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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
25/29

前世と誓いと魂と

前の話をほとんど忘れているので

おかしな場所があれば

加筆修正するでしょう

 エイヂマスの部隊では、戦勝ムードに酔いしれていた。ドミニクの惑星の力で連勝を重ねていたからだ。ただ主役のドミニクの戦意にやや陰りが見えてきた。彼女は暴走した渇愛の存在にやっと気づき始めていた。連戦連勝に心躍る物はあったが、絶対的な敵対者はいるのだろうか。ともするとそのような疑念が、彼女の心にノックをしかけていたのだ。


 人知れず気を取り戻すために這い出ていた魂は、デシクの魂と邂逅するあたりまできていた。魂の緒がお互いに触れあうと彼らの本音に接することができる。戦意を持たない王、デシクの気概に触れれば何らかの変化が起きるはずだと魂は踏んでいる。


 だが、皮肉な物で、ソルティーという刺客が部隊に紛れ込んでドミニクの傍らに近づきつつある事まで魂は伺いす知ることができなかった。


「ごきぶんはいかがですかドミニクさん」

「戦いは勝ち続けているが、何ぶん慣れぬ戦場ゆえ、多少の気疲れがあってだな」

「それには肩回りのマッサージなどよろしいですわ」

 

 ソルティーは看護兵のふりをして部隊にまぎれ、ドミニクと接触した。

個室にて横になるドミニク。やがて疲れからかすかな寝息を立てはじめた。ソルティーは小声で魔法の詠唱をすると、前世の彼女を召還した。


 一夜明けると、女性の姿の高僧が意識を開く。初めての戦場に戸惑った前世のドミニクは状況が把握できずに困惑し始めた。


「なんだこの世界は。どうしてここにいる? これは夢の世界か」

「まごうことなき現実ですよ。ドミニクさん、いやユン・ホウ老師」

「私は何をしてるのだ。いや、いつもの私に戻ればいい。自らの精神に自分を委ねるのだ」

「その通りです。あなたはあなたの生を歩みなさい」

ソルティーはそれだけ言い残すと営舎から姿を消した。後に彼女の身に起きるであろうを混乱を肴に心を心地よい勝利の美酒で満たしたまま。


「ドミニクさん。いよいよ城への進軍ですぞ」

朝になり、耳元でエイヂマスの声が響いた。彼の眼は迫りくる勝利の予感に泳いでいた。


 姿見に自分の全身を晒してドミニク(ユン・ホウ)は、心が停止する。かって修行のために遠ざけていた女性に自分がなっていることに混乱してしまった。だがかっては名の知れた高僧だった男。ざわめく心を止めて、自分を制し現状を把握した。どうやら自分は軍に所属して敵に攻撃を仕掛ける立場らしい。これは自分の信仰する宗教の教義に反する事だ。争いは争いを生み、人心を乱し国を腐らせる。


「今回の進軍を取りやめたいのだが」

エイヂマスは、手に持っていた煙草を落とし、夢でも見ているような面持ちで数秒過ごした後、すぐに煙草を拾い上げて口を開く。釣りあげられた魚が息苦しくもがくように口をニ三回開いた後に声が出た。


「今、なんとおっしゃいましたか」

「ですから進軍を注視したいと申し出た」

ドミニクことユン・ホウは軌道を修正することにした。この女性は進軍を決めているのだから急な撤回は怪しまれると思い、よくある手を使った。


「実は昨日寝不足で士気が上がらないのだ」

「それなら、こちらに眠気覚ましのいい飲み物がありますぞ」

エイヂマスは部下に湯を沸かさせて持ってこさせる。黒い粉を湯に溶かすと漆黒の闇を思わせる恋色の液体がどっぷりとつかっていた。


ドミニクは一口飲んでみて薬臭さと苦さに顔をしかめる。ユン・ホウとしては初めて口に入れる飲み物だったからだ。

「薬になる物はそれ相応の代償を求めるものだな」

「なにかおっしゃいましたかな」

「いやうちの国の諺です」

ドミニクことユン・ホウは言ってからしまったという顔をした。

妖精が笹を持って二人の顔を優しくなぜた。沈黙が続きしかたなくユン・ホウは二口目を喉に流し込んだ。

口腔内に炭の焼けたような苦みが広がり、やがて胃が受け付けなくなったのかキリキリ痛み始めた。


 ドミニクことユン・ホウは、胃の痛みを大げさに訴えた。

「ちょっと今日は、胃が苦しいので進軍の方は延期してくれないか」

エイヂマスは自分の策が無駄に終わったことの責任を感じ、その日の進軍は取りやめになった。エイヂマスとしては数日の遅れぐらいドミニクの力でいくらでも挽回できると、楽観視していたからだ。


 営舎の寝室で横になるドミニク。彼女の中で僧であるユン・ホウはいかにして戦を避けるべきか説得の言葉を考えていた。

「私がここにいるのが間違いなのかもしれない」


 ユン・ホウの意識は過去をまさぐる、記憶の糸をたどると昔の自分がいる。鏡に映った自分は女性だったが未来の姿ではないかと勘づいていた。

 寺では最初に輪廻について教わることになる。教義として理解はしていたが現実にその場面に遭遇したのは初めての経験で、そのための考察は一切していなかった。


 私が私として生きるとして、彼女の精神はどこに消えたのか。ユン・ホウは彼女の精神を呼べないかと瞑想を始めた。


 心の動きを止め、自分の核に触れるでもなくただ雑念を止めると、何かがいる。自分ではない何かが。その精神に気づかれぬようゆっくりと同化を始めた。

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