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人里を離れた山の中に、一際強大な魔力の塊があった。それは何も、強力な魔力を誇る魔術師や魔物がいるという事だけが理由ではない。そこに集まっている魔力を有する者の数が、異常なまでに多いのだ。
視界の奥にそびえる、魑魅魍魎の魔物達がひしめいているかの如く異様な妖気を放つ建物――ラシタンコーク神学校東アジア校の校舎こそが、彼らが目指す場所だ。
「流石にトンデモない魔力だなぁ。全校生徒は何人くらいだっけ?」
黒いマントをはためかせ、細身の男が隣に立つ男に訊ねる。
蛇を思わせる不気味な眼がぎょろりと動き、長身の同業者を見上げた。魔術に関わりを持つ者を含め、大抵の者はこのい眼光に萎縮させられるだろう。しかし、この男は慣れているのか、まるで動じる風もない。
「1クラス約40人で、1学年6クラスの3年制だから……単純計算で720人か。それに加えて、教師やそれ以外の職員もいるな」
聞かれた長身の男が、記憶を頼りに答える。
「おぉぅ、それは怖い。新入生はともかく、教師とか優等生とかには見付かりたくないな」
肩を竦めて、細身の男は言った。畏怖を露にした言葉とは裏腹に、その表情には一片の恐怖も見受けられない。
「それなら、始めからこんな仕事は請け負わなければよかっただろう? そういった判断も出来なきゃ、プロ失格だ」
「ははは、そりゃそうだ。まあ、せいぜいコソコソ逃げ隠れするか」
そう言って陰惨な笑みを浮かべ、男は目的地を見据えた。
ラシタンコーク神学校。恐らく、全世界に12ヶ所存在する校舎のいずれかに、彼らが探しているものがある。
正確には、彼らの雇い主が探しているものが。
そのうちの1つ、東アジア校には、今まさに彼らが向かっている。他の11ヶ所にも、同じように差し向けられた者達がいるのだろう。
彼らは気配を殺して歩き、森の中の暗闇に消えて行った。