疑いは晴れたが
今後はちょっと煮詰まっていて
更新できないかもしれません
ご了承ください
「そんなことはない」
ドミニクは平然と言葉を返す。幾千もの夜を過ごし人として修羅場を潜り抜けた彼の言葉に些かの揺るぎもなかった。
あまりにも堂々としているドミニクの態度にエイヂマスは多少たじろいだが、すぐに語気を強めて畳み込んでいく。
「ならば急な進軍の取りやめは我々に対する反旗ではないのですか」
「軍を指揮するのは私。その私の気が乗らないのであれば進軍しても無駄なはず」
「では、気が乗るまで停滞を続けるおつもりか」
エイヂマスは焦った。確かに指導者の覇気は全軍に影響する。だがいかなる理由があろうとも、少し前まで意気揚々としていたドミニクの急な心変わりにエイヂマスは戸惑っていた。
エイヂマスが兵舎に戻ると、部下の一人が話しかけてきた。
「お嬢様の気まぐれにも参ります」
「おおそうだ。女性特有の気分の変化か」
「お気づきにならなかったのですか」
エイヂマスはバツのわるさを顔に浮かべた。まずい女性との関係が皆無な事がバレてしまうと書いてあった。部下は即座に表情を読み取り、これ以上の深入りは避けた。仮にも上官なので下手に気分を害しても何にもならないからだ。
「いや失礼。いろんなタイプがいるもんです」
「いや、ドミニクはそこいらの女性とは違って何か奥深さを感じていたが、やはり気まぐれな小娘であったか」
「敵は最後の抵抗をしていますが、所詮焼け石に水。ドミニクの力をもってすれば今までの損失はとりかえせると思われる」
「そうだった。ドミニクの力を忘れておったわい」
「敵の異能者には総力戦で物を見せればいい」
エイヂマスが自軍の不利益をドミニクの力に頼りうやむやにしている頃。ユン・ホウはドミニクの心を推し量っていた。二つの対立する感情は魂の結合で平和な心が有利になったと思いきや、元の負の感情が鎌首をもたげて奪還を狙っていた。彼女の心の痛手は思ったより深く、魂の緒の働きかけは寄せては返す波のように以前の状態に戻っていた。かっての博愛的なドミニクが帰ってくるにはまだいくばくかの時が必要なのだろう。
「そう簡単には元には戻らんだろう」
鬼女のように憎悪の炎を燃やすドミニクに微笑みかけると、ユン・ホウはいつものように心を鎮めて寝室に入って横になった。煌々と照っていた月はその姿を雲に委ねて帳の影で休んでいる。
ユン・ホウは時間が解決してくれることを祈って床についた。
野営を続けるテントの中に一陣の風が舞い込んだと思うと、兵士たちは悲鳴を上げて遁走していく。彼らの顔は青ざめ心は母を求める幼子のように怯えていた。エイヂマスが異変に気付いて目を覚ました時、敵の夜襲は終わっていた。心を乱された兵卒たちは幼子に戻って深い闇に飲まれ消えていった。すぐに僧院お越しをして点呼を取るが人員は半数にも満たなかった。
「ドミニク殿。大変です敵の夜襲ですぞ」
「なんだと」
ユン・ホウはゆっくりと体を起こして声の出る方を向くと、そこには憤怒の表情でやるかたないエイジマスが突っ立っていた。全身は怒りと恐怖で震えそばに金属でもあろうものなら呼び鈴のような音を立てそうな状況だった。
なぜゆえに争うのか、もう少し待てなかったのか。ユン・ホウはデシクに心の中で話しかけていた。その静寂を破って醜い心のままのドミニクがすべてを支配した。
「早朝総攻撃に取り掛かろう」
ドミニクは鋭いまなざしをエイヂマスに向けて叫んだ。




