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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
21/29

ドミニク参戦

 ネイシャスタ・ホームラクの軍は進軍を諦めかけていた。魔法兵の援護の元、銃を片手に夜の潜む森(ダークフォレスト)に切り込んだはいいが、ドブリジューカの魔法使いの魔法によって、行く手を阻まれていた。敵の姿は木々に紛れて見えない。おそらく森林と重なるような色遣いの服を着こんで、こちらの視線を遮っているのだろう。化粧という行為が男女の性差を包み隠すように巧妙な配色は人の目を簡単に欺いてしまう。日の光が失われた森の中では、たやすく自分をかき消せる存在が虎視眈々と兵の首を狙っていた。


 銃兵の弾丸が敵の一人を撃ち抜く。確かに手ごたえはあった。人間一人分の重さの何かが草むらに倒れる音が聞こえる。だが敵は一人ではない同じ魔法の使い手が複数紛れ込んでいるとの情報があった。森林での銃撃戦は跳弾がどこへ向かうかわからないので、慎重に仕掛ける必要がある。夜目の利く兵卒や耳のいい兵卒のアドバイスを頼りに、敵の居場所を探って銃を放つ。何名かは地面にキスをした。だがすべての敵兵が大地と仲良くなったのではなく、自軍の危機は続く。ネイシャスタは、進軍を止めさせた。持久戦に追い込んで敵を消耗させるつもりだった。だが、どうみても自軍の士気は低下していた。


 魔法使いは地に伏せ慎重に動く兵たちの傍らで、彼らを描写し始めた。かすかに聞こえるか聞こえない声量で兵士たちの身体を、巧みな口調で木々の根にくぐらせていく、やがれその口から発した描写が現実となり隊列を木々の間に縛り付けた。頃合いを見計らって彼は魔法兵に囁く、「味方は木々に縛られ操られて、心も体も夜の潜む森の配下になった」同士討ちの狼煙が上がった。味方同士の悲鳴が鳴り響く。


 兵を撤退させ自陣に戻ったネイシャスタの元に、ドミニク参戦の方が届いた。星々を操るドミニクの噂は軍隊でも知れ渡っていて、自軍の士気を上げるための十分な薬効があった。目に見えない敵は脅威だったが、ドミニクの能力は、ドブリジューカの魔法使いたちの能力を力で圧倒すると信じられていた。


 ドミニクは女性向けの軍服に身を包んで、隊長の率いる馬の後ろに乗せられて陣営までたどり着いた。彼女は馬に乗るのが初めてだったので、少しふらふらしていた。椅子が軽い地震で揺られているように感じられた。夜空には星が瞬いている、おそらく使えるのは火星という事になるだろう。戦いの星火星は、彼女の力でどんな能力を発揮するのか。


「広範囲の敵を一掃できると思うぞ」ドミニクは居並ぶ軍属相手に、自分の能力を伝える。

「火星を使うようだが、どんな能力になるのか」ネイシャスタが興味深そうに新しい玩具を照らし出した眼を開いて尋ねた。

「火星の運河が関係するだろう」謎めいた言葉を投げかけたあとドミニクは瞑想する。


 彼女の心の中では、魂がゆっくりと蓋を持ち上げて心の中を見回す。中央に傷つきながら燃えている愛を復讐に変えた感情がくすぶっていた。感知した魂は自分の居場所に帰ると蓋をつかみながら身を隠した。ドミニクの唯一の両親ともいえる魂が、この時点ではどう動くのか、ドミニク自身にもわからなかった。





 ドミニクを後衛に配置した軍は、再度森の中に侵入しつつあった。敵の軍は数はまばらだが、魔法使いたちは皆ジュジュツバクの能力を保持していた。敵兵の一人が口笛を吹いて注意を向けさせる。だが、ネイシャスタは自軍に対して敵兵の挑発に乗らないようにサジェストした。やがてドミニクは手と手を合わせて何かを祈り始める。火星の光が輝きを増したように感じられた。


 ジュジュツバクの魔法使いたちの叫び声が、引き伸ばされた木の蔓のように怪しく響く。喉の奥から響くそれは、彼らの魔法を途中で放棄させ、五人いた術者は立ち位置を明確にさせられた。彼らの血管は運河のように連なり、異なった血液が一挙に混ぜ合わされ固まりながら怒涛の流れを見せている。


 お互いの血液を交換しつくした魔法使いたちは一気に殲滅し、ネイシャスタの軍はやっと進撃を始めた。ドミニクの能力が味方に勝利をもたらしたのだ。歓喜あふれる軍は森の中に自軍の拠点を置いた。


 その頃、ドミニクの魂は本来の彼女に戻るため暗躍を始めていた。ドミニクの自意識が気づかぬ世界で、蘇生する力が力をみなぎらせていた。


「敵軍は葬り去った。私は別の陣の助太刀に向かおう」

ドミニクはネイシャスタにそう告げると、護衛を引き連れて別の軍へと移動していった。


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