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ファミリア・クロニクル  作者: 腐滅
the 2nd step 「自由と覚悟」
15/146

2-3

 険悪になりつつあるとも、これくらいがこの2人の関係の標準(デフォルト)であるとも取れる雰囲気に、彩香は若干の戸惑いを覚えていた。

 彼女はつい先日、涜神科(とくしんか)から神学科(しんがくか)に転入して来たばかりであり、当然ながら相馬や由紀との付き合いも浅い。出会ってから、まだ3日かそこらである。

 つまり彩香は相馬に対して由紀と同様の認識を持ち始めるや否や、早くも『謎の剣を揮う超常的な力の持ち主』という認識に塗り替えられたのだと言える。自己の中に相馬の像を確立し切っていない状態で先日の事件を迎えたのだから、ある意味では、由紀よりも衝撃の程は小さかったと言えるかもしれない。

 無論、涜神科の首席卒業生や教員もかくやという魔術を神学科の同期生に見せ付けられたのには、驚きを禁じ得なかった。とはいえ、それは彩香だけに限った話ではないが。

「てかさ、相馬はなんでその剣とか力とか隠していた訳? それなら留年の心配もないじゃん?」

 いかにも解せないといった様子で、彩香は相馬に尋ねる。その横に並ぶ由紀も、心底不思議そうな表情だ。

「確かに。模擬戦とか、個人でもチームでも勝てるよね。っていうより、チームの他のメンバーいらないじゃん。多勢に無勢でも楽勝でしょ? まさに『無双』ってヤツじゃん」

 由紀の言う事も一理ある。他の生徒達はやられないように防戦に徹する事が精一杯だった黒い影を、相馬はいとも簡単に薙ぎ倒したのだ。中々増援が来なかった事を鑑みれば、教師達も校舎に出現した黒い影の対処に追われていた事が窺える。

 加えて、神学科でもとりわけ優秀な生徒として通っている咬丹(かむに)瑠依(るえ)の切り札である“サタン”を超える蜘蛛のモンスターを消滅させたのもまた、他でもない相馬だ。それも、まるでそれが造作もない事であるかのように。

 つまり相馬は、先日あれだけの戦果を挙げておきながら、まだ全力を出してはいない。その事については、傍目にも十分に窺える。

 それを誇る事もなく、相馬は目を伏せて嘆息した。

「考えても見ろよ。お前らだって、こんな力を手に入れたら、それを隠そうとするだろ?」

 相馬の問いに、2人の少女は一点の曇りも無い表情でかぶりを振った。

「またまたご冗談を。どう考えたらそうなるのさ」

「みんなに見せびらかして自慢するね。そんで成績もSを貰う」

 実際に体験した相馬には、2人の回答は楽観的過ぎるものとしか思えなかった。見解の相違に嘆息し、相馬は些かながら険しい顔で少女達の質問に応じる。

「自慢なんかしたら最悪だろ。絶対友達なくすよ。成績良くて、それで危険で優秀な人しか就けない魔術師の仕事に就いたとしても、なんか……こう……」

「ある日偶然手に入れた力だから、自分自身がそれに見合う魔術師になりきれていないっている事?」

 言い淀む相馬を見て、彼の言わんとする事を察した由紀がその先を言い当てた。完璧な答えではないにせよ、概ね正しいと言えるだろう。相馬は由紀の推測を肯定する。

「そう、それ。大体そんな感じ」

「悲観的に考え過ぎじゃない? 強くなったら離れていく人もいるだろうけど、酔って来る人だっているでしょ? それに、就職だってまだ先の事だし。在学中に、拾った実力に見合うだけの精神に鍛え上げろ、っていう話でしょ? 努力するところが変わっただけじゃん」

 相馬の考えを聞いても、まだ合点がいかないといった様子で彩香が尋ねた。

 そんな2人を他所に、由紀はさも知った風な顔でにやつき始めた。何か思い当たるところでもあったか、何かしらの予想を立てたのだろう。それが些か滑稽に感じたとのだとすれば、このような表情も納得出来る。

 無論、その内情を知れば、自分がからかわれているも同然であると知った相馬は納得しないだろうが。

「……ははーん。なるほど」

 彩香の指摘を受けてすぐに反応を示したのは、相馬ではなく由紀の方だった。

「相馬くん、内面的に強くなれそうにない、って思っているんでしょ? 心を強く持てるようにする為の努力が怖いなんて、それこそ心が弱い証拠だよ」

 彩香に続いて由紀にも指摘され、相馬は憤慨して言い返す。

「何言ってんだよ、お前ら! 他人事だからそんな事が言えるんだろうが!」

 急に熱くなった相馬の様子に、2人は当惑する。

「感情的になるって事は、どうやら図星のようだね」

 更に重ねられる由紀の言葉が、相馬の焦点を、彼が最も逸らしていたかったものに向けさせる。

「逃げたでしょ、相馬くん?」

 その一言が、相馬の心に深く突き刺さる。

「うるせぇよ! 他人の気も知らないで!」

 声を荒げて叫ぶと、相馬は不機嫌そうに部屋を出て行った。

 由紀も彩香も、獲物を逃がした悔しさのような顔は見せず、自分の失態を恥じるような顔をしていた。

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