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深夜授業

「はぁ、困った娘だ」


 そうつぶやくと、マリアはこちらを興味津々に覗き込んできた。今度はいったいなんなんだもう一人の困った娘は。


「ガトさん……きっとヴィヴィアンさんはわたしにやきもちを焼いてるんじゃないでしょうか?」


 は、はぁ!?


「やきもちって……魔王の座とはそんな軽いものでは」


「軽くないですっ! やきもちってのはすっごく重いものなんです。恋する乙女心というのはすっごく重いものなんです」


 マリアがグイグイこちらへ近づき力説する。


「……すいません」


 魔王の座と比べてどちらが重いかは明らかだが、これ以上こんな議論したくないので、謝っておいた。


「でっ! ガトさんはヴィヴィアンさんのこと、どう想ってるんですか!?」


「どうって……」


 ヴィヴィアンは、彼じゃが幼少だった時に家庭教師をしたことがある。五年という短い期間だったが、その時はあんなじゃじゃ馬ではなく、聞き分けの良い子だった。どうしてあんな風になってしまったのか……


「……フフフ、もう結構です」


「えっ? いいんですか?」


「わたしの乙女心はごまかせません。全部わかりましたからっ」


 一二〇%わかっていないだろうその乙女心に反撃する気力もない。

 いい加減、仕事もせずにこの小娘魔王の相手ばかりしているので山のような決済案件が貯まっている。




「では、そろそろ仕事をやっていって頂きましょうか」


「はい! 頑張ります」


 返事だけはいいな……返事だけは。


「では、ここに魔王印を」


 そう言って洋筆紙の右端を指差す。


「……これは、どういった書類ですか?」


 黙って押してくれればいいのに……心の中で舌打ちをする。


「今年度の税率です。各部族の特産品に一定の税率をかけるのですが、その承認をお願いしたい」


「……何%なんですか?」


「まあ、各地の状況によりますが、平均四〇%と言ったところでしょうか」


「たかっ……高すぎませんそれ!?」


 くっ、だから言うの嫌だったんだ。


「これでもいろいろ議論を重ねてるんです。最終的に財務大臣のスフィンクスのジルギィが判断しました。後は、魔王印を押すことだけです」


 スフィンクスは族は人頭と獅子の体、翼や蛇頭の尻尾を持つ魔獣だ。謎々が大好きで、意味もなく謎々をしかけてくる少し迷惑な側面を持つが、その知識量において右に出る者はいない。


「でも……そんななにも精査せずに印なんて押せません」


「じゃあ、呼びますか?」


 仕方なく提案すると、マリアは嬉しそうにコクコクと首を縦に振る。


 数十分後、ジルギィが玉座の間に入ってきた。


「あの……私の判断になにか間違いが?」


 不満そうな顔をしながら跪くジルギィ。

 彼はプライドが高い男だ。魔王レジストリアも俺もそれがわかっていたので、敢えて財務面に口は出さなかった。


「いや、この税率なんだが魔王がお前に尋ねたいと」


「ジルギィさん、初めまして。魔王のマリアです」


 そうマリアが言うと、ジルギィは品定めをするような目でジロジロ見始めた。


「で! 尋ねたいこととは?」


 明らかに無礼な物言いを意図的に行っている。己の領域を荒らしたことへの不満が如実に出ている。そして、自分以外に魔族の財務を行えないと言う自負も。


「この税率は高すぎません? なんでこんなに高いのか、わたしに説明して頂けませんか?」


「……失礼ですが、あなたに言ってわかるかどうか」


 そう嘲ったように笑うジルギィ。一言で言えば、ナメられている。


「そうなんです。さっき見た書類じゃチンプンカンプンでした……・エヘヘ」


 マリアは素直にそう答えて、はにかみながら笑う。


「ふっ……ならば、説明するのも無駄ということでしょう。財務はわたしにお任せいただきたく思います」


「はい。だから、もっとわかりやすく、わたしに説明して頂けませんか?」


「はっ……」


「財務をあなたにお任せしたいんです。でも、わたしはあながたやっていることがわかりません。それだと、あなたにお任せできないでしょう?」


 満面の笑みを浮かべながら答えたマリアの発言にたじろぐジルギィ。


「ど、どういうことですか!? 為政者たるもの、部下の仕事がわかる程度の知識を持ち合わせて然るべきでしょうが!?」


 顔を真っ赤にしながら反論するジルギィ。


「はい……その通りです。だから、教えてください。わかりやすく」


 恐らく、ジルキィにとってこの小娘魔王は理解不能だろう。


「くっ……わかりました。では、まず税率の考え方から――」


「でねっ、ここなんですけど。なんで……」


「いや、それにはまず税率の考え方からですね――」


「そうなんです。ここがわかんないんですよね。なんで、この数字が……」


「聞いてます!? 私の話を聞いてくれないと話になりませんが」


 か、噛みあっていない。壮絶に噛みあっていない会話を繰り広げる二人。


「で、では俺は席を外しますので」


「ちょ……ガト殿、待ってください。あ、あんた逃げようって魂胆じゃ――」


「ジルギィさん、で、ここの数字なんですけど」


 玉座の間から逃走した後、深夜までその問答は繰り広げられたと言う。





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