魔法学会からの試験
時計台の鐘が卒業生を祝うかのように鳴り響く。毎年恒例の学校最大のイベントであり、本日で卒業を迎える生徒にとっては一人前の魔法使いと認めてもらえるスタートラインだ。
本日はアルテス魔法学校の卒業式。
アルテス魔法学校の卒業式は、全校生徒ではなく卒業生のみが集まり、あまり華やかで感動のイメージはない。
何故なら、学校を卒業した後で魔法学会から最大の試練があるからだ。
これを乗り越えなければ魔法界では一人前の魔法使いとしての扱いを受けられず、就職は困難になってしまい、最悪人間界で働くことになってしまう。魔法界にとって、それは屈辱以外の何者でもない。
いま校内に響くダニエル校長の有難い言葉が頭に入る卒業生はあまりいない。アルコラッタもその一人だ。
「では、そろそろ本題に入ろうかの。卒業生諸君らも既に知っておると思うが、魔法学会からの試験についてである」
ゴクリ、とアルコラッタは唾を飲んだ。
魔法学会の試験は数ある魔法学校の中でも上位魔法学校にのみ与えられる。試験内容は毎回違い、それらはどれも困難を極める。だが、アルコラッタは過去の試験内容を自分なりに分析し、その結果どの試験にもある共通点を見つけていた。
昨年の試験は、魔法界と人間界の関係性を調査し、独自の方法で両界の関係性を修復する事。
一昨年の試験は、人間界に不定期移住し、周囲の人間からどれだけの信頼を獲得できるかという事。
その前の年もそれ以前も、人間界に関係する試験内容だった。
つまり、今回もそうである可能性が非常に高い。
「まず、諸君らには人間界に移動してもらう。そしてーーーー
選ばれた人間を幸せにしてもらおうかの」
ほっほっほっ、とダニエル校長が笑う。しかし、卒業生で笑う者は誰一人としていなかった。