きれいなきんたま
お前さん、もの好きじゃのう。こんな題名の小説を開くとは。
せっかくだから語ってやろう。
とある都市伝説がある。
それはある子供番組での出来事。
おねえさんから、「『き』で始まる言葉は何があるかな」と聞かれた幼児の一人が答えた。
「きんたま」
おねえさんが、「もっときれいなもので答えてね」と続けると、その幼児は言葉を重ねた。
「きれいなきんたま」
その後番組は中断され、再開されたとき、その幼児が座っていた場所にはクマのぬいぐるみが置かれており、幼児はいなくなった。
お前さん、それはただの放送事故だと思うか?
よいかお前さん、世の中には、言霊というものが存在するのじゃよ。
そしてその中には「禁忌の組み合わせ」が存在するのじゃ。
「きれいな」とは、万人が好んで使用する形容詞じゃ。
それだけに素直な言霊が宿っておる。
「きんたま」とは、男の子が必ず通過する名詞じゃ。
こちらも多少やんちゃじゃが、可愛げのある言霊が宿っておる。
じゃがな、お前さん。
「きれいな」と「きんたま」を、この世で同時に使用する人間がおるか?
「汚い」と「きんたま」は、そういう嗜好の連中ならばあるじゃろう。
だがな、「きれいな」と「きんたま」は、皆が無意識のうちに同時の使用を避けているのじゃ。
わかるか、お前さん。皆、深層意識でわかっておるのじゃよ。
「きれいな」と「きんたま」が同時に存在してはならぬことを。
その禁忌を幼児は犯してしまった。そういうことじゃ。
わからんか。よく聞けよ。
きれいな きんたま
2つの言霊が同時に使用されたとき、融合が起きるぞ。
きたれ いんきなま
来たれ 陰気な魔
ほれ、お前さん、後ろからお迎えじゃ。
せいぜい地獄で肝を冷やしてくるがよい。