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【END】


 歴史は繰り返す。

 そう予言したのはローマの歴史家であった。なんという名の人物だったか記憶にないが、じつに意味深長な言葉である。そう、歴史は時としてくり返されるのだ。人間とは懲りない動物なのである。万物の霊長などと威張っているが学習能力は存外に低いのかもしれない。

 そしてマルクスは、このローマの歴史家の言葉に付け加えて言った。

 最初は悲劇、二度目は喜劇――。

 けだし至言である。いやもう本当に……。


 新たに二名のアンドロイドを加えたことによって私たち夫婦の◯◯◯◯はその難易度を上げるとともに、より刺激的にかつ◯◯◯◯◯いったのだが、しかしその至福の日々は一年と経たないうちに脆くも二度目の破綻を迎えることとなった。

「ねえあなた、最近アタッチメント二十八号の◯◯◯◯◯◯◯◯◯が良くないんだけど……」

「なんだ君もかい、じつは私もなんだよ。近ごろ十七号の◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯感じられてね」

「あの子たちの◯◯◯◯◯、どうやら一年が使用限度みたいね」

「かもしれないな。それなのに三年契約を結ばせるなんてひどい話だよ、これじゃあまるで詐欺じゃないか」

 ためしに十七号と二十八号のポジションを入れかえてみたが、やはり結果は同じであった。

「気が進まないけど、もう一度メーカーのほうへクレームを入れてみましょうよ」

「そうだな、文句をつけてもムダのような気もするが一応言うだけのことは言っておくか」

 妻にうながされ、一年前と同じくメーカーのサポートセンターへ電話をかけてみた。やはり一年前と同じく陰気な声でしゃべる男が応対に出て、一年前とほぼ同じ歯車の噛み合ないやり取りがなされ、結果として一年前と同じく我が家に美少年が二人送られてきた。

「こんにちは、アタッチメント専用ハブ三十一号です」

「同じく、専用ハブ五十五号です」

 こうなってくるともう笑い話である。妻が呆れ顔で言った。

「……とうとう五人になっちゃたわ」

「これで念願のバスケットボールチームが組めるじゃないか」

「冗談言ってる場合じゃないのに」

「でも美しい少年たちに囲まれて、君にとってはまさにハーレムじゃないのかい」

「あら、過ぎたるは及ばざるがごとしって言葉を知らないのかしら」

 寝室にある私たちのベッドや鏡台のイスに思い思いの姿で腰掛ける少年たちを眺めて、妻がため息をついた。

「……美少年って最初は感動するんだけど、そのうちみんな同じ顔に見えてきちゃってつまんないわ」

「言われてみればなるほど。普遍的な美しさというものは、ある意味個性を極力排除した上に成り立っているのかもしれないな」

「あと一人増えたら、マンガのおそ松くんみたいでちょっと笑えるわね」

 などとバカなことを言い合っているうちに夜である。

 漠然と覚悟はしていたものの、実際に二名を加えた計七人で◯◯◯◯◯してみて私は悲鳴をあげた。

「ひぃー、ダメだこりゃ、絶対に無理だ」

 私と妻のあいだに少年が五人もいるのである。◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯いるのである。念のため配列を述べておくと、先頭が妻で、その後にアタッチメント専用ハブ五十五号、アタッチメント二十八号、セクサス六号、アタッチメント十七号、専用ハブ三十一号と続き、そして発車オーライ出発進行、かくいう私が車掌である。みな膝立ちの姿勢では体のバランスが取りにくいため、それぞれが前にいる者の両肩へ手を添えている。その姿勢はまるでフォークダンスのジェンカのようでもある。どう考えても定員オーバー、この体勢での◯◯◯◯はやはり五人が限度のようだ。

 先頭にいる妻が、最後尾にいる私に向かって叫んだ。

「ねえあなた、この状態で◯◯◯◯するのってちょっと難しいんじゃない?」

「難しいというよりも不可能だ、もうナンセンスだよ、これじゃ全くもって身動きが取れない」

 お互いの距離が離れているせいで自然と声が大きくなる。

「ねえ、この際だから家を増築しましょうよ、これじゃ部屋が狭くて不便だわ」

「バカ言うない、それでなくともこいつらのリース料支払うのにあっぷあっぷしてるんだから」

「せめてベッドだけでも大きいのに買い替えましょうよ。このままだと先頭にいる私がはじき出されてしまいそうなの」

 大きめのダブルベッドが七人の重みで深く沈み込んでいる。寝室のなかには◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯がむっとする濃度で立ちこめていた。

「取りあえずいったん◯◯◯◯◯を解除しよう。このままでは押すもならず、引くもならず、全くもって埒があかない」

「そうね、この姿勢でじっとしているのって腰がつらいわ」

 するとちょうど真ん中に位置するセクサス六号が言った。

「ご主人、もう止めてしまうのですか?」

「だって仕方ないだろう、こう人数が多くちゃ上手く動けないよ」

 少し思案して、彼は言った。

「では、音楽でもかけてみましょうか」

「なに?」

「私の体にはサウンド機能も組み込まれているのです。出力六百ワットのアンプと、四ウェイスピーカーシステム、それにサブウーファーは二十五センチのものを二基搭載しています。そこから生み出される迫力のサウンドは、まるでコンサートホールにいるような臨場感を我々にもたらし……」

「ちょっと待ってくれよ、今この状況で音楽がなんの役に立つというのだ」

「音楽に身を委ねれば自然と体が動き出します、脊椎動物特有の体性反射というやつですよ」

「バカな、ダンスでも踊らせるつもりか?」

「うふふ、その通り、◯◯◯◯はある意味ダンスと同じなのです。脳内の海馬がつくり出す空間認識を音楽の力によって変貌させるのです。脳シナプスを柔軟にしてニューロン細胞の働きを活性化させるために、三十一号と五十五号のソケット部位から微量の幻覚剤を分泌させておきます。さあ、窮屈な現実を抜け出して素晴らしい幻想の世界に浸ろうではありませんか。みなで気持ち良いことしましょう」

「言ってる意味がよく分かんないよ」

「ならば実行するまで、レッツ・ミュージック・スタート!」

 突然、セクサス六号の美しい後ろ姿に変化が現れた。めりめりめりっと皮膚の裂ける音がして髪の毛ごと二つに割れた後頭部からセンタースピーカーが、みしみしみしっと裏返った肩甲骨の下からリアスピーカーが、べきべきべきっとアジの開きみたいにまっ二つになった背中から巨大なウーファーが出現し、たちまちそこから大音量の音楽が流れ出した。部屋の床をずんずん震わせる。

「うわっ、バカ、そんなに大きな音を出すやつがあるか。近所迷惑だろう」

「さあご主人、奥さん、この音楽に身を委ねてください。そしてみなで素敵な◯◯◯◯をしましょう」

 その音楽は、二拍目と四拍目に強拍を置いたエイトビートで、いわゆるスカと呼ばれるジャンルのものだった。そのなかでもモッズスタイルやパンクロックの流れを取り入れたツートーン・スカというやつで、大変に乗りの良いスピード感あふれる曲である。反射的に体が踊りだしそうになり私は戸惑いを覚えた。

「これは何という曲だ?」

「マッドネスの『イン・ザ・シティ』です」

「……どこかで聴いたことがあるぞ」

 男性ボーカルの声が激しくシャウトした。

「シティ! イン・シティ!」

 その叫びが合図のように七人全員が一斉に立ち上がった。そして◯◯◯◯◯◯◯ままの窮屈な姿勢で一列に並び、リズムに合わせて軽快にステップを踏みはじめたのである。


 まず右足を踏み出し

 両手を大きく振って

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

「あん」「あん」「あん」「あん」「あん」「うひいっ」

 今度は左足を前へ

 首を横に曲げて

 叫ぶ

「シティ!」


 最初のうち躊躇いがあった私もだんだん音楽に身を委ねることに慣れてきて、しだいに◯◯◯◯◯はじめた。これがじつに気持ち良いのである。ふつうの◯◯◯◯では味わうことのない新種の感覚だった。恐らく妻も同じ刺激を感じているのであろう、快感をこらえるため肩が小刻みに震えているのが見てとれる。やがて全員が歩調を合わせ一糸乱れぬ動きを見せるようになるまで、そう長くは掛からなかった。


 右足を踏み出し

 両手を振って

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

「あん」「あん」「あん」「あん」「あん」「うひいっ」

 左足を前へ

 首を横に曲げ

 叫ぶ

「シティ!」


 狭い寝室内をムカデダンスを踊りながらぐるっと一回りした後、私たちはドアを開けて廊下へと繰り出した。ダンスしながらの◯◯◯◯は最高だ。みなと動きがズレると◯◯◯◯◯◯◯◯◯そうになるため、慌てて◯◯◯◯◯◯◯。相手がそれに反応してびくっと震える。その度に◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。彼らが分泌する幻覚剤の作用も相まって、私は半ば陶酔しながら夢中でステップを踏みつづけた。


 右足を踏み出し

 両手を振って

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

「あん」「あん」「あん」「あん」「あん」「うひいっ」

 左足を前へ

 首を横に曲げて

 叫ぶ

「シティ!」


 不意に、ひんやりした夜風が汗ばんだ顔を撫でた。見上げると漆黒の夜空に星が瞬いている。夢中で踊るうち、私たちはいつの間にか外へ出てしまったらしい。ふだんなら裸のまま外を歩くなど考えられないことだが、今はそんな羞恥心など吹っ飛んでしまっていた。セクサス六号が絞り出す大音量の音楽に反応して、そこらじゅうの家で犬が一斉に遠吠えを始めた。偶然通りかかった仕事帰りのサラリーマンが、驚いて引き返してゆく。どこか後ろのほうで甲高い女性の悲鳴が聞えた。それでも私たちは一列にぴったり身を寄せ合い、◯◯◯◯◯◯◯◯◯一歩、また一歩とステップを踏み、町内の細道を前進した。


 ホンダ、ホンダ、ホンダ、ホンダ

 右足を踏み出し

 両手を振って

 ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯

「あん」「あん」「あん」「あん」「あん」「うひいっ」

 左足を前へ

 首を横に曲げて

 私たちの歓喜の叫びが夜空に吸い込まれていった。

「シティ!」


 近隣の通報によりパトカーが駆けつけるまでのおよそ十五分を、私たち七人は踊りつづけた。その間、私はのべつまくなし◯◯◯◯◯◯◯、妻も数えきれないほど◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。

 警察署へ連れて行かれたときはてっきりブタ箱へ放り込まれるものと覚悟したが、意外にも三十分ほど調書を取られただけであっさり解放された。帰りぎわに警察官がこっそり教えてくれたことだが、セクサスの暴走による公然わいせつ事件が全国で頻発しているらしい。うちの町内だけでもこれで三軒目ということである。セクサスの開発には経済産業省と文部科学省から莫大な予算が投じられており、その利権に絡んで大物政治家が裏で暗躍しているという噂があるから、きっと全国で起きた同様の事件を国家権力によって片っ端からもみ消しているに違いない。ともあれ警察の連絡を受けたメーカーが大急ぎで五体のアンドロイドを回収し、後ほど修理を終えた一体だけが改めて我が家へ送られてくることになった。


 狂乱から一夜明けて。

 私は午前中に出版社との打ち合わせを済ませ、駅前のケーキ店で買ったカスタードプリンの小箱をぶら下げながら家路をたどった。吹く風がどことなく透き通り、見上げる空が心持ち奥行きを増したように感じたら、もう夏も終りである。昼下がりの住宅街を縫って、つがいのトンボが飛び交っていた。オスとメスとで繋がり合った二匹のトンボは、見せびらかすように私の鼻先をかすめながら悠々空へ舞い上がってゆく。

 家に帰ると、庭先で妻が洗濯物を干していた。

 彼女は最近見違えるほど綺麗になった。年も十歳くらい若返ったように感じられる。またよく笑うようにもなった。その笑顔がまぶしいくらい素敵に見えた。セクサスが戻って来る日は待ち遠しいが、しかし正直なところ今ではあれがなくとも私はふつうに妻と◯◯◯◯を楽しむ自信がある。

「ただいま」

 チェック柄のエプロンを腰に巻いた細い背中にむかって声を掛けると、彼女は振り返って真っ白い歯を見せた。そして頬をちょっと赤くして、はにかみながら私の鼻先へVサインを突きつけてきた。ちくんと、ある予感が胸につき刺さった。甘酸っぱい思いが込み上げてくる。もしかして……。

 はたして彼女は晴れやかに言ったのだった。

「あなた、出来ちゃったみたい」



 終り




 このようなしょーもない話にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 ホンダシティのCMを知らない若い世代のひとには、最後の部分の意味がよく分からないかと思います。もし興味がおありでしたら、YouTubeで「マッドネス ホンダシティCM」と検索していただければ動画を確認することができると思います。

 こんな作品はけしからんという苦情、罵倒、殺害予告等おありでしたら、お手数ですが作者宛のメッセージかまたは企画サイトの感想掲示板のほうへお寄せください。

 最後に、空想科学祭2011を企画運営してくださった実行委員会の皆さま、こんな私を企画へ誘ってくださった創作仲間の皆さま、わざわざ足を運び作品に目を通してくださった読者の皆さまに、心をこめてお礼を述べさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。またふたたび皆さまとお会いできる日を楽しみにしております。

でわでわ。

       2011・8・28 りきてっくす

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