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魔術の行使を止め、唐津カデチダケは足早にその場を去った。
隠匿していた自分を発見した2人の教師を血祭りに上げた際、情けない事に、他の教師や生徒にまで見付かってしまったのだ。恐らく、地味に殺人を遂行する事があまり得意ではなかったからだろう。モンスターが地味な割には、カデチダケの戦闘は目立ってしまう。戦い方が悪いのだろうか。
そこで、仕方なく大量のモンスターで混乱を起こし、それに乗じて逃げ出そうと画策した。その際に僥倖にも、カデチダケは目当ての品を発見したのであった。
(いやぁ、最初はどうなる事かと思ったが、本当にラッキーだったなぁ。まさか、こんな簡単に見付かるとは。こういうのを、確か……親父の故郷のことわざで、『棚から牡丹餅』って言うんだったかな?)
気配を殺しながら走っていたら、足をつまずかせて転んでしまった。相当な魔力を消費した所為で、疲れているのだろうか。それとも、体から薬の成分が切れた所為だろうか。
「――やっぱり、そろそろ欲しくなる時間だったか。俺ももう駄目かな?」
そう言って、カデチダケは薬とその他の道具一式を取り出した。
脱脂綿に粉を溶かしたお湯を沁み込ませ、注射器で吸い上げる。そして袖を捲ると左腕を軽く縛り、血管を浮き上がらせた。注射器の針を、狙い違わず血管に刺す為だ。
「やっぱ、この瞬間が一番ワクワクするなぁ。へっへっへ……」
準備を整え、慣れた手付きで針を刺した。ゆっくりと液体を注入すると、僅かに純度の下がった血液が体を駆け巡る感覚に、脳が恍惚とした愉悦を覚えた。
「よぅし、スッキリ! さて、テイルニナを待たせている事だし、急がねぇと!」
カデチダケは残った薬と道具一式を仕舞い、再び森の外に向かって歩き出した。
「アレは子供が持つには過ぎた代物だからな。優しいお兄さんが、しっかり責任を持って預かってやらねぇと」
そう言って彼は陰惨な笑みを浮かべ、漆黒のマントを薄暗い密林の闇に同化させていった。
後に魔術史におけるひとつの大きな転換点となる偉業あるいは惨劇は、こうして静かに幕を開けた。
To Be Continued.