§1『幼女神の導きで』
「ここはどこだ?」
それが俺の開口一声。我ながら在り来たりすぎて殴りたくなってくる。いや、だって気がついたら真っ白い謎空間にいたら、そりゃ誰でも言うでしょ、これ。
ぱっと見、辺りには何もない。謎空間に存在するのは、25歳独身、中二病十一年目、ニート三年目な俺、東雲四葉だけだ。趣味はソシャゲと読書(ジャンル問わず)。有名どころのゲームやアニメの知識がないという、世にも無駄なにわかオタク。根っからの文系であり、理系方面はせいぜい計算と元素周期表丸暗記が出来るぐらいか。残念ながら料理は出来ない。世間に流され泥にまみれ、ちょっと荒んだ一青年だ。夢は遊び暮らせるスローライフ。
唯一の取り柄は無駄に溜め込まれたオタク知識だろうか。まぁ浅く広くが信条の俺にとって、どのジャンルもさわり程度の知識しか無いのだが。せいぜい神話なら多少詳しいくらいか? あとはオタクの嗜みとして絵が描ける程度か。
まぁそんな残念きわまりない存在である俺は、一体何の間違いでこんなところに一人佇んでいるのか。
「知りたいですか!?」
そのとき、ぽうっ、という謎の音ともに、俺の背後に何かが出現した。
くるりと振り向くと、そこに立っていたのは──
目にも麗しい銀髪美幼女だった。
「おおう」
思わず声を漏らしてしまう俺。いや、だって幼女だぜ幼女。しかも銀髪。くりくりと大きな瞳は真っ赤で、瑞々しい肌と合わせてなんとも愛らしい。まだまだ発育途上の体を、白いワンピースに包んで、にこにここちらを見ている。超可愛いな。
「えっと……キミは?」
「はいっ! エインフェリア斡旋窓口受付嬢です! 有り体に言えば転生の女神見習いです!」
おう、ちとまてや嬢ちゃん。
エインフェリアか。それは分かる。北欧神話に登場する、死後ヴァルハラに集った英雄たちだな。ヲデン……もといオーディンの指揮の元、神々の黄昏を戦い抜くという。
それは多少ファンタジー知識があるやつなら誰でも知ってる。問題はそこじゃない。
「転生? 輪廻転生か? 生まれ変わる? リバース?」
「はい、その通りです! おめでとうございます! 第17389526664人目のエインフェリアに選ばれたヨツバさんには、異世界転移の任務が与えられているんですよ!」
多いな、エインフェリア。というか、
「死んだのか、俺?」
「はい。それはもうさっくりと!」
何てこった。嘘だと言ってよ◯ーニィ。未練は特にないけども、良く分からんうちに死んでしまったのはショックだ。何より一度として俺のムスコを使う場面が無かった。DTのまま生涯を閉じるとは。南無。
取り合えず死因を特定するべく、最後の記憶を掘り返してみる。えっと、昼過ぎにカップ麺買いに家を出て、近くのコンビニに向かって行く途中で上から鉄筋が降ってきて、直ぐ下にいた少年を突き飛ばそうとして──
あ、これか。押し潰されて死んだパターンか。
「いいえ、その場で足が突然複雑骨折して、倒れて地面に頭をぶつけてショック死ですねー」
「ウゾダドンドコドーン!」
予想の斜め上を行く死因でした。運動不足祟りすぎだろ。
「少年は?」
「普通に鉄筋を避けて何事もなかった様に行きましたよ?」
超人かよ! 何者だよあの少年!
「えっと、ワルキューレ派遣協会の調書曰く、えーっと、コンロン山? で仙人の修行を積んだ少年だそうです」
「何でそんなのがいるの? ねぇ!」
思わず叫んだ。というか心読めるのね幼女ちゃん。
「勿論です。だから嘘は効きませんし、ヨツバさんの考えてるあんなことやこんなことまで即バレですよー」
なんと! では俺の溢れ出るリビドーが見せるあんな妄想やこんな妄想、挙げ句の果てには目の前の幼女ちゃんへの魅力的な妄想まで筒抜けということか!
「うっ、そこまで明確に妄想されるとこっちも恥ずかしいです……」
「すまない」
とりあえず謝る。こういうのは口に出すのが大切さ。
「いえいえ、良いんですよ別にー。プライバシーを無視してるのはこっちなんですから!」
案の定幼女ちゃんはにこっ、と笑って許してくれた。可愛いなぁ。でも自慢げに宣言する事じゃないと思うのそれ。
「兎に角! ヨツバさんには異世界転移をしてもらいます!」
「んー、質問いいか?」
「勿論ですよー」
色々唐突だったからな。今のうちに疑問を解決しておこう。
「まず、何で俺はエインフェリアに選ばれたんだ?」
「優秀な戦死者の少ない今のご時世、エインフェリアは特定以上の魂の格がある方から抽選で選ばれています。ヨツバさんは並みいる候補の中から運良く転生権のある17389526664号に当選したんですよー」
なるほど。運がいいんだか悪いんだか。悪運が強い、と言うことかしら。
「次。その173……ああもうっ、とにかく俺が入った枠のエインフェリアは、どうして異世界転移をするんだ?」
「んー……ちょっと真面目な話題になりますけど、良いですか?」
「お、おう」
真面目な話題? わりとヤバイ質問だったのか?
「今、ヨツバさんの住んでいた地球に、力のある神様はいません。みんな異世界に行ってしまいました」
「え?」
「地球に強力な神様が居ないので、このままではバランスが崩れてしまいます。しかも土着の神様がいる異世界と、力の強い地球の神様は中々相性が悪いんですよ。だから17389526664号エインフェリアさんには、そんな神様たちを見つけて倒して欲しかったんです。倒された神様は自動的に地球に帰りますから」
うわお、わりと大きい使命が──
「ですが! 実際のところ、あんまり気にしなくても良いです! バランスが崩れるっていっても急じゃないですし、本当にヤバくなったら専門職のヒト送るので! ようは気分です!」
無かった。
「あ、でも、その本職の人が『向こう』で正常に動けるか、っていうテストはしてもらいます。ヨツバさんにはいくつか転生特典を授けますので、それを駆使して生き延びてください。もし機会があれば、何柱か神様を連れ戻してくださると助かります!」
「お、おう」
さっきから俺「え?」と「お、おう」しか言ってない気がする。
まぁつまりは、気楽に生きていい、という事なのだろうか……?
「そうですね! 向こうに行ってしまえば、あとはヨツバさんの自由です! 神殺しになるなり、勇者になるなり、魔王になるなり、貴族になるなり、商人になるなり、冒険者になってダンジョン攻略するなり、奴隷囲ってハーレム作るなりしても自由です!」
ほほう、ダンジョンに奴隷にハーレムか。すばらしい。それらは男の夢だからな。
あ、男の夢と言えば。
「向こうに魔法はあるのか?」
「ありますよー。因みにヨツバさんに渡す特典の中にも入ってます」
うわーい、はっきりチートって公言されちゃったー。
しかしそいつは嬉しいな。昔から魔法が使いたかったんだ。何せ中二病だからな! 自作のアゾット剣なんてのもあるぞ! わりと本格的なヤツで力作だ!
ともかく。そんな訳で俺は異世界転移をすることになった。チートは貰えるしハーレムも可となると、夢の気ままなスローライフも達成できるやもしれん。ワクワク。
「特典の内約は?」
「えっとですね……うーん、自分で見てもらった方が早いかな……指を揃えて、カードを投げるみたいに振ってください」
「……こうか?」
俺はしゅっ、と指を振ってみる。すると目の前に、半透明のプレート的な物が出現した。ふよふよ浮いている。おおっ。
「それが『メニューウィンドウ』です。ステータス表示やアイテムボックス、困ったときのヘルプに簡易マップ、加えて翻訳スコープまでついてるお得な一品です! ついでに可視・不可視を選択できまして、可視モードでは今の様にプレート状ですが、不可視モードでは視界に表示される形となります。大きさは自由に変えられますので、有意義にご活用ください」
なるほど。
文字の翻訳機能は不可視モードで使った方が良さそうだな。
「因みにメニューウィンドウは、向こうの世界の一般の方々は保有していませんのでご注意ください」
「分かった」
変に目立つのもアレだしな。スローライフの妨げになるやも知れん。
「あ、アイテムボックスは普通に魔法として存在するので安心してくださいねー」
「そいつは助かるな」
「ではでは、次にステータスを開いてみましょう! メニューウィンドウの右上にある『ステータス』の欄を押してみてください。あ、不可視モードで使用する際は、『ステータスオープン』と念じるか唱えてくださいねー」
なるほど、了解。
そんな訳で、ステータスウィンドウを開いてみた。
▼▼▼
ヨツバ・シノノメ
人間/人間種族 18歳 男
Lv1 位階1
【パラメーター】
VIT:C(+0),STR:C(+0),DEF:C(+0),INT:C(+0),DEX:B(+0),AGI:C(+0),POW:A(+0)
素養:C(+999)
【スキル】
色彩魔術:A
・赤属性魔術:A(+0)
・青属性魔術:A(+0)
・黄属性魔術:A(+0)
・白属性魔術:A(+0)
錬金術:A+++(+0)《アゾット剣》
エインフェリアの証:EX
【スキルポイント】
有償:0
無償:0
▲▲▲
……これは凄いのか凄くないのか。というか18歳ってなんだ。俺は花の25歳だぞ? ……いや、若返るに越したことは無いけどさ。
「わっ、凄い。位階1なのにこんなに整ったステータスだなんて」
「へぇ?」
「ざっくり言っちゃうと超平均的なんですけど、エインフェリアになったばっかりでこんなに高水準で平均的な人っていうのは少ないです。やっぱり素養に最初っからプラスついてるからかなぁ」
……すまない。さっぱり理解できん。どういうこと?
俺がそんな感じでポカーンとしていると、幼女ちゃんははっ、と我にかえったように目を見開いた。可愛い。
「すすすすみませんっ! たいした説明もしないで勝手に盛り上がっちゃって……」
「や、別にいいけども……説明頼める?」
「はい! お任せください!」
にこっ、と再び笑う幼女。くそっ、このままでは真正のロリコンに目覚めてしまいそうだぜ……イエス・ロリータ、ノー・タッチだ、俺。
そんな内心はもちろん筒抜けなので、俺に対して変な顔をしながら、幼女ちゃんは俺にステータス画面の説明を始める。
「えっとですね。まず、上から順に名前、種族、年齢、性別となります。人間種族は『種族カルマ値』が中立の種族を指します。他には獣人や魚人などが入りますねー」
「種族カルマ値ってのは?」
「うーん、特定の魔術の対象になるかどうかを決めるんですけど、殆ど関係ないので隠しパラメータ程度に思ってください」
なるほど、そんなに重要ではない、と。暇をもて余した神々のなんとやら、ってやつか。
幼女ちゃんは続ける。
「次に『レベル』ですね。『Lv』の最大値は100ですが、位階が上がるごとに100ずつキャップ解放があります。『位階』は謂わば限界値な訳ですね。最大値は10です。特定の域まで強くなると解放できます。Lvは自動アップするレベル、位階は受動アップさせるレベル、と考えてください」
「ふむ」
「パラメータは文字通りヨツバさんの身体機能です。それぞれ生命力、筋力、防御力、知能、器用さ、敏捷、精神力です。直接的な力、というよりは、その素質みたいなのを表しています。最低値がF、最大値がAで、プラスの評価規格外がEX、マイナスの評価規格外がZです。Cランクが平均的な部分です」
なるほど。だからさっき平均的に纏まっている、と言ったのか。確かに俺のパラメータは、多くが平均のCランクである。
「素養はヨツバさんのステータスがどれくらい成長しやすいかの目安ですね。Cランクなら人並みに上昇するでしょう。ですが……」
「……?」
「ランクの横に書いてある『+』というのは、レベルアップしたときや訓練によって追加されるんです。位階が上がったときにランクに反映されるんですけど……普通は初期状態では何もないのに、ヨツバさんは最初から素養にカンスト値の999振ってあるんですよ。出処は完全に不明なんですけど……まぁ、ボーナス程度に思ってください! 悪いことは何もないので!」
テキトーだなオイ。
薄々感付いてはいたが、この娘かなりテキトーである。いや、この幼女ちゃんに限らず、全ての受付嬢がこんなノリの可能性も高いが。
「ちなみにLvアップ毎にパラメーターには+が振られていきますので、一応+99まではどのパラメーターにも与えられる計算です」
「なるほど」
無理して育てなくてもよし、と。
「ではいよいよ特典であるスキルの説明ですね!」
「待ってました!」
いよいよチートのお披露目である。公言されてるのがなんかアレだが、チートであることに代わりはない。ワクワクしてくる。
というか俺、この色彩魔術っていうのが死ぬほど気になるんだけど。もう死んでたか。ありゃ。
「色彩魔術は、向こうの世界で一般的に用いられている魔術です。赤、青、黄の三属性のエレメントを操って、様々な魔術を繰り出します。色毎に得意な魔術のタイプが違って、主に赤は火、青は水、黄は土を象徴します。向こうの世界の人達は大抵一つか二つしか使えないので、三属性全てがつかえるとなると、これは凄いことですよ!」
「おおっ!」
良いねぇ良いねぇ。
俺は魔術や魔法が好きだ。エレメントという概念が好きだ。アゾット剣作っちゃうくらいには。より正確にはアレの所有者であ るヴァン・ホーエンハイム=パラケルススっていうのはこーゆー元素説的な魔術を否定した人らしいんだが。
とにかく、それを全部使えるということは、俺にとっては至上の喜びである。感謝が止まらない。
「ふふふっ、このスキルをつけたのは実は私なんですよー」
「マジっすか!」
ヤヴァイ。俺のなかで幼女ちゃんの評価がストップ高である。評価規格外である。EXである。ぜひ幼女神と呼ばせていただこう。
「白属性魔術は、この三色に入らない属性の魔術です。無属性魔術的な感じだと思ってください。より正確には無属性魔術は別にあるんですが……この際無視です!」
「お、おう」
「錬金術は、アイテムを合成したり、作成したりできる、生産職の良いとこ取りみたいなスキルです。ただ、やっぱり個々は本職に任せた方が良いものが出来るので、専門の人に頼んだ方が良いときもあります。
とは言え、メンテナンスや下級ポーションの自作が出来ますし、なにより本職の物と比べて圧倒的に作業終了が早いので、緊急時には凄く重宝すると思います」
ふむふむ。
「因みに錬金術はホムンクルスの製造が可能になります。EXランクの錬金術は『賢者の石』の製作できるんですよ! あ、スキルランクは反復使用やスキルポイント割り振りなどによって、位階アップの時に強化されることがあるので、頑張ってくださいねー」
ホムンクルスかー。従順なメイド……合法ロリ……理想の女の子……くそぅ、夢が広がるな。奴隷メイドだけでいい気もするけども。賢者の石も魅力的だ。不老不死。
何にせよ、素晴らしい事は代わりない。
所で。
「このカッコの中に『アゾット剣』って書いてあるのは何なんだ?」
「あ、それはプラス補正ですね。スキルランクにプラスが付いている場合、対象の動作を行うときだけそのプラス分の補正がかかります。ヨツバさんの場合は、アゾット剣を錬金術で作るときだけ、Aランク以上の力が発揮できる、というわけですよ」
「ほほーう」
それは良い。
苦節25年。14歳のあの日から、延々とアゾット剣のレプリカを作り続けてきた甲斐があると言うものだ。
「アゾット剣は元素魔術をサポートしてくれるんだよな?」
「よくご存じですね。そうですよ。因みに色彩の三元素以外にも、白属性魔術や特種魔術、回復魔術に、更には種族固有魔術までサポートしてくれる、一種の『ホウキ』ですね」
思った以上に便利だった。というかそんなにあるのか魔術。
「はい! 因みに『向こう』でな、魔術の枠を越えた『超魔術』的な存在のことを『魔法』と言います。アレ持ってる人は真性のチートですねー。国宝級です」
うわぉ。魔術の世界は奥が深いなぁ。というか俺には無いのね魔法。ちょっと残念。
「いえ、後述のステ振り次第によっては習得できますよ?」
チートだった。やっぱり最強のチートはメニューウィンドウだったのだなぁ。
俺が染々と感じていると、幼女神はその真紅の瞳を細めて微笑んだ。
「最後は『エインフェリアの証』です。このスキルは、Aランクの『鑑定』、『詠唱省略』、『HP回復補正』、『MP回復補正』、『獲得経験値増加』などを始めとする全12のスキルの効果を融合させたワンオフスキルです。ヨツバさんだけが保有しています。昔、同じような使命を受けて別の世界に飛んだエインフェリアの方々も居ますけど、世界ごとに効果が違いますからね。それと、このスキルの効果で、向こうの言葉を話したり聞いたりできます。読み書きだけは自分で習得していただかなくてはなりませんが……」
「いや、それだけでも助かる」
なるほど、こいつぁ便利だ。特に鑑定があるのは嬉しい。見知らぬ世界で何が何だか分からないと困るからな。
「スキルポイントは、レベルアップやダンジョン攻略などで手に入れることが出来ます。それと、特別な神殿で課金をすることでも手に入りますよ」
課金要素あるのかよ。
「因みに割り振り対象は隣に括弧が付いているステータスです。注意してくださいね。上限値は999です。
あ、スキルポイントを割り振ることで、新しいスキルの取得も出来ますよ。向こうについたら試してみてください」
なるほど。ここから更なる強化も出来るわけだ。さっきから夢が広がりまくって留まるところを知らない。
「それから、獲得したスキルはリセットして、スキルポイントに変換することもできますよ。色々試してくださいねー」
自由度が高いなぁ。
「さて、以上で私からの説明は終わりです。より詳しいことは、使っていくうちに慣れていってください。どうしても分からない事がある場合はヘルプを開いてくださいねー」
「分かった」
いよいよか。
俺の異世界での生活が、始まろうとしている。
「ではでは、剣と魔導の世界へ、いってらっしゃーい!」
幼女神が満面の笑みと共にその小さな手を振るという、愛らしすぎて死に直してしまいそうになる光景を目に焼き付けながら。
俺の意識は、暗転した。
この作品は不定期更新です。書き貯めてある第五話以降の投稿は、作者のテンションに左右され、特に理由も計画もなく長期間更新停止する可能性があります。
感想・ご指摘等ありましたらよろしくお願いします。批判に関しては、ストーリーに大きな不具合がない限り、可能な範囲で対応させていただきたいと思います。
次話の投稿は明日18時の予定です。よろしくお願いします。