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ファミリア・クロニクル  作者: 腐滅
the 9th step 「超越」
112/146

9-12

 辺りでは、まだ幾つもの魔術戦が続いているのだろう。至る所から、戦闘の気配が伝わって来る。

 固まって腰を下ろした3人は、瓦礫を背もたれにして休憩していた。どのみち、そもそもの実力や現在の消耗の程からして、自分達が駆け付けたところで援軍にはならない。避難も粗方済み、今度は自分達が避難する番だ。

 3人は合流したその場所で一息吐いているが、そこは奇しくも、敵の魔術師の斃れた場所から程近かった。鼻を突く血臭に振り返ってみれば、やはりそこには1人の魔術師が倒れている。

「何者なのかしら、この人達……」

 倒した敵に徐に手を伸ばし、衣服のポケットを漁る瑠依。やがて彼女は、1枚のカードを見付けた。血に汚れて何が書いてあったのか分からない箇所もあるが、文字を読める箇所もある。どうやらこれは、身分証明書のような物のようだ。

 そこに書かれた英語を読み取り、瑠依は驚愕する。

「『魔術師連合イギリス支部所属、マガイア・タリナタ』……! 何よこの人、連合の人じゃない。テロ組織のメンバーが、連合の中に混じっていたの?」

 写真の半分は血で塗り潰されているが、大凡の判別は出来た。確かにこの顔は、今まで戦っていた魔術師と一致する。彼が正規の構成員ではなく、この証明書も偽造である可能性もあるが、どのみち連合に潜入していた事は確かなようだ。

「何それ? かなりヤバくない?」

 彩香もまた、明らかに動揺していた。これ程の騒ぎを起こした以上、そう小規模な組織ではないのだろうと思っていたが、まさか連合に諜報員を送り込めるような組織だとまでは思っていなかった。


 3人が互いに驚愕の視線を交わしていると、新たな声が3人の少女の耳を打った。聞き覚えのある、少年の声。3人は声のした方向を振り返る。

「みんな、無事だったか。――ああ、咬丹も合流してたんだ。よかった」

 疲れを見せながらも、駆け寄って来た相馬に、それほど憔悴した様子は無い。戦いの後に一息入れ、既に次の戦いの準備を終えたような雰囲気だ。

「相馬くん、尚睦を倒したんだ」

「ああ。左目の借り、ちゃんと返して来たぜ」

 微笑を湛えた由紀の問いに、相馬は力強く返答した。由紀の微笑は相馬の無事に安堵してのものだったのだが、どうやら相馬は、自分が心配されていたという自覚が足りないようだった。

 ふと、一際大きな爆音が鳴り響いた。今もそう遠くない場所で繰り広げられているのだろう、熾烈極まる魔術戦の様子が伝わって来る。

 まだ戦いが終わっていないという事は、つまり戦力が必要とされているという事だ。由紀の表情は不安を帯びたものに、相馬の表情は引き締まったものになった。

 相馬は意を決した表情で、しかし手先はやや遠慮がちに、瑠依の腕に軽く手を添えた。

「悪い、咬丹。とんぼ返りみたいで悪いけど……お前のモンスター、ちょっと借りるぞ」

 瑠依の答えを聞き終えるより先に、相馬は瑠依の腕に触れた掌から魔力の情報を読み取り、その特性を模倣した。

「別に構わないけど……相馬、まだ戦う気? 無茶はよくないわよ?」

 身を案じてくれている瑠依の言葉を振り切ると、相馬は立ち上がった。

「大丈夫。俺はまだ戦える。――それに、早くこの戦いを終わらせないと、犠牲者がどんどん増えて行くだけだ」

 瑠依達に向き直り、相馬は自分の確たる意志を告げる。

「先生や連合の人達だってそうだ。敵の武装は普通じゃない。戦力は1人でも多い方がいい。それに、これがレオの剣を棄てないって決めた――俺の責任だから」

 そう言って相馬はを返すと、“(ミメーシス)複製(・オーバーラップ)”によって得た瑠依の魔術を発動させた。編み込まれた魔力が歪な生き物の形を成し、鷲の頭とライオンの胴体を持った有翼の幻獣が姿を現す。

「相馬くんの責任って、そこまで大きくはないような気もするけど?」

 不安に眉をしかめながら、由紀は問う。

 力を持った者は、それによる自由を手に入れた分だけ、責任や義務に束縛される。それはかつて、相馬と由紀が話した事だ。その事を相馬は頭に留め置いているようだが、導き出した答えは自分とはやや異なっているように、由紀は感じた。

 爪先はそのままに顔だけを振り返らせ、相馬は由紀の目に視線を返した。

「それもそうかもしれないけど……でも、何かあってからじゃあ遅いんだ。出来る事がひとつでもあるなら、全力でそれをやらないと……」

 相馬には、最早こうした問答をしている時間さえ惜しかった。こうしている間にも、自分の知っている人達が命を落としているかもしれない。自分が戦場に向かえば、彼らを助けられるかもしれない。

 確たる根拠は無いが、否定するに足る根拠もまた無い。

 だが、可能性はある。それだけで、覚悟を決めるには十分だ。

「――もう、後悔だけはしたくない」

 それ以上の言葉を残さず、相馬はグリフォン型モンスター“ルシファー”の背に跨った。大きく広げられた1対の翼が風を打ち、獅子の足が地を蹴る。

 英雄の剣を手に、少年は幻獣の背に乗って次なる戦場へと飛び立った。

 空に浮かぶ相馬後ろ姿が、次第に小さくなっていく。その影を、由紀は不安を湛えた瞳で見送った。


To Be Continued.

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