表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生、最後の修行  作者: 地淵育生(ベリー)
女性として生きる
13/29

戦のための起爆剤

 ドミニクの心は、マーロの元から離れたと思えば舞い戻りつつ、もう一人の男性ビリーの棲み処である高原の元に引き寄せられつつあった。自分の過去生のヒントになりそうな哲学的な会話。彼ならば私が現世に命を受けたことを、その答えを導き出してくれるのではと予想していた。


 花から花へとうつろう蝶が、大量の蜜を分泌させる大輪の百合の花弁を目の当たりにしたかのように、しばし空中でしばたいて、じっと見入る。花は微笑をたたえてドミニクが飛び込んでくるのを待っている。


 彼女の心は本来の目的を忘れてしまったかのように浮足立って、日々の生活の準備がうつろになっていった。ただ、ビリーに会えることが、生活の目的になってしまっている。ドミニクの人生は、彼を中心にして回り始めた。


「買い出し手伝おうか」

 ふいに、地味なシャツにカーキ色のスラックスを着たドノバンが店を訪れてきた。ドミニクは扉の鍵を外すと、いつもとは違ういで立ちに目を奪われた。


「ドノバンか、ずいぶんとラフな格好をしている」

 金庫から金子を出すと、皮財布の中にしまい込んでから身支度を始めた。ドノバンには外で待ってもらうと、表に出ても恥ずかしくないブラウスを着込み、下はスラックスを穿く。鏡台の前で全身をチェックして外に出た。日が高く上り、少し出遅れたことに気づいていた。と同時に、ビリーとの約束を思い出した。


「少し今日は急ぐ」

 ドノバンを引き連れて、いつもより早めに市場をまわる。野菜と海産物を買い込むが、料理の計画は立っていない。いつもの自分がどこかへいってしまったかのように感じ、焦った心をドノバンに見透かされないように、表情を殺して買い物を続けた。


(やはり、心を奪われておいででしたか)

 ドノバンは、残念そうな表情でドミニクを見た後、何気ない振りをして荷物を持ち市場を後にした。人々の会話や喧騒が波のさざめきのように少しずつ音を消していくと、ドノバンは狙いすましたかのように口を開いた。


「今後のご予定は、何かございますでしょうか」

ドノバンは、首を垂れ胸に手を置いて、うやうやしく申し出る。


「ちょっと、用事があっての。今日の手伝い、恩に着る」

 ドミニクは顔を赤くしながらも、あくまで平静を装っていたが、声の速さのばらつきから動揺していることはバレバレだった。


「また用がありそうだったら行きますから。いつでも申し付けてください」

 ドノバンは、扉を丁寧に閉めると、今後のことについて思案しながら通りを歩いた。おそらく、ビリーはマーロが暗殺された時の安全弁として送り込まれているということ。マーロの死によって、ドミニクは復讐鬼になるだろうから、それを理由にハートバルクとの開戦をドブリジューカではデシクに進言するであろうことまで、予想していた。


(マーロも容易くはやられはしないだろうが、何かあるといけない)

 ドノバンは、衛兵を手配して、マーロの作業所の見張りを手厳しくするように指令を出した。主戦派であるドノバンでも、リヒータナから犠牲者を出しての開戦は、望むところではなかった。


 その頃、公園の横の広場ではビリーが、ドミニクに対して我欲を消すことと恋愛の差異について語っている最中であった。彼の弁舌に、ドミニクは耳を傾けて心酔していた。全身が一言も逃すまいと、耳介のように、変化しているような錯覚を覚えた。


「この世に生を受けたのに、愛を自らの手で葬り去るのですか」

 ドミニクの心を見透かすかのように、ビリーは痛い所をついてくる。彼女が前世からの命を忘れて、心が風に舞う綿毛のように、男性の心にうつつを抜かしている事を知っているのだ。


「しかし、我欲は捨てなければならぬと、私は思うておるが」

 頬を赤らめながら、自分の課せられた使命について忠実に答えてはいるが、彼女自身そろそろ自分の生き方に疑問を感じ始めていた。様々な生き物が、求愛をし子孫を残すことが悪なのならば、なぜ造物主はそのような機能を生物に与えたのだろうか?


「我欲と愛は同じ物なのでしょうか? 私は違うと思いますがね」

 ビリーは、そういうとぐっと顔を近づけて、ドミニクのプルンとした唇を指ではじいた。ドミニクは真っ赤になって、うろたえる。


「ちょっと、お主、それは誘惑か何かか」

「ちょっとした悪戯ですよ。軽い。愛に免疫がないからうろたえるのです」

 そこまで話すと、ビリーは帽子をかぶり、手を胸の前に当てお辞儀をすると、呆然とするドミニクを尻目に去って行った。

 ドミニクは、背中に汗をかき、キツネにつままれたような気分で、しばらく時間を忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ