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異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
14/29

凍てついた心

 ちょっとした罪悪感に縛られる心は、興味が満たされること、自分と同じ世界を共有する男性に心惹かれていることに抗えず、本能の赴くままに、ビリーに寄り添い始めている。


 公園の横の広場で語らうことは前世の誓いよりも重く深く彼女の心に染みわたっていく。磁石が引き合うように、会話でお互いの心を通わせることを止めることはできない。公園の横の大理石の噴水は、彼女の沸き立つ心を鎮めるかのように水を注ぎ続ける。彼女はビリーと対峙するひとときの逢瀬を心待ちにするようになった。


「あなたの求めることが真実なら。なぜ動物たちは愛し合い子孫を増やすのか。人類だけがそこから外されているのはおかしいと思いませんか」

 ビリーは、ドミニクが捨てようと思って迷っている愛について切り込んできている。


「でも、私はそれを捨てることで上の世界に行けると聞いている」

 発言とは裏腹に、彼女は自分の妄信を打ち砕いてくれる言葉を待ち望んでいた。マーロへの愛と、ビリーへの関心。この二つを持ち合わせながら生き続けている、前世の約束から見たら罪深い自分への援護射撃が欲しかった。自分のこの邪な心を受け入れてくれる理論が一番必要としている物だった。


「世の中には愛を主体とした教えもあります。そこの指導者は愛を捨てることはありません」

 ビリーは、ドミニクが極力かかわろうとしなかった神を主体とする宗教について語り始める。その新鮮な教義は、ドミニクの心を覆っていたもやを、水の中の不純物がろ過される様に、少しずつ消していった。


 ドミニクが、新しい教えに心奪われている間。バザ・ギャリの手下は、マーロが働く氷室にその姿を見せようとしていた。

 もちろん、ドノバンの選んだ選りすぐりの護衛が配置されていることは知らない。

 

 刺客は、氷室に迷い込んだ一般人のふりをして、マーロの作業所に忍び寄る。周囲は薄暗くひんやりとしていて、暗さに眼を慣らしてからでないと歩けなかった。刺客の目の前の影が動いた。刺客は少ない動作で急所に当て身を食らわすと、精鋭たちを床に這いつくばらせた。接近戦には強いはずの、精鋭たちも刺客の敵ではなかったようだ。


 中央ではマーロが氷の仕込みをしている。水を蓄えた水槽から熱を奪い取って全てを冷却する。その前の段階で、刺客は背後に回る。


「誰だ」

マーロは振り返り、こぶしを握って腕を曲げ、戦闘の構えを見せる。魔法ではなく肉弾戦でやる気まんまんのようだ。

「ちょっと変わった姿になってもらうだけだ」

と刺客は、マーロの手首をつかみ捻り上げようとする。マーロは慌てて手を振りほどいて、けん制で蹴りを見せる。刺客は後ろに飛びのいてよけた後、手を広げて氷の塊を作り、ぶつけてきた。

 

 マーロは腕で氷弾を避けようとする。拳で襲ってくる氷の塊を払っていたが、やがて手がかじかんでくる。マーロは戦法を切り替えて、目の前の男から熱気を奪う攻撃に変えた。


「そのような初期の魔法、通じぬわ」

 刺客は氷でバリアを作り、氷の壁ごとマーロに体当たりを食らわせる。氷の壁をもろ食らったマーロは氷結したまま壁にへばりついた。


 後には寒気によっておそろしく冷え込んだ室内と、氷の中に封じ込められたマーロの体躯のみが残されていた。


 翌日、作業所を訪れた責任者が、生死の分からぬマーロと、そばに置かれた犯行声明文を目の当たりにして、驚いた責任者は、多方面の関係者を呼び、医師や軍の責任者が訪れる。その中にはドノバンや、ドミニクもいた。


 透明な氷越しに固められた標本のようになったマーロを目の当たりにしたドミニクは、服が濡れるのも構わずに氷板にすがりつき、ドノバンに引き離された。


「落ち着いてドミニクさん。あなたまで凍傷になってしまう」

「これは私に与えられた罰なの?」

自分を縛っていた罪悪感がまた、再襲来してきて二股をかけた色恋の裁きが自分の中で時の声を挙げる。精神的に寄る術をなくした彼女は泣き叫びながら、その場から退こうとはしなかった。


 ドノバンは彼女の肩をしっかりつかむと落ち着いた口調で言い聞かせた。

「あとは医師と除術師にまかせてください。辛いのはわかりますが、あなたは別室で待機してください」

「これって罰なのよ。私が教えを守らなかったせいで」

 ドノバンは彼女の手を掴むと、ドミニクは手を振りほどく、彼は強引に手を掴んで引き離し、地上に出た。ドミニクに水を飲ませると落ち着かせて、背中をさすってやった。ドミニクは悔恨の情に駆られて、ただ嗚咽しつつ顔を濡らすばかりだった。


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