飛ばされ中に突き落とされた
新作です。
よろしくお願いします。
まぁ、異世界転移なんて、最近ではライトノベルでもネット小説でもありふれてるよね。
勇者がクソだったり、落ちこぼれが成り上がるのが王道になりつつある。
魔王がいいやつってパターンも多い。
それを色々読んでて、自分だったらどの世界がいいか、なんて考えることもあるよね。
やっぱり魔法や剣で、俺Tueeeeって憧れるもんね。
美人ハーレムも多いしね。
でも、実際に呼ばれると、それどころじゃなかったよ。僕は。
蓮甲学園高校。
3年D組の教室。
昼休み中で、生徒達がそれぞれにご飯を食べていた。
僕も机で外を見ながら、家で作ってきたサンドイッチを食べていた。
「お~い。奈央。一緒に良いか?」
「別にいいよ。兵馬」
声を掛けてきたのは、嬉田 兵馬。
やや茶色の短髪で、快活な男だ。
バスケ部でエースをしている。
僕とは中学からずっとクラスが同じで、腐れ縁だ。
最近は部活で忙しいけど、よく一緒に遊んでいる。
ちなみに僕は梶島 奈央。
「けど、いいの?三島さんは」
兵馬は同じクラスの三島 悠里と付き合っている。
三島は黒髪ロングで、クラスでも美人と評判だ。
弓道部に所属している。
「あぁ。あいつは部活の集まり」
「引退試合だっけ?」
「そ。本気で行くか、3年生で固めて思い出作りで行くか決めるんだと。次の大会は別に大きくないからな」
次を見据えるか、思い出を作るか。
部活動はそれまでの成績で方針もそれぞれ違うし、中には3年間一度も試合に出ずに終わる人もいるのだから、大変だよね。
僕?もちろん帰宅部。
あんまり運動部では歓迎されないんだよね。
見た目のせいで。
「兵馬は来月が最後?」
「おう!応援来いよな!」
「えぇ~」
「そう嫌がんなよ。試合に集中して、お前の見た目なんか話題になんねぇよ」
「うっさい」
僕の見た目は、男の娘、この言葉に集約される。
さらさらの黒髪に、髭なんて全く生えない細めの顔。
身長も低くて、筋肉も中々つかないし、腰もややくびれている。
腕や足、脇も毛が生えない。
『なんか妙な色気があるな。水着着ると痴女と思われそうだな』
昔、水泳の授業時に兵馬に言われたことだ。
ちなみに、初回以降、水泳は見学にされた。
その見た目のせいか、やはりからかわれることは多い。
このクラスでも僕をターゲットにしてくる奴もいる。
言っとくがもちろん僕はノーマルだ。
自分を女だなんて思ってないし、男が好きだなんて思ってもいない。
運動もそこそこできる。
見た目に似合ってないと言われるけどね!!
「ま、気が向いたら来いよ」
「気が向いたらね」
「梶島君」
サンドイッチを食べ終わると同時に声を掛けられた。
声を掛けて来たのは、黒髪ショートでスタイル抜群の女の子。
守在 麗未。
クラス一番の美女である。
「どうしたの?守在さん」
「六動先生から『放課後、文化祭の準備手伝いに来い』って伝えとけって」
「うえぇ~」
担任の六動 昌己。
歴史の専門で、何故か雑用を僕に押し付けてくる。
めんどくさがりな人で、基本的に揉め事なんかには訴えがない限り、口は出さない。
「文化祭委員って他にいるでしょ?」
「うん。でも、『そいつらには別に仕事があるから、お前らに任せる』って」
「おまえら?」
「私も呼ばれてるの」
「…………」
僕は一瞬顔を顰めてしまった。
それを守在は見逃さなかった。
「私とは嫌?」
「………そういうことじゃないよ。めんどそうな仕事かもって思っただけ」
「そう。………よかった」
守在は安心した様に笑う。
そう言って去っていく守在。
「やっぱり、お前に気があるんじゃねぇ?」
「今は勘弁してほしいよ」
「まぁ……なぁ。でも、あいつ、お前と同じ大学狙ってるぜ?」
「……………」
「ま、変に拗らせるなよ。ちょっとトイレ行ってくる」
別に彼女が嫌いではない。
むしろ、喜んで付き合いたい!
しかし、今はタイミングが悪い。
「お~いぃ。梶島くぅ~ん」
「………来たよ」
現れたのは茶髪にピアス穴を開けている男。
佐竹 仁吾。
僕をターゲットにしている男。
そして、守在に惚れている男。
「なぁに俺の守在と話していたのかなぁ?」
「別に?放課後に六動に呼ばれてるって伝えてくれただけだよ」
「へぇ~。お前が守在をパシリにしたのかぁ。良いご身分だなぁ」
「パシリにしたのは六動だって」
と言っても、聞かないんだろうけど。
案の定、佐竹は周りから見えない位置から、僕を殴る。
「言い訳すんなよぉ~。俺に逆らうのかぁ?ちびおかまぁ、えぇ?」
佐竹は睨んでくる。
めんどくさい。
そう思うけど、下手に逆らうと帰り道で取り巻きとリンチだ。
佐竹が何か言おうとするとチャイムが鳴る。
すると、六動が入ってきた。
「ちっ」
佐竹は舌打ちをして、席に戻る。
放課後が面倒なことになりそうだ。
僕はため息を吐く。
それは昼休みが終わって、午後一の授業中だった。
僕は教室の窓側で、眠気に負けて目を閉じかけていた。
すると妙に眩しく感じた。
目を開けると、視界は光に塗りつぶされた。
目を開けると、そこは真っ白な空間だった。
机や椅子は無くなっており、足元には魔法陣のようなものが見える。
僕達は大きな魔法陣の上にいるようだ。
「おい。奈央。これってどういうことだよ」
兵馬が近づいてくる。
後ろには三島もいる。
「分かるわけないよ。まぁ……小説とかだと、異世界召喚ってやつっぽいけど」
「………マジ?」
「多分ね」
『突然お呼びしたこと、真に申し訳ありません』
突然、声が響く。
空中に大きな光の人が現れる。
顔は一切分からない。
声やフォルムからは女性のようだ。
「あなたは何者だ!」
声を荒げたのは、黒髪の男。
間藤 勇志。
クラスの委員長でサッカー部のエースのイケメン。
多分、あいつが勇者なんだろうなぁ。
僕は他人事のように考えていた。
『私の名は、レレリティリア。あなた方の世界と異なる世界で、神として存在しています。此度はあなた方に、私達の世界に来ていただき、魔王を倒して世界を救って頂きたいのです』
やっぱり。
僕は顔を顰める。
直ぐに頭に浮かぶパターンは2つ。
マジなパターンか、ただの駒として呼び寄せたパターンか。
もう少し話を聞きたい。
「俺達は戦いなんてしたことはない!」
『それはもちろん承知しています。皆様の秘めた力を解き放ち、世界へと渡っていただきます。それと、無理に戦って頂かなくても構いません』
「秘めた力?それに、戦わなくてもいいとはどういう?」
『世界関係なく、命にはあらゆる力が眠っています。その中で、私達の世界にて発現している力を解放します。その力は戦いに適している物もあれば、生産に適している物もあります。そして、今回で最も大切なことは、あなた方に世界を渡ってもらうことなのです』
「何ですって?」
『魔王、そしてそれを生み出した魔神によって、世界の生命力が失われているのです。本来ならば我が世界の者で解決すべきなのですが、もはや叶いません。なので、異世界の者を呼び出すときに溢れる異世界の生命力を延命処置として、補充します。そうすれば、後数百年は保てるはずです。その間に皆様に魔王を倒してもらいたいのです』
なるほど。
あくまで俺達はおまけか。
「その発現する力も当てに出来そうにないな」
「だな」
僕と兵馬は顔を顰めている。
それは間藤も同じようだ。
「僕達の力は魔王を倒せるものなのですか?」
『その力を持つ者を選びました。それを私の力で強化します。しかし………』
なぜか急に自称女神が口を渋る。
顔も何か顰めているように感じる。
『私は30人を呼んだはずなのですが、今ここには31人いるのです。そして……私が力を与え、世界を渡らせられるのも30人までです』
その言葉に空気が凍った。
それは、つまり。
「誰か1人に……死ね…と?」
『……………はい』
「ふざけるな!!」
怒鳴る間藤。
周りはパニックに陥る。
「誰だよ!余分な奴!」
「六動だろ!教師が入って、生徒が1人違うとかあるかよ!」
流石に、僕や兵馬も慌てている。
「これは………誰になっても、崩壊だね」
「………なんてこった」
誰が選ばれたって、もう誰もお互いに信用なんて出来るわけない。
協力なんて出来るわけがない。
魔王討伐は無理。
僕はそう悟った。
周りは今も騒いでいる。
兵馬が泣き出した三島を慰めている。
すると、
僕は後ろから誰かに引っ張られる。
突然の事に混乱していると、急に浮遊感を感じた。
「え?」
「じゃあな。ちびおかま」
見えたのは、狂ったように笑っている佐竹。
そして、こっちに走ってくる兵馬。
それが徐々に、上に上がっていく。
違う。
僕が、落ちてるんだ。
「あぁ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?」
10秒も掛からず、皆の姿は、見えなくなった。
ありがとうございました。