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ファミリア・クロニクル  作者: 腐滅
the 12th step 「紅蓮の空」
141/146

12-9

 斬って、斬って、斬り続けた。相馬の握る白銀の剣は、その刀身を斬り伏せた者の血で赤く染められていた。相馬自身もまた体にいくらかの返り血を浴び、狂乱の中でひたすら剣を振り回し続けていた。

 その姿は、最早英雄のそれではない。むしろ、悪魔にさえ近い。


 後から後から、連合を離反した魔術師や、彼らに随伴して来た犯罪者達が押し寄せる。既に相当の量が生産されたのだろうか、その中には『骸縛霊装(シャーマン・クロス)』を装備した者までいる。

 レオの剣だけではなく遺灰まで手に入れた相馬であるが、敵は質の面からも量の面からも凄まじい。今の相馬にとってすら、僅かな油断が命取りになる相手だ。1対1での戦いならまだしも、『骸縛霊装(シャーマン・クロス)』を装備した実力者に人海戦術を使われては、こちらがやられないようにするので精一杯だ。

 既に何人を斬り倒したか、相馬は数えてはいない。だが、敵はまだ相当の数が居るようだ。

 たとえ相馬個人には恨みがなくとも、抹殺対象も同然に認識しているのは事実だ。レオの遺品を持っているというだけでここまでするのかと、相馬は激しい怒りを覚える。こういう者がいるから争いは無くならないのだと、まさに邪悪そのものを見るような目で敵を見据える。


「うらあぁぁぁぁぁァ!!」

 相馬は刀身に魔力を溜め、力任せに爆散させた。

 出鱈目な爆撃ではあるが、隙を作るには十分だ。相馬は渾身の力による一閃の直後、すぐ近くにいた魔術師の目の前まで一瞬で飛び込み、袈裟懸けに斬り付けた。盛大に血飛沫を上げ、斬られた魔術師は糸の切れた人形のように倒れ込む。


 それでもまだ、敵は大勢残っている。

 この場で直接相馬と戦っている魔術師だけでも、まだ9人もいる。校舎内のあらゆる場所から魔術戦の気配が伝わって来るあたり、どうやら他にもまだ敵がいるようだ。恐らく、教師や職員の妨害を受け、相馬の下まで辿り着けずにいるのだろう。

 その中には、由紀や瑠依のものと思しき魔力まであった。彩香が命を落とした時も、このような状況だったのだろう。一刻も早く敵を殲滅しなければ、彼女達まで危うくなる。相馬としても、これ以上友人を亡くしたくはなかった。

 校舎への侵入者の迎撃と生徒の保護は、確かに職員達の仕事のひとつだ。とはいえ、こうも敵の数が多く、そして1人1人がここまで強いともなれば、その職務を全うし切れずに殉じる者も多いだろう。

 果たして相馬の持つ力を巡って、この日だけで一体何人が命を落とすのだろうか。


 一瞬、暗澹とした考えが頭を過ったが、相馬は直ぐにそれを意識の外に締め出した。余計な事を考えている余裕は無い。今は、目の前の敵を全て倒すのみ。他の事を考えるのは、目の前の事が終わってからだ。

 再び相馬は剣を振るう。蒼然と輝く魔力が刀身から解き放たれ、斬撃の軌跡が爆発する。

 間合いを読み違えた魔術師は、蒼い激流に呑まれてその身を両断された。また1つの命が、100年前の英雄の遺した剣に屠られて散った。


 だが、相手側の士気が落ちた様子は無い。圧倒的な力を前にしても、怯む事無く猛然と襲い掛かって来る。この分だと、少なくとも敵の数を半分程度まで減らすまでは、敵が怯んで士気が下がるという事は無さそうだ。

(上等だ……! 全員ぶった斬ってやる!)

 もとより相馬は、こうなった以上は敵兵力の全てを殲滅するくらいのつもりでいた。相手側に撤退する気配が見られないからといって、今更何を感じるでもない。どのみち、敵を全て倒し切るまでは、戦いが終わる事はないのだから。

 既に迷いは無い。残る敵は8人。そしてこの8人を倒し切った先にも、他の場所で学校の職員達と戦っている魔術師達が待っている。勝利までの道程は長い。誰の為にも、今は一刻も早く目の前の敵を殲滅する事が先決だ。


 上下左右から無数の魔弾が迫る。瞬時の判断で相馬は飛び退き、それらを全て躱した。

 立ち籠る爆炎と土煙に視界を塞がれる。知覚強化に長けた生徒の魔力は、つい先程捨ててしまった。より攻撃に特化する為に、斃した敵の死体から雷属性の魔力をコピーして上書きしたからだ。今更ながら、鋭敏な知覚を用済みだと判断した事が悔やまれる。

 しかし、そんなものは些細な事だ。敵の姿が見えないならば、見えるところまで移動するか、死角からの攻撃を喰らわないように距離を取ればいい。幸い、今は雷を用いた遠隔攻撃の術を持っている。捨てた能力を悔やむよりも、今持っている能力を活かす事を考えるべきだ。

 相馬はろくに狙いも定めず、煙の向こう側にひたすら落雷を迸らせた。敵の数が多い事は、この際かえって有利に働く。敵の数が多い、あるいは敵の体が大きいという事は、要するに攻撃の的が大きいという事を意味する。出鱈目に撃ってみても、恐らく何処かには、誰かには当たる。誰に当たったとしても、何れにせよそれは倒すべき敵であるのだから気にする事はない。倒す順番が変わるだけだ。


 雷鳴が轟き、雷光が爆ぜる。煙のように舞う土埃が舞台で用いられる演出用スモークのような役割を果たし、何処か幻想的にさえ感じさせる光のアートを描き出す。

 だが、これは紛れもなく命を奪う光だ。鮮やかに煌めく閃光は、その網で(すなど)った獲物を、(もり)で突き刺したようにがっちりと捉えて離さない。獲物を絡め取る電流は毒を持った胞子のように神経を這い回り、その体から抵抗する膂力すらも奪う。

 この光が致命的なのは、それが直接獲物の命を奪うからではない。雷撃による負傷のではなく、機動力や防御力、果ては反撃の為の攻撃力すらも奪われる事こそが危険なのだ。あらゆる力を奪われた無力な獲物には、英雄の剣による一閃から逃れる術は無い。


 視界が少しばかり明瞭になると共に、電流の顎門に捕らえられた敵の姿が目に入った。

 相馬は更なる雷撃で大地を穿ち、他の魔術師の介入を未然に防いだ。爆撃のように迸る雷光がさながらカーテンのように躍って壁を作り、死闘の舞台と客席とを隔てる。誰にも邪魔される事なく、相馬はまたしても敵を1人屠った。

 これで、残るは7人。敵の数が減る度に、敵を倒す難易度が下がっていく。しかし体力や魔力の消耗を考えると、余り悠長な事は言っていられない。学校の職員達が助けてくれているとはいえ、人数ではこちらが圧倒的に不利である事に変わりは無いのだ。その上、敵の中には『骸縛霊装(シャーマン・クロス)』で武装した者もいるのだから、相馬本人を除けば単騎毎の戦力においても劣る。依然として、敵側の方が優勢であると考えた方がいい。


 接近戦は不利だと悟った7人は、一斉に蜘蛛の子を散らすように飛び退いた。そして、後退しながら遠隔攻撃を開始する。それが、相馬にとっては絶好の反撃の好機でしかないとは知らずに。

 “(ザ・)流の渦(サーキュレーション)”を発動させる際、その手順からして“(ミメーシス)複製(・オーバーラップ)”による2つ目の魔力の複製は邪魔になってしまう。相馬はコピーした雷属性の魔力を放棄し、自身の魔力に重ねる魔力をレオ・ハイキョウサの魔力のみにした。こうして、コピーの応用で彼我の性質を一致させる事によって、敵の攻撃の軌道を操作し易くなる。

 剣を持たない左手を前に突き出し、傀儡師のように魔力の奔流を手繰った。レオの魔力で基本能力を底上げされた相馬のオリジナル技、“(ザ・)流の渦(サーキュレーション)”が牙を剥く。事前の情報を持たずに対処出来るような技ではない。更に立て続けに2人、自身の放った魔術によって命を落とした。

 これで、残る敵は5人。

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