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【 4 】


 果たせるかな。

 外出から戻った妻は、寝室のダブルベッドに仲良くならんで腰掛ける少年たちを見てあんのじょう騒ぎ出した。

「ちょっとあなた、これはいったいどういうことなの?」

 欲求不満のせいか、近ごろえらく機嫌が悪い。

「文殊の知恵じゃあるまいし、セクサスばっかり三人いてもしょうがないでしょう、一人だけ残してあとは返品してちょうだい」

「いや、右端にいる子と真ん中の子は、セクサス専用のアタッチメントなんだがね……」

「なにバカなこと言ってるのよっ」

「本当だってば、嘘だと思うなら彼らに訊いてごらんよ」

 すると右端に座るアタッチメント十七号が、邪気のない子どもっぽい笑みを浮かべて言った。

「ご主人のおっしゃる通り、僕とここにいる二十八号はセクサス専用のアタッチメントなんです」

 隣りに座る二十八号もその後を受けて言った。

「つきましては今夜からセクサスを使用する際には僕たちもご一緒させていただきますので、奥さん、どうぞよろしくお願いしますね」

「あらそんなこと……」

 少年たちの笑顔にすっかり毒気を抜かれた妻はたちまち考えを改めたらしく、うってかわって優しい声になった。

「こちらこそよろしくね」

 やがて少年たちはベッドから腰を浮かせると、めいめいの上着のボタンを外し始めた。真っ白いシルクのブラウスから腕を抜きながら、アタッチメント十七号が言った。

「では早速ですが、これより僕たちの使用方法をご説明させていただきます」

「おいおい待ってくれよ、私たちはまだ夕飯を食べてないし、それに見てみろ、空だってまだこんなに明るいんだ」

 プランターの並べられた寝室の出窓からは初夏の鋭い西日が斜めに差し込んで、反対側の壁やフローリングをきれいなオレンジ色に染め上げている。サイドテーブルのわきに置かれた目覚まし時計は、午後五時から十分ほど過ぎたあたりを指していた。日が暮れるまでには、あと一時間以上もある。

「そう慌てるなって、君たちだって今着いたばかりで疲れているんだろう?」

「いえ、僕たちアンドロイドは疲労することを知りません。それに工場から出荷されるときにちゃんと充電も済ませてありますのでご心配なく」

 いつの間にか◯◯◯◯になった彼らが今度はジーンズを脱ぎにかかったので、私は悲鳴をあげた。

「ちょ、ちょっと待ってくれないか、君たちは若いから平気かもしれないが、私はここんとこ働きづめでもうへとへとなんだ。たのむから夜になるまで待ってくれ」

 すると泣きごとを言う私をしり目に、妻がスリッパをぱたぱた鳴らして廊下の向こうへ駆け出していった。すぐに玄関のほうから、がちゃりとドアを施錠する音が聞えてくる。ついでに居間へも寄って留守電のスイッチを入れてきたようで、鼻歌まじりに駆け戻ってくるなり、今度はいそいそ寝室のカーテンを引き始めた。

「お、おい、なにをしている?」

「決まってるじゃない、この子たちの説明を聞くのよ」

「君までそんなことを言うのか」

「なによ、夕飯なんて後で宅配ピザでも頼めばいいじゃない。私、あの子たちがどういうふうにセックスしようとしているのか興味があるの」

 そして妻はそっと耳打ちしてきた。

「……◯◯◯◯◯◯◯みたいなことでも、するのかしらね。うふふ」

 もはや欲情で目がきらきら輝いている。こりゃダメだ、女という生き物はこれだから始末に負えない。空腹と絶望感にさいなまれながら、私は足を引きずるようにしてキッチンへ行き冷蔵庫にあったマムシドリンクを二本立て続けに飲んだ。ついでに生卵と青汁をシェイクして一気飲みし、最後に高血圧の薬をばりぼり噛み砕いて戸棚にあったブランデーと一緒に喉へ流し込んだ。しばらくしてメリーゴーランドのごとくに周囲の景色がゆっくりと回転し始め、ついでに頭の中でラヴェルの「ボレロ」が勇壮に奏でられた。どうやら胃の中でマムシドリンクと、生卵と、青汁と、ブランデーと、高血圧の薬が化学変化でも起こしたらしい。しだいに全身が強い倦怠感に襲われ、同時になんだか得体の知れない多幸感が心の中を満たしてゆく。全てのことがもうどうでもよくなり、私は無意識のうちに心の中でこう叫んでいた。

 らりほー。

 ふらふらしながら寝室へ戻ってみると少年たちはすでに◯◯◯◯◯◯ベッドのそこかしこで寝そべり、妻も少し離れた場所でブラジャーのホックを外しにかかっていた。私は裸になるのが億劫になり、上着は脱がずに◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。

「さあ準備はできたぞ、どこからでもかかってきなさい」

 酔いも手伝ってなかば投げやりに言うと、アタッチメント十七号がシーツの上をすべるように這って来て、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。

「ではまず最初に、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯」

 正直、使いものになるのか不安だったが、幸いマムシドリンクと生卵が効いてきたらしく、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯したとたん、私のスペースシャトルはむくむくとその進路を宇宙へ向け始めた。これは男にしか分からないことであるが、疲れきっているときほど◯◯◯◯◯◯◯◯◯ものだ。◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯を◯◯◯◯◯◯◯へ◯◯◯◯と、私はニュートン力学の法則に逆らわずそのまま一気に◯◯◯◯◯◯◯◯。

「あん」

 アタッチメント十七号が白い喉を反らして少女のような叫びをあげる。と同時に◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。電話でメーカーの男が言ったとおり、彼の◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。さらにスキャニングされるときいつも味わっていたあの◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯も健在で、これぞまさしく◯◯◯◯◯、なんだかとても嬉しくなり、私は◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。

「あっ、ダメですっ、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。これより僕とセクサス六号の◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯させねばならないのです」

「なにっ、そんな面倒くさいことをするのか?」

「はい、それが僕たちに与えられた使命ですから」

 ずいぶんと大げさなことを言うやつだ。仕方がないのでお預けを食らった犬みたいにちんちんしながら待っていると、アタッチメント十七号がセクサス六号の白い背中を抱き寄せて、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯して、セクサス六号がピンク色の唇をきゅっと噛みしめる。

「あん」

 ドッキングは成功したようだ。

 なるほどアタッチメントとはそういう意味かとそのときになってようやく気づいた。なんのことはない、ようするに私とセクサス六号のあいだに一人、同じくセクサス六号と妻のあいだにもう一人と、それぞれ少年がサンドイッチになり、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯にのぞもうというのである。なんてバカバカしい、狂気の沙汰としか思えない。そのような◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ができるはずないではないか。

 今度はセクサス六号が、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯に◯◯◯◯◯◯◯◯を◯◯◯◯◯。

「あん」

 二十八号のさらさらした髪が跳ね上がり、切なそうなあえぎ声がこぼれる。これでセクサス六号の前後部にそれぞれ専用のアタッチメントが取り付けられたことになる。あとは◯◯◯◯◯を残すのみ。四つん這いになって今か今かと◯◯◯◯◯◯◯を待ちわびている彼女の耳もとへ唇を寄せて、アタッチメント二十八号はいたずらっぽく囁いた。

「さあ奥さん、今度はあなたの番ですよ、いいですか、◯◯◯◯◯◯◯◯からね」

 妻は、◯◯◯◯◯◯◯して言った。

「いいわよう、早く来てえ」

 やがて◯◯◯◯◯◯◯、妻の「うひいっ」という◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯が部屋じゅうに響くと、三人の少年がほっと安堵の息をつくのが聞えた。これでようやくすべてのドッキングが完了したことになる。今やベッドの上では押しくらまんじゅうをするがごとく五人が体をくっ付け合い、ひしめき合っていた。

 すべすべしたきれいな背中を私に見せて、アタッチメント十七号が言った。 

「これで準備は整いました、あとはご主人のお好きなようになさってください。ちなみに◯◯◯◯◯◯◯◯◯は僕のなかできれいに濾過され、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ます」

 するとその先にいるセクサス六号も同じように言った。

「その◯◯はさらに私の中でていねいに濾過され、◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ます」

 その先にいる二十八号も負けじと言った。

「その◯◯はさらに私の中でより念入りに濾過され、最終的には◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ますのでご安心ください」

 妻が不安そうに言った。

「ぜんぜん安心できないわ、そんなに何度も濾過したら◯◯◯◯◯◯◯◯なって赤ちゃん出来なくなるんじゃないかしら」

「それはないと思いますが、念のためご主人にも頑張っていただいて◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ことにしましょう」

「そうね、そうしましょう」

 とんでもないことを言うやつらだ。

 それにしても電車ごっこか、フォークダンスか、はたまた中国雑技団か、こんなアクロバティックな体位でまともな◯◯◯◯ができるとは思えない。端から見れば、なんと馬鹿げたことをしているのかと呆れ返ることだろう。こんな状態でお好きなようにと言われても困ってしまうが、とにかく団子状態で繋がっているばかりでは埒があかないので、最後尾にいる私がまず一回だけ体を動かしてみることにした。◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯。

 たちまち伝言ゲームのように、◯◯◯◯だけが前方へ流れていった。

「あん」

「あん」

「あん」

「うひい」

 やってみると案外面白いものである。

 全員がこちらへ背を向けているせいで表情までは窺えないが、今動くのか、いつ動くのかと顔をこわばらせ、固唾を飲んで身構えているのがよく分かる。そんな彼らを◯◯◯◯◯◯◯◯◯を私だけが握っているのかと思うと、◯◯だけでなく征服欲までも満たされてゆくようで実に愉快だ。

 ためしにもう一回、今度は少し◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯してみた。

「あん」

「あん」

「あん」

「うひい」

 いや実に楽しい。

 フロイトの学説によれば、◯◯◯が屈折した形で現れるのは人間だけだという。他の動物はみな自分たちの種を保存する本能によってのみ◯◯◯◯を行う。しかし人間の持つリビドーはもっと複雑で、本来生殖こそが唯一の目的であるはずの性的エネルギーのベクトルが、ときには紆余曲折し、あるいは退行し、変貌して、挙げ句にとんでもない姿のモンスターとなって顕現するのである。

 ◯◯◯◯◯◯◯◯を行うのは、地球上では人類だけなのだ。




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