表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

いつか

作者:

前作「うつつ」の改良版です。小説らしくしてみました!

「離れた方がきっとお互いのためだよ」

そう言って少し悲しそうに微笑む君に私は何も言えなかった。



「ただいま」

帰宅してから、そう短く告げると私は自分の部屋に駆け込んだ。

汗で湿ったシャツを脱いで部屋着に着替えるとベッドに倒れこんでそっと目を瞑る。

脳裏に浮かぶのはさっき別れたばかりの彼の言葉。


“離れよう。それがお互いのためだから”

何も言わない私を少し見てから彼はそっと後ろを向いた。

“ばいばい”

そう一言残して彼はゆっくりと歩き出した。一度もこちらを振り返らずに。


「仕方ないか・・・。」

こうやって諦めるのも何回目だろう。そう、仕方ないんだ。私だから。これが“私”なんだから。

だから、何も思わない。何も感じない。何も考えない。

「・・・・勉強するか・・」

そう呟いてから横を向いて目に入ったのは、白いウサギのぬいぐるみ。

「これ・・・」

それは彼から初めてもらった贈り物。

“はい、プレゼント。似合う気がして買っちゃった。うさぎは寂しいと死んじゃうらしいから大事にしてあげてね。”

そうおどけてみせた彼を思い出した。

「・・・・もう、関係ないじゃん」

そう一人呟いて脳裏からその記憶を消すように頭を横に振る。そして、気を紛らわすかのように机に向かい、英語のテキストを広げる。

けれども、電気をつけようとして目に入ってしまったのは、彼からもらった小さなフクロウの形をした置時計。

“フクロウってね、幸せを呼び込むらしいよ。”

優しく微笑みながら私の手のひらにそれをのせた彼を思い出して。

気が付くと私の頬には温かいものが零れ落ちていた。

・・・・本当はわかっているんだ。

何も思わないなんて嘘。何も感じないなんて嘘。何も考えないなんて嘘。

どこに行っても、何をしても、どこを見ても思い出が散らばっていて。

そのたびに心が動かされて。けれども、目をそらそうにもそらせなくて。


そっと机の引き出しを開けて小さなノートをとりだす。

ペンたてからペンを一本とりだして、言葉を綴った。

自分の気持ちを見つめ直すかのように。もう伝えることもできない私の気持ちを。

ゆっくりゆっくり綴った。


『当たり前だと思っていた日常はもろくて儚くて。

あっという間に壊れてしまった。

君が私の目の前からいなくなってから、私は初めて失ったものの大きさに気がつきました。

今ごろ気づくなんてバカみたいだね。

君から向けられていた視線は「特別」だったのに。

今はみんなと一緒。それがこんなに苦しいなんて思わなかった。

一番近くにいたのに今は一番遠い。

誰か教えてください。

好きな人を振り向かせる方法なんかよりも

好きだという感情を忘れる方法を。

ふと思い出したのは君の香り。』

そこまで書いて、ペンをおいてノートを閉じた。


一緒にいた時の私は、かわいげがなくて。心配かけてばかりで。

素直じゃなくて。衝突してばかりで。

けれど、ちょっとくさいかもしれないけれど、こんなふうに思える位には、毎日が楽しくて。

側にいることに違和感がなくって。大切で。愛おしくて・・・「大好きだった。」


きっとこの思いは今はまだ伝わっていないけれど。

願わくば、いつか君に届きますように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ