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第1章

≪陰の樹≫。それが僕がバイトをしている人形店の名前だ。この人形店は商店街のはずれにポツンと佇んでいた。木が影になり、初めて見た人は暗いイメージを想像すると思う。ある意味稜子さんはこれを狙って店の名前を付けたのかもしれない。

店のドアを開け、中に入る。中はイメージ通り暗い。正確に言えば薄暗いだがそんなに差はないようなもんだ。切れかけた電球が点滅し、人形に妙な不気味さが吹き込まれる。こんな雰囲気だから客が来ないといつも言っているんだけど稜子さん曰く「この雰囲気がいい」らしい。だから毎月赤字で僕に給料が入らないんだよ。まあ、こんなことは口が裂けても言えないけど。

「稜子さーん!居ますかー!」

叫びながら奥に入っていく。店は奥に行くにつれ暗さがまし、人形がさらに不気味さを増す。ちなみに≪陰の樹≫は日本人形から西洋人形、年代は古代から現代までなんでもある。そしてその数は今も増え続けている。

稜子さんはその昔世界中を旅したことがあって、その時に各地の人形を合法的に、時には非合法的に入手していたという。その甲斐あって日本に帰ってきた時には所持金はほぼゼロに等しかったという。そして稜子さんは思いついた。「よし、人形を売って金にしよう」と。

かくして人形店≪陰の樹≫は稜子さんの金欠のためにできた。その話を聞いたときは若干本気でバイトをやめたくなった。

「居るなら返事してくださーい!」

まるで遭難者でも探そうとする勢いだな。

部屋の奥に行くと下に降りられる階段がある。叫んでもいないのなら大体はこの部屋に稜子さんはいる。階段を降り、扉の前に立つ。ところどころ錆びていて、華奢な僕でも蹴れば壊れてしまうほどボロい扉。これも変えたらいいと何度も言ってるのだが前述とほぼ同じで「この感じがいい」らしい。全く僕には理解できない感覚だ。

とにもかくにも僕は扉を開けた。部屋の中は部屋の主を象徴しているかのごとく、散らかってた。そして散らかっている物のほとんどが本ときている。足の踏み場がない。先週掃除したばかりなのに。頭を抱えたくなる。

「勘弁してくれよ・・・」

ため息をつきながら本を寄せ、無理やり足場を作る。そして稜子さんがいるであろう。ソファーに何とかしてたどり着く。

そこには僕の雇い主である九謳稜子さんの寝顔があった。

九謳稜子さん。僕の命の恩人。感謝したいけど素直に感謝できない感じ。何とも言えない関係。

「ん・・・」

稜子さんはソファーの上で寝返りをうった。後ろにまとめた髪もほどいていないし、多分徹夜したんだろう。

「はぁ・・・」

ため息をつき、稜子さんの寝室(散らかっていてあまり変わらないが)から毛布をひっぱり出して、稜子さんにかける。なんでこの人は呼び出しておいて爆睡してんだろう。意味が分からない。まあ、いいや。どうせバイトもやることになるし。

部屋から出て、階段を上がる。店の出入り口の前にあるカウンターに座る。座った丸椅子はボロボロでバランスが取れず、カタカタと音がする。この店にある物はほとんど壊れかけ。台風でも来れば倒壊しそうな雰囲気すらあるこの感じが稜子さん的には良いらしい。

理解ができない。でも、なぜかこの何とも言えない空間にいるとなぜか落ち着くことができた。世の中不思議だ。まあ、3か月前まで住んでいたから妙な愛着があるのは確かだ。

そんなことを思いながらテレビをつける。この店ののテレビはいまだブラウン管テレビ。おかげで地デジチューナーを僕がつける羽目になった。

薄暗い店内がテレビの明かりで多少は明るくなる。夕方にやっているのは再放送のドラマか、ニュースくらいだった。僕が見るのは後者だ。架空の話は嫌いだ。いくらでも結末を変えることができる。それこそハッピーエンドに。現実はこんなにも苦しいのに。下手に死ぬより、ずっと苦しいのに。

ニュースのやっている局にチャンネルを変える。キャスターが最近起きた事件を説明している。その中で≪殺人鬼≫という単語が妙に目立っていた。当たり前と言えば当たり前だ。最近、しかもこの町周辺で通り魔殺人が行われているからだ。

「××町でまたも犠牲者です。今月に入ってこれで5人目となりました。××町の町民には夜中の外出を控えるようにとの指示が出ています。これ以上の被害が広がれば夜7時以降の外出を禁止することが検討されています」

今月に入って5人目。先月は8人。どう考えても異常な数だ。異常すぎる。警察の見回りは強化されている。交通規制もされている。なのに捕まらない。細かい網の目をいとも簡単に通過するような、そんな感じ。

「犠牲者はいずれも名前に数字の入った方を狙っています。十分に警戒をしてください」

そう、一番異常なのはその殺人鬼は名前に数字が入っている人間を次々に殺している。そしてその殺人鬼はこう言われている。

「ネットなどでは≪数字嫌いな殺人鬼≫とも言われており・・・・・」

キャスターの声が店内に響く。僕はテレビの画面をただ冷たくみていた。

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