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プロローグ

 淡いダンジョン・クリスタルの光に照らされて、『神話級迷宮(テオス・ダンジョン)』第60層は、神秘的かつ幻想的な雰囲気を纏っていた。ここがこのダンジョンの最前線(最深奥)──命の危険と常に隣り合わせの場所だというのが、少し信じられないくらいに。


 しかしいつ見てもすげえな、ダンジョンっていうのは。よくこんな風景を産み出せるものだよ。何か人の手がかかってるんじゃないかと思ってしまうほどだ。


「神話級ですから……やはり、神々の造形美は反映されているのでしょうか」


 俺のすぐ後ろに控える、白い髪に赤い瞳の少女──シエルが、俺の内心を知ってか知らずか、そんな事を口にした。


「ん……あり得ない話じゃ、ない」


 それを受けて、また別の少女が答える。黄金の生糸の様な髪を靡かせ、白と黒の装備に身を包んだ彼女──シャーロットが返したその言葉に、俺もまた頷く。


造形の神様(ダイダロス)、なんてのもいるしな。本当の事なのかもしれないな」


 俺たちが口々に感想を言い合っていると、


「団欒の最中、申し訳ないのですが──ご主人様、参りました」


 今まで静かに控えていた、黒色の髪の少女が、アメジストの様な深いヴァイオレットの瞳を細め、俺たちに警鐘をならした。その頭に生える一対の感覚器官──"犬耳"がピコピコと動く。可愛い。


 彼女の指し示す先を見れば、なるほど、丁度そこに光が集まり、巨大な何かが形成されようとしていた。モンスターの誕生だ。


「サンキュー、ラティファ」

「いえ」


 俺は彼女──ラティファにそう告げると、腰のバックルに装填された鉱石を一つ手に取り、呟くように詠唱。


「錬成:アゾット剣」


 俺のイメージに答えて、白銀の鉱石は流麗な小振りの片手剣に変貌する。その柄のポメルに開いた穴に、さらにバックルから抜き出した緑色の宝石を嵌めると、俺は宣言した。


「さぁ、始めようか」


 ほぼ同時に──


「ゴォォァァアアアッッッ!!!」


 巨大なシルエットが、産み出された。


 それは獣だ。鋼の肌に覆われた、二足歩行の巨獣。Lv112モンスター、『グレーター・ジェノサイド・ビースト』。第30層で争った最強クラスのモンスターが、ここでは一般のモンスターとして出現する。

 大層苦戦させられたかつての事を思いだした俺の背中に、少しだけ嫌な汗が流れる。


 いや、マジヤベーって。あんなかっこつけた戦闘開始宣言したけど正直な話動ける気がしない。


「大丈夫」


 そんな俺を励ますように。

 シャーロットが、その腰から黒銀と白銀、二振りのロングソードを抜刀する。


 ──双剣の騎士姫。

 出会った頃は冷たさで染まっていたその青い瞳に、今は確かな優しさと、慈愛を込めて。


「ああ──いくぞ!」

「「「了解!」」」


 神速をもって、少女達が駆ける。


 一瞬にしてシャーロットの姿がぶれた。次の瞬間には、鋼の獣の真正面に彼女が出現している。


「……!」


 無音の気合いと共に、その刃が振るわれる。しゃりぃぃぃぃん!!! という軽やかな音をたて、黒と白の双剣がグレーター・ジェノサイド・ビーストの体表を、いとも簡単に切り裂いた。X字に咲いた傷口から、どす黒い鮮血が噴き出した。


「ガォァアアァァァァッ!?!?」


 自分の自慢のからだが、あっさりと斬られた事に驚愕したか、鋼の獣は絶叫する。その豪腕を振り上げて、シャーロットを粉砕しようとした。


 しかしそれは赦さない。赦されない。


「させません」


 シャーロットとGジェノサイドの腕の間に、巨大な盾を装備したシエルが立ちはだかる。


 爆音。激突の衝撃波がここまで飛んでくる。しかし、シエルの盾は、全くの無傷。シエルもまた、その表情を含めて一切の変化はない。


 ぎりり、ぎりりと、盾を押し込もうと格闘するGジェノサイド。しかし、シエルの……『賢者の石』をやどした、俺謹製ホムンクルスの揚力は、もはや奴など敵ではない。


「ふっ……」


 シエルとの攻防に夢中になっているGジェノサイドの背後に、漆黒の影。もちろんラティファだ。その手に握られた黒い短剣が、じしゅり、という不気味な音をたててモンスターの首を切り裂いた。


「ギィィィィッ!!!?」


 仰け反るグレーター・ジェノサイド・ビースト。そしてそれは、大きな隙となる。


「ご主人様!」


 シエルが叫んだ。もちろん、俺もこんな好機を逃すわけがない。というより、全てこれを決めるために、彼女達が用意してくれた画板ステージ……!


「『C0』『M6』『Y5』──『W68/100』」


 混ざりあっていく。

 俺の手から産み出された赤、青、黄、白……四色の光が、新たな色を形成する。


「──塗り潰せッ、『消炭』──燃え尽きろ‼」


 それは、少しだけ赤に近い、灰色。その色はまるで、爆炎の後に残る灰のようで──


「ギガァアアァァァァッッッ!!!!」


 『消炭色』の光を受けたグレーター・ジェノサイド・ビーストは、黒い炎にその体を多い尽くされ、焼失した。呆気ない、と言えば呆気ない。けれどかつて、この『色』で奴を倒せなかった俺からすれば、これは十二分な成果。


「よっ、しゃ……!」


 一人、拳を握り締める。我ながら、なんとも子供じみた感動だとは思う。でも、それだけ俺には意味があった。


 そして、そんな俺の我が儘に付き合ってくれた、彼女たちへの感謝。


「おめでとうございます、ご主人様」

「やりましたね」

「シエル、ラティファ……ありがとう」


 二人のメイドの綺麗な髪を、くしゃくしゃと撫でる。シエルは嬉しそうな、ラティファは恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。くっ……可愛すぎる……。ダメだ……ここはダンジョンだぞ……!


「私は?」


 ぎゅっ、と俺の背中を抱き締めるシャーロット。こいつ……わざわざ胸当て(ブレストプレート)外しやがったな……!? 柔らかい……くそっ、ダンジョンだというのに! ダンジョンだというのに!


 しかし俺は、努めて冷静を装って例をする。


「シャーロットも、ありがとう」

「ん。この後ベッドで一杯可愛がってくれたら許す」


 そんな俺の内心はお見通しだとばかりに、シャーロットは答えた。


 俺はシエルとラティファを横抱きにし、そしてシャーロットをおぶったまま、全速でポータルに向かった。そのまま自宅へ直行する腹積もりである。



 これが俺の、今の日常。

 17389526664号エインフェリアとして、避けられぬ死から甦り──そして異世界に生きる俺の、毎日。

 この作品は見切り発車です。その為、後々変更が多々入る可能性が高いです。ご了承ください。


 次話は20時投稿予定です。

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