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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
15/29

魔の国の意味

 人が近寄れないと噂に聞く、鉛色の空をかき集めて中空に漂わせ、見る者の心を不安と空虚へと誘うような漆黒の森の中。通称「夜の潜む森(ダークフォレスト)」木々は、まだ人たちが幼い幼児のころに独り寝で味わった悪夢を象徴するかの如く枝葉を広げて人間たちの眼前に立ちはだかる。このように幾重にも、人間が立ち入らないように威嚇をしている現世と異界との境界線。その中に魔王の国、ドブリジューカが存在している。


 魔界人を束ねる王、デシク・ジークァの元にバザ・ギャリの使者が、マーロ暗殺の報を携えて訪問した。

彼は褒美を待つ優等生のように自信を胸に抱き、堂々とした足取りで、朱色の絨毯を踏みしめる。しかし期待とは裏腹に王の態度は真逆だった。


 デシクは使者から状況を伝え聞くと、退席を願い、玉座の元で苦悩の表情を浮かべるのだった。使者はその表情を上目遣いに見やると、怯えた表情を浮かべ、後ずさりしながら王の間から去って行った。禁猟区に紛れ込んだ善良なる狩人のように背中を震わせながら。


 デシクは、元々領土の拡大などは望んではおらず、人の住む国から追い出された人々の避難場所を欲していただけだった。ただ、人間界から追われた魔界人たちの多くが魔法をつかえたので、能力を利用して領土を拡大していった。虐げられた人々の居場所としてのわずかな土地を得るために。


「お前ら何か違うんだよね」

「上手く説明できないけど『変』なんだよ」

「うちで雇われたいなら常識を身に付けることだな」


 なんども繰り返された言葉だったが、デシクにはさっぱり理解できなかった。知能指数は145を超えていて、神童と呼ばれた彼ですら、人間たちとの暮らしでは困難を極めた。いつしか彼は、似たような悩みを持つ仲間を集めて、人がいつきそうにもない、漆黒の森の奥地を目指した。


 異形の物が潜む森は、差別の対象になり、得体のしれない集団に対する恐怖心から、幾度となく討伐隊が組織され、彼らのせん滅を目指す部隊が送り込まれる。だが、一つの誤算があった。追い立てられた人々は、人間を上回る魔力の持ち主の集団だったことだ。


 一般的な常識や、共感力を持たぬ彼らは、卓越した魔力を持ち、人知を超える攻撃を自由自在に操った。討伐隊は幾度となく送り込まれたが、戻る者は半数以下だった。


「右部隊どうした」

「今、石のような胴体を持つヒトデの集団に襲われている」

「馬鹿な、ここは陸地だぞ」

「しかし、今、鋼のような腕を振り上げて、うわーっ」


 あちらこちらの戦地では人間たちの叫び声が彼らの劣勢を際立たせるように大地を染め上げているのであった。


「色に塗りつぶされる。助けてくれ」

「どういうことだ」

「色が迫ってくるんだ。より重く、より濃くなって」

「ごふ、息が苦しい」


 今までに受けたことのない魔法攻撃に、討伐隊は苦しんでいた。火、風、氷、水、土はもとより、それ以外の物質が、特性を前面に押し出して刃へ、凶器へと変わる。想像を超えた魔法に晒された人々になすすべはなかった。


 今でも、古老たちに聞くと、ドブリジューカには攻め入ってはならないと、口をそろえて言う。主戦論が叩き潰されていたのは、そのせいだ。万物が襲い掛かる恐怖は口伝になって今でも伝えられている。


 


 ドノバンは、その事を知っていたが、王が変わる時、彼らは領土を拡大すると読んでいた。今の王ならば領土的野心はないから、叩けると踏んでいた。そのためには大いなる能力者のドミニクの協力が不可欠だった。彼女にとっては不幸だが、ドブリジューカを制圧するいい機会との思いは強く。彼の心を打ち震わせるのであった。


 デシクの能力は秘匿されていたが、軍臣たちの推理では、異質の者たちの魔法能力を拡大させる力だと伝えられている。真偽のほどは定かではない。ドブリジューカの魔法使いに立ち向かうには、神と等しい魔力を持つドミニクの参戦が必要不可欠だとドノバンは睨む。


 ドミニクは、マーロを失った悲しみから、店を閉めただひたすら喪失感とあふれ出る涙に酔いしれる日々だった。真っ赤なワインを思わせる血の涙が頬を溺れさせ、白いドレスを染め抜いていった。その心根には、幾多の修行で捨てさったはずの憎悪の光が闇を抱き込んで力を放とうとしていた。


 ドノバンの父親で政治家のトーマス・ラッセルが、議会にドブリジューカとの開戦について審議をかけたのは、5日後のことであった。善良な市民が暗殺者に倒れたことを受け、主戦派は勢いづいた。


 デシクは隣国の情報を得、選りすぐりの使者を遣わして、ハートバルクとの和議を講じようとした。霊服に身を包み、髪を左右に固めた使者は、どことなく人間たちに似ていた。異質な者達から一番遠い出で立ちの男にドブリジューカの運命を託して送り出した。



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