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ファミリア・クロニクル  作者: 腐滅
the 9th step 「超越」
101/146

9-1

 魔術師界には、魔術師連合なる組織が存在する。その主な役目は国や地域ごとに魔術師の規範を監督する事であり、それ故に実質的に魔術師を統括している組織でもある。

 大き過ぎる力は均衡を崩す為、魔術を人間の社会に持ち込んではならない。魔力を持つ者と持たざる者との間に深刻な溝を作らない為には、力を持つ者こそがその力の使用を控え、たとえ過失であっても、力を持たない者を虐げるような事があってはならない。それは魔力を持たない人間以上に、魔術師達こそが強く願っていた事でもあった。

 魔力の有無やその強さは、一重に血縁だけによって定まるのではない。

 遺伝子が全てを決めているのであれば、まだ救いもあったというものだろう。だが、他のあらゆる才能と同じように、そこには天運もまた介在していた。何処にどれ程の魔力を持った子どもが生まれるか、それはある程度は予測が可能であるものの、当然ながら全てを掌握する事は不可能だった。

 魔術師の名門たる家系にも魔力をほとんど持たない者は生まれたり、逆に、魔術とは縁の無い環境に生まれたはずの者が強力な魔力を持っていたりする事がある。それらはどちらの場合も、同様に悲劇の幕開けだった。

 力を持たずに周囲に埋もれた者は、当然ながら周囲からその非力を蔑まれる。家族や親族にそういった意思が無くとも、その者自身が劣等感と付き合い続けなければならない事に変わりは無い。

 そして、逆もまた然り。魔力を持たない人間に囲まれて生まれ育った人間が、大なり小なりその身に魔力を宿している場合もある。隠れていた魔術の才能が白日の下に晒された時、その者は周囲の力を持たない者達から疎外される。魔力を持たない事が当然の環境では、魔力それ自体が異端の象徴となる。

 それは何も、宗教的な意味での異端ではない。自分とは決定的に異なる存在だという認識と、自分は相手に絶対に敵わないという劣等感や恐怖。それが魔力を異端足らしめるのだ。

 それと同様に、魔力に満ち溢れた環境では、魔術の才に乏しい事こそが異端ないし欠陥となる。

 とどのつまり、周囲と違うという唯それだけの事実が、多くの悲劇の源泉となって来たのだ。

 その教訓を活かし、両者の溝を払拭するべく、魔術師連合は結成された。言わば、魔力を持たない大多数の人間を中心に構成される社会から一歩退かねばならない、そんな魔術師達の自治組織である。

 当初こそ連合(ギルド)として集団の形成とアウトロー達の統括を目的に結成された魔術師連合だったが、結果として連合は、魔術を濫用した者を処罰する断罪者としての機能が最も大きなものとなった。

 魔力の有無や優劣が最も大きな影響を及ぼすのは、命の奪い合いである。どんな体術や武器、科学技術を用いようとも、魔術の前には他の暴力はどれもひれ伏すしかなかった。体躯や経験の差などでは、魔術の優劣はともかく魔力の有無は埋める事が出来ない。個人の司る暴力の形としては、それ以上無い強力なものだった。

 故に、魔術師による犯罪や紛争に対抗し得るのは、同じ魔術師のみであった。その為、同等の暴力によって秩序を維持する魔術師の組織は、もとより必要不可欠だったのだ。規範や秩序を重んじる連合がそういった組織へと実態を変えていったのは、当然の成り行きと言えよう。

 それだけ力の差が歴然だからこそ、両者の間に溝が生まれないはずもなかった。力を持つ者は持たざる者を蔑み、持たざる者は力を持つ者を怖れ、妬む。対等な立場での交流などは望むべくもなかった。ひとつの国の中にふたつの社会が連立する事になるのは、時間の問題だった。

 政治や宗教、あるいは企業活動といったものに魔術を持ち込む事で、魔力の有無に関わる問題は浮き彫りになる。秩序を重んじる魔術師が支配欲に突き動かされた魔術師を止める為の努力を続けていなければ、今頃魔術師が魔力を持たない人間を隷属させる社会が出来上がっていたとしてもおかしくはない。そうならなかったのは、ひとえに連合の努力の賜物だろう。

 事態の深刻化を避ける為には、魔術師に掟を徹底させる他はなかった。その為に必要となるのは、規範を監督して違反者を裁く機関と、未来を担う若い魔術師に規範意識を持たせる為の教育である。

 かくして、数ある魔術師訓練施設は連合によって統合され、ラシタンコーク神学校なる巨大な教育組織が設立された。


 リオギノ・シウイセ率いる今回のテロリズムに備え、魔術師連合は国の代表クラスの実力者を1人ずつ、主戦場になる可能性の高い地域に派遣する事にしていた。

 特に東アジア校周辺の地域に関しては、既に数回に渡って戦闘が行われていた為、今後も戦闘の起きる可能性が極めて高いと判断されていた。

 加えて、その校舎には、テログループが探し求めていると思われる物品を所有する生徒が在籍している。敵の動きを予測するにしても、不本意ながら戦力として宛てにするにしても、その生徒の存在は極めて大きいと考えざるを得なかった。

 その問題の生徒は日本人であった為、比較的彼とコンタクトを取り易いと考えられる人物を、連合は東アジア校に派遣する事にした。

 その生徒と既知の人物こそいないが、同じ言語を話す者、同じ国籍の者であれば多数在籍している。彼とコンタクトを取る場合の事を考えれば、そういった方面から考えるしかなかった。

 かくして、魔術師連合日本代表、安瀬雲(あぜくも)稲門(いなもん)は今、中国の大地に立っている。

 彼を待ち受けていたのは、予想よりも遥かに強大な敵との、熾烈極まる魔術戦だった。

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