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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
24/29

攻手交代

いろいろあって大幅に遅れました。

すみませんでした。

 夜の潜む森《ダークフォレスト》へのハートバルク軍の進軍はドミニクの参戦もあって勢いづいていた。いかに奇妙な戦術で戦況をかき乱そうが彼らの手法はゲリラ戦を主体としたものだったので、力押しするドミニクにとって敵ではなかった。不意に起きた雪崩が周囲の林を巻き込んで雪原に均すように押し流されていく、巨大な力は抵抗も悪あがきも許さず圧倒的な力で制圧していった。


 古より戦術として言い伝えられて来たことは、必ず相手の兵力より倍の数を当てよというもので、やはり過大な物量に勝るものはないということである。そして人々は魔法の力を手に入れ、より強い魔法へと進化させていった。


 ドブリジューカの魔法使いジャスパー・ラドックは、敵軍の背中に羽根を生えさせることに長けていた。いきなりの空中浮遊に混乱した兵士は、刺し網の中でもがく亀のように統率を失い地面へ激突していく。ジャスパーは、愉快な混乱をただ高みの見物さえしていれば良かった。そう今までは。


 ドミニクが呼び寄せた金星が巨大な姿を彼の眼前に示した時。かって自分が兵士たちに仕掛けた攻撃を絵筆でゆっくりとなぞるがごとき醜態を見せて、逃げようとするも腰が立たず乾いた地面がぬかるみのように足の力を抜いた。愛の星金星は、その衣をかなぐり捨てて太陽に近く熱せられた姿を敵軍に映し出す。恋焦がれた乙女の抱擁のように何度もしつこく、敵兵に愛を放射した熱風と共に。淑女のキスは手ひどいやけどを与え、恐怖を感じる側に裏返った。愛の持つ一面ともいえる一方的な求愛は己の特性を全て正当化し、相手のためを思った情熱は日に焼かれた砂漠の熱砂のごとく相手に襲い掛かる。


 赤く焼けたヴィーナスは、嫉妬や独占欲といった愛の持つ裏面の姿を兵士たちに与え、心身両面から生気を搾り取られていく。ドブリジューカの特殊部隊が、割れた爪をはがされるように戦力をそがれていく。戦況は不利になって行った。


「私が出ましょう」

ミドゥー・ケイトがデシクに申し出たが、彼は額にしわを寄せたまま、首を振る。


「貴方の能力は戦闘向きではないし、彼女は悟りを得ていると聞いている」

「果たしてそうでしょうか。今のドミニクには、かっての煩悩を捨てた姿はどこにもないでしょう。私の能力で彼女の本音を暴いてやれば、少なからぬダメージは与えられるはず」

ミドゥーは、自信ありげに顎をしゃくり上げて、王の返答を待つ。


 しばらくの間、沈黙が場内を支配した。デシクの中で答えは出ていた。ミドゥーは暗殺向きだが、部隊と共に行動しているドミニクの懐に入るのは容易いことではないだろう。一部隊を相手にできる術者の方が適していると。今後の戦況のために駒として隠しておきたかったが、戦場に逆風が吹き始めたため安穏としていられなくなった。デシクが鐘を鳴らすと、別の術者が進み出てきた。


「デシク様、出番が来たのですね。この命、我が王に捧げる所存でございます」

デシクの前に現れたのは、深紅の長髪を後ろに束ねて、豹の毛皮をまとった大柄の女性だった。


「デシク様、この者は」ミドゥーが尋ねると、彼女は口元を手で隠しながら話し始めた。

「私はソルティー・ビルクハイル。気やすく声をかけないでちょうだい」

「この女性が、私に代わってドミニクと対決するのですか」

ミドゥーは不満そうだった。顔に焦りの表情が見えた。


「その通りだ。決定権は私にある」デシクは重い口を開き、ミドゥーに戦力外通知を告げた。

「王は私のどこに不満があるというのです」ミドゥーは不満たらたらだった。

「対決してみる。勝ち目はないでしょうけど」言い終わると見下げたような笑みを浮かべるソルティー。



「いいとも。女性だからって手加減はしない」

とミドゥーは、ソルティーに歩み寄る。至近距離に近づいた時ソルティーが呪文を詠唱した。

「過去に生きた人生の片鱗を今の人生として歩み始めよ。時の魔術師は我が前に従い掟を破り物理を変えよ」

「え、あれ。ここはどこなんだ」

ミドゥーの外見はそのままだったが様子がおかしい。彼は彼でなくなっている。

「おかしい確か私は、年貢の試算をしていたはずだが。なぜこんな場所に」

「何かありましたか。ミドゥーいや、ガスパー・ミリ」


デシクは勝負があったことを見届けて、ミドゥーとソルティーを見比べた。ミドゥーは困惑したまま固まっていた。


「私の能力では数日がやっとですわ。それでも大丈夫かしら」

「ああ、数日の足止めで十分だ。それに前世の記憶を戻すことで、今のドミニクの心境に変化が起きるかもしれぬ」


デシクは安どの表情を浮かべ、濃い赤色の液体をぐっと飲みほした。









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