2nd season -summer- 第3話「Love and Love」
「う~ん、わっかんねぇな~」
「どうしたのよ、ハヅキ」
「おまえのことだよ、ヤヨイ」
「え? わたし?」
「うん、おまえ」
「わたしがどうしたのよ」
「なんで俺と一緒にいるんかな~って」
「はい? なにいってるのよ」
「一緒にいるのが当たり前のようになってるけど、よく考えたら理由なんかないんだよなぁ」
「……?」
「小さい頃からずっと一緒だったし、今更違和感なんてないけどよ」
「うーん?」
「だからといって、こんなに一緒にいるのはなんでかなぁってな」
「そんなくだんないこと考えてたの?」
「くだんないっておまえ……」
「だってくだらないじゃなーい」
「そぉかぁ……?」
「簡単なことなんだもん」
「ほー?」
「わかんない?」
「うーん、わかるような気もするけど……」
「じゃぁ、言ってみて?」
「好きだから、か?」
「そうだよ。それだけだよ」
「そんなもんかぁ」
「好きだから。楽しいから。ハヅキと一緒にいたいって思うから。それがわたしのしたいことだから」
「なるほど……」
「逆に聞くけど、どうしてハヅキはわたしと一緒にいるのよ?」
「そりゃおまえ決まってるだろ」
「なぁに?」
「好きだからだよ」
「はぁ……自分はそう思ってるのに、相手はそう思ってるって考えないもんなの……?」
「いやぁ、なんとなくな」
「もう、もっと言わなきゃわかんない?」
「んにゃ、そんなことはないけど……でもまぁ、言ってほしいかなぁ。いくらでも」
「……子供よねぇ、ハヅキって」
「なんだよ、悪いかよー」
「ま、そんな子供を好きで、一緒にいたいって思ってるわたしも子供かもしれないけど」
「その大人ぶった言い方、なんか悔しいな……」
「ふふふ」
「あ、なんだよ、その勝ち誇った笑いは」
「ハヅキはかわいいね~♪」
「あー……むかついてきたー……」
「冗談よ、冗談。それにしても、どうしていきなりそんなこと思ったのよ?」
「いやさぁ、ムツキがな」
「ムツキくんがどうかしたの?」
「あいつ、好きな人いるらしいんだわ」
「へー……意外ね」
「だろ。あんだけもてるのに、誰にもなびかないのはそういう理由だったんだな」
「なるほど……」
「で、ちょっと詳しく聞き出してみたんだけど、あいつ意外に消極的なんだわ」
「へー……それまた意外ね……」
「だろー。あいつなら、ニコニコしながらとっくに告白すませて、いい関係になってうはうはしてると思うんだけどなー」
「うはうはって……もうちょっと言葉選ぼうよ、ハヅキ……」
「いやいや、すまん。いつもヤヨイとやってるよう……うわっ、なにすんだよ!」
「うっさいわね! そういうことはこんなところで言わないの!」
「むぅ」
「むぅ、じゃないわよ。で、ムツキくんなんて?」
「なんか、男と思われてないらしいよ」
「はい?」
「正確には異性として認識されてないとか。とってもと~ってもいい親友らしい」
「あー……そういう無邪気なタイプの女の子か……」
「そうだな、ヤヨイとは違っておとなし……うわっ、だからなにすんだよ!」
「余計なことは言わなくていいっ!」
「こええなぁ、もう……しっかし、そんななのにあいつ、すごい嬉しそうなんだよ」
「へぇ……?」
「親友でもいいから、一番そばにいたいんだ、って笑顔で語られてしまった」
「うわぁ……いい人だねぇ。天然だねぇ、ムツキくん……」
「それでいいんかなぁって思うけど、本人がそういうんだからいいんだろうなぁ……」
「うーん……」
「なんだかんだで、語ってるときのあいつ、すごい幸せそうだったしさ」
「そうなんだ」
「うん、にやけてた」
「え、マジで。そんなムツキくん見てみたかったな……」
「今度また見に行くか?」
「なんでハヅキがそんな嬉しそうにしてるのよ……?」
「いやいや、特に深い意味は……」
「まぁいいわ。あんたのことはどうでも」
「……最近のヤヨイ、冷たいよな」
「愛情といってほしいわね。あんたに無駄なことをさせないための愛情よ」
「……どう考えてもただの横暴だよな」
「なんかいった?」
「いえ、何にも……」
「それにしてもー」
「んー?」
「ムツキくんはそれで幸せなのかな」
「なのかね~」
「恋人じゃなくても、一番そばにいられる道を選んでるってことでしょ。本人がそれ以上先を望んでないってことは、今で十分幸せだってことだし」
「一応告白はしたいみたいなこと口では言ってたけど、全然そう思ってなさそうだったしなぁ」
「そういう幸せもあるのかな」
「そうだなぁ。そうじゃないかなぁ」
「わたしは……それじゃ満足できなかったから、今ここにいるんだけどね」
「俺のこと?」
「そうよ、あんたのこと。なんでか知らないけど、好きになっちゃったからね。そうなったからには、やっぱり手に入れたいじゃない……」
「まぁなぁ。俺もそうだしなぁ……」
「当たり前のようにあるものを、当たり前の一歩先に踏み出すのは確かに怖いかもだけど……その先には、もっとおっきな幸せあるのにね」
「俺たちの場合は、な」
「ムツキくんの場合は違うのかな。わかんないなぁ」
「あいつはたぶん……踏み込むのが怖いんじゃないかな」
「怖い?」
「うん。ほら、あいつ、事情があるだろ?」
「あ、なるほど……」
「そんな状況で、より深く踏み込んでしまうのは怖くて、今の状態に幸せを感じているのかもしれないな。もちろん、今の幸せも間違いなく本物なんだろうけど」
「その彼女は、知ってるのかな?」
「んー、どうなんだろうな……ムツキの性格からすると、言ってないだろうけどな」
「だよね」
「ムツキも辛いやつだなぁ」
「だからこそ、あんなに笑って、あんなに毎日楽しそうに生きてるのかもね」
「俺たちも見習わなきゃなぁ」
「そうね、わたしたちは一人じゃなくて二人なんだから、なおさらだね」
「だな」
「そう考えると、わたしたちってほんと幸せなんだなぁ」
「そうか?」
「うん。ハヅキは幸せじゃない?」
「いんや、すごい幸せだよ」
「でしょう。だけど、世の中全部がそううまく回ってるわけじゃないんだよね」
「ん? それは誰かの話か?」
「とある女の子のお話」
「ふーん?」
「その子はね、いろいろあって大好きな彼氏とお互い大好きなまま別れたんだって。それからもう2回も季節は巡ったけど、まだ忘れられないみたい。本人は、恋愛としての好きかどうかはわからないって言ってたけど、わたしから見たら、まだまだ未練たらたらね、あれは」
「なるほど……サクラちゃんか」
「……なんであんたは、そういうところだけやたら鋭いのよ。普段バカなのに」
「うわ、さりげなくものすごいひどいこと言われた気がするけど、まぁ、なんとなく直感だな」
「便利な直感ね、ハヅキのは……」
「いやぁ、それほどでも」
「別にほめてもないんだけどね」
「サクラちゃんねぇ……あの子も、けっこう大変なもん背負ってそうだよなぁ」
「ハヅキから見てもそう見える?」
「おう。時折見せるあの寂しそうな表情は、相当な経験してないと出来ないんじゃないかなー」
「あんた、たまーにすごい洞察力発揮するよねぇ。普段からそれぐらいでいてよ」
「失礼な。俺はいつでもこうだっての」
「……まぁいいわ。そんなことは」
「……やっぱ冷たいよなぁ、最近のヤヨイ」
「大好きなまま別れるかぁ……」
「うわ、ツッコミすらなしかよ。きついなぁ」
「うっさいわねぇ、もう。井戸に放り込むよ」
「それまた、えらく凶悪な提案で」
「あんたにはそれぐらいがいいわ」
「俺が悪かった」
「うむ、よろしい」
「まぁ、それはともかくだ」
「うん」
「ヤヨイ、大好きな俺様と別れたいと思うか?」
「あー、今ちょっと思ったかーなー……」
「俺が悪かった」
「んーまぁ、思わないわねぇ。別れるほどの不満とかそんなのまったくないし」
「俺も思わないな。命の危機は感じても」
「なんかいった?」
「いえ、何でも……」
「わたしたちより年下なのにね。サクラちゃん。あんな悲しい目しちゃうのはもったいないな」
「だけど、彼女にはまだいっぱい未来はあるよ。これからどうなるかはわからない」
「そう……そうね。あんないい子だからねぇ。幸せ見つけてほしいなぁ」
「だなぁ」
「ムツキくんみたいな幸せの形、わたしたちみたいな幸せの形、サクラちゃんが手放した幸せの形……そして、この先の未来にサクラちゃんが見つけるかもしれない幸せの形」
「幸せの形はひとつじゃない、か」
「うん」
「これはムツキの言葉だけどな」
「へぇ……ムツキくんがそんなことを」
「あいつもあれでいて……ものすごく真剣に幸せを追い求めるんだよな」
「うん、そうだね」
「ま、俺たちは俺たちの幸せをこれからも守って、大きくしていくだけかな、ヤヨイ」
「ハヅキもいいこと言うときは言うよね」
「俺はいつもいいことしか言わねーっての」
「あはははは」
「笑わなくてもいいじゃねーか……」
「ごめんごめん、なんか楽しくてね」
「ひどいなぁ……なぁ、ヤヨイ」
「うん? なに?」
「ちゃんと愛してるぜ、ヤヨイ」
「うん。わたしもだよ、ハヅキ」
「うん、知ってる」
「わたしも知ってるよ」
「ははは。さって、今日の晩御飯は何かね~」
「今日はロールキャベツの予定だよ~。この前のキャベツ、そろそろ処分しなきゃやばいしね」
「肉多めで頼む」
「はいはい、っと。いつも通りだよね、それって」
「そうだっけ」
「うん、肉好きハヅキ」
「ヤヨイの肉ももうちょっとついてくれ……うおおおっと」
「晩御飯抜きでいいかな?」
「すいませんでした」
「さ、さっさといかないと、テレビ間に合わないわよ~。もうすぐ7時になっちゃう」
「うお、急いで帰るべ、ヤヨイ」
「了解っと」
「……ムツキにサクラちゃん、幸せになれるといいな」
「そうね、わたしたちみたいにね」
「おっと、ここで惚気か」
「誰も聞いてないから、惚気とは言いませんー」
「はいはい、っと。よし、陸上部らしく家まで競争だ、ヤヨイ!」
「おっけ! って、せこいわよ、ハヅキ! かわいい女の子相手にフライングはどうなの!?」
「うるせー、短距離はお前のほうが早いじゃねーかよー」
「待ちなさいー!」
「うおおおおおおおお……」
「ずっと一緒だよ、ハヅキ」
「もちろんだ、ヤヨイ」




