
天使の背中に手をかざす。
「くっ!……っ!?がぁ!あ!?」
苦しみだす天使。
その背中から光の玉が現れる。
完全に玉が出ると、天使はパタリと動かなくなる。
「ふむ。これが魂ね。さて」
【操命】で取り出した魂を、さらに改造する。
改造内容は、『お前は私の人形。私の命令は絶対。お前は神々へのスパイとして潜り込め。私への報告は私が呼ばない限り不要。私の存在は誰にも話さない』
再び魂を体に戻す。
「……っ!?がはぁ!はぁ!はぁ!」
息を荒げて、起き上がる天使。
「全く余計な手間を掛けさせないで」
「っ!?も、申し訳ありません!」
私の言葉に頭を下げる天使。
お。上手く出来たわね。
「そう思うなら、さっさと監視に戻りなさい。私の存在は絶対に話すんじゃないわよ」
「は!」
天使は私に頭を下げて、元の場所に戻る。
それを見送る。
「ふむ。これでしばらくは保つわね。……神族に効くかどうか試したいわねぇ」
さて、次に行きましょうか。
……ま、2,3日は街でのんびりしましょうか。
せっかくだし、この力の使い方も試したいわね。
そう考えながら、街へと戻る私だった。
ありがとうございました。
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