prologue 「眠れない夜に飲む珈琲」
はじめまして、S.AKIと申します。
拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
一応、全13話くらいの予定で進めていこうと思っています。
途中までは書き溜め分で更新していきますが、基本遅筆ですが、よろしくお願い致します。
どうしてかな。
寂しいと思ってしまうのは。
今夜は眠ってしまいたくない気分だ。
夜、ちょうどブルーマウンテンの香りを楽しんでいるときだ。
ケイから電話があった。
「おい、ユウ。お前、サキさんのこと好きか?」
唐突すぎる問いかけだった。どうしていきなりそんなことを聞いてきたのか。
「……あぁ、当然だ」
僕は答えに詰まったものの、はっきりこう答えたんだ。
ケイはそれを聞いて、笑った。
電話越しだけど、その顔がやけにリアルに想像できた。
「そうか。間違いないな。良かったぜ」
ケイの言うことは理解できた。なんせ、同じ人を好きになった仲間なのだから。
そしてケイが悩んでいることも知っていた。ケイは僕と争いたくないと思っている。
それになんだかんだで、ケイの心の奥には別の女性がいることも知っている。
「僕は……サキが好きだ。絶対に、ケイが思ってるよりも好きだよ」
だから僕ははっきりと告げた。
言葉にしてリアルに実感した。僕はサキが好きだ。本当はケイがどれくらいサキのことを好きかなんてものは分かっていない。だけど、僕はわざとらしくそう言ってやったんだ。
「うん、分かった」
「ケイ……」
「なんだ?」
「僕は卑怯だ」
言ってやった。僕は卑怯者だ。
「僕がはっきりと言えば、ケイが引くことを知っている。それをわかっていて、僕は言った」
だから、僕は卑怯だ。
「うん、お前は卑怯だ」
ケイも認めた。
「だが、それを促したのはやはり俺なんだよ。ユウ」
その上でこのセリフ。
ケイは馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だ。
「お前は馬鹿だよ、ケイ」
どうしても苦笑するのをこらえきれずに、僕は言う。
「どうしようもない馬鹿だよ」
少し感傷的になった。僕はなんでこんなセリフを吐いているんだろう。
「俺はお前の煎れた珈琲が大好きだぞ」
何の脈絡もない言葉が飛んできた。
「お前の珈琲は、素直な味がする」
意味がわからない。
「他の珈琲は素直じゃないってのか?」
「あぁ、そうだな」
ケイは迷いもなく頷く。
「ユウ、知ってるか? サキさんがお前の煎れた珈琲を幸せそうに飲んでいることを」
その言葉に僕は思わず「えっ」と声を漏らす。
そもそも僕が煎れた珈琲をサキが飲んだことなんて、そうそうあることじゃない。
「あんなに幸せにしてやれるのは、すごいことだと思わないか?」
「ケイ、何が言いたい?」
たまらず、僕は聞いた。
「俺は、お前もサキさんも大好きだ」
「……」
「そして、サキさんはお前が好きだ」
「……」
「だから、俺は素直にお前にサキさんを譲る」
「……サンキュ」
ぶっきらぼうに答えた。ぶっきらぼうにしか答えれなかった。
まったくなんなんだ、この親友は。
どうしてここまでイイヤツなんだ。
だから僕も……
「僕もケイのこと、大好きだ。サキ以上に好きかもしれない」
本当の気持ちをぶつけてやった。
本気で言ったのに、受話器の向こうから、吹き出す声が聞こえた。
「気持ち悪いぜ、ユウ。ホモかお前は」
「だったらどうするよ?」
悪乗りは得意だ。
「だったら……」
一呼吸置いて。
「俺もホモだな」
そして大爆笑。お互い。
しばらく腹を抱えて笑いあった。
「……なぁ、ユウ」
「なんだ、ケイ」
「今夜は、俺のために珈琲を煎れてくれないか」
「……あぁ、お安い御用だ」
「できれば高級なやつな」
「……特別サービスだぞ」
「どうも今夜は……眠れそうにない」
そういうとケイは、静かに受話器を下ろした。
きっと今から会いに来るんだろう。
少し寂しい顔をして。きっと僕も寂しい顔をする。
そして眠れない夜に、僕の珈琲を飲んで……
きっとあいつはこう言うんだろう。
「お前の淹れた珈琲は最高だ」