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掌編集  作者: 叶 こうえ
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無理心中は緩やかに

「もう少しあっさりした物にしてくれよ。健康診断でコレステロール値が高いって結果が出たんだ」

 衣がたっぷり付いたエビフライを頬張りながら、夫は私の作る夕飯に文句をつけてきた。

「あっさりって例えばどんな?」

 夫も私も油っぽい食べ物が大好きだ。結婚して十年以上が経つけれど、あっさりしたおかずなんて数える位しか作ったことがない。

「俺もよくわかんないけど。すまし汁とか」

「何よそれ。おかずじゃないじゃない」

 ちょっと呆れて夫の顔を見る。また太ったみたいだ。顎の肉が凄い。二重顎を通り越し三重顎になっている。

「太ったよねぇ……今体重何キロ?」

「お前だって太っただろ。結婚前はあんなに痩せてたのに」

 夫がムッとしたように言い返してくる。

 確かにお互い様だった。私もこの十年で二十キロ増。でもあんまり気にしていない。好物を我慢してまで、長生きなんかしたくない。

「とにかくさ、明日からこってりした物は控えたいんだ。生活習慣病とか、怖いしさ」

「夕飯だけが原因じゃないでしょ? 昼ご飯だって食べたいだけ食べてる癖に」

 私のせいにしてほしくない。だらしない夫の事だ。昼食も栄養バランスの偏ったメニューをガツガツ食べているに違いない。カツ丼ならご飯大盛り、ラーメンなら脂の浮いた汁を一滴も残さずに飲むんだろう。夫にはそういうイメージが染み付いている。

「大体ね、そんなこと言うんだったらタバコやめなさいよ」

「それは無理だ」

 夫は即答して、胸ポケットからライターとタバコを取り出した。

「禁煙できないから、せめて食事ぐらいはさ」

 自分勝手なことを言って、夫はタバコを吸い始める。

 まだ私はご飯を食べ終えていないのに。

 

 私は夕食の改善を一切せず、自分の好きなものだけを作り続けた。夫は夫で、食卓に並ぶ好物を拒めるだけの強い意志がなかった。 


 十年後、夫は心筋梗塞を起こし、あっけなく他界した。勿論肥満と喫煙が大きな理由だった。私はちょっとだけ申し訳ない気分になった。私が体に優しい夕飯を作っていたら、夫はもっと長生きしていたかもしれない。

「私ももうすぐそっちに行くし……恨みっこなしよね」

 ここは真っ白な病室。私は肺癌でベッドに寝たきりになっている。なかなか自覚症状が現れない病気のようで、血痰が出てあわてて病院へ行った時には、もう遅かった。

 私はタバコを一度も吸ったことがなかった。

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