終幕~混乱そして~
作者の心境の変化が影響された結果になりました。
これでひとまず終わりにします。
無駄な引き延ばしが兵の退屈を誘いそれが油断となって敵の夜襲を招く。もう兵力として余裕のないドブリジューカの手段はただの火付け。しかし、意外な効果をもたらして野営は混乱を招く。敵の放った火は言葉を燃やし人を燃やし天幕を燃やし続けた。
「 」
言葉を燃やされた部隊の兵たちは身振り手振りで消化を行う。全焼は免れたが士気は著しくそがれた。エイヂマスは眉間に怒りを込めてドミニクに詰め寄る。
「 」
声は聞こえぬがその怒りと気迫は十分に今はユン・ホウのドミニクに伝わる。ユン・ホウは申し訳なさそうな表情を浮かべてエイヂマスの前で首を垂れた。
「 」
人差し指を突き付けるとエイヂマスは慌ただしく出ていく。風を切り服が揺れる。ユン・ホウは張りつめていた気力を解いた。油断だった。あまりにもいろんなことが起きて疲れたせいもある。そこに怒りに凝り固まったドミニクの侵入を許した。
「ここで終わらせる」
ドミニクは自分とデシクを結んでいた魂の緒を自らの手で握り潰した。魂の緒の断末魔が耳に響いた。彼女の意識はユン・ホウを押しのけて全身を覆い一体化した。ユン・ホウの意識は虚空へと消し飛んでもう戻ることはなかった。
「エイヂマスはいるか」
焦燥しきったエイヂマスが顔を見せると、妙に血気盛んなドミニクがそこにいた。
「遅くなったな。総攻撃にいざ向かわん」
エイヂマスは一瞬動きを止める。獲物を狙うドラゴンが羽根を開いてとびかかる姿をドミニクの背後に感じ取ったからである。彼女の蘇った憤怒は天空をかき乱さんばかりに激しく覆っていた。
「その言葉を待っておりました。ただわが軍の損失は激しくこれからの逆転は望みが薄い。これもいたずらに進軍を伸ばしたドミニク殿にも責任があります」
相手が恐ろしいたたずまいを見せていたとしても、エイヂマスとしても皮肉の一つは噛ませたくなった。許される範囲だと計算した上で思いのたけを述べた。
「安心しろ一瞬で終わらせる」
エイヂマスは彼女の回答を聞いた。彼の心に安堵はもたらされず純粋な恐怖だけがかけめぐった。ドミニクの言葉の裏を読み取った彼は全身の力が抜けその場にへたり込んでしまった。
ユン・ホウの意識は跳ね飛ばされて復讐心のみに彩られたドミニクが怒りの暖炉に燃料をくべていた。明朝の惨劇を予測するかのように月や星が赤く染められていた。
※
冥王星の裁きは一瞬で終わった。様々な努力や人々の人生は無かったことにされた。昨日まで存在していたすべての物、ドブリジューカの人々、おどろおどろしい建造物、かって毒々しくにぎわっていた市場、なにもかがなくなる。ドミニクが終結の幕を引いた。ただそれだけだった。
城が一瞬で瓦礫になる時の音を知っているだろうか。轟音をかき集め凝縮した地鳴りが鳴り兵士たちの耳は鉛をたらしたように塞がれる。将校たちは何が起こったのかわからない。かって禍々しい王国を掌握した主の姿はただの液体になり建造物の残骸により塞がれていた。兵卒たちは勝利の雄たけびを上げようともせずにただ目の前に起きた惨劇に口もきけず、立ち尽くすより他はなかった。
ドミニクの心は空しさに支配されていた。彼女の怒りが奪ったものが大きすぎたのだ。今までに積み重ねていた徳がこの一撃でなにも意味をなさなくなっていた。
※
輪廻、その先に人は何を見るのだろう。成功も勝利も一瞬の物でしかなく、物事にはすべて終わりが来る。果てしなく繰り返される営みでは、怒りや貪りの塔が築かれていく。何度でも崩れ落ちる砂時計の山のように。
ドミニクは1から人生をやり直すことになった。霊界で付き従っていた精霊たちは姿を消し、冥界での暗い輪廻への道を一人歩む。これからの人生では何が待ち受けているだろう。そしてドミニクはいつ解脱できるのだろうか。




