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ファミリア・クロニクル  作者: 腐滅
the 2nd step 「自由と覚悟」
16/146

2-4

「……ちょっと、言い過ぎちゃったかな」

「……最後のあたりは、流石に、私も反省してる」

 由紀も彩香も、相馬があれほど怒るとは想像していなかった。人数の減った部屋に沈黙が訪れる。

 その沈黙を破ったのは、それまで3人の会話には加わらず、彼らの話を聞きながら1人で本を読んでいた瑠依だった。

「加減ってものを知りなさいよ、2人共。仮にも恩人なんだし」

 本から顔を上げ、瑠依は言った。

「……ごめん」

「私じゃなくて、相馬にでしょ? いくら友達だからって、調子に乗っていじめ過ぎよ」

「うぅ……」

 流石に反省しているのか、由紀も彩香も萎れたように縮こまってしまった。

 やがて、彩香が顔を上げて訊ねる。

「それはそうと、瑠依。ずっと本読んでいたみたいだけど、何読んでたの?」

「そうそう、わたしも気になってた。自分だけ『私はただの傍観者に過ぎない』っていう態度は、ちょっとどうかと思うぞ? 友達として、さ」

 2人に詰め寄られ、瑠依は思案するような顔をして答える。

「……そうね。いじめを止めずに見ていたら、その時点で共犯者だって言うしね」

「いじめ前提デスカ」

 瑠依の冷たい一言に、彩香はぎこちない笑顔を硬直させて返答した。由紀はといえば、何やら神妙な表情を作っている。

「……『私はただの共犯者にすぎない』」

「いや、訳分かんないから」

 由紀の呟きに対して、瑠依は無言で受け流し、彩香は思ったままの簡素な感想を返した。

「リアクションを取った時点で負けよ、彩香」

 由紀との付き合いの浅い彩香に、瑠依は冷静にアドバイスをする。由紀とは出会ったばかりの短い彩香とは違い、瑠依も伊達に由紀と1年間付き合ってはいない。対応の面倒な発言を無視する手筈については既に熟知し、こうして身に付いている。

「酷いっ! 瑠依ちゃんは私をいじめる気かぁ!?」

「どの口が言うのよ。……ま、私も他人の事をとやかく言えないけどさ」

「そーだよ彩香ちゃん。わたしたち、共犯者だもんね」

「少しは反省してる素振りを見せてみたらどうなのよ、あんた……」

 2人のやり取りを見て、瑠依はいかにも呆れたというように嘆息した。

「……全く。楽しいからって、あなた達は相馬をいじめ過ぎよ。彼も一応、おもちゃではないんだから」

「人権が保障されてるもんね」

「一応って……瑠依もさりげなく酷い事言うじゃん?」

 言われて初めて気が付いたような顔で、瑠依は自分の非を認める。

「……失言だったわ」

「瑠依ちゃん酷い。鬼畜」

「黙りなさい外道。アウモデウスの毒でのたうち回るのと、マンモンに(はらわた)を喰い散らかされるの、どっちがいい?」

「すんませんでした」

 マイペースという言葉は、由紀の性格を端的に表現する為にあるのかもしれない。疲労が押し寄せて来るのを感じ、彩香は溜め息を吐く。

「あんた、よくそんなテンションで疲れないね」

「ふえ?」

「……いや、やっぱいいわ。それより瑠依、それ何の本?」

「そうそう、それ! 話が脱線し過ぎ! これが電車だったら大惨事だよ!?」

 由紀の感想には一切の反応を示さず、瑠依は手にしている本を起こし、その表紙を2人に見せた。


「――魔術の歴史、近代から現代まで」

 簡潔に内容を要約し、瑠依は本を半回転させて裏返した。それまで本の表紙を眺めていた由紀と彩香の目に、瑠依が先程まで読んでいた見開きのページが映る。

「……この剣、どっかで見たような……?」

 そこに載っていた一振りの剣の挿絵を見て、彩香が呟く。

「歴史の教科書とかで見たんじゃない?」

 その可能性もあるが、瑠依が言いたいのはそういう事ではなかった。この中でそれを最も間近で見たはずの由紀に対し、瑠依は呆れたように嘆息する。

「あなた、あの時一体どこを見ていたの?」

「あの時って?」

 どうやら、由紀には心当たりがないらしい。本来であればトラウマものであったろうに、もう死の淵を覗き込んだ時の事を忘れたのだろうか。

 あるいは、間近で見た物を忘れてしまう程、あの時は余裕が無かったのだろうか。だとすれば、この剣について思い当たる事がないというのも頷ける。むしろ、その方が自然だろう。

「昨日、あなたが蜘蛛に捕まって、黒い影にリンチされそうになった時よ」

 何でもない事のように言って、瑠依は由紀を真っ直ぐに見詰める。その目には尋問するような色はなく、むしろ由紀の鈍さを哀れむかのような色が含まれていた。

「どこをって――……あ!」

「どうしたの?」

 何かに気が付いたらしい由紀に、彩香は疑問の目を向ける。

「この剣、昨日相馬くんが使っていたのとそっくりだ」

「どれどれ? ……ホントだ。言われてみれば確かに、こんな剣だった気がする」

「えっと、『レオ・ハイキョウサ』……? どっかで聞いた名前だなぁ」

 呑気な感想を漏らす由紀に対し、彩香と瑠依はそれぞれの感想を返した。

「いやいや、レオくらい知っときなさいよ。100年くらい前に、随分長い事続いた戦争を終わらせた英雄の1人、って事で有名じゃん?」

「あなたは講義の時間、一体何を聞いていたのかしら?」

 2人に詰め寄られ、由紀はやや慌てて答えた。

「わ、忘れてただけだよっ、ホントに。ド忘れしてただけで、レオくらい知ってるよ」

 無理に取り繕うとする由紀を見て愉快に思った彩香が、その顔をにやけさせながら詰め寄る。

「またまたぁ。歴史の講義で勉強した内容、見事に忘れちゃったんでしょ?」

「全然そんな事ないよ? バッチリ覚えてるよ?」

「じゃあ……レオや他の魔術師達が、100年前に一旦戦争を終わらせて、その後魔術師界がどうなったのか――知ってる?」

 居直りを決める由紀に、彩香に続いて瑠依もまた尋問に取り掛かった。むぅ、と考え込む仕草をし、由紀は黙り込む。

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